★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2018/12/13|その他
◇ 一番輝ける場所で ◇ [男と女の風景・135]
                      20181213(木)
                       00:00 更新
 − 我が家のベランダ・ガ−デン −

    ○ 12月の草や木 ○
 
 気候もここにきて、急に寒くなり、冬に突入しようとしています。
今回は、この時期の草木の様子を3点、紹介します。
 
  ≪写真・左・・ニシキギ≫
 この錦木は、低地でもこのように紅葉することから、日本庭園のわき役とか盆栽として重宝されてきました。
 
  ≪写真・中・・ハマトラノオ≫
 ご覧の通り、中央の大きいのが今年花を咲かせたものです。
 その根元に、来年用の新芽がもう出てきています。
 動物もそうですが、植物も子孫繁栄のために、自分がどう生き残るかを考えているのが、面白いですね。
 来年の春には、この子株を鉢分けして、増殖していきます。
 
  ≪写真、右・・キク≫
 これは、他の鉢から飛び込んできたもので、詳しい銘は判りません。
 これも、今年の株の根元に、新芽が出始めています。
 山野草の会の先輩に、今年の株を、来年さし芽にしたらと聞いたら、もう弱っているからダメでしょうとのこと。でも、トライしてみます。
 むしろ、新芽が伸びた六月末に,切ってさし芽をした方がいいとのこと。
 

 
                    [男と女の風景・135]
                     ― つづき・2 ―

  ◇ 一番輝ける場所で ◇
 
 あれから2週間後の日曜日に、美穂子は宝田ダンス教室のバティーに出かけた。
 定刻前に、案の定、服部がいつものように黒いフォーマルで決めると、フロアに出てきた。
 美穂子は、そそくさと近づくと、小声で呼び止めた。
「服部さん、その節はご迷惑をかけまして、すみませんでした」
「ああ、いえ・・」
 美穂子は、何度も頭を下げては恐縮している。
「それで、無事に帰れましたか」
「ええ、お蔭さまで、タクシーの運転手も、本町の藤沢ハイツで直ぐに判りましたから・・。でも、頭がガンガンして、後が大変でした」
 
 パーティが始まると、フロアにはダンサーたちがひしめいて、賑やかで陽気な雰囲気になった。
 そして、ワルツの曲がかかると、服部が声をかけて、いつものように二人はパートナーとして踊った。

 実は、美穂子がフロアで自信を持って皆に見せられるのは、まだワルツしかなかったのだ
 それでも、この一か月で、ここまで踊れるようになったのは、嬉しかったし、自慢でもあった。
 だが、服部は、あの日に美穂子の肉体を太ももに感じて以来、女の匂いと肉感が、頭にこびりついて離れなかった。
――ああ、あの柔らかな皮膚感覚、たまらないよな。
  そう、ブヨッとして、気持までも受け止めてくれるようで・・。
 服部には、年上の女、しかも間もなく還暦を迎える女だなんて、頭にはなかった。
 ダンスで女性に触れることはあっても、お互いに動く中での微かで、一瞬なのだが、あの時は違っていたのだ。
――さっき挨拶した時、あの様子からは、自分の醜態を覚えてないよな。
  きっと、酔いつぶれて記憶が飛んでいるんだ。
  覚えていれば、もっと恥じらうはずだから・・。
 服部は、踊りながら、べったりと密着した感触を、また思い出していた。
 
 パーティが終わる頃、また美穂子が服部に近寄って、耳打ちをした。
「前回、私からワリカンと言ったのに、後で気がついたら、お金、払ってなかったんです。ですから、今日は是非とも、お食事にお付き合い願います」
「はぁ・・」

