★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2018/11/15|その他
◇フィーリング・カップル◇ [男と女の風景・135]
 
                          20181115(木)
                            00:00 更新
   − 我が家のベランダ・ガ−デン −

   ○ 秋のシダ類・3品 ○
 
 今回も、秋真っ盛りの小品を3点、紹介します。
 
  ≪写真・左・・アオネカズラ≫
 これは多分、台湾の≪青根蔓≫だと思います。
 屋久島や西表島から、台湾にかけて自生しています。
 ウラボシ科の着生植物で、写真では見えないのですが、青い根茎が肉厚で径が4ミリもあって、横に這って枝分かれして増えます。
 しかも、秋からこの今も、新芽が出芝目ています。
 
  ≪写真・中・・マツザカシダ≫
 これはイノモトソウ科のシダで、特徴は葉の真ん中に白い斑が入っている点です。
 これだけ繁ってくると、風景になってますよね。
 
  ≪写真、右・・テンジクスゲ≫
 この≪天竺菅≫は、中国の長江付近が原産で、カヤツリグサ科スゲ属です。
 茎は黒軸で、葉がラセン嬢にに生えていきます。
 別名ヤシがヤとも、三角葦(茎が三角のため)とも言われます。
 

                    [男と女の風景・135]
                      ー つづき 2  ー

 ◇フィーリング・カップル◇
 
 それから次の土曜日、二人は午後の1時半に、江ノ電の稲村ケ崎で待ち合わせた。朋美が、2時のランチを予約していたからだ。
 小宮山は藤沢方面から来たし、朋美は鎌倉から出かけてきた。
 お互いに友達同士の軽い挨拶を交わすと、朋美は気安く腕を組んできた。
 その動きがさり気なくて、いかにも仲のいいカップルに見えた。

 二人とも、ジーンズのラフな格好をしていた。
 しかも、朋美は真っ赤なウインドブレーカーを背中に巻きつけていて、スリムな体型に細くて長い足を見せていた。
 快晴の空は青々として広がり、七里ガ浜越しに海が開けていて、その先に江の島がデーンと構えていた。
 駅を出て、少し歩くと小高い丘の上に、その和食の店≪海菜寺≫はあった。
 予約をしていたお蔭で、直ぐにウッド・デッキに案内されると、一段と高い席から見晴らしのいい景色が広がっていた。
 二人には、子供の頃から見慣れた地元の風景であり、格別な感慨は湧かなかった。
 だが、二人だけでテーブルに向かい合っていると、なんともワクワクした気分になっていた。
 
 二人は、先ずは、グラス・ワインで乾杯した。
 そして、先に小鉢が出され、新鮮な鎌倉野菜のしゃぶが続いた。
 お互いに気を使ってはいたが、二人はもう落ち着いた大人であり、ほとんど言葉も交わさずに淡々と食事をしていた。
 二人は笑顔を交わすだけだったが、端から見れば、もう長年連れ添った夫婦に見えただろう。
 すると朋美は、程よく出来上がった野菜を、取り皿に取り分けてくれた。
 小宮山は軽く会釈をして、美味しそうに味わっている。
 秋の陽光を受けて、海からのそよ風を感じながら、穏やかな時間を過ごしていた。
「こういうのんびりした気分は、いいね。なんとも平和で・・」
「そうですね。ホッとして、幸せって感じます」
――そう、僕には女性とこんな場面はなかったよ。
  お互いにフィーリングがピッタリで、気が楽で、
  こんなに、のんびりとしていられる、なんて・・。
  この子と目を合わせるだけで、自分が微笑んでいるのが判る。
  こんな幸せ感て、かつてあったかな。
  エッ、もしかして恋心が湧いているのかな。
 
 ランチを終ってから、二人は134号線の信号を渡って、七里ガ浜に降りて行った。
 海風は髪を揺らす程の微風で、海も穏やかだった。
 波打ち際の近くまで行って、砂浜に座ると、温まった砂が心地よかった。
 並んで座ると、朋美が小宮山の肩に頭を預けてきて「気分爽快で、癒されますね」と呟いた。
「そうだね。海を見てると、俗世間を忘れるね」
 小さな波が、何度も打ち寄せては引いていった。
 小宮山は、見慣れた景色だったが、なんとなく懐かしさを覚えて、子供の頃、家族で片瀬の浜で砂遊びをしたのを思い出した。
――あれは、父がワシントンから一時帰国した時だった。
  それから、次の年には、家族が渡米して、
  そう、向こうの小学校に入学したんだ。
 
