★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2020/02/27|その他
 ◇ 翔べない天使 ◇[男と女の風景・161]
            2020年2月27(木) 00:00時 更新 
                            
 ○我が家のベランダ・ガーデン
 
  今回も、この真冬だからこそ、常緑で元気な≪シダ類≫を3種、紹介します。
 
  ≪写真・左・・オニヤブソテツ
 このシダの特徴は、根元がソテツの先端のようにモコモコッとして、そこからゼンマイのように丸まった新芽が、何本も出て、葉を広げる点です。
 また、葉の裏側には、茶色の胞子嚢がびっしり付きますので、気味が悪いと嫌がる人もいます。
 
  ≪写真・中・・台湾アオネ≫
 この名前は、写真の左上に白く見える根茎が、≪青根≫だからです。
 この置き場所は、直射日光は避けていますが、本来は自然の木々の陰でひっそりと生育している植物なのです。
 その環境ですと、白い根が薄く青みがかかってきて、美しくなります。
 
  ≪写真、右・・ヒトツバ
 この≪一つ葉≫にも、葉が縮んだり、切れ込んでいたり、矢羽根の斑が入っていたりと、変種が様々にあります。
 このノッペリとした一つ葉は、もっともポピュラーなものです。
 次回には、この変種を紹介します。

 

                 [男と女の風景・160]
  ◇ 翔べない天使 ◇
 
 倉田は、もう深夜になるのに、金曜日だからと、カウンターの隅で独りのんびりと飲んでいた。
 今夜は、会社の部下たちと、横浜で気分よく飲んできた。
 しかも、カラオケも付き合ったから、ほろ酔い気分で独りこの≪バンブー≫に立ち寄ったのだ。
 だから、かなり酔ってはいたが、気分は上々だった。
 だが、初めて見る客もいたから、あまり出しゃばらないように、入口に近いカウンターで控え目にしていた。
 
 しばらくして、ふと、倉田は高い椅子から降りて、トイレに立った。
 そのドアを開けようとした時、カウンターの隅に座っていた女が、「アラ、素敵な紳士」と声をかけてきた。
 倉田は、立ち止まって、その声の主に振り向いた。
 薄暗くて逆光だったから、定かには見えなかったが、身なりや化粧からオミズ系だなと直感した。
しかし、どこかに上品さを感じさせる美人でもあった。
 女は、ピンクのスーツを着こなしていて、見た目の印象は、三十代の半ばに見えた。
 だが、倉田には初対面の女だった。

 すると女は、椅子を回して、いきなり倉田に抱きついてくると、プチューと唇を押しつけてきた。
――エッ、なんだ・・。
 倉田は、突然のことに目を剥いた。
 自分の唇に、ねっとりと濡れた女の唇が、余韻として残っていたが、黙って女を見ているしかなかった。
 女の話し相手をしていたマスターも、隣の客も、そんな突然の成り行きを見ていた。だが、倉田がどう反応するか、見守っていたのだ。
 しかし、倉田は何事もなかったように、そのままトイレに入っていった。
 
 そして、倉田が自分の席に戻った時だった。
 女が追いかけてきて、「先程は、失礼しました」と詫びたのだ。
「倉田さん、この律子さんは、もうかなり飲んでますんで・・」
 さり気なく近寄ってきたマスターが、気分を害さないようにと口添えをしたのだ。
「イヤァ、気にしなくてもいいですよ。それより、どうですか。一杯、やりませんか」
 倉田がそう応えると、「では、律ちゃん、グラスを持ってきて・・」
 そんな流れを見て、倉田は、マスターが『一言、謝った方がいい』とアドバイスをしたのだろうと察した。
 律子は、白ワインのグラスを持ってくると、隣の空いた席に座った。
 すると、倉田から「では、乾杯」と言って、2人は顔を見合わせると、笑顔を浮かべてグラスを合わせた。
 見れば、さっきまでマスターと陽気に喋っていたのに、女はもうサッパリとした冷静さを取り戻していた。
――さっきは、酔った勢いで、いきなりブチューをしたのに・・。
  この落ち着きはなんだ。
  そもそも、初対面の男に、あんなことをするとは・・、
  きっと、気持の中で燻っていたなにかが、爆発したんだろうな。
  でも、そのくぐもった火種とは、なんなんだ。
 倉田は、その極端なギャップに疑問を感じて、律子に興味が湧いていた。
――この女の正体は、なんなんだ。
  だって、こんな上品なお嬢様なのに・・。
  そう、見るからにオミズで、その世界にいるなんて、
  しかも、お淑やかなのに、大胆にも、ブチューをするなんて・・。
 倉田は、普通にはあり得ない様々なギャップに、違和感を感じたし、火星人のような異端さを見ていた。
 