 そんな流れから、二人は北口のさいか屋のレストラン街に行き、和食がいいからと≪寒山≫に入った。
 テーブル席も空いていたが、二人だったのでカウンター席にした。
 前回で懲りていたが、やっぱりビールでと、生の小と中を頼んだ。
 メニューを見ながら、美穂子が「私は、松華堂弁当がいいかな・・」と言うと、服部も同じでいいと言い出して、それを注文した。
 それから、二人が乾杯すると、美穂子は手にしていた紙袋から、贈答用の瓶詰を取り出した。
「服部さん、これは京都の≪卵かけ昆布≫ですが、どうぞ」
「はぁ・・」
「先日母がお茶の会で、お茶事を京都の≪下鴨茶寮≫でしたそうなんです。その時に、これを娘の私に送ってくれたんです。その二瓶の一つで、お裾分けですが、どうですか」
「ああ、これは美味しくて、実は高級品なんです」
「アラ、よくご存知で」
「ええ、まあ・・」
 実は、服部には下鴨神社は懐かしい場所だったから、きっとあの料亭の味だろうと、内心思い出していた。
 だが、自分が小学校を卒業するまで、京都に住んでいたのを、言っていいかどうか迷った。
 自分の生い立ちが気になって、京都の生まれだとは言えなかったのだ。
 
 会話が途切れた所で、松華堂の弁当が届いた。
 木製だが重厚な黒塗りの箱で、中に仕切りがいくつもあって、食材を小分けにして色取りも美しかった。
「まぁ、美味しそう」
 美穂子は、さっそく箸で摘まむと食べ始めた。
 
 暫くして、箸を止めると、美穂子は喋り出した。
「でも、服部さん、聞いて・・。私はね、京都の因習が嫌で、大学は東京に来たの・・」
「エッ、まさか・・」
 服部は、美穂子が京都から逃げたのか、それとも京都を拒んだのか判らなかったが、なぜか京都に背を向けたのを知った。
――自分は、あんな家庭だったから、有無を言えなかったけど
  でも、この人は自分から決断しだのだ。
「だって、あんな建前と本音が違う虚構の家庭なんて、そう、なよった男なんて、イヤだったの・・。そうよ。正攻法でないと、イヤなの・・」
「はぁ、そうなんですか。桐谷さんて、明確な意思を持っていて、勝気なんですね・・」
「そうよ。何事も前向きで、男性に負けないよう、男勝りで生きてきたの・・」
「その生き方って、いいですね」
「そうですか。でも、あなたも、チョッとその気がありそうね」
――エッ、まさか・・、京都の出だって、バレてるの・・。
  イヤァ、それはないでしょ。
 
「私ね、言われたことがあるの、名古屋の人は、よそ者を受け入れないから無視をするけど、京都の人は、受け入れたフリをするの、って・・」
「ああ、確かに・・」
「そのフリをするのがズルイって・・」
――確かに、そうだったよな。
  母だって、舞子の修行をして、京都人になって、
  そんな態度を見せていたよね。
 服部は、内心そういう言い方に納得した。
「例えば、外部から引っ越してきて、粗品を持ってご近所に挨拶回りをするでしょ。その時、『今度、お茶でもご一緒に・・』って、言われて、その気になって和菓子を持参して行くでしょ。そうすると、軽蔑的な目で見られるのよ。『あれは、単なるお愛想よ』って・・」
ー―ああ、判るなぁ。自分もそうかも・・。
  そう、藤沢に来てから、人と接して、違和感を覚えたもの・・。
  藤沢の人は、言ったことには、裏がないんだよな。
「関東の人から見ると、京都人が持ってる気風、そう、裏の本音が見えないのよ。だから、江戸っ子には理解不能だし、フザケルナ、ってなるのよ」
 美穂子は、なにか嫌な体験があったのか、かなり執拗に追及していた。
 だが、そんな話を聞いていた服部が、ふと、イヤそうに顔をしかめると、視線を外してしまった。
――エッ、これってなに・・。
  服部さん、あなた、もしかして京都人なの・・。
  まさかでしょ・・。でも、あり得るよ。
  ああ、私、余計なことを言ったのかも・・。
 それからは、なんとなく気まずい雰囲気が漂ってしまった。
 
