○月〇日 眼が弱くなり、本の匂いをかぐのがせいいっぱいの日々…… せめて、魂の糧としてさし入れられたものを眺めるだけでも、とかんがえるうち、昨年の正月に届けられたヘンリー・ミラーコレクション(水声社)L『わが生涯の書物』を想い出した。 ミラーの文学と人生に決定的な影響を与えた書物について、ミラー自身が詳述するという破格の本。 巻末には1950年に作家自ら作成した読書日録がある。実に576頁に及ぶ大著は訳者8人の手になる。その訳者の一人佐藤亨氏が当方の最も古い友人で、この四半世紀余の物心両面のさし入れの主である。
本篇をさしおいて付録のほうに眼がいくのは、序文や後記にひかれる当方の習癖……
T「読書リスト」は120頁に及ぶ質量ともに圧倒される内容だが、驚愕の念に加えてしみじみとさせられるのは、 U「今なお読むつもりでいる書物」 V「書物を提供してくれた友人たち」――。
愛読の『ドン・キホーテ』中の、名高い「愉快にして大々的な書物の詮議」の章(前篇第六章)を重ねつつ、ミラーという作家が20世紀アメリカ文学を代表するすぐれてドン・キホーテ的な作家であると、あらためて体感させられる一書。
「今なお読むつもりでいる書物」や「書物を提供してくれた友人たち」のことを思うと、貧老にもそくそく生きる喜びが湧いてくる。
この一年余りの間でも、件の佐藤氏から3冊のジョルジョ・アガンベンの著作がコツジキの元に届いた――『スタンツェ』(ちくま学芸文庫)『中身のない人間』(人文書院)『開かれ』(平凡社)。 「今なお」通読できていないにもかかわらず、良い匂いのする本だと、めくるたびめくるめくような感覚につつまれる。
佐藤さん、今年も本当にお世話になりました。合掌。
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