幻塾庵 てんでんこ

大磯の山陰にひっそり佇むてんでんこじむしょ。 てんでんこじむしょのささやかな文学活動を、幻塾庵てんでんこが担っています。
 
2023/12/01 7:03:46|雑記
偏執への供物


川根本町てんでんこのみなさんの思いのこもった「練習生」、9号でいったん休刊とのことですが、ここまで積み上げてこられたことはリッパです!

収録されている室井光広の中井英夫論「偏執への供物」(1991年)は、「エピュイ」23号(白地社)に掲載されたもので、編集後記によると、前号までの誌名「シコウシテ」を改めたものとのこと。23号で終った雑誌のはずです。

当時の編集者からずっと後に手紙が届いたというおぼろげな記憶があります。
発行当時フランスにおられた(?)中井英夫さんが、この文章をいたく喜ばれていたと伝えられ、執筆した本人も嬉しそうでした。原稿料の不払いを詫びてもおられました。

『わらしべ集』を編むときによりどころとなった一覧表から漏れていなかったら入れていたにちがいない、三十代の著者の息遣いの伝わる文章を改めて味わえることをありがたく思います。







2023/11/20 5:27:17|雑記
『エセ物語』書評 (井口時男)
  こゆるぎの浜 2023.11.19 6:22



11月18日の日本経済新聞朝刊に井口時男さんの書評が掲載されました。
 


 二段組で約七五〇ページの大冊。「甲子」「乙丑」「丙寅」と十干十二支によってナンバリングされて暦が一巡する六十回、つまり「還暦」で完結する予定だったそうだが、作者の死によって三十六回で中断して未完。それにしても、どんな小説にも似ていない。まさにユニーク、異貌の奇書だ。

 前景で展開するのは言葉たちの途方もない戯れだ。言葉は音声や意味の類似と差異によって次々と連鎖し逸脱してゆく。主人公は言葉そのものなのだ。テクスト(作品)は言葉の織物だというが、人間(心)だって言葉の織物なのだと思えてくる。それでも「反小説」「反物語」などと力まずに、エセ―(エッセイ)みたいな「エセ(似非)」物語だと自称するのが作者の「軽み」の精神だ。

 中心にあるのは日本語、それも作者自身の故郷である福島県の会津方言。台湾の血とユダヤ系アメリカ人の血を引く「異人」の遺した段ボール三十箱分もの遺稿を読んで、第一の語り手(語り手は十二回ごとに交代する)が引用したり注釈を付けたりする作業から始まる。故人は「東亜統一話し言葉の創成」を目指していたので、まず東アジア三言語(日本語、中国語、コリア語=朝鮮語)がくんずほぐれつを繰り広げ、さらに英語仏語等々も参入する。引用あり翻訳ありだが、翻訳には誤訳がつきものだし、「引用」は異なる文脈に移し替えて意味をずらすことにもなるのだから、言葉の逸脱変幻は果てしない。

 言葉いじりに徹したジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の日本語版みたいな試みだ。しかし、本書の方法はむしろ、音声を揺らしたりずらしたりする柳田国男の地名研究の方法に近い。たとえば作中の重要地名「哀野(あいの)」には「アイヌ」が隠れているだけでなく、「アイヤ」と読めば中国語の嘆声「アイヤー」に通じ、朝鮮語の「アイゴー」も響くだろうし、「あわれの」と読めば日本美学にもつながるはずだ。こうして、諸言語が戯れ合う室井流言語曼荼羅が出現するのだ。

 この祝祭的な言語曼荼羅は最後にどんな円環を閉じる予定だったのか。いや、言語という複雑系はもとより閉じることなき開放系のはず。だから本書は未完。それでよいのだ、と思う。

 







2023/09/03 5:26:19|雑記
『エセ物語』


『エセ物語』は、たしかに最初はとっつきにくいに違いありませんが、じっくり丁寧に味読すると、だんだん読解のコツのようなものがつかめてきますし、とにかく1冊まるごと、ジョーク連発のユーモア小説でもあります。次々と繰り出される、硬軟とりまぜたウンチクにもキリがありません。

この小説のもつ、文章編纂上の新機軸、得体の知れなさ、そして読者への奇妙な励ましのような調子を味わえることが、21世紀文学の愉しみでないとしたら何でしょう?
(雑誌「対抗言論」編集事務局のあいさつ文より)
 

「大笑いしながら読んでいる」と言ってくださった方があって、〈我が意を得たり〉顔をしていたことを思い出す。







2023/08/05 5:51:11|雑記
『エセ物語』カバー装丁



カバーデザインが姿を現わしました。
このようなものを目にできる日がこようとは!

 


いよいよ、『エセ物語』装丁の、カバーデザインが出来てきました!

画像は、仮に簡易プリントしたものを巻いたものです。
まだオビがないのに、この存在感!

『エセ物語』本文中には、繰り返し登場してくるモチーフ、室井氏が偏愛していたに違いない素材がいくつも登場しますが、ヒョウタンはその一つです。

ヒョウタンを、これまた、あたかも作中に登場する「しめ縄」のごとくに巻きつける〈十干十二支〉文字の呪術的なるデザイン。
作品を象徴しつつ、たいへんにモダンかつ田舎的!

このあと、まだデザイン微変更の可能性はありますが、ここにオビを巻くかたちで、仕上げたいと思います。

装丁は、これまで室井光広氏の本を複数手がけてこられた、林昭太さんによるものです。実際の出来上がりが楽しみです!

なお、クラウドファンディングの本文では、『エセ物語』総頁数は「736頁」としていましたが、大量のテキストを最も読みやすく、かつ最もコンパクトにとどめる組み方を考え直した結果、現状では「760頁」に落ち着きつつあります。

束幅4センチ超え、一家に1冊のインテリアとしてもGood!

秋の夜長の読書にぴったりの1冊になることでしょう!


https://camp-fire.jp/projects/view/686514?utm_campaign=cp_share_c_msg_projects_show
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​「最新の活動報告」より
 







2023/08/05 5:25:30|その他
『おどるでく』文庫化記念トークイベント


川口好美さんより、動画配信のお知らせがありました。
 

10日(木)、双子のライオン堂さんで、井口時男さん、杉田俊介さん、藤田直哉さんのお三方に、文庫版『おどるでく』を中心に室井さんの文学について語っていただく会を開きます。無観客で、無料のネット配信になります。以前と同様に、YouTubeで見られるかと思います。
http://ptix.at/ZHknsb


事務長は炎暑の日向ぼっこ。さすがに早朝限定です。