★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。  人は誰しも、ファザコン、マザコンによる願望があり、それを達成する行動をとります。その生まれ、育ちで、パーソナリティが形成されて、その体験が、深層心理やトラウマとなります。  そんな男と女が出逢って、その心の奥底から求め合う≪願い≫、そんな愛の物語を、フィクションで・・。
 
2018/10/18|その他
 ◇ 独り者の毅然 ◇ [男と女の風景・133]
 
                   20181018(
                      00:00 更新
  − 我が家のベランダ・ガ−デン −

      ○ 秋の花・3品 ○
 
   ≪写真・左・・オトメラッキョウ≫
 前回もイトラッキョウを紹介しましたが、これは花が白いため≪オトメラッキョウ≫として、区別されます。
 この鉢は栽培し始めて3年以上経ちますが、今年は猛暑や台風のため、生育が弱々しくて、展示会には出せませんでした。
 
   ≪写真・中・・キイジョウロウホトトギス≫
 名前にある≪キイ≫とは紀州のことで、≪ジョウロウ≫とは、優雅な貴婦人の上臈(じょうろう)のことです。
 これは、紀伊半島南部の岩場などに自生する固有種です。
 
   ≪写真、右・・シロホトトギス≫
 ホトトギスは、一般に日本の特産品だそうです。
 これにも何種類もあって、主に太平洋側に自生しているとのことです。
 

                      [男と女の風景・133]
                          その4

   ◇ 独り者の毅然 ◇
 
 八百屋の実家に帰った美紀から、三度目のメールが入った。
  ≪神野さん どうしてもお会いしたいです。
   次の日曜日、うちの店が休みなので、午後に藤沢に行きます。
   少しだけでも会って、直接お礼が言いたいです。
   ぜひとも、返信をお願いします。   美紀 ≫
 神野は、これまで2回もあったメールに返事をしなかった。
 だが、流石に失礼かと思って、日曜日の午後3時に、小田急の改札口で落ち合うことにした。
 
 南口のタクシー乗り場の方から歩いて行くと、直ぐに「神野さーん」と美紀の声がした。
 神野が振り向く余裕もなく、美紀は飛びついてくると、両手で抱きついた。
「おお、元気だった」
「ええ・・、会えて嬉しいです」
 美紀は神野の背中に顔を埋めたまま、頷いた。
――この女、前にも、飛びついてきたな。大胆だよ。

  エッ、胸を押し付けてる・・。
  だって、柔らかいバストが当たってるよ。
  無意識なのかな・・。
「おい、どうした。大丈夫か」
 美紀はまた、背中で頷いた。
「チョッとくっ付き過ぎだろ」
「でも、神野さんを離したくない。ずっとこのままでいたい」
 駅前の通りで、しかもバス停には人が行き交っていて、神野は場違いな気恥ずかしさを感じた。
 仕方なく、神野は抱きつかれたままベンチに移動すると、崩れ落ちるように座った。
「おい、チョッとオーバーアクションだろ」
「神野さん、チューして」
「恥ずかしいから、ここでは無理だよ。でも、どうしたんだ」
 美紀は、神野の腕をギュッと組んで、体をぴったり寄せたまま頭を傾けていた。
――この押しつけがましい甘え方、これが重たいんだよな。
  これだと、男は逃げるよ。
  そうか。父親は多分、甘えさせてくれなかった。
  その反動が、親子の対立となって、他人への甘えになったのかも・・。
  でも、やっぱりこんなのはイヤだな。
 すると、美紀がいきなり神野の前に起立すると、神妙な顔つきになり、「神野さん、先日は、本当に有難うございました」と、深々と頭を下げた。
「ウン、あれは大したことではないから、もういいよ」
「でも、母も兄も、他人のために謝る人なんていない、って・・」
「だって、あぁするしかなかったから・・」
 神野は、もううんざり気味だったから、軽く流したかった。
「どう、カフェでも行くか」
 
