★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/12/12|その他
 ◇ 無垢な女 ◇[男と女の風景・147]
 
            2019年12月12(木) 00:00時 更新 
 
我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、これから冬に向かうのに、春が待ち切れずに、もう新芽を出している3種を紹介します。
 
写真・左・・紀州オギ
写真・中・・姫コバンソウ
写真、右・・不明
 

                   [男と女の風景・147]
                    ― つづき・4 ―

    無垢な女 

 その週の土曜日、珠美は、いつもの休日のように、九時過ぎまでベッドでうつらうつらしていた。
 今週の週末、経理担当の珠美はデータの締切で多忙だったから、疲れが溜まっていた。
 清田家の夕食に招かれているのは、頭にうっすらとあったが、とにかく体がだるくて起き上がれなかったのだ。
 結局、我慢できずにトイレに立ったのが、10時だった。
 それから、洗面、朝食、洗濯など、土曜日のルーチンをこなして、コーヒータイムになったのは12時を過ぎていた。
 ふと、出かける服装はどうしようかと気がついて、考えた末に、会社に出勤する時の上下が黒のパンツルックにした。
 それは、他所の家に行くのにフォーマルでもあり、お手伝いもするから軽快なほうがと考えたのだ。
 それから、冷凍庫から牛スジのタッバーを取り出すと、ビニール袋に入れた。
 
 そして、珠美は桜小路公園で、午後の4時半に娘の明日香と待ち合わせて、家まで案内してもらうことにした。
 定時に行くと、例のグリーンのカーデガンを着て、にこやかに手を振って迎えてくれた。
「珠美さん、このカーデガンも、ポーチも、学校でみんなから絶賛なんです」
「ソーゥ、良かったわね。私も嬉しいな」
 そんなエールの交換をすると、明日香が腕を組んできた。
――この子、明るくって、素直だから、いいね。
  私みたいに、引っ込み思案ではないし、イジケてないもの・・。
  だから、友達みたいに、親近感があるのよ。
「珠美さん、スタイルがいいから、この黒いスーツ、すっごく似合ってますね」
「ありがとう。でも、単に痩せているだけよ」
 それから、静かな住宅街を歩くと、「この石の塀がある家を曲がると、この奥が、私の家ですから」と目印を教えてくれた。
 
 玄関に入ると、清田と、その母が廊下に座って、「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。
「岡崎珠美です。どうぞ、よろしくお願いします」
 母は70才くらいの白髪で、痩せていて上品な顔立ちであり、おっとりとして柔和な感じがした。
――アッ、清田さん、目の優しさがお母さんに似てる。
  もう中年太りだから、体型は違うけど・・。
  でも、こんな優しい人に育てられたのか。
 珠美は、親から子への遺伝は、顔付きだけでなく、その育ちや人柄にも伝わって行くのかと、改めて思った。
 応接間に通されると、もうテーブルにはすき焼きセットが並べられていたし、床のカーペットには座布団が敷かれていた。
「ワァーッ、もう準備完了ですね」
 珠美は、その手際の良さに歓声を挙げると。牛スジを取り出して、清田に渡した。
「おお、これが自慢の力作か。楽しみだね」
「お昼から自然解凍していましたが、電子レンジであと4、5分、温めて戴けますか」
 
 それから、清田と珠美は赤ワインで、母と明日香はジュースで乾杯すると、賑やかな鍋パーティが始まった。
 大皿に盛られた牛肉を、鍋でシャブをしては生卵につけて食べると、その蕩ける柔らかさに目を見張った。
「ああ、美味しいです。いつも一人なんで、こんな鍋を囲むなんて・・、とっても嬉しいです」
珠美は、いつも寂しい食事だったから、こんなワイワイと楽しい食事が嬉しくなって、気分も上々だった。
――アア・・、やっぱり家族って、いいな。
  気持が温かくなるもの・・。
  お互いに信じ合って、お互いに支え合っているからだよ。
  我が家には、両親が離婚する前にも、こんな団欒はなかったよね。
それは他人の家族だったが、これまでの人生で初めて見る光景だった。
 
 すると、お母さんが「牛スジが温まりましたよ」と、深鉢に入れてテーブルに持ってきた。
「皆さん、どうぞ味わって下さい」
 珠美が控え目に言うと、清田家の3人は、一斉に箸を取り出した。
「おお、美味しいね」
 清田が、目を丸くして味わいながら、ニコッと笑うと、明日香が声を挙げた。
「これが牛スジなの・・。美味しい」
「そう、美味しいね。この大根やコンニャクにも味が染み込んでいるし、薄味でコンブ出汁の風味がいいの・・」
「そう、和風の上品さがあるね」
「そしてね、牛スジだけの煮込みは、ショウガが効いていて、甘辛さが程々だし、とっても美味しいわ」
 母親と清田は顔を見合わせると、頷き合っている。
「ねえ、お婆ちゃん、私、こんな食感は初めてだよ」
「これはね、作るのが大変なのよ。一旦煮てから、アクを取って、それから2時間ぐらい煮ないと、こんなプリプリにはならないの。ねえ、珠美さん、そうですよね」
「ええ、そうなんです。でも、美肌に効くコラーゲンがいっぱいで・・」
「そうか。手間が掛るから、我が家では作らないのか」
「それもあるけど、味付けが難しいの・・」
「そうしたら、今度、作り方を教えてもらおうかな」
「ええ、いいですよ。牛スジの買い出しに行きましょう」
「ワーィ、嬉しいな。またやることが増えたよ」
 そんな会話から、珠美と明日香は親しみを感じ合っていた。
 
 すると、明日香が「私も、チョッとワインが飲みたいな」と言い出した。
「ダメだよ。未成年は・・。酔っ払うぞ」
「家の中だから、酔っても大丈夫だよ」
 珠美には、そんな会話を交わす親子が、見ているだけで微笑ましくて、羨ましかった。
――うん。いいよ。これが、本当の親と子なんだよね。
  ああ、こんな場面、私にはなかったよな。
  こんな家族の団欒、私の未来にはあるのかな。
 そんな会話から、「では、チョッとだぞ」と言うと、明日香はキッチンにグラスを取りに行った。
 テーブルに戻ると、清田はグラスに半分ほど注いでやった。
 そして、もう一度、皆で乾杯すると、明日香は香りを嗅いで、ちょびっと舐めはじめた。
「ウーン、あまり美味しくはないし、アルコールの感じがないよね。こんなお酒、なにがいいのかな」
 そんなことを言いながら、半分を飲んだ。
 そして、清田は珠美のグラスに注ぎ足してやり、自分のグラスにも注ぐと、3人はまた乾杯をした。
――ああ、こういうお酒もいいね。
  なんか、気持が温かく感じられて、それだけで酔ってしまいそうだよ。
  やっぱり、家族っていいよ。
 
「パパァ、なんか、目が回って来たよ」
「オイ、明日香、酔ってきたんだろ」
 見れば、明日香は目をつぶったまま、体が揺れていた。
――ああ、ヤバイかも。
  明日香ちゃん、大丈夫かな。
  なんか、イヤな予感がするな。
「パパァ、私ね、珠美さんが好きなの・・。だから、パパァ、お願い。珠美さんと結婚して・・」
「エッ、オマエ、なにを言うんだ」
 珠美も、まさかの発言に驚いた。
 酔ってるとは言え、あまりにも唐突だった。
「だって、私、珠美さんが好きなんだもん。だから、酔わないと本心が言えないって、思ったの・・」
「オイ、突然なにを言い出すんだ。珠美さんに失礼だろぅ」
「でもね、珠美さんには、お姉さんみたいな、なんか、なんでも話せる、って、そんな感じなのよ」
 明日香は、トロンとした目つきだったが、自分の気持を語っていた。
 すると、母が「私も賛成よ。こんな素晴らしい人と、一緒になってほしいなって・・」と言い出した。
 珠美は、また予想だにしなかった祖母のまさかの発言に、驚いた。
――ああ、私、結婚には憧れてるよ。
  しかも、こんな優しい清田さんにも・・。
  でもね、悲惨な母を見てきたから、怖いのよ。
 珠美の心の中では、嬉しさと恐ろしさが交錯していた。
――ああ、私、どうしよう。
  だって、夫婦になったら、セックスをするんだよね
  アア、それって不潔だよ。私には、出来ないよ。
 珠美は、なんとなく気持ちが落ち込んでしまった。
 結婚という課題が、いきなり現実に突きつけられて、頭の中がパニックになってしまったのだ。
 清田もそうだけど、母や子供からも賛成されて、しかも迫られると、珠美は、どう応えたらいいのか、その結論を持っていなかった。  
――アナタ、どう返事するのよ。
  母の遺言を守るはずだったんでしょ。なにを躊躇してるの・・。
  思い切って、清田さんの胸に飛び込むのよ。
  命までは、取られないから・・。
  ああ、お母さん、待ってよ。決断が付かないの・・。
 そんな考え込んでしまった珠美を、3人の家族は意識していながら、苦悶する様子を直視出来なかった。
 それからは、皆はただ黙々と箸を動かしていた。
 
 それから、締めのうどんが出てきて、すき焼きのタレで美味しく食べたが、会話はなかった。
 そして、食べ終わった時、茶椀や鍋をキッチンに運んで、珠美は流しに立って、食器を洗おうとした。
「珠美さん、これは、私の担当ですから、どうぞお座りになって・・」
 明日香が、恐る恐る言うと、「では一緒に・・」と、スーツを脱いで、椅子に投げかけた。
 二人が並んで食器を洗い始めると、明日香が「珠美さん、失礼をしました。私、お詫びします」と小さな声で言った。
「アラ、いいのよ。私、自分の答が揺れていたから、返事が出来なかったの・・。だから、気にしないで・・」
「本当に、すみません」
「いいのよ。自分の中で答えを探すから・・」
 
 そして、珠美は玄関で、「本日は、楽しいパーティを有難うございました。それでは、失礼します」と別れの挨拶をした。
 すると、清田が慌てて、「夜道だから、公園か、駅まで送って行くよ」と言い出した。
 清田は、珠美がなぜ結婚について考え込んでしまったのか、それがずっと頭に残っていた。だから、二人だけで話をしたかったのだ。
 外に出ると、「娘が失礼なことを言って、悪かったね」と謝った。
「いえ、いいんです。ただ、私には答えがなかったんです。私に課せられた問題ですから・・」
 それから二人は、静まり返った夜の住宅街を、とぼとぼと歩いていった。
 そして、公園に差し掛かった時、「清田さん、私には自信がないんです」と呟いた。
「エッ、なにが・・」
 暗がりで珠美の表情は見えなかったが、返事はなかった。
 清田は仕方なく、「あのベンチで、一休みしますか」と提案した。
 夜の公園は、静まり返っていて、暗闇の中にひっそりと沈んでいた。
 二人並んで座ってからも、珠美は黙ったままだったから、清田はそっとして、辛抱強く待っていた。
 珠美には、様々な光景が浮かんでいたが、頭が混乱して、なにをどう話していいのか判らなかった。
 凶暴な父が母にした暴力、自分への性的な虐待、そんなことから自分の意識の中で、自分が悪者だと責めてきた苦難の過去があった。
 自分では、中学、高校とバレーボールにどっふりと浸かって、克服したつもりだった。
 大学でも、心理学を専攻して、心理カウンセラーを目指していたが、もう一切、過去は忘れようと普通の会社に入ったのだ。
 それなのに、やっぱり払拭できなかった自分が、まだ胸の奥で疼いていた。
 しかも、いざ結婚となると自信がなかったし、性行為そのものが不潔に思えたから、自分の裸を晒すことが耐えられなかったのだ。
 
「清田さん、私はあなたが素敵な人だと尊敬していますし、憧れの人です。しかも、明日香ちゃんとはもう友達だし、お母さんも素敵な方です」
 清田は、やっと話し始めた珠美の言葉を、しっかりと聞いていた。
「ええ、でも結婚には自信がないんです。私には今日のような家族の団欒はなかったし、主婦のなんたるかも知らないんです」
「そうか。でも、そんなことは、問題ではないよね。だって、さっきのように普通のままでいいから・・。牛スジも美味しく調理が出来るし・・」
「でも、母は、父の暴力で、裸のお尻を思いっ切り叩かれて、悲鳴を上げていました」
「僕はね、そんなことはしないよ」
「そうですか。そうですよね」
 珠美はそこまで言って、その先を言い澱んでしまった。
 
 この先を言ってしまっていいのかどうかと、逡巡していたのだ。
「でもね、人は育った環境によるよね」
 黙り込んだ珠美を見て、清田が自分のことを話し出した。
「僕は、子供の頃から、この歳になってもね、友達からオマエはお人好しでバカかって言われるよ。これが普通かと思うけど、他人から見ると、お人好しの度が過ぎるんだ。その限度がどこか、自覚がないんだよな」
 珠美は、じっと聞いていて、清田がなにを言おうとしているのかを、独り噛みしめていた。
「ハァー、正常と異常の境目ですか・・」
「そう。でもね、友達に苛められても、虐待をされても、それは相手が異常なんだと、思えばいいんだ」
 珠美には、それがズキッと突き刺さった。
――そうなのよ。
  『自分が悪いって思わないこと。自分を責めないこと』よ。
  『相手が悪いんだって、言い張ること』だってね。
  カウンセラーの教授が、そう言ってたな。
「私、実は父から性的な虐待を受けていたんです。小学生の頃、お風呂に一緒に入って、全身を舐められて・・。ええ、今だから、それがどういうことか、理解できますけれど・・。はい、実は男性のあれを、握らされて、口で咥えさせられていたんです」
 そんな際どい話になっても、清田は黙って聞いていた。
「母が、それを見て、父に飛びかかってきて、大喧嘩になって・・。ええ、虐待に耐えられなかった母は、その後で離婚をして、藤沢の親戚を頼ってきたんです」
 清田は、そこまで話を聞かされても驚かなかったし、あくまでも冷静に聞いていた。
「私って、そんな過去を引き摺っているんです」
「ああ、君ね。よくぞ、話してくれたよ。そんな秘密を明かしてくれたのは、僕を信頼してくれた証しだよ。それが嬉しいな」
「でも、これが私のトラウマなんです」
 清田は、そっと珠美の肩に手を回して、慰めてやった。
――ああ、この人は、まだ過去を引き摺っているのか。
  強制された過酷な過去を・・。
  この人と出会った以上、自分は癒してあげる。それが使命かも・・。
  それを、お人好しと言うなら、甘んじて受けるよ。
  だって、この出会いには、なにか、運命的なものを感じてるから・・。
 
「でもね。僕は君とのセックスを求めてはいないよ」  
 清田は、直感的にセックス恐怖症かも知れないと、思ったのだ。
「どう、セックス・レスで、僕と付き合ってくれないかな。結婚するかどうか、その結論は、もっとずっと先で決めれば、いいから・・」
 朋美は、しばらく考え込んでいたが、「そうですね」とポツリと言った。
「ええ私、バンブーで清田さんが、椅子につまずいて体勢を崩して、その勢いで椅子ごと抱かれました」
――アア、確かにあったな。
  エッ、あんなことを、覚えているの・・。
「あの時、私はゾクッとして、一気に身の毛がよだちました」
「そうか。男に触れられると、皮膚感覚が拒絶反応を起こすのか」
「ええ、多分、それは父のトラウマが原因では、と・・」
――そうか。だから、男を寄せ付けずに、独身なのか。
  でも、それって必然だし、可哀想なことだよ。
 
「それでは、珠美さん、今、僕が君の背中に回している腕を、感じてる」
「ええ、さっきから・・。なにか、背中を優しく支えてくれて、前に押し出してくれそうで・・。ですから、あの時と違って、嫌だとは思えないです」
「と、言うことは、君の気持が拒絶していないんだよ。そう、トラウマが消えつつある、ってことだ」
「アア・・、そうかも・・。だって、清田さんは、優しいんですもの・・」
 清田は、思わず珠美の二の腕をギュッと掴んだ。
 コートを着て、スーツも着ていて、間接的だったが、珠美の細い腕をシッカリと握っていた。
「あのさぁ、君のほっぺにチューをしても、いいかな」
 珠美は、少し身をよじったが、拒まなかった。
 そして、清田はそっと顔を近づけると、珠美の耳元に温かな吐息を吹きかけた。すると珠美は、くすぐったそうに首筋をすくめた。
 さらに清田は、柔らかな頬に優しく唇で触れていった。
 それは、微かに触れるほどだったが、一旦唇を外すと、もう一度、唇を押しつけていった。
 そして、清田は、珠美の耳元で熱い気持でささやいた。
「君は、可愛い子なんだ。その優しい人間性を、僕は褒めてあげる」
 公園は暗くて顔の表情は見えなかったが、珠美が、指先で目頭をぬぐう様子が窺えた。
 清田は、母から褒められて育ったし、娘の明日香も褒めて育ててきた。だから、珠美にも普通に褒めたのだ。
 
「ほっぺにチューは、どうだった」
「私、嬉しいです。清田さんを拒まない私が、なんと、ここにいたんです」
「そうか。では、もうトラウマは乗り越えたよ」
 すると、珠美は思いがけず、体を清田に摺り寄せてきた。
「どう、そっとキスをしても、いいかな・・」 
 覗き込んできた清田に、珠美は黙って見詰めたまま頷いた。
 そして、珠美は目を閉じると、清田を待っていた。
 清田は優しく体を抱き寄せると、そっと唇を合わせていった。
 そして、また一旦唇を外すと、間をおいて、もう一度押しつけていった。
 すると、珠美はその優しさにブルッと震えが来て、思わず首に回した腕に力が入ってしまった。
 そして、いきなり自分から清田を強く求めていった。
 気持ちが昂ぶって夢中になった珠美は、もう女になっていた。
 
                             ― おしまい ―
 
 





     コメントする
タイトル*
コメント*
名前*
MailAddress:
URL:
削除キー:
コメントを削除する時に必要になります
※「*」は必須入力です。