「あなたは、単なる美人ではなくて、血統書付きの家柄ですよね」
「いえ、そんな・・。実家は、ただの呉服店です」
「そうですか。では、何代目の呉服問屋、なの・・」
「エッ・・、ええ、兄が15代目でして・・」
――ああ、やっぱりそうだよ。
  この人が背負ってる歴史、その格式が違うんだ。
 だが律子は、あえて軽く呉服商と応えたのに、何代目の呉服問屋かと、さらに具体的に聞かれて内心、驚いていた。
 さては、もう見透かされたのかと覚悟して、律子は正直に言うしかなかったのだ。
 倉田は、多分、江戸時代から続く老舗の呉服問屋で、もしかして、本店は京都ではないかとも推察していた。
 マスターも興味津々だったのか、カウンターの中でさり気なく二人の会話を聞いていた。
そして、倉田と目が合うと、素知らぬ顔で黙って頷いている。
 
「あなたは、祖母に当たるお婆さんに、似ていませんか」
「エッ・・、ええ、実はそうなんですが・・。でも、なぜですか」
「多分、隔世遺伝でしょう」
――確かに、私は祖母と似ているのよ。
  歌舞伎役者の女形ように細い顔立ちでね、
  目や眉毛が小さくて、薄く見えるの・・。
「でも、お父さんも、上品な顔付きの人だったんでは・・」
 律子は、不思議そうな顔つきで倉田を見詰めたまま、もう黙ってしまった。
――初対面なのに、なぜそこまで言えるの・・。
  鋭い突っ込みが、みんな当たってるのよ。
  ある意味では、他人に、見られたくない私事なの・・。
  でも、私が突っかかったから、こんな展開になったのよ。
  まぁ、自分がまいた種だから、仕方がないか。
 倉田は、律子の顔付きの上品さから、祖母が、京都の宮家の末裔に当たる系譜ではないかと、直感していた。
 そして、なんらかの事情で、格式の違う呉服問屋に嫁いだのではと、推測していたのだ。
 
 しかし律子は内心、倉田に色々と言い当てられて、ヤバイと直感していたから、一歩、距離を置いていた。
「倉田さんは、会社員ですか」
「そう、僕は、どこにでもいる、単なるサラリーマンですよ」
「いやいや、さる大手の部長さんなんです」
 突然、会話に割り込んできたのは、マスターだった。
「どうりで素敵な紳士だし、インテリ系ですよね」
「なにを言ってるの、僕は帰宅拒否症の酔っ払いですよ。そう、酔っ払って自意識をなくさないと、帰宅できないんです」
「まぁ・・、その言い方、いいですね」
「律子さぁ、倉田さんは、恍けているけど、多分、仕事の緊張感を癒しているんだよ」
 日頃の倉田を知るマスターが、また割り込んできて、補足説明をしてくれた。
 
「でも、私のお客さんには、こんな素敵な人はいませんよ」
「そうかな。だって、≪ジャガー≫は藤沢のナンバーワンのクラブだって言うから、ナイスガイはいそうだけど・・」
「いいえ、ここまで感性が研ぎ澄まされた人は、場末のクラブなんかでは飲まないんです」
「エエッ、そうなの・・」
「そう、この人は、見栄で飲むのではなくて、飲みたくて飲んでるんです。だから、スナックなの・・」
「ウン、それは判るけど・・」
「藤沢も銀座も、クラブに来る人は、アブク銭を持った人が来るのよ。単にお金を持っているだけで、その人の人格なんて無関係なの・・」
「オー、なるほどね」
「本当にハイ・ソサイアティな人たちは、高輪とか赤坂にある隠れ家的な会員制のクラブなのよ」
「では、律子はそこにいたの・・」
「ええ。1年前まで・・。私、銀座に2年、高輪に3年いましたから」
 そんなマスターとの二人の会話になっていたから、倉田は黙って聞いていた。
――だったら、なんで今、この女は藤沢なんだ・・。
  場末だと、自分で言っておきながら・・。
 倉田には、また新しい疑問が湧いてきた。
――そうだよ。疑問だらけの女だよ。
  生い立ちとか、キャリアとかは、想像を越えているよ。
  こんな女は、初めてだな。
 ふと時計を見ると、もう深夜の1時を過ぎようとしていた。
「さぁて、帰るとするか。マスター、今日も、いい酒だったよ」
「アッ、倉田さん、また是非ともお会いしたいんで、ジャガーに来てください」
「うん、そうだな・・。では」
 