「あのぅ・・、小宮山さん・・」
「うん、なに・・」
 なにかを言いたそうなのに、朋美は小宮山を見たまま言い澱んでいる。
「ええ・・実は私、子供が欲しいんです」
「エッ、まさか・・」
 小宮山は、突然なにを言うのかと驚いて、いぶかしげな眼で朋美を見た。
「でも、これからだと高齢出産になりますよ」
「ええ、でも是非とも欲しいんで、根性を据えて挑戦します」
「エッ・・、待ってくれよ。もしかして、僕の子供・・」
「ええ・・、お願いします」
「まさか、でしょ・・」
「アッ、たとえ私生児でも、いいんです。私の心の支えとして、立派に育てます。ええ、私が生きた証しとして、私の分身を残したいんです」
――ああ、なんということ・・。
  我が家は、妹に子供が二人いるから、子孫はいいけど・・。
  でも、この僕の、自分の子供とはな。
「あのね、経済的にはいいとしても、僕の残りの人生は少ないし・・、せめて成人するまでの子育てに、僕は責任が持てるかな。自信がないな」
「それは、私が責任を取ります」
「ああ、君の意思は、判ったよ。でも、これは重大な事だから、もう少し時間をかけて話し合おうよ」
「そうですか」
 朋美は、残念と思ったのか、気落ちした顔をした。
「僕はね、君との結婚なんて、夢のまた夢だと思っていたからさ・・。いきなり、唐突に子作りと言われても・・」
「では、結婚はありですか」
「ああ、そうだね。でも・・、僕はもう55歳だよ。君は若いし、美しいから、いくらでもチャンスはあるでしょ。年下の若い男性でもいいし・・」
「でも、小宮山さんのDNAが欲しいんです。特に、優しさのある人柄の遺伝子が・・」
 この爽やかで、晴々とした空気の中で、語られている話題は、なんともドロドロとしたセックスであり、子作りだった。
「まぁ、じっくり話し合って、考えてみようよ。どう、これから藤沢に出て、お茶でもしない・・」
 
 気がつけば、晩秋の夕日が西に傾いていて、もう午後の4時をとっくに廻っていた。
「ワァーッ、江の島より北に太陽が沈んでいきますよ。これは絶景・・。長年鎌倉に住んでいるのに、こんな光景を見るのは初めて・・」
 小宮山も、箱根と富士山を青く浮き上がらせた茜色の夕日なんて、初めて見る日没の景色だった。
――そうだよな。大自然は、いつも圧倒するんだ。
  そう、自分なんて、宇宙から見れば、ほんの微塵だって・・。
  だから、自覚を持った人間は、もっと謙虚であるべきだって・・。
  今日は、思わぬことを言ってくれたな。
  今までセックスをしたことがない自分、
  子作りをして、父親となる自分、
  そんな、考えたこともない難題を、突きつけられたよ。
  そう、組織の中の偉そうな自分なんて、肩書だけなんだ。
  大自然の前では、この世の現実は仮の世界で、フィクションだったんだ。
  僕は、薄っぺらな官僚だったのかも・・。
  そう、見えなかった大切なものを、気付かせてくれたな。
  あの夕陽に、感謝だよ。
 重たい空気が漂っていたが、壮大な夕陽を見せつけられて、しぼんだ気持がすっぽりと飛んでいくようだった。
 
 二人は、江ノ電の稲村ケ崎に戻って、ホームで電車を待っていた。
 今日は土曜日もあってか、ホームにも、入ってきた電車にも、大勢の観光客でかなり混んでいた。
 小宮山は、ドアの傍に立って、電車の窓に流れる七里ガ浜を、黙然と眺めていた。朋美も寄り添って、黙ったまま海を見ていた。
 あれから二人は、自分の考えをどう纏めたらいいのかと、頭の中で堂々巡りをしていたから、会話が途切れていた。
――私って、ずっと独りだったような気がする。
  だから、家族が欲しいの・・。
 だが、小宮山には、朋美がなぜそうまでして子供が欲しいのか、その気持が判らなかった。
――単に、バンドの仲間として付き合えば、いいのに・・。
  だって、重要なのは、子供に対する責任だよ。
  子育てって、様々な制約を受けて、自由さがなくなるんだよ。
  もう、いい年だから、気楽に生きたいな。
 
