★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/11/14|その他
★ ブラック・モンスター ★ [男と女の風景・156]
 
                2019年11月14(木) 00:00時 更新 
 
   ○我が家のベランダ・ガーデン
 
  ≪写真・左・・ヒメツルソバ
 これは、ヒマラヤ原産で、タデ科イヌタデ属で、日本では半野生化して増えています。
 茎がほふくして、土に接した節から発根して、増殖します。
 今年は夏枯れして、花は少ないですが、例年は無数に咲きます。
 
  ≪写真・中・・イトラッキョウ
 これは長崎の平戸が原産で、ヒガンバナ科です。
 この細い葉の茎と、花の茎を別に出すのが特徴だとのことです。
 
  ≪写真、右・・不明
 鉢にあった名札には、≪キクバクワガタ≫とあったのですが、ネットで調べると違うようです。
 

                   [男と女の風景・156]

 ★ ブラック・モンスター ★
 
 徳永は、さっきからカウンターの隅で、独りぽつねんとして水割りを飲んでいた。
――ああ、今日も忙しかったな。
  なにやかやと、飛び込みの仕事があったし、
  色んな連中が、あれこれと相談に来て・・。
  てんてこ舞いで、処理するのが精一杯だったよ。
  でも、今はもう仕事のことは忘れたいな。
  そう、会社を出て家に帰るまでは、オレの時間だ。
 徳永は、35歳で、まだ独身だった。
 この男は、A社の総務課長だったから、他の部署に属さない仕事をこなす≪なんでも屋≫であり、≪雑用係≫でもあった。
 今は、会社の帰りで、アパートへ帰っても口やかましい母がいるだけだったから、立ち寄ったのだ。
 徳永は仕事柄、夜の付き合いもあったし、独りで酒を飲みたいこともあって、平日の夕食は自宅では食べなかった。
――そう、お袋とは話をするのさえ、イヤなんだよな。
  どうして、あんなにウザイんだ。
  いい加減に、放っておいてくれよな。

  仕事なら、なんでも聞くけど、プライベートはオレの自由だ。
 そんな事情もあって、ここのスナック≪ピエロ≫で一息つくのが、徳永には唯一の気休めだった。
 ママの早苗は、二十代からオミズの世界で努力してきて、店を持っただけに、客扱いは丁寧だったし、相手に合わせるのが上手だった。
 だから、口数の少ない徳永には、あまり声を掛けずに、ほとんど放って置くことにしていた。
 
「アラ,美保ちゃん、お久しぶりね」
 ママの声に、徳永がふと顔を上げると、隣の空いた席に「失礼します」と若い女性が座った。
 そしてママが、美保がいつも飲む赤ワインをグラスに注ぎながら、声を掛けた。
「どう、仕事は忙しいの」
「ええ、まあまあです。でも、入社して二年生なのに、初めて知ることばかりで、面食らってます」
 美保が掲げたグラスの先に、ママは、相変わらず仏頂面で黙々と飲む徳永を見て、声を掛けた。
「徳さん、この美保ちゃんは、早稲田を出て、去年から、地元タウン誌の記者をしてるの・・」
 そう声を掛けられた徳永は、振り向くと「ホゥ、それは、すごいですね」と応えた。
 美保は、黒髪をアップにして、後ろで纏めていたし、黒いスーツを着ていたから、顔や首筋の肌が白く見えた。
 お蔭で、小顔に見えたし、いかにも若々しい女性だった。
 
「僕は、就職先を、新聞社とか雑誌の記者でトライしたんですけど、全部ダメでしたよ」
「アラ、あなたみたいな優秀な人も・・」
「いえ、それ程では・・。だから仕方なくて、普通の会社に入ったんです。なにしろ、英語が苦手でして・・」
「アッ、私もそうです。マスコミ関係は、英語を重視しているようで、ダメでした」
「アラ、そんなに厳しいの・・」
「ええ。ママね、今時は英会話なんて普通なんです。しかも、海外からの帰国子女で、優秀な人がいっぱいいるんです」
「でも、君は記者になったんだから、いいじゃない」
「ええ、まぁ・・」
 徳永は、東京のマスコミを落ちた者同士で、なんとなく親しみを覚えた。
 改めて見れば、痩せた横顔には優しい眼が光っていて、いかにも聡明な女に見えた。
 