 神野は、オーバの2階にあるカフェに案内した。
 二人がテーブルに座るなり、美紀は<ビニール袋の中から厚紙の薄い箱を取り出した。それを開けると、中にはスチール製の額縁が入っていた。
「神野さん、精一杯のお礼で、私の描いたデジ絵です。正式にはデジタル・イラストですが・・」
 その額に入ったA4のペーパーは、全体がカラー印刷で仕上がっていた。
 画面の上部には、ポップ調をさらに太くした手書きの絵文字で、3行≪神野さん ありがとう。感謝、感激、感涙です。美紀≫と書かれていた。
 そして、神野の似顔絵が、中央に大きく描かれていて、横に美紀の顔が小さく頬をつけて並んでいた。
「ほう、こんなイラストが描けるんだ。凄いね」
 じっと見入っていた神野が、感じたままに褒めると、「ワァー、嬉しい。いい出来でしょ」と盛り上がっている。
「これって、パソコンに描いて、プリンターに出したんでしょ」
「ええ。これが専門学校の成果です」
「フーン、いいテク持ってるね。素晴らしいよ」
 美紀はさらに褒められて、おもわず神野の手を両手で握ると、嬉しくなって振っている。
 だが神野は、改めて見れば、似顔絵は自分に似ているようだったが、自分がどんな顔かも判らないので、他人にはこう見えるのかもと思った。
「ありがとう。自分の部屋に飾るのも、ちょっと恥ずかしいけどね」
「そうですか。私は、これと同じものをデスクの正面に飾ってます」
「エッ、では、いつも見てるの」
「ええ、憧れも、尊敬も・・」
 美紀はそこまで言ったが、その先は言わなかった。
 だが、神野は、あのメールのその後に「好きになりそうです」とあったのを覚えていた。
 
 神野は、なんとも無意味な会話を続けているのに、嫌気がさしていた。
――こんなのは、デートではないし、時間のムダだよ。
  少し褒めて、説教でもして、それで別れるか。
「君さぁ、このデジ絵、すごくいいと思うよ。そう、才能を感じるよ。でも、個性がないんだな。オリジナリティが・・」
「ええ、実はそうなんです」
 美紀は、急に意気消沈して、哀しげな顔になった。
「ええ、自分でも、誰かの真似をしてる、って・・」
「まぁ、デッサンは真似から始まるけど、それをどうブレイクするかだよ」
 神野は、美紀が喜怒哀楽の感情が激しい人物だと見えてきた。
 なにかコメントをする度に、一喜一憂する様子が見るからにオーバーに思えたのだ。だから、優しく、判り易く言うようにした。
「例えばだな、自分の楽しい気持、哀しい気持、なんでもいいからひとつのテーマを、色んな技法で描いて、自分が納得いくまで極めてご覧」
「はぁ・・」
 美紀は、いきなりそう言われても、その意味が理解できなかった。
 そんな美紀が、不思議そうな顔をしているので、神野はひと息入れた。
 
「例えばさ、君が誰か好きな人にフラれた時、どれだけ悲しかったか。そんな自分の悲しさを描いて、その作品に悲しさを自分が共鳴できたら、見る人にもその悲しさが伝わるはずでしょ」
 神野は、いつの間にか気持に熱が入ってきて、自分の持論をとつとつと論じ始めていた。
「だから、自分の作品が自分に共鳴して初めて、他人も共鳴するんだ」
「あぁ、自分が納得するって、そう言うことですか」
 美紀は、判り始めたのか、顔に笑みが浮かんできた。
「君さぁ、自信という意味を知ってる・・」
「いいえ」
「これは、自己信頼という意味なんだ。自分がデジ絵に挑戦して、これこそ、私が精一杯に努力した最高の作品です、と自分に言えるか、どうか・・。もし、自分に最高傑作だと言えたら、それが自信だと思う」
「要するに、トコトン極めるまでやる、ということですよね」
「そう、君はまだ二十歳だろ。自分の可能性にフタをしてはいけない。もっと自分に挑戦すべきだと思う」
「ああ、先生、有難うございます。命の恩人であり、師匠です。これからも、教えてください」
――エエッ、また余計なことを言ったかも・・。
  突き放すつもりだったのに・・、逆効果だったか。
 
 美紀は、コーヒーを飲むと、少し俯き加減に話し出した。
「神野さん、私はどんなふうに見えますか」
「もちろん、美紀はすごく可愛い女だと思うよ」
「それだけですか」
「君はさぁ、スタイルはいいし、顔にも上品さがあるよね。お父さんに似てるからさ」
 美紀は一瞬、顔を曇らせると、イヤそうにすねた。
「いや、お母さんは陽気で庶民的だけどさ。お父さんの顔立ちは、血筋も育ちもいいと思う。だから、あの時、君を見て、容姿は父親に似ていて、性格は母親似だと思ったもの」
「みんなから、そう言われて、私、イヤなんです」
「そうかな。君は、両親のいいとこ取りをしてるんだよ。だから、自分の良さを知って、親に感謝しないと・・」
 
