★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。  人は誰しも、ファザコン、マザコンによる願望があり、それを達成する行動をとります。その生まれ、育ちで、パーソナリティが形成されて、その体験が、深層心理やトラウマとなります。  そんな男と女が出逢って、その心の奥底から求め合う≪願い≫、そんな愛の物語を、フィクションで・・。
 
2018/05/24|その他
 ◇ ベリーダンサーの悲壮 ◇ [男と女の風景・130]  
 
                        2018年5月24日(木)・更新

− 我が家のベランダ・ガ−デン −


  ○ 五月の花たち ○
 
  ≪写真・左・・ハクチョウゲ≫
 これは、鉢揚げした斑入りの白丁花です。
 アカネ科の低木で、垣根などによく使われます。
 この花は、五月の初旬に咲いたものですが、今年は植え替え時か、肥料が不足しているのか、花数は少なかったです。
 
  ≪写真・中・・エニシダ≫
 これはマメ科で、ヨーロッパが原産。
 江戸時代に渡来して、漢字で≪金雀枝≫と当て字をしたとのこと。
 一般には黄色の花が咲きますが、これは石化した白花で、珍品です。
 
  ≪写真、右・・カンムリキンバイ≫
 これは中国が原産で、宿根の多年草です。
 花の中心部にある花弁が冠のように見えるため、≪冠金梅≫の名前になったとか。
 日本で自生しているキンバイソウとは、同じ仲間です。


 
                 [男と女の風景・130]
 
 ◇ ベリーダンサーの悲壮 ◇
 
 華子は、祖母の葬儀のため、故郷の多賀城に帰ってきた。
 仕事で多忙だったが、お婆ちゃん子だったから、なにを置いてもと、東京から帰郷して参列した。
 葬儀は、母と娘以外には、親戚の人が数名という、質素で寂しいものだった。
 だが、華子は悲しみを抑えて、母と遺骨を歴代の墓に納骨してきた。
 母親が離婚をしてから、華子が小学校に入る時、二人は東京から母の生まれ故郷である多賀城に帰ってきた。
 それから母は、昼はコンビニ、夜はスナックで仕事をしていたから、華子はお婆ちゃんに育てられたのだ。
 
 そして今、団地アパートの窓辺に座ると、あの大震災の津波から復興しつつある多賀城の市街が広がっていた。
 二年ぶりに見る懐かしい海の光景を前にして、華子は、ぼんやりと自分を見つめていた。
――私は、アイドルにならなかったよ。
  自分の存在を、演技で表現したかったの・・。
  そして、いつの間にかベリーダンスに嵌ってた。
  でも、子供心に満足だったし、しかも充実感があった。
  母は、いくつもの習い事をトライさせてくれた。
  それで、私が目覚めて、どこで才能を発揮するか、それを見ていたのだ。
  だからピアノもやったし、サッカーもやった。
  でも、やっぱりベリーダンスだったの・・。
 
 華子は現在、赤坂のナイトクラブでショーに毎夜、出演している。
 ベリーダンスは、アラブ文化圏のオリエンタル・ダンスであり、一般的にはあまり見かけないだけに、お客さんからも驚異の眼で見られているのだ。
 小学生の頃は、新体操もやっていて柔軟な体を作っていたし、どんな運動量でもへこたれなかった。だから、中学から始めたベリーダンスには自信があった。
 
 華子は、高校を出てから二年間、家族の生計を立てるためにもと、自分の願望を捨てて、地元の農協で事務員をしていた。
――でも私、いつかは東京に出たかったんだ。
  そう、ベリーダンスで自分の存在証明をしたかったの・・。
  だから、そのチャンスを狙っていたのよ。
 そして、その時が来たのは、ショーの出演者の一般募集があった時だった。  
 華子は、ネットでそれを見て、仙台のダンス教室から応募した。

 それから華子は、バイトで稼いで作った一着だけの衣装を着て、小物は教室で借りてから、自分の曲で踊って、その動画を送った。
 そしたら、それを見たそのクラブの社長やマネージャーに、これは使えると絶賛されたのだ。
  ≪貴女のベリーダンスは、ユニークだし、ショーにも使えそうです。
   次のオーディションで拝見したいので、是非とも参加して下さい≫
 その踊りは、頭にキャンドルを乗せたまま、青竜刀を振り回して舞う踊りであり、その平衡感覚が見事だと認められた。
 しかも男性受けをするスリムなボディで、おへそ丸出しの衣装が目を引いたようだ。
 また、白い剥き出しのお腹を色っぽくくねらせたり、腰を小刻みに震わせてアッピールする踊りは、エキゾチックだと評価されたのだ。
 その返事のメールを見て、華子は母親に相談した上で、独り上京した。
 
 だから今、華子はハングリー精神で必死だったし、昼間もコンビニのアルバイトをして、新大久保の安いアパートで暮らしている。
 それと同時に、仙台の先生が、新宿で開いている元弟子のダンス教室を、特別に紹介してくれたのだ。
 お蔭で、土曜、日曜は、そのスタジオのアシスタントとして、生徒のレッスンを指導している。
 毎夜、華子がお店で自分が踊るのは、ほんの一曲で、五分程度の踊りだった。
 だが、華子には観客の前で披露できるのが幸せだったから、練習もしたし、本番では嬉々として真剣に踊っていた。
 そして、踊りの時以外は、自分の売り込みを兼ねて、客席を回ってはお客様の接待をするのだ。
 客はそんなパフォーマーと接することで、非日常のアーチストと接することが出来ると感動して、さらにリピートして来店するのだ。
 
 ある日、店の仕事が終わって、ロッカールームで着替えをしていると、年上の佳奈が声をかけてきた。
 佳奈は、モダンバレエの出身で、時には軽快なタップダンスもこなす、プリマだった。
「ねえ、帰りにチョッと飲みたいんだけど、付き合ってくれない」
「あっ・・、はい、いいですよ」
 華子は、一瞬迷ったが、相手が2才も先輩だったから、付き合うことにした。
だが、華子は、酒を飲む機会は、農協での忘年会ではあったが、東京に来てから半年の間、飲み屋に行ったことがなかった。
「あなた、どこに住んでるの」
「ええ、新大久保・・。駅から歩いて10分くらい」
「そぅかぁ、じゃあ近いよ。私はね、ただの大久保。今日はね、バイト代が入ったから、おごるよ」
「いえ、ワリカンで、お願いします」
 華子は、借りは作ってはいけないと、祖母からきつく躾けられていたのだ。
 
 二人は、メトロ・丸ノ内線の赤坂見附で乗ると、新宿駅で降りて、線路沿いの道を新大久保へ向かった。
 すると、佳奈は、西武新宿駅に近い≪ブロバンサル≫という、フランス風の立ち飲み居酒屋に案内した。彼女は時々、立ち寄る店だと言う。
 華子は、赤ワインを飲むのは初めてで、酔わないかと心配だったが、佳奈の注文に合わせた。
 だが飲んでみると、ブドウの渋みが口に残って、美味しいとは思わなかった。
 注文した地鶏の白レバーとソーセージの盛合せがきて、二人は突っつき合って食べた。
「ねえ、華子、お国は・・」
「ええ、宮城県の海沿いにある多賀城市です」
「そうか。私は信州の長野市なの・・。山々に囲まれた盆地よ」
 華子は、初めて食べる白レバーのトロケル美味しさを、じっと噛みしめていた。
「私はね、バレエは三歳から始めて、大学でもやってたわ。でも一流にはなれなかったから、今はショーでやってるの・・。だって、長野の実家には帰りたくないから」
 佳奈は、少し自嘲気味で、自分のことを語った。
――ああ、実家に帰りたくない、って・・。
  私と同じで、なにか事情でも・・。
「ええ、私も、実家には母しかいないし、ベリーダンスで生きていくしかないから」
 華子も、自分の置かれた状況を話すしかなかった。
「そうか・・。仲良くなれそうだね」
 佳奈は、素直に応えてくれた華子に親近感を覚えた。
 
「あなた、彼氏は・・」
「いえ、そんな人いないですよ」
華子は、突然の質問に、目を剥いて否定した。
「ええ、私、東京に出てきて半年だし、毎日が新鮮で、驚きの連続ですから」
「同郷の親しい人とかは」
「アッ、そう言えば、慶太が・・」
 華子は突然、もうほとんど忘れかけていた慶太を思い出した。
「ええ、同じ高校で家も近所で、慶太という友達がいましたけど。五年前に東京の寿司屋さんに来て・・、ああ、その後、どうなったのかな。連絡を取り合ってないし・・」
「そうなのか。私と似たようなものね」
「どういう意味ですか」
「私はね、初恋で付き合った彼が、東京の大学を受験するって言うので、東京に来たのよ。そしたら、その男、信州大学しか受からなかったの・・。バツが悪いのか、彼とはそれっきり、なのよね」
「そうですか。チョッと似てますかね」
 だが、二人がこうしてプライベートな話をするのは初めてだったから、その次の話題がなかった。
――慶太か・・、アイツ、今なにしてるかな。
  いつもウケ狙いのお笑い系だったから、私、恋心なんてなかったな。 
「ねえ華子、赤ワイン、好きじゃないんでしょ。それ、私が飲むから、白にしたら」
 華子が、グラスには、一向に手を付けないのを見て、佳奈が、白ワインを追加してくれた。
 
「華子さぁ、これは誤解のないように、聞いてほしいんだけど・・」
「えっ、なんですか」
「あのね、お店のマネージャーで、佐々木さんて、いるでしょ。どう・・。優しくしてくれる」
「ええ、とっても・・。気を配ってくれますし、褒めてくれますし、いい人ですね」
「私もそう思うの。でも、それがあの人の仕事だから、それ以上を期待してはダメよ」
「エッ、どういう意味ですか」
 華子には、佳奈が言っている意味が理解できなかったから、素直に聞き返した。
「あの人は、ホストクラブで売上げがトップだった人なの」
「ハァ・・なんですか。そのホストクラブって・・」
「新宿には、女性の客に対して、楽しくお酒を飲ませる男達のお店があるのよ」
「エッ、男性がですか」
「そう。そこのナンバー・ワンだったから、女性の寂しい気持が判るの・・。だからあの人は優しいのよ。だから女性が好きになって、お金も体も貢しいじゃうの」
「エエーッ、そんなことって、あるんですか」
 田舎から出てきて間もない華子には、そんなクラブがあって、しかも売上げの順位があることなど、初めて知った。 
「それって、要注意だって、私に警告してくれてるんですよね」
「まぁ、そうね。奥さんがいるか、どうかは、不明だけど・・」
「そうですかぁ」
「あなたがあの人を好きになっても、それは自由だし、自分で責任を取ればいいわ。でも、そういう人達の背景を、チョッと耳打ちしただけよ」
「ハァ、有難うございます」
――これって、単なるアドバイスなのかな。
  なにか、もっと意味がありそう・・。
「佳奈さん、今夜は、その警告で私を誘ってくれたんですか」
「まぁ、それもあるけど・・。私、嫌なことがあると、独りではアパートにいたくないのよね」
 佳奈は、なにか嫌なことを思い出したのか、声も沈みがちだった。
――佳奈さんのイヤなこと、って、なにかな。
  でも、聞き流しておこぅ。
  アパートの独り暮らしって、寂しい時があるのよね。
  そうか。もしよかったら、家に泊まってもらうかな。
 
 佳奈は、二杯目で華子の赤ワインを飲むと、次にはビールを注文した。
――あれ・・、佳奈さんて、お酒に強いのかな。
  それとも、ヤケ酒なの・・。あのイヤなことって・・。
  なんか、気になるのよね。
 佳奈は、大きめのビール・グラスを持つと、一気に半分も飲んだ。
 威勢よく「ハァー」と息を吐き出したが、奥のボトル棚を見る佳奈の目は、どこか寂しげに見えた。
「佳奈さん、今晩は、私の家で飲みませんか」
「エッ」
 佳奈は、心中をズバリと的中されて、まるで恐ろしいものを見たように、一瞬で、目が凍り付いてしまった。
「途中、コンビニでビールを買って・・。そうすれば、ゆっくりと飲めますし・・」
「ああ、それもいいね」
 気の強い佳奈は、さり気なく平静を装っていた。
「佳奈さん、そのダメージ・デニム、自分で作ったんですか」
「ああ、これ・・。通販で買ったのよ」
 華子は、気分を楽にしようと、いきなりファッションに話題を変えた。
「佳奈さんは、背が高いしスリムだから、レトロ・ジーンズも似合いそうですね」
「ああ、あの筒状でずん胴のヤツね。そう、いいかも」
 
 それから、二人は暗いのに、やけに街灯の明かりが気になる道を、とぼとぼと華子のアパートに向かって歩いていた。
 二人にはほとんど会話もなくて、ただ黙々と歩いていた。
 それから、新大久保の駅に近いコンビニで、缶ビールを半ダースも買い込むと、華子の六畳一間の部屋に上がり込んだ。
 畳敷きの部屋はガランとしていて、まだ家具もなく、数個の段ボールの箱が積まれているだけだった。
 目を引いたのは、壁の鴨居に架けられたハンガーであり、洗濯したのかさえ分らない色とりどりの洋服たちだった。
「佳奈さん、こんなさびしい部屋で、すみません。上京したばかりだし、生活していくのが、やっとなものですから」
「アラ、私も学生の頃は、なにもなかったわよ。気にしないで・・」
 
 華子は、大きめの段ボール箱を、テーブル代りに部屋の中央に据えた。
 それから二人は、おつまみに買ってきた袋を広げると、さっそく缶ビールを缶のまま飲みだした。
 華子は、台所用品も、食器も、自分が一人で生活していく最小限にしか、まだ用意できていなかった。
「今日はね。パパが出張で上京してきて、夕食を一緒にしたわ」
「ワァ、お父さんと同伴なんて、いいですね」
「でもね、今夜は、私の部屋に泊まるって・・」
「そうなら、親子水入らずで・・」
「でも、私はお仕事で遅くなるし、帰れない時は、仲間の家に泊まるから、って、言ってきたの・・」
「はぁ、そうなんですか」
――ああ、お父さんと顔を合わせたくないんだ。
 華子は、早っとちりで、父との同伴を羨ましがってしまって、シマッタと思った。
「だから私、実は、帰りたくなかったの」
佳奈は虚ろに、ボソッと言葉をこぼした。
――でも、私は、お父さんと会ってみたいけどな。
  そう、どんな人だっか、もう一度、見たいの・・。
  Yesでも、Nowでもいいの・・。ただ一目だけで・・。
 
「でもね、こんな生活、いつまで続くのかな」
 佳奈は、二本目の缶ビールを手に取ると、独りぼんやりとして、遠くを見ていた。
「佳奈さん、私は今、踊りに必死ですし、充実してますよ。毎日が戦いみたいなんです」
「そうか。いいね」
 佳奈は虚脱して、つぶやくように言った。
「でも・・、私にも、そんな時があったのよね。あぁ、あの私って、どこに行ったのかな」
 華子は慰めようもなく、ビールをチビチビとやるしかなかった。
 さり気なく目覚まし時計に目をやると、もう深夜の2時を過ぎていた。
 
 佳奈は、残ったビールをグーッと空けると、三本目もグイグイ飲んだ。
「でもさぁ、華子、私、三度目の恋も失敗したの・・」
「エエッ、なんで、ですか」
もうだいぶ酔っている佳奈が、いきなり話し出した。
「私、夢中になると、追っ駆けちゃうのよね。だからなのかな。何時も、最後は逃げられちゃうの・・」
――そうか。失恋を引き摺っているのか。
  なんか、切ない気持ちが伝わってくるね。
  でも、私って、恋なんてしたことないからな。
  引っ込み思案で、男性と話しても、黙って目を見ているだけ・・。
  そう、怖くって怯えているのよ。
  そんな男性恐怖症だから、話が発展しないの・・。
「あの佐々木さんにも、拒否されたんだ」
――エッ、嘘でしょ。
  だって、さっきマネージャーは、警戒すべき人物だって、
  警告してくれたのに・・。
  そうか、自分が≪優しさ≫のワナに嵌ったんだ・・。
「あの人、ダンスの後にはいつも褒めてくれたし、壁にぶつかった時には、励ましてくれたの・・。だから私、気がついたら好きになってた」
「そう、なんですか」
「それで、目線が追いかけ始めて、彼にアッピールして・・、でも、優しさ以上はなかったの」
「私達、出演者のマネージャーとして、仕事に徹しているのかも・・」
「そう、仕事が終わって、ある深夜、ストーカーみたいに後をつけたら、赤坂サカスの前で女性と待ち合わせをしてたの・・」
「そうですか。それって、ヤバイですね」
「彼は、きっと尾行に気づいて、女性を呼び出したのよ。奥さんがいるように匂わせたけど、はっきりとは言わなかったし・・」
 
「でも、あんなに優しい男性って、いないですよね」
 華子は、何気につぶやいた。
「ええ、いつも、私たちのことを気にかけてくれて、褒めてくれるなんて・・」
「エッ、なに・・」
 ぼんやりとしていた佳奈が、突然目を剥いて驚いたので、華子もハッとして眠気が一気に飛んだ。
「もしかして、私、男性よりも、優しさを求めていたの・・」
 佳奈は、なにも見えない窓ガラスに、大きく見開いた眼を突き刺していた。
「ああ、そうかも・・。そうよ。無口なパパは、家で顔を合わせても、声をかけてくれたことはなかった。そう、お互いに、無視をしていたの・・。あぁ、そうか・・」
 佳奈は遠くを見つめたまま、独り自問自答していた。

――でも、私は子供の頃の父しか、知らないからさ。
  父が無口だとか、優しいしとかなんて、実感がないのよ。
  今、どうしてるのかな。
 華子は、もうほとんど面影が薄れてしまった父親を、漠然と思っていた。
 
                              ― つづく ―
 
 





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