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CATEGORY:おはなし

2021/03/23 23:23:23|おはなし
おはなし : おもいで  第5-1章 : 川鯛
【おもいで】
第5-1章:川鯛。

 『お~い、“ひとみ”ここに居るよ。』
“ひとみ”は康夫の声を確認すると、入り口の自動販売機の処に足早にやってきて、
 『お兄ちゃん。』
 『お父さんが呼んでいるから、こっちに来て頂戴。』
“ひとみ”は、晋二郎の方を一度見てから、康夫に向かって、
 『今日は、お父さんと喧嘩しないでよ。』
 『お願いだからね。』
康夫は“ひとみ”の声に反応するように、一言、
 『わかってるよ、“ひとみ”。』
 『今日、俺は喧嘩の続きをしたくて帰って来たんじゃないよ。話をしに来た
  んだから。』
話を聞いた“ひとみ”は、手を掴んで、ユースホステルの中に引っ張って行こうとしたとき、
康夫が、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、ご免な。 また後で。』
そう、告げると“ひとみ”と一緒に中へと入って行った。
1人残った晋二郎は、手に持っていた缶の残量を確認するように左右に振ってから、一度路上に置き、煙草を口に銜え火をつけ、
吸い始めた。
 『ふ~。』
っと、紫煙を吐いた後、路上の缶を手に取り、防波堤へと向かって歩きだした。

晋二郎は、防波堤に座り、煙草を吸っていた時、自分の両親の事が頭に浮かんだ。
 『元気かな?』
 『そうだ、電話してねーな。 電話してみるか。』
そのまま、携帯電話で自宅へと電話を掛けてみた。

 『はい。吉田です。』
受話器を通して、母親の声が聞こえてきた。
晋二郎は、聞こえてきた母親の声に反応するように、
 『もしもし、母さん。』
 『俺だよ。晋二郎だよ。』
母親は晋二郎の声を聞いて、少し間をおいてから、
 『晋二郎、お前は連絡しないでなんだよ。』
 『心配したんだからね。』
 『なにか、有ったのかい?』
 『いいや、なんも無いよ。こっちは順調だよ。』
 『父さんは、元気かい。』
 『あ~。変わりはないよ。』
 『ところで、お前、今どこに居るんだい?』
晋二郎は、母親の質問に対して、
一瞬、返答に躊躇したが、素直に、
 『今、能登の七尾に居るよ。』
晋二郎の母親は、“ふぇ~”と言う驚きの声を受話器の向こうで上げていた。
 『晋二郎、お前今いいところにいるんだね~。』
 『確か、七尾の周辺は温泉が多いんじゃないかい?』
晋二郎は、自分の母親の話を聞きながら、流石、俺の母親だと思った。
 『ああ。 今、七尾が気に入ったので連泊しているんだよ。』
 『ここは、海・魚それに温泉も最高だよ。今度、親父と車で来てみたらどう
  だい。』
 『命の洗濯には持って来いだぜ。』

晋二郎は、そう告げ、また、母親に色々と今後の旅の予定を告げた後携帯電話を切った。
電話を終えた、晋二郎は視線を海に移し、煙草を再度銜え吸い始めた。
 
しばらく、海を眺めながら煙草を吸っていたが、
 『そうだ。 釣りやろう。』
そう、言うと、防波堤を下り、ユースホステルに戻り、吸っていた煙草を受付の灰皿で消してから、“裕”の釣道具を借用して、港へ向かって歩き始めた。

晋二郎は、釣り場へと向かう途中、釣る魚を考えていた。
 『今日も、昨日と同じように、川鯛釣れるといいな~。“ひとみ”さん喜ぶだ
  ろうな。』
等と、色々考えながら歩いていたら、釣り場に到着した。

釣り場では、昨日一緒に釣りをしていた方が、晋二郎を見つけ、
 『お~い。 “裕”さんところのバイトの兄ちゃん。』
 『こっちで、昨日と同じように釣りしないか?』
晋二郎は、声のする方を見て、手を振って応えた。

 『こんにちは。 昨日は釣り方を教えていただきありがとうございまし
  た。』
 『昨日は“ひとみ”さんに褒められましたよ!』
晋二郎は、“裕”の知り合いたちに昨日の結果を話していた。
 『バイト君、良かったじゃねーか。』
 『それで、昨日の川鯛は食べたのかい?』
晋二郎は、頭を左右に振ってから、
 『いいえ、まだなんですよ。』
 『自分の考えでは、今夜のおかずで出るかなと思っているんですよ。』
“裕”の知り合いは、笑いながら晋二郎に向かって、
 『バイトの兄ちゃん、考えが当たるといいな!』
晋二郎は、“はい”と頷き、仕掛けを投げ入れた。