 だが、美紀は意を決したように、問いかけた。
「神野さん、私なんて女は、神野さんにはダメですか」
「いやぁ、僕には勿体ない女だと思うよ。でもね、僕は独身主義だから、誰とも結婚しないって、決めてるんだ」
「えっ、まさか・・」
 美紀は、信じられないとばかりに、目を剥いて驚いている。
「だから、君と付き合ったとしても、二人には未来はないし、君が傷つくだけなんだ。だから、僕なんか忘れてくれないか」
「ても私、それでもいいんです」
「どうして・・。なにが・・」
 神野は、思わず声を荒げてなじった。
「私、神野さんと繋がってる。それだけで、いいんです」
「あのね。僕は誰にも束縛されたくないんだ。本当にごめん・・。申し訳ないけど、放っておいてほしいんだ」
 困り果てた神野は、もう悲しそうな顔つきで、懇願していた。
「ぼくは、美紀が嫌いなんかじゃなくて、ただ自由でいたいだけなんだ。だから判ってほしい・・」
 そう言われた美紀は、哀しそうに顔を歪めて、泣きそうになるのを必死にこらえていた。
 そして神野は、そんなに悲しませるのは罪深いと感じたし、思わず抱きしめてやりたいと思った。だが、たえて、自分を貫くしかなかった。
――ごめん。僕は、僕を裏切れないから・・。
 
「美紀ちゃんさぁ、もし、三年後、五年後、あるいは十年後に、美紀が、私はここまで来ましたよと、僕に電話一本の連絡をくれたら、いつだって君と再会するよ」
「本当ですか」
「ウン、誓うよ。僕だって、まだ未熟だから、自分と戦ってるんだ。だから、その時は、美紀とは戦友として心からハグをしたい」
「ハァ、私、そんな細い糸、ええ、それが糸電話であっても、繋がっているだけで頑張れます」
「それで、いいじゃないの・・。その先にどんな人生があろうとも、例え結果が負け戦であっても、最善を尽くしたって自分に言えれば、きっと後悔をしないと思うよ」
「そうですよね」
「そう、人生は前途洋々なんだから・・」
 隣り合った二人は、神野が差し出した手で固い握手をした。
「神野さん、ひとつだけお願いがあります」
「なに・・」
「あなたが今日、私に説教してくれたことに挑戦します。はい、その元気づけを直に感じたいので、チューをして下さい。それで、私は頑張れます」
 神野は一瞬、ひるんだが、思い余って抱き寄せるとキスをしてあげた。
 そこの場が、カフェで、誰かが見ているはずなのに、二人はもう夢の中で感じ合っていた。
 
 次の週は、格別のことはなく、仕事も順調に推移していた。
 すると、金曜日、秘書の酒井からメールが入った。
  ≪本日は、予定が取れますが、ご都合はどうですか。 MS≫
  ≪了解、Fの改札にて1845 AG≫
 何時もの通り二人はイニシャルだった。
 神野は、また常務が出張か、会食で、出かけるんだろうと推察した。
 そして、ふと、今日は居酒屋で飲みたいなと思った。
 
 神野は、時々立ち寄る串兵衛に入ると、カウンターの隅に陣取った。
「仕事はどう、順調なの・・」
「ええ、常務は優しいですから・・」
 先ずは乾杯用にビールを頼み、食べ物は刺身の盛り合わせと串焼きのセットを注文した。
「今日は常務、大阪に出張でして、明日はゴルフとか・・」
 ジョッキのビールが届いて乾杯すると、「あのぅ、グリーンのカーデガン、半分ほど出来ましたから、11月初め頃には・・」
「いや、急がないから、気にしないでいいですよ。でも、楽しみだな」
 久しぶりに会う美華子は、一週間の疲れが溜まっているのか、少し気の張りが残っていた。
 
「そう言えば、神野さん、先週実家までお連れした女の子、その後どうなったんですか」
「ああ、無事に納まってるみたいです」
「それで、連絡とかは・・」
「ええ、二回ほどメールがありましたけど、返事をしませんでした」
 実は、三回目のメールで仕方なく日曜日に会ったのだが、そのことはあえて言わなかった。
 二人が会ったその状況を説明して、弁解がましく言うのは面倒だったし、変な気持にさせるのは余計だと思ったからだ。
――そう、この人には、全く無関係の情報だからな。
  三回目では会ったけど、そこは無言だから、ウソを吐いてないし・・。
  美紀とは、もう縁を切ったからな。
 食べ物が届いて、「まぁ、素敵なご馳走ですこと」と、美華子は嬉しそうに歓声を上げた。
 神野は「さぁ、どうぞ。この一週間、お疲れ様でした」と食べるよう促した。
 