 藤沢に着くと、小宮山はオーバの4階にある≪珈琲屋OB≫に案内した。
 内装は、まさに手作りのウッディ・ハウスであり、木の肌や木目が剥き出しで、おもちゃの部屋のような親近感が漂っている。
 二人は、コーヒーを飲みながら、自分や家族のことを語ることにした。
 まず朋美から話し始めたが、その要旨はこんな内容だった。
 朋美の父は、サラリーマンから、その会社の役員に出世した。激務を乗り越えてきたのだろうが、夜に帰宅するのはいつも遅かった。
 しかも、土曜日はゴルフに出かけることが多くて、日曜日は朝寝坊だったし、一日中、ぐったりとしていて、家庭の中では無口だった。
 そして今は、子会社の顧問として、週に3日、東京まで出勤している。
 母は、茶道の師範をしていて、その指導で出張など、家を空けることが多かった。
 だが、母が不在であっても、父も同様であり、それを黙認していた。
 そんな家庭だったから、家族は皆、自分だけに没頭していて、一家の団欒がなくて協調性もなかった。
 久しぶりに顔を合わせても、お互いに挨拶もなかったし、お互いを気遣うこともなかった。そんな冷たくて、サッパリした空気が漂う家庭だった。
 だから、朋美は、女として子供が欲しかったのだ。
 
 一方、小宮山の父は、もう78歳の時に他界していた。
 父親は外務省に入省したから、海外勤務も長かった。
 息子の小宮山は、小学校をワシントンで、中学をロンドンで過ごした。
 その後、高校生になる時、先々のこともあるからと、母と妹と三人で日本に帰国した。
 大学を出る時、役人の父に見習って、自分は文科省に入った。
 それから、妹が結婚して以来、母と息子の二人暮らしが続いてきた。
 年老いた母は77才になったが、父親の死後3年が経った頃から、少しボケ始めてきた。
 だが、母は自分が食べる食事だけは、調理できるから、今は猫と一緒にのんびりと暮らしている。
 ただし、食材の調達は、小宮山が休日にスーパーに出かけている。
 そんな、助け合っていく親子の二人だったから、お互いに我が儘を言わずに、穏便な日々を送っていた。
 
 二人は、お互いに置かれた環境条件を、ざっくばらんに語り合った。お互いに、真面目に語ったし、真面目に聞いていた。
 だが、そんな家庭環境の違いから、いざ結婚とか、家族を持つことになると、二人の間には考え方の微妙な違いが出てきた。
 朋美は、家庭から自由に離れられるかもしれないが、小宮山には母親を置いたまま、家を出ることは出来なかったのだ。
「小宮山さん、私は仕事を辞めてもいいんです」
「そんな・・、そうまでして、なの・・」
「ええ、あなたのお母さんをアシストします。もし子供が出来たら、手が掛らなくなるまで、しばらくは実家で母の手助けをしてもらいます」
「本当に、覚悟を決めたんだね」
「ええ、私は本気です」
 そこまで言われて、小宮山は戸惑ってしまった。
――ああ、こんな深刻な課題は、仕事にもなかったよ。
  僕は、どう決断すればいいんだ。
  ウン、そう・・、これは重大な人生の岐路だな。
 だが、小宮山にはずっと気になっていることが、もうひとつあった。
 そして、それを言うべきかどうか、ずっと迷っていたのだ。
「朋美さん、実はね・・、僕には、もう一つ越えないといけないハードルがあるんです」
 小宮山の深刻そうな顔を見て、朋美は不思議そうな顔をした。
「実は、僕はセックスをしたことがないんです。だから、この歳であの原液が出るのか、しかも強い精子があるのかどうか、自信がないんです」
 朋美は、言ってることは理解できたが、そればっかりは、なんとも言えなかった。
「アッ、そうだ。出来ちゃった婚だったら、どうかな。それだったら、妊娠したのが確認できるでしょ。その段階で、結婚すれば、いいんですよ」
 朋美は、なるほどいい考えだと納得した。
 二人は共に、結婚とか子作りには、もう高齢者になっていたのだ。
 そんな切実な課題を抱えていることを、改めて二人は噛み締めていた。
 小宮山は、仕事を離れたプライベートでは、のんびりと過ごしてきたのに、まさか今、こんな深刻な課題に直面するとは思っていなかった。
「まぁ、お互いの事情は判ったし,その気になれば手段がない訳じゃない。でも、今直ぐに結論を出さなくてもいいし・・、だからもう少し時間をおいて、考えてみようか。どう・・」
「そうですね。一旦、保留しましょうか」
 朋美は深刻な顔をしていたが、冷静に同意してくれた。
「ああ、もうこんな時間だ」
 小宮山が腕時計を見ると、間もなく7時になろうとしていた。
「どう、僕の行きつけのスナックで軽く飲んでいかない・・」
「ええ、それもいいですね」
 