 ほんの短い時間だったが、美穂子は、この息づまる雰囲気がどうにも我慢できなかった。
食事はもうほとんど終わっていたが、美穂子は、服部も驚くような思い切った提案をした。
「服部さん、ビールをもう一杯、飲みませんか」
「エッ、大丈夫ですか」
「今日は、もうお腹がいっぱいだし、根性を入れてますから・・」
 美穂子は、前回失敗したことに敢えてチャレンジしたのだ。
 服部は一瞬、怯えた表情をしたが、美穂子のノリを受けるしかなかった。
 ビールが来て、乾杯が終わると、「服部さん、もしかして・・、京都人ですか」と覗き込んだ。
「アッ・・、ええ・・」
 服部は、いきなりズバリと言われて、動転した。
「はい、実は京都でして・・。でも、中学に入る時、藤沢に戻りました」
「エッ、それでは元々、藤沢ですか」
「ええ、祖母も、母も、藤沢に住んでいたんです」
 服部は、そう応えたが、なんともイヤな顔をして、俯いてしまった。
――ああ、ごめんなさい。
  きっと、言えないイヤなことがあったのよ。
 すると、服部がいきなりグラスを取ると、見る間に、ビールを一気に飲み干した。
「服部さん、ごめんなさい。余計なことを言って・・」
「いやぁ、あなたが京都を離れた理由は、判りました。しかも、あの感覚は私にも理解できます。だから気にしないで・・」
 服部は、軽くそう言ったが、自分がそれを凄く気にしているのに、受け入れたフリをしているのに気付いた。
――ああ、自己矛盾をしてるよ。
  本心は、『プライベートには触れるなよ』って、声高に言いたいのに、
  それを言えずに、引いてしまう自分がいるのだ。
 服部は、そんな曖昧にして逃げる自分が嫌だった。
 そして、それを不甲斐ないと思って、常々、自分を鼓舞していたが、ダメな自分は変えられなかった。
 
 暫くすると、服部が、なんと「桐谷さん、もう一杯、飲んでいいですか」と言い出した。
「はい、それはいいですけど・・、大丈夫ですか」
「ええ、歩いてでも・・、ああ、ダメでもタクシーで帰れますから・・」
 服部は、自分に腹を立てているのか、自暴自棄になっていた。
 ここは無理をしてでも突っ張ろうと、自分に活を入れて、引っ込み思案の自分を鼓舞していたのだ。
 
 三杯目のビールが来て、服部は小さく掲げて会釈をすると、飲みだした。
 だが、ジッと前を見吸えたまま、独り内に閉じこもって、なにかを思い出しているようだった。
 すると、服部がいきなりボロボロッと涙をこぼした。
 服部が指先で涙を拭うのを、美穂子はさり気なく横目で見ていた。
 だが、なぜ、そうなのか、その理由が判らなかった。
「桐谷さん、僕の母は、実は舞子だったんです」
「エッ、、」
「それから、そのまま芸妓になって・・。ええ、だから・・、僕は私生児なんです」
 美穂子には、あまりにも衝撃過ぎて、なにも言えなかった。なにか尖った槍が、心臓を突き抜けて行ったような気がした。
――服部さん、まさかでしょ。
  あなたは、そんな過去を背負ってるの・・。
  あの華やかな花街の陰に、あなたは生きていたんですか。
  でも、日陰の子供なのに、立派に生きて来たなんて・・。
「小学校の頃は、芸妓の子、って、よく苛められました。でも、中学に上がる時、母の事情で藤沢に戻りました。それで、地獄から抜けられたんです」
 美穂子は、信じられない服部の素性を、本人の口から聞かされたのだ。
 
――私は、外から見れば、普通の家庭に育ったよ。
  でも、父が会社の社宅に転居して、地獄から脱出できたの・・。
  父は、貧困の中で猛勉強をして、大学に行き、大企業に就職したのよ。
  そぅ、実は実家は、差別をされた部落の出身だったから・・。
  あの当時は、世間から後ろ指を指されて、ね。
  侮蔑の目で見られていたのよ。
  だから、その身元を隠して、私は生きて来たし、
  そんな場所から飛び出したくって・・、
  そう、誰も知らない東京に来たの・・。
  それは芸妓の私生児より、もっと蔑視された身分だったの・・。
  だから、私はもっと重い過去を背負ってるのよ。
  でも、お互いに、自分ではどうにもできない過去なのよね。
  これは、かつて、最愛の夫にも言ったことがない秘密なの・・。
 二人は、深刻な宿命と向き合って、ずっと長い間、自分らしくあろうと戦って生きてきたのだ。
 だが、美穂子の生い立ちを知らない服部は、自分だけが最悪だと言う劣等感にさいなまれていた。
 