 次の週の水曜日、倉田は早い時間にバンブーに立ち寄った。
 そしたら、マスターが、「先日は律子がご迷惑を掛けまして」と言われて、ふとあの女を思い出した。
 倉田は、もうすっかり忘れていたが、あの想像を越えた不可解さが気になってきた。
 そして、マスターが水割りを作りながら、「あの律ちゃんは、不思議な魅力を持った女性ですね」と呟いた。
「そうだね。多分、生まれ、育ちが、我ら庶民とは段違いなんだろうな」
 倉田は、水割りを飲みながら、律子のコメントをした。
「あの子の出身は多分、京都だと思うけどね。僕の知ってる京都の女は、4人とも、なぜか京都が嫌で、東京とか湘南に来ているんだ」
「ホゥ、それはなぜ」
「そういう女性は少ないけど、京都人のチョッと陰気臭い生き様とか、風習とか、皮膚感覚が、生理的に合わないんだろうな。だから、神戸大とか、関東の大学に来るんだ」
 マスターは、マイカップでストレートのコーヒーを飲みながら、神妙な顔をして聞いていた。
 
「前回、彼女に『君は祖母に似てるだろ』って、言ったけど・・。僕の推測では、祖母が宮様の系譜で、借金とか、なんらかの事情で、呉服問屋に嫁いだんだと思うんだ」
「ホゥ、すごい推測ですね」
「だって、あの遺伝子は庶民にはないよ。1000年以上も、優性遺伝で培養されてきた顔だと思う。それほどまでに洗練された宮様家の顔だし、末裔だと思う」
「そこまで見ているんですか・・」
「そう、武家屋敷の奥座にいる女性もいいけど、日本女性を代表する宮様家の美の極致だね」
 そんな話をしていると、常連さんが入ってきて、挨拶を交わしているうちに、話の続きは消えてしまった。
 そして、それから1時間程してから、倉田はジャガーに電話して律子を呼び出した。出勤しているのを確かめて、料金も聞き出したら、まぁ行けると判断した。
 
 ジャガーに行くと、木の扉で、少し気後れする重厚さがあった。
 店内は、隣の客が判別できないほど、間接照明で薄暗かったが、直ぐに律子が笑顔で現れた。
「いらっしゃいませ。お待ちしてました」
 見れば、上品なグレーのスーツにパンツルックだった。
――エッ、こんなにも背が高くて、スリムなんだ。
  バストもあるし、やっぱり洗練されてるよな。
 ソファーの席に案内されると、「チョッと、お待ちください」と言う。
 その店は、2年ほど前に、地元の名士に連れて来てもらったことがあり、店内の様子は変わっていなかった。
 すると、律子はボトルを持ってきて「今日は、これで・・」と言った。
「エッ、なに・・」
「これは、私のお客さんのですが、多分もう来られないのでは・・」
「いいの・・」
「ええ、ママにも、特別にって、言ってありますので・・」
 律子は、サラリーマンの懐具合を知っていたから、気を利かせてくれたのだった。
 フロアの女の子が水割りセットをテーブルに置いて、律子がグラスにアイスを入れると、「あっ、もう飲んできたから、薄めでいいよ」と、倉田も遠慮した。
 それから、オレンジジュースが届いて、2人は乾杯した。
「君は、相変わらず、美貌が冴えてるね」
「いいえぇ、若い頃に比べましたら、もう・・」
 律子は、さり気なく謙遜したが、年齢はさらりと避けていた。
 
「先日お会いした時、倉田さんが色々とおっしゃってましたが、ほとんど、あの通りなんです」
「そうか・・。それで、独身なんでしょ」
「ええ、そうなんですが、実はバツ1、コブ1なんです。でも、子供は、パパの方に引き取られて・・」
「フーン、そうなのか・・」
 倉田は内心、話の中身に興味が湧いたが、俯いたまま、敢えて気のない返事をした。
 それ以上のことは、本人が言いたければ、言うだろうからと、聞き流したフリをしたのだ。
 ところが、律子は寂しげな顔で話し出したのだ。
「私は、OL時代に上司と不倫をしていて、奥さまにバレましして・・」
「・・」
「それから、さる御曹司からお見合いの話があって、それで結婚したんですが、3年で離婚しました」
――そうか。でも、その理由とか、原因が知りたいな。
  なぜ不倫をして、なにを求めたのか。
  離婚したのは、なぜか・・。
  でも、身元調査はしないんだ。
  まぁ、いずれ、本人が言うだろうけど・・。
 