 それからビールが空くと、神野は「日本酒が飲みたいな。常温のフルーティなヤツを」と言うと、美華子も「私も、それがいい」と応えた。
 神野は、店員を呼んで「フルーティな日本酒を」と強調すると、メニューから「これはどうですか」と推薦された銘柄を頼んだ。
「私、今週も忙しくて、気が張ってましたから、気分を解放しないと・・」
「そう、ストレスって自覚症状がないから、気がつくと、かなり重症なんです。気分転換は重要ですよ」
「ええ、そう言う意味でも、あなたにお会いするのが、唯一の楽しみで・・。アッ、カーデガンを編むのも、あなたを思い出しながらで、気分がウキウキします」
「ああ、光栄ですね」
 そんな他愛のない会話だったが、二人の気持がお互いを求め合っている、その晴れやかな表情が気分を高めていた。
 すると常温の酒が届いて、また二人は乾杯した。
 二人は口に含んで味わい、ノド越しにフルーティさを感じて、お互いに目を剥き合って頷いていた。
 
「神野さん、私は他の人に頼る女です。しかも、どうにもできない自分が見えると、誰かに縋りつきたくなるのです」
 気持ちよく酒を飲んでいたはずなのに、美華子が、いきなり湿っぽく話し出した。
――エッ、慣れない日本酒に酔いが回ったの・・。
「ええ、本当はヤワで、弱い女なんです。もうそれで、30年以上も生きてきました」
 美華子は、潤んできた目頭をそっとぬぐった。
「ああ、神野さん、あなたは私の心の救世主です。ええ、寂しがり屋で、なにかを求め続けてきた女、そんなダメな私の安らぎの人です。」
「いやぁ、そんなに立派ではないですよ。僕は、今はただ猪突猛進で、突っ走っているだけです。もしかして、挫折した時には脆くも崩れ落ちるかも・・」
「でも、神野さん、心からの盟友でいて下さい」
「ああ、いいですよ。男として、意気に感じてますから、どんなことがあっても、あなたを支えると誓います」
 美華子は、青臭い論議だと判っていたが、その青臭さに、忘れてしまった青春時代の自分を思い出していた。
 
 
 それから5年後、神野は法務係・主任から、人事部・教育課長に昇進していた。
 そして美華子は、担当していた常務が退任して、新たに昇格した常務の担当になり、しかも秘書を取りまとめる主任に昇格していた。
 そして、別々の職場になった二人は、結婚をしないまま同棲生活を始めていた。東京都庁に近い副都心にある勤務地から、メトロで2駅先にあるマンションを購入して暮らしていた。
 神野は、かつて「自分は独身主義だ」と、二人の女性に言ってしまった自分に、責任を感じていた。
 それは、当時の自分の信念だったし、そこには後悔はなかった。
 しかし、お互いに求め合っていた神野と美華子は、独身のままで一緒に暮らし始めていたのだ。
 
 それからさらに5年後、神野はある書店で、雑誌のキャッチに目が止まった。
 そのタイトルは、≪自分に恋する女・ミキティ≫だった。
 そこには、30歳の若くて新進気鋭の女性アーチスト≪ミキティ・ワトソン≫が、≪芸術新潮≫という雑誌の特集で紹介されていた。
 その写真の女は、どこかで見たような気がしたが、思い出せなかった。
 記事によれば、その作品群は、幻覚に陶酔した心象風景を絵にしたサイケ調の傑作で、超モダンアートだと評されていた。
「私は、自分に恋してます。ドラッグはしませんが、お酒に酔うほどに、自分の未熟さが見えてきて、そんな自分が許せなくなるのです」
 神野は、頭のどこかでこの女性が気にかかっていたから、銀座の画廊で開かれていたその個展に、美華子と行った。
 店内に入ると、女性の観覧者がかなりいて、高く評価されているようだった。
 アート作品を見ていると、部屋の中央で、真っ赤なスカーフを頭に縛り付けた女が、どこか写真で見た有名作家と話をしていた。
 その女性が一人になり、奥の椅子に座ろうとしていたので、神野が近寄っていった。
 それに気づいた女は、ハッとして立ち上がると、一瞬にして目を剥いて驚いた。
 思わず両手を口に当てた女は、恐る恐る神野に近寄ると「もしかして、神野さんですか」と聞いた。
 神野が黙ってうなずくと、「あぁぁ、なんということ。有難うございます。嬉しいです。私、とっても・・」と、いきなり涙ぐんだ。
 思いが爆発した二人は、お互いに両手を上げると、一気に抱き合った。そして、お互いに肩を叩き合っている。
 二人には、余計な言葉なんて要らなかった。
 美華子は、そんな二人の微笑ましい光景を見守っていた。
 そして、もう一人見守る男がいて、美紀はその男を「私のパートナーのピーター・ワトソンです」と紹介した。
「君は頑張って、自分に勝ったんだ。おめでとう」
――ああ・・、これで美華子と結婚できるよ。
  理由も言わずに同棲に留めていたけど、もう足枷は取れたから・・。
  美華子を待たせちゃったな。
  そうだ。今夜のディナーで、プロポーズしよう。
 
                           ― おしまい ―
 
 
 





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