 『ぽちゃん。』
海面に、晋二郎の投げ入れた、仕掛けが静かな音をたてながら沈んでいった。
投げ入れてから48秒ほどで、“浮き”が水面に”ぽこ”っと現れた。

“裕”の知り合いが、晋二郎の釣り方を見ながら、
 『兄さん、今日も川鯛狙いかい?』
その、言葉に晋二郎は“浮き”を見ながら頷いて応えた。
 
晋二郎は、“浮き”をしばらく見ていたが、変化があらわれない為、ポケットから煙草を取り出し、火をつけ吸い始めた。
 『ふ~。』
 『気持ちいいな~。 天気がいいから眠くなるよ。』
そう、晋二郎が呟いた時、晋二郎の視界から“浮き”が、“ゆら・ゆら”と静かに沈んでいった。
晋二郎は、自分の視界から“浮き”が消えたことにより、“当たり”と判断し、竿を力一杯立て、“合わせ”を行った。
合わせた瞬間、晋二郎の握っている竿に“ずしり”と手応えがあり、
 『なんだよ~ゴミにでも引っ掛かたか~。』
 『くそ~。』
晋二郎が、そんな毒舌を吐いた時、
竿が、水中に引き込まれて行った。
 『真面目(マジ)かよ。』
晋二郎の横に居た、“裕”の知り合いが、
 『兄ちゃん、大(でか)いな。』
 『ばらすなよ。』
晋二郎は、その声に応える余裕などなく、魚の引きに必死に堪えていた。

魚が晋二郎の竿に掛かってから28分が経過した頃、
 『おっ、お~。』
と、言うどよめきが起き、
 『お~い、兄ちゃん。 魚が浮いてきたぞ。』
 『兄ちゃん、でけーぞ。』
晋二郎は、周囲の人達の声に励まされ、必死に魚と格闘していた。
 
浮いてきてから10分。
やっと、魚は抵抗を諦め、“裕”の知り合いが“タモ”で確保し、引き上げてくれた。
晋二郎は、
 『ゼェー・ゼェー』
と、肩で息をしながら、“タモ”に入っている、大型の川鯛を確認しながら、
 『俺の黒鯛の最高記録更新!』
と、呟いていた。

川鯛のサイズを確認すると、大きさが約60㎝弱も有り、何時の間にやら集まった“やじ馬”から、
 『すげーでかいな。』
 『このサイズはここでは初めてじゃねーか?』
等の声を聞きながら晋二郎は1人嬉しそうににやけていた。
 
 『疲れた~。』
 『腕が、張ってるよ。』
晋二郎は、そう言いながら自分の右腕を揉んでいた。
そんな晋二郎に“裕”の知り合いが、
 『兄ちゃん、凄いじゃないか。』
 『今度、俺に関東での川鯛の釣り方を教えてくれや。』
そう、晋二郎に話掛けながら、缶コーヒーを手渡した。
晋二郎は、頭を下げ、缶コーヒーを受け取りながら、
 『何時でもOKですよ。』
そう、言うと、缶コーヒーのリップを開き一飲みした。
 
その後、晋二郎は小一時間釣りをして鯵(あじ)を10尾釣ってから納竿した。
 『じゃーお先に失礼します。』
と、“裕”の知り合い達に声を掛けてから、60㎝の川鯛の入ったクーラーボックスを、
 『どっこいしょ。』
と、声を掛けてから肩に担いだ。

ユースホステルに戻った晋二郎は、外に出ていた、“ひとみ”を見つけ、
 『ただいまです。 “ひとみ”さん。』
と、声を掛けた。
晋二郎の声に、“ひとみ”が笑顔を見せながら、
 『おかえりなさい。 吉田さん』
 『今日も釣りですか?』
晋二郎は、笑顔で
 『はい。 “裕”さんの道具借りて行ってきました。』
 『今日の釣果はどうでした?』
晋二郎は“ひとみ”の問いに、胸を張って、
 『驚かないで下さいよ。』
 『今日は自分の記録更新しましたから。』
そう言うと、“よいしょ”っと一言言ってから、右肩に掛けていたクーラーボックスを降ろして、
 『どうぞ、褒めてやってください。』
と、“ひとみ”に告げてから、クーラーボックスを開けて見せた。
クーラーボックスを覗き込んだ“ひとみ”は、
 『吉田さん、凄い!』
 『凄いですよ。この川鯛!』
そう、言いながら、ユースホステルに入って行き、“裕”を連れてきて、
 『お父さん、吉田さん凄いの!』
 『これを見て。』
“ひとみ”に言われ、クーラーボックスを覗くと、
 