「エッ、それでは徳永さんは、学生時代、文芸部かに、いたんですか・・」
「まぁ、そうですがね・・」
「エッ、どこですか」
 徳永は追及されても、気持的には、あまり答えたくはなかった。
「是非とも、聞きたいです」
「ウーン・・、慶応ペンクラブで・・」
「エッ、私は早稲田文芸会、略して≪わせぶん≫です」
 徳永は、なんかダサいネーミングだなと思ったが、聞き流した。
 すると、「ああ・・、早慶戦のライバルですね」と言われて、チョッとカチンと頭に来て、反論した。
「いやあ、我らが言う時は、慶早戦ですよ」
「でも、マスコミが野球を報道する時は、早慶戦という表現ですよ」
 徳永は、とりあえず突っ張ってみたが、そんなことは、どうでもよかった。
 それよりも、同じ文学の志を持った仲間に思えて、心からの親近感を覚えた。
――ああ、良きライバルが現れたよ。
  オレは、男でも女でも、こういうヤツが欲しかったんだ。
  この種の人間は、他人には無関心でも、自分にはウソをつかないから・・。
  だから、お互いに自分の主張を真剣勝負で戦えるんだ。
  ああ、面白くなりそうだな。
  でも、最近の学生達は、テーマはなにかな。
  もう時代が変わってるから、小説なら恋愛物かも・・。
 
「でも、徳永さんは、さすがハイソの慶応だから、すごくスマートですね」
「イヤァ、僕は平凡なサラリーマンの息子ですから・・」
「でも、私、慶応に落ちたんです」
「エッ、僕は早稲田に落ちて、やっと慶応に拾ってもらったんだ」
「おお・・、それも、なにか奇遇ですね」
――ウーン、お互いに逆転だったのか。
  これも、神様が決めたんだろうな。
  そう、オレがマスコミに落ちて、A社に合格した時だったよ。
  父が、「人には、神様が決めた居場所がある」って、言ってたな。
 しかしママは、徳永が普段、あまり他の客と話さないのに、「この人、こんなにも喋るなんて」と、内心驚いていた。
 ママは、二人が早慶のライバル校同士であることを、実は知っていたのだ。
だから、いつもは無口な徳永に、敢えて声を掛けたのだ。
 
「アッ、そう言えば、湘南ペンクラブと言うグループがありますよ」
「ヘェー、面白そうだね」
「ええ、まだ取材をしたことはないんですが、湘南社と言う出版社が主催しているようで、会員も30人くらいだそうで・・」
 徳永は、興味を覚えたが、先ずはネットで調べてからと、保留した。
「そう言えば、君は学生時代、なにを書いていたの・・」
「ええ、最初は、詩を書いていたんですが、仲間が言葉で発する鋭い感性を知って、自分の鈍感さに辟易したのです」
 美保は、自分のつたなさを思い出して、落胆の溜息を吐いた。
「それで、散文詩や随筆を書いたのですが、これもピンボケでして、最後は小説を・・」
「そうか。でも、そうやって、感性が磨かれていくんだ.だから続けるといいよ」
「徳永さんは・・」
「そう、入社して5年は、たまに書いていたよ。でも、仕事が忙しくなってね・・。アッ、そうだ。25才くらいの時に書いた散文、あの感性は、神が降りてきた、って、そんな感じかな。今読み返しても、そんな感動があるよ」
「ああ、読んでみたいですね。是非とも、次回」
「ウーン、チョッと恥ずかしいけどね」
 二人の会話は嬉々として弾んでいたから、ママには二人が旧知の仲のいい友達のように見えた。
 
