少年詩時評『吹雪(ふぶき)』 佐藤重男
□ 先日の「少年詩時評」でも触れましたが、新年早々、トランプによるベネズエラ侵攻に世界中の耳目が集まったと思った矢先、イラン政権が市民の経済対策への抗議デモを力で鎮圧しはじめ、中東情勢が一気にきな臭さを増し、一方、ウクライナやガザの和平に向けた進展は遅々として進まず、さらにトランプは、コロンビアを脅し、デンマークに対してグリーランド譲渡を強要しています。 そんななか、日本は、というと、あれほど声高に、国民のために「馬車馬のように働き」、と言い放ったその舌の根が乾かないというのに、市川早苗首相は解散総選挙をほのめかし、経済対策を放り投げ、政局優先へと舵を切りました。そして、各党の議員たちは「常在戦場」などと馬鹿なことを口にし、保身に向けうごめき始めているではありませんか。 * 少し冷静になりましょう。 トランプの蛮行やイラン情勢の流動化、ウクライナやガザの和平、などなど、どれをとっても、日本も含めて、すべて北半球で起きているできごとです。 そして、北半球では、これから本格的な冬を迎えます。いってみれば、先にあげた出来事は、冬の時期だからこその猛吹雪が吹き荒れている=Aと言えるかもしれません。 自然は、厳冬のその先に、春、という季節を用意してくれていますが…、はたして、わたしたちは「春」を迎えることができるのでしょうか。
□ もっと冷静になって、悲観論から脱しましょう。 先日、「ふゆ(冬)」をテーマにした少年詩について書きましたが、では、わたしたちの少年詩は、「吹雪(ふぶき)」を題材にした作品も書いてきているのでしょうか。 いつものように、わたしのデータベースで調べてみました。その結果を掲げます。(作品、著者、詩集名、発行所など)
「吹雪の夜」はたちよしこ『海がピアノを弾いている』木元省美堂 21.12 「音」川崎洋『海があるということは』理論社 05.3 「風のしっぽ」畑中圭一『木と風と空のうた』鳥語社 03.5 「きこえる」高丸もと子『あした』理論社 06.12 「キツネ」江間章子『絵のような村で』大日本図書 91.3 「蕎麦」加藤丈夫『ただいま 受信中』銀の鈴社 98.8 「ともしび」まきたかし『いつか君の花咲くとき』銀の鈴社 85.7
意外と少なく、ちょっと驚いていますが、やはり、吹雪というと荒々しさや厳しさ、不穏な情況などといったマイナーなイメージが先立ち、テーマとしては採りにくいのかもしれません。 それを逆手に取った作品、それが、はたちよしこ「吹雪の夜」ではないでしょうか。見てみましょう。
吹雪の夜 はたちよしこ
吹雪は 闇をちぎっていく はげしく じぶんを手放しながら
川は ちぎれた闇を 透き通るまで洗う
なぜ こんなにいとしい時があるのか こんな日 わたしはこころを 入れかえる
「海がピアノを弾いている」木元省美堂 21.12
「じぶんを手放しながら」の一節が、この詩の読みどころではないでしょうか。 猛吹雪と川が対峙するなか、それを目の当たりにしている「わたし」は、そこに何を見つけたのでしょう。 この書き手の世界観というか、生きることへの向き合い方が織り込まれている、そんな作品だと思います。
□ もう一編。少年詩・童謡・詩論研究会に縁の深い加藤丈夫の詩編を引きます。
蕎麦 加藤丈夫
秋です 山の畑です きのうまでは 蕎麦のはっぱが 風にそよいでいましたが きょうは畑いちめん まっしろな花
冬です 農家の庭先です わらで編んだ筵の上で 蕎麦の黒い粒が お日様の光を吸いこんで 主人の厳しい生業を 和らげようと相談しています
夜です 屋外は吹雪です 囲炉裏火囲んで おとながふたりと 子どもが三人 蕎麦掻きふうふう吹きながら こころの中まで暖めています
「ただ今 受信中」銀の鈴社 98・8
ここで描かれている農作業は、以前なら、どこかで見かけることができた作業ですが、いまではもう、こうして詩編の中でしか見られないものになってしまいました。厳しい労働が子どもたちへと引き継がれることもなくなったわけですが、囲炉裏を囲んで蕎麦掻を口にする、一家団らんの風景もまた、「便利」と引き換えに土へと戻って行ったのかもしれません。 それだけに、貴重な作品の一つだと思います。
□ きょうは「成人の日」。 ことし、全国で新成人となった18歳の人口は約109万人(男56万、女53万人)。 おめでとう! ことしも、若い人たちに少年詩・童謡を手渡していくことを誓います。
― この項 完 ―
いつものことですが、詩集掲載の作品の引用、書籍の紹介などにあたっては、誤字・脱字等のないよう努めましたが、何かお気づきの点がありましたら、お知らせください。 なお、作品「吹雪の夜」「蕎麦」の引用にあたっては、事前に著者などの許諾を得ていませんが、出典先を明示してあること、論考への引用であること、そして、商業目的ではないことをもっと、関係者のみなさんの格段のご高配のほどいただければ幸いです(本文中、敬称略)。
2026.1.12 |