わたしは脳みそからすべてにおいて彼に洗脳してほしいと願った。 わたしを彼のためだけに生かしてほしいと思った。 そうすればわたしの生きる目的が明確になり、さらに彼に服従することでわたしは満たされるから、人生なんて大それた言葉を簡単に片付けることができる上、周りに気を遣うことなくただそれだけに集中すればよかったから、とても効率のいい方法だと思った。 とにかく難しいことは考えず夢中になれるものをわたしに与えてほしかった。 そしてそれをわたしがわたしでいられる唯一の方法だと確信して疑わずにいた。 しかし、彼がわたしに関心を持たなくなることは明らかで、都合のいい女としてしか見ない彼に復讐することが次の目的となり、そして彼がわたしの思惑通りにこの世からいなくなると、またわたしも一緒にいなくなるのだと失望するどころか納得してしまって、わたしの脳みそはその喜びに満ち満ちていた。 しかし、目的を達成して終わりを迎えた直後にわたしはひどく彼のことが恋しくなった。 とても寂しいと思った。 あれだけ繋がっていた人がたちまち息をせず、まるでもののように転がるだけで何もできない。 彼の人生はこんなものだったのかとしばらく悲しみに包まれながら横たわる彼を眺めた。 いったいわたしの目的はなんだったのだろうか。 彼に依存することで得ていた満足は彼がいなくなったことでどこへいったのだろうか。 わたしはこれから何で満たしていけばいいのか。 自分の存在が居なくなるどころかより浮き彫りになってわたし自身を追い詰めることに発狂しそうだった。 そうだ、きっと彼は違う場所へ出かけていったのだ。 そうに決まっている、この世では自分のからだを持っていくシステムがまだないから、きっと彼は外見を置いていったのだ。 ああ、だからわたしはまだ存在しているのだ。 このわたしが持っているナイフが違う場所へ行くための道具なんだと自分自身をコントロールし、わたしは少しも躊躇わずに彼と同じところにナイフを刺した。 鈍い痛みの中で彼の外見がわたしを歓迎しているように見え、そしてわたしはやっと自分の人生という価値を見出した。 . 20代男女の無理心中。 記事はとても小さく、地域欄にしか載らなかったけれど、それはとても意味のある事件として彼女はどこからか見ているかもしれない。
了.
|