 すると、徳永は酔った勢いもあって、余計なひと言を言ってしまった。
「あのさぁ、見た目だけの直観で申し訳ないけど、あなたって、もしかして、いつも泣いてきた人・・」
「エッ、なんで・・、ですか」
「イヤァ、そんな顔付きに見えるから・・。もちろん君は、美人だし、可愛いんだよ」
 徳永は、今のひと言が余計だったかと悔いて、お世辞を言ったが、もう後の祭りだった。
 だがママも、美保のことをそう見てきたから、徳永が同じ印象を持ったことに驚いていた。
いつも他人には興味を示さない徳永が、まさか、そこまで突っ込むとは思わなかったのだ。
 すると、美保は暫く黙り込んでしまった。
――そうなのよ。父が浮気性で、しかもDVだったの・・。
  なんで怒っているのか、判らないけど、すごい剣幕で怒鳴り散らして・・。
  時には、母の髪の毛を引っ張って、引き摺り回したのよ。
  そう、裸にして、お尻を叩いてもいたわ。
  母が、いつもキッチンの隅で泣いていたのよ。
  だから私も、母を守るために傍にいて、一緒に泣いていたの・・。
  子供の頃から、そんな私だったから、泣き顔になったのかもね。
「アッ、余計なことを言って、ごめん」
「いえ、気になさらないで下さい」
 美保はグラスを持つと、赤ワインをグッと一気に飲み干した。
 それは、頭の中にくぐもっていたなにかをも、一緒に飲み込むような勢いだった。
 ワインの小瓶が空いたのを見て、徳永が「ママ、次のもう一本は、僕から」と申し出た。美保の機嫌を損ねたと、後悔していたのだ。
「アッ、有難うございます。いつもは、一本で帰るんですけど・・」
「いいじゃ、ないですか。もう少し付き合って下さいよ」
 ママには、そんな言い方をする徳永を見るのも、初めてだった。
――ああ、もしかして、これが昼間の顔かも・・。
  総務課長って聞いたけど、仕事では明るく振舞ってるのね。
  そうか。公と私の顔を、使い分けてるのかも・・。
  うん、役者が違うよね。
 
 ママがもう一本、小瓶を出すと、美保が「どうですか。皆さんで乾杯しませんか」と言い出した。
 徳永は、ワインの味が判らなかったから、普段は飲まなかった。
 だが、グラスが二つ出されて、注がれると、三人で乾杯した。
――会社の女の子だと、私的な話は出来ないけど・・。
  でも、スナックだと、友達感覚で話せちゃうんだよな。
  相手が男でも女でも、出会いの場なのかも・・。
  そう、セクハラだ、パワハラだとか、面倒なことはないし、
  なにより、上下関係も、利害関係もないから、対等なんだ。
  イヤなら、相手にしないし、勝手に帰ればいいから・・。
 
 すると、美保のスマホにコールが入って、慌ててバッグから取り出した。
「アッ、お母さん・・、ごめん、私、今飲んでるの・・。そう・・、早く帰るから・・」
 美保はスマホを切ると「失礼しました」と謝った。
「美保ちゃんは、お母さんに、いつも見守られてるのね」
 ママは、チョッと羨ましそうに言った。
「いえ、母と私の二人暮らしですから、お互いに支え合って・・」
――ああ・・、もしかして、親は離婚したのかも・・。
  この泣き顔の子、その心の暗部には、なにが潜んでいるのかな。
  そう、判ってあげて、癒してあげたいな。
  だって、この子は、なぜか、泣き続けてきたから・・。
 
 徳永には、自分の母親が、いつも巨大なモンスターに見えていた。
 どんなに抵抗しても、母は断じて自分の言うことが正しいと思い込んでいたから、躾などを子供に従わせていた。
 しかも、カカア天下だったから、父親はなにも言わずに、いつも見て見ないフリを決め込んでいたのだ。
 だから、徳永は、父親には助けを求めなかった。
 それもあって、徳永は母親を見るのもイヤで、大っ嫌いだった。
 お蔭で、人知れず女性恐怖症だったし、逆に優しく見守ってくれる女性に憧れていた。
――そう、美保ちゃんは、元来が優しいんだよ。
  でも、なにかがあって、顔に、悲しみが染みついてしまったんだ。
  それって、なにかな。
  オレの相手は母親だけど、この子は父親かも・・。
 徳永には、疑問が湧き上がっていたが、知る由もなかった。
 