 そんな落ち込んだ服部を見て、美穂子は、どうしたものかと迷った。
 だが、元気づけるためにも、言わなければと思った。
「服部さん、実は私、誰にも言えない生い立ちがありまして・・。それは、あなたのよりずっと重くて、ある村人たちが背負ったの因習です。そう言えば、京都の人なら、判るでしょう」
――エッ、まさか・・、あれ・・。
  そう、あれは、当事者なら、誰でもがひたっ隠しにするタブーなんだ。
 美穂子は、かつて誰にも言ったことがない秘密を、危うく自ら暴露しようとしていた。
――ああ、この人は、あの苦難を乗り超えて来たのか。
  しかも、俗事に惑わされずに悠々自適とは、素晴らしいよ。
 美穂子が子供の頃、そう、50年もの昔においては、それが社会的には命取りだった。
 そして、生活上でも、就職上でも、差別される存在として決定的なレッテルを張られて、その人たちは悲惨な苦痛を味わってきたのだ。
 
「服部さん、学生の頃、ダンスはあなたの誇りでしたよね」
「ええ、そうでした」
「先日、私に、『来年の全日本シニアで、優勝するのが目標だ』って、言いましたよね」
「ええ、気持は、そうです」
 服部は、質問に答えながら、美穂子がなぜ、突然そんなことを言い出したのか、怪訝に思った。
「私は、あなたの味方として、いつも、いつまでも、応援します」
「はい、嬉しいです」
「ですから、私とではなく、アシスタントの花山さんとペアを組んで、優勝を目指してください」
「エッ、あの人とですか。ああ・・」
 服部は、フィッと渋い顔をすると、溜息を吐いた。
「服部さん、他にいい人いますか」
「いえ、だから、仕方がないんで諦めようかと・・」
「なにを言うんですか。花岡さんと張り合うのは、先輩としてのつまらないメンツでしょう」
 美穂子が急に声高に怒り出すと、服部は縮み上がった。
「あなたは、全日本の舞台を目指すんです。たとえ優勝できなくても、精一杯、努力する。それが、あなたの出発点でしょ。プライドを取り戻す絶好のチャンスなんです」
「ああ、そうかも・・。自分を見失ってました」
「そのためには、花岡さんに『お願いします』って頭を下げてでも、ペアを組むべきです」
「はい、そうですよね」
 美穂子の励ましを聞いて、服部の青白い顔に、生き生きとした生気がみなぎってきた。
「本当は、チャレンジすることから、自信が湧いて来て、それがプライドになるんです」
 服部は、美穂子の説得が理解できたし、大いに反省もしていた。
――そうか、自分は、逃げていたのかも・・。
  夢を持っているのに、その実現に努力をしていなかった。
  そう、なりふり構わず突進しないと、な。
  学生の時は、一心不乱にやったもの・・。
 
 それから二週間後のパーティの時、美穂子は服部に改めて確認した上で、花岡の前に連れて行った。
「花岡さん、チョッといいですか。あのぅ、服部さんが、来年の全日本のシニアに出場したいそうなんです」
「マァ―、いいですね」
「それで、私はお婆ちゃんだし初心者だから、パートナーは花岡さんにしたらって、提案したんです」
「ハァ・・」
 すると、服部が一歩、前に出てきて、緊張した面持ちで言った。
「花岡さん、僕とペアを組んで下さい。お願いします」
 見れば、服部は右手を差し出したまま、深々と頭を下げていた。
――ああ、よくぞ決意したね。
  本気でプロポーズするなんて、根が真面目なのよ。
 花山は、突然の申し出に首をかしげて考えていた。
 だが、しばらくして「こちらこそ、お願いします」と右手を差し出すと、がっちりと握手をした。
 そして、顔を上げると、二人は笑顔でハグをし合っている。
「花岡さん、私からもお礼を言います。どうか、一番輝ける場所で活躍して下さい」
――ああ、よかったね。二人とも、頑張ってほしいな。
  私も、頑張るから・・。
  そう、このダンス教室、ここが私の輝ける場所だから・・。
 
                      
 
 
 





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