 二人がスナック≪ファンキー≫に行くと、もう大先輩の細貝が、カウンターの隅で独り飲んでいた。
 いつもはジャンパー姿なのに、今日はブレザーを着込んでいた。
「細貝さん、今日はゴルフですか」
「おお、君か。そう、湘南シーサイドでね」
「アッ、紹介します。鎌倉のバンド仲間の園山さんです」
「おお・・、美人で、若くて、いいですね。君も、意外とモテるんだね。羨ましいよ」
 すると、ママも近寄ってきて「まぁ、小宮山さん、女性をお連れするなんて、初めてですよね」と、冗談交じりの挨拶をした。
「僕はね、女性には縁がなかったからね」
「それでは、今日は奇跡が起きたんですか」
「そう、人生、最良の日ですよ」
 そんな軽い会話をすると、二人は細貝から離れてカウンターの反対の隅に座った。
 もし、さっきの話が朋美から出たら、誰にも聞かれたくなかったからだ。
 だが、今はもう話す事柄がなくなっていた。
 
 それから二人は、会話もなくただ自分の考えをどう纏めるか、そのことに頭が回っていた。
――結婚かぁ。
  それって、嬉しいはずなのに、なぜか気が重たいんだよな。
  まして、自分の子供を育てるなんて、さ。
「あのさぁ、僕たち、結婚とか子作りとか、そんなことを前提としないで、もっとフランクで自由に付き合いたいな」
「ええ、私も、今、そんな風に・・」
「だって、バンド活動をエンジョイしたいし、もし恋心が芽生えたら、大人の恋をしたいでしょ」
「ああ、そうですね。その時は、自然の流れるままに振舞えば、自分らしくいられるかも・・」
「そうだよ。僕は君自身をまだ知ってはいないし、君は僕のダメな部分を知ってはいないよ。だから、もっとオープン・マインドで付き合おうよ」
「はい、私も今、そう思ってます。結論ありきではなくて・・」
 朋美も、変に子作りにこだわった自分を反省していた。
 
「よし、今日は、無礼講で飲もうか」
 すると、小宮山はグラスを掲げて乾杯を促すと、「先ずは、一気飲みだよ」と宣告した。
 そして、二人はグラスの水割りを一気に煽った。
「そうだよ。こういう酒が飲みたかったんだ」
 すると、朋美は直ぐに水割りのお代りを作り始めていた。
――ああ、私、子供が欲しいなんて、言っちゃったよ。
  それは願望ではあるけど、先に言うべきではなかったかも・・。
  そうよ。こんな楽しいお酒が飲めれば、最高の幸せよ。
「小宮山さん、余計なことを言ってすみません。私、いつまでも、こんな楽しいお酒を飲んでいたいです」
「そうだよな。自分の中に鬱積したストレス発散が、優先なんだ。心の寂しさがストレスなら、思いっ切り大泣きして、それを発散させればいいんだ」
「ワァオ、そのノリですよ。結果が出たら、その時に考えれば・・」
「オッケー、また一気に行くぞー」
 小宮山の掛け声で、また乾杯すると、調子に乗って一気に飲み干した。
 二人は、今いる場所も時間も意識から素っ飛ばして、ひたすら二人の楽しい酒に溺れていった。
――そう、これでいいんだ。
  ヤケ酒ではなくて、飲みたいから飲む。
  結果がどうなろうと、自分の欲望のままに飲む。
  日頃は抑制されてるからこそ、自分を自由に開放するんだ。
  そう、これが大人のスタイルなんだ。
 小宮山は、そんなことを思いながら、酒を飲んでいた。
 
 すると、いきなり大先輩の細貝から声がかかった。
「おい、君、リクエストだ」
 小宮山は、その声を聴いて、その言わんとすることがピンときたが、トボケていた。
「これは、業務命令だ。おい、君、例のあの曲を頼む」
「小宮山さん、ギターを出しますから・・」
 男たちの会話に割り込んだのは、ママだった。
 この時間は、店には客が3人しかいなかったから、細貝もそこを見計らって言ったのだろう。
 小宮山は、もう何度か、カラオケをバックにギターの弾き語りでやったが、それは≪The  House  of  The Rising  Sun≫だった。
 日本では≪朝日のあたる家≫の題名で、多くの歌手にカバーされている曲であり、You Tube にもアップされている。。
 細貝は、なぜか、小宮山の顔を見ると、この曲をリクエストした。だから、小宮山は渋ったフリをして、得意げに歌うのだ。
 カラオケが入り、ギターを手にした小宮山が弾き始めて、やがて渋い声で歌い出した。
 すると、もう一本マイクを欲しがった朋美が、そっとバック・コーラスで入ってきた。
 二人はハモリながら、売春宿に堕ちていった女の切なさを、切なく歌っていた。
 だが、日本語の歌詞が英語に変ったところで、朋美が一気にソプラノの声を張り上げて、投げ遣りになった女の心情を歌ってきた。
 小宮山は、まさかこの曲で、朋美がバックに入るとは思わなかった。
 しかも、ちあきなおみが歌ったように、こんなに女の情念をメリハリをつけて吐露しようとは思わなかった。
 それからは、ただギターを弾くだけで、ピアニストのはずの朋美の歌声に感動していた。
――ああ、この女は、お嬢様と思ってたけど、
  こんなヤサぐれた女の心情を、歌えるんだ。
  ああ、いい女だよ。見直したな。
  この歌い方は、素晴らしいよ。
 朋美が歌い終わると、皆から拍手が巻き起こり、小宮山は朋美と握手をして、思わずハグをしていた。
 すると大先輩が、「ブラボー、最高・・。僕はこの哀愁が、たまらないんだよな」と声をかけてきた。
「ほら、大絶賛じゃない。あのさぁ、これからは、この曲を僕たちのテーマソングにしようよ。僕はギターを弾きながら、さり気なくバックで入って、ハモるから・・」
「イヤー、無理ですよ」
「どう、ママ・・」
「そうね。愛した男が出て行ってしまって、売春宿に堕ちて行く女でしょ。どうにも出来ない女の哀愁、そんな寂しさを感じさせる味を、園山さんは出してましたよ」
「だろぅ。僕は感動したな。だって、女の情念を、君がこんな風に歌い上げるなんて、新発見だよ」
「そう、こんな控え目で上品なのに、堕ちた女の心情を歌う、そのギャップが素晴らしい」
 ママが、目を見張って褒め上げた。
「そう、自分を投げ遣りに突き放して、しかも腹が座っていて、でも切なさに押しつぶされないように、自分を突っ張ってるーそんな女心を、こんな歌い方で表現出来るのは、肌で実感した者にしか出せないよ」
 小宮山がそう言った時、「えっ、ああ・・」と。朋美は曖昧だったが、なんとなく頷いた。
 それを見た小宮山は、自分の直観に目を見張った。
 もしかして、まだ見たことがない朋美が、どこか別にいるのかもと、妙に引っかかって頭に残った。
――この人に、なにがあったんだ。
  だって、父親は会社の役員、母親は茶道の師範だろ、
  まぁ、上流の家庭だよな。
  そんな女が、セックスを売る女の情念を、切々と歌った。
  横顔しか見えなかったが、涙を浮かべていたんでは・・。
  ああ、 この人の秘密を知りたいな。
 
                        ― つづく ―
 
 
 





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