 すると、客が一人、店に入ってきて、カウンターの奥に座った。
 ママが二人の前から離れて、その客に対応していると、美保が低い声でつぶやいた。
「私、初対面の男性と、こんなに気楽に話をしたのは、初めてです」
「ホゥ、仕事以外で・・」
「ええ、仕事は必死ですから、どんな男性にでも、突撃しますが・・。でも、こういうスナックでは、臆病でして・・」
――まぁ、男性へのニガテ意識があるんだろうな。
  オレだって、かなり女性恐怖症だからさ。
「さっき、泣き顔って言われて、私、ドキッとしました。ええ、父の横暴に、母も私も、いつも泣いていたんです」
――やっぱり、心の暗闇にいる相手は父親か。
  もしかして、ブラック・モンスターかも・・。
  まぁ、オレの中にいる母親は、張り子のモンスターだからな。
  人のやることに、干渉して、さらには介入するんだ。
  お互いにターゲットは違うけど、同じ境遇かも・・。
「君はね、根っから優しくて、素直に育っていると思う。ただ、なんとも悲しい表情をするから、僕はそこに、なにかを感じたんだ」
「そうですか。お見通しなんですね」
 それを聞いた徳永は、今度は自分のことを話す番だと思った。
「ではさぁ、僕は、険悪に怒っている顔には、見えない・・」
「いえ、そういう風には・・」
「僕はね、母親がウザったくて、大嫌いなんだ。だから何時も、母とは口喧嘩をして、険悪な関係なんだ」
「そうですか。そうは見えませんけど」
 美保は、徳永の心境を聞いて、少しほっとしたのか、あの聡明な澄まし顔に戻っていた。
 
「今日はね、良きライバルに出会った感じ、なんだよな」
「いいえ、徳永さんは、信頼できる良き兄貴ですよ。しかも、なんでも話が出来そうですし・・」
「そうか。兄と妹か・・、それもいいね」
 そんな本音を語り合って、二人はますます親近感を覚えていった。
「君さぁ、今度、休みの日に、どこかで食事でもしない」
「まぁ、嬉しいです。ああ・・、でも、藤沢市の行事は、一般の市民を対象にしていますので、休日に開催することが多いんです。私も、その取材で出かけますので・・」
「そうか。では、時間が合う時にするか・・」
 そんなことから、スマホの連絡先を交換した。
 そして、美保は「母が、待ってますので」と断ってから、ママにチェックを頼んだ。
 徳永は、「まぁ、頑張れよ」と言いながら、握手を求めた。
 椅子を降りた美保は、恥ずかしそうに華奢な手を出すと、強く握り返してきた。
 そして、感極まったのか、さらにハグを求めてきたのだ。
 両手が伸びてきて、細い体をしならせながら、「また、是非とも、お会いしたいです」とささやいた。
 
 ドアに消えるまで手を振っていた美保を見送ると、徳永は、なんとも感慨深いものを感じた。
――初対面なのに、あの子は心の闇を開けたよ。
  そう、父親の横暴って、言ってたな。
  具体的には判らないけど、あの泣き顔は、子供の頃からずっとだよ。
  可哀想に・・。
  あの子の父親は、相当なワルだな。
  やっぱり、ブラック・モンスターだよ。
  今は、母と娘、二人っきりの生活だとか。
  アッ、そうか。それで寂しいから、兄と妹なのか・・。
  まぁ、そんな関係も、気楽でいいかもな。
  
                     ― おしまい ―
 
 

 




     コメント一覧
[ 1 - 20 件 / 2 件中 ]

平沢さん
残り少ない残生の生甲斐を、読んでくれて、有難う。これからの頑張るから、宜しくね。 橘川拝
橘川  (2019/11/18 0:49:40) [コメント削除]

熱烈なファン
次を楽しみにしています。ko平澤
平澤  (2019/11/16 20:07:44) [コメント削除]

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