 すると、大柄の男が若い男を2人連れて店に入ってきた。
 男が、倉田の席にいる律子を見て、「オイ、リツ、元気か」と声を掛けた。
「アッ、はい。いらっしゃいませ」
律子は慌てて立ち上がると、挨拶をした。
 その男は、一旦通り過ぎたが、また戻ってきて「オレの席に来いよ」と、大らかな態度で声を掛けた。
「あっ、はい・・。後ほどお席に」
「そんなシケたヤツは、いいからさ」
 それを聞いた倉田は、スクッと立ち上がると、律子を押し退けて男の前面に出た。
 すると男は、直立して睨みつけている倉田を見て、「なんだ。テメエ、文句あるのか」と声を荒げた。
「この女、今はオレの女だ」
 倉田が啖呵を切ったのを見て、連れの若い衆、2人が、前のめりでシャシャリ出てきた。
「アッ、チョッと待って・・」
 律子が、慌てて中に割って入ってきた。
 そして、和服のママも飛んでくると、「スーさん、そんなことで揉めないの。さぁ、奥の席にどうぞ」と、押し戻していった。
 
 落ち着きを取り戻して、ソファーに座ると、「倉田さん、私、胸にキューンと来ました」と、目を輝かせている。
「ええ、今、オレの女だ、って、言ってくれましたね。最高です。私、嬉しくって・・」
「イヤァ、あのオヤジ、余りにも失礼だったから・・」
「ええ、私も、あんな下世話な人は・・。あの人は、自称・不動産屋と言っていますが、ヤクザでは・・」
――しかし、『オレの女』ぐらいで、感動するのかね。
  その感性が、判らないよ。
 倉田が、不思議そうな顔で見ていると、律子が呟いた。
「私には、昔から、味方がいなかったんです。ええ、信頼されてないのか、応援してくれる人が、誰も・・」
――そうか。理解者がいなくて、孤立無援だったのかも・・。
  それでヤケになったり、暴れたり、ぐれたんでは・・。
  そう言えば、ヤサぐれる、って、本来は≪家出≫のことだよね。
  もしかしたら、不良少女かも・・。
 倉田が、グラスを持って、さり気なく律子を見ると、悄然として涙ぐんでいるようだった。
 
 そして、「チョッと失礼します」と言って、席を立っていった。
 倉田は、泪を見せまいとしてトイレにでも立ったのかと、思って、黙って見送った。
――あの子は、良家の生まれのはずだけど・・、
  不良娘になったとしたら、なにか、原因があるはずだよな。
  家庭内の問題とか、親子の対立とか、なにかが・・。
  良家は、必ずしも善良とは言えないかも・・。
 律子が席に戻ってくると、「倉田さん、帰りましょ」と言い出した。
「今、ママに、生理痛が酷くて、我慢できないから早退したいって、断ってきました」
「エッ、そうなの・・。でも、さっきのお客さんは・・」
 すると律子は、さり気なくウインクをしてきた。
――ああ、そう言うことか・・。
  しかし、この子は我が儘だな・・。
「アッ、今日のお代は、いいそうですから」
 倉田は、手際のいい展開に驚いた。
 だが、自分の気分次第で行動する、そんな勝手さにも、疑問符が付いていた。
 
 それから、店を出ると、ママが「本日は、失礼しました。また、お待ちしております」と挨拶をして、エレベーターまで見送りに来た。
 その扉が閉まって、「では、またバンブーに行くか」と倉田が声を掛けた。
 すると、律子は間接照明で薄暗くて、その返事もしないで、いきなり飛び着いてきた。
 そして、またあのネットリとした唇を、激しく押しつけてきたのだ。
 エレベーターが1階に着くと、律子はさり気なく倉田から離れた。
「オイ、君さぁ、僕には女房と子供がいるんだ。だから、悪いけど、不倫はしないからな。そう言う条件なら、付き合うけど・・。いいな」
 律子は、不服そうな顔で横目を流すと、黙って頷いた。
 
                           ― つづく ―
 
 

 





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