船の思い出・・・船長の偉大さ・・・動じない棟梁
南氷洋に向かいハーフ前進速度で、ピッチングと戦いローリングに苛まれている時でも、船長はびくともせずブリッジに昼夜常駐。睡眠も食事もキャップテンチェアで摂る。その威厳ある姿に全員が安心するのです。
全ての判断はCAPがするのです。
当方、ほろ酔い加減で寝ることも出来ない揺れの中で自室にこもっていました。
ドアのノック音がします。ドアを開けると、直ぐブリッジへ来てくれ、2等航海士が青ざめて立っています。了解!階段をを駆け上がります。
船長からの質問でした。
本船のプロペラはキーレスですね。南氷洋に向かい海水の温度が急激に下がるが、プロペラの強度は持つかね。
キーレスプロペラは、ボスとシャフトのコーン部分の押込みにより発生するトルクで、エンジンからのパワーをプロペラの羽根に伝える構造となっています。
プロペラボスの温度が急激に下がると縮もうとします。それによりグリップ力(冷やし嵌めの状態に似てくる?)が大きくなり、プロペラが割れないだろうね?
当方は一瞬???でした。咄嗟の質問に動揺しては保証技師は務まらない。
自室に跳んで帰り、お助けノートをめくりました。
造船所で押込み作業をするは、プロペラと軸が同じ温度で一定になっている時を見計らい実施します。
海水温度の上昇や下降により、両材質の違いによる熱膨張を予測した設計をします。そのメモが在ったのです。
OKです。船長!心配なさらず前進してください。
船長曰く、信頼関係を樹立できたな!
大きな手でぎゅっと握られました。一晩中、ブリッジとエンジンルームを行ったり来たりで不眠症。
当方もそのように言ったもののエンジンの調子や補機器の唸り声が心配でした。
今では当たり前のキーレスプロペラでしょう。
当時の計算資料です。
自分を安心させる意味でも自分で記録を取り手元に置く、この時ほどそのありがたさを実感したことはありませんでした。
今でしたら、ネットを検索すれば答えはくれます。何か物足りなさを感じる自分は加齢のせいかも知れません。