前回のメロディーロードの発明者側の反論をみてみましょう。
発明者側の反論は、引用された特許は実現性がない、未完成発明であると断言した上に仮に引用特許では単発的な音を「所望のリズム」で発生させることができるだけでメロディを奏でることは出来ないとしています。
なるほど、審査官はこの意見書を受け取ったあとで、特許査定にしました。
もともとの出願明細書で従来技術の例として審査官があげた引用特許の3件中2件を記載してあったので、発明者側にとっては、この審査官の拒絶理由に関しては、驚くものではなく、予想された事態でたやすく意見書を作成できたのではないでしょうか。
やはり、事前の公知例調査が大事なことを示している例のようです。
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3.引用発明1の成立性・適格性について
そもそも引用発明1は未完成発明であり、特許法第29条第1項第3号の「刊行物に記載された発明」に該当しないため、引用発明としての適格性を欠くものと思料します。その理由は以下はとおりです。
引用文献1の[作用]欄(公報2頁右下欄18行〜3頁左下欄8行)および第3図には
、モータに連結したタイヤをドラム上で回転させたとする実験例が記載されています。
この実験例では、第2図に示されている3つの溝ゾーンのイ〜ハを車両が通過した場合、それぞれ次のような周波数の音が奏されるとされています。
イの場合→2073Hz
ロの場合→1036Hz
ハの場合→518Hz
しかしながら、この実験例では、タイヤの周速が「97km/時」とされています(公報3頁左上欄7〜11行)。
また、第2図に示されている溝ゾーンのイ〜ハの長さは、「w=62mm」と定められています(公報2頁右上欄20〜左下欄1行)。
ここで、「97km/時」=「26944mm/秒」ですから、車両が溝ゾーンのイ〜ハを通過する際の所要時間は以下のとおりです。
(62mm)/(26944mm/秒)≒0.0023秒
また、この実験例では、タイヤの回転数が「1430rpm」と設定されているため(公報3頁左上欄7行)、タイヤが一回転するのに要する時間は以下のとおりです。
(60秒)/(1430rpm)≒0.042秒
つまり、引用文献1では、0.0023秒という極めて一瞬の間に発生する音の周波数を音階として認識し、なおかつ、0.042秒という極めて短時間の間に複数の溝ゾーンを通過して複数の音が奏されるとしています。
しかしながら、改めて証拠を示すまでもなく、人間の聴覚が上記のような極めて一瞬の間に発生する音の周波数を聴別することは不可能です。
また、溝ゾーンのハに至っては、溝が1つしか形成されないため、そもそも音階として聴別可能な音は発生していません。
以上のとおり、引用文献1には、「所定の音楽」を奏するための技術内容が、当業者が容易に実施しうる程度に記載されておらず未完成発明といえます。したがって、引用発明1は、そもそも引用発明としての適格性を欠くものであると思料します。
4.本願発明と引用文献1に記載された発明(以下、引用発明1という)との比較
上述したように、引用発明1は、引用発明としての適格性を欠くものと思料しますが、仮に適格性を有しているとしても、以下のとおり、本願発明と引用発明1とは、構成上、明確な相違点を有しています。
(1)新請求項1に係る発明(以下、本願発明1という)について
本願発明1と引用発明1とを比較しますと、両者の構成上、本願発明1では、「前記各溝群は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間内に施工されており」、「前記溝群を構成する複数の溝は、前記区間内にわたって
連続的に形成されている」のに対し、引用発明1では、そのように構成されていない点で相違します。
この構成上の相違点により、本願発明1によれば、メロディーを構成する各音を所望の音持続時間だけ継続して発生させることができるという、引用発明1では得られない特有の作用効果を奏します。
これに対し、引用発明1には、そもそも音を持続して発生させるという技術的思想についての記載や示唆は一切ありません。
具体的には、引用発明1では、以下の記載や図1〜図3からも明らかなとおり、音を持続的に発生させられるものではなく、単に、単発的な音を「所望のリズム」で発生させることができるに過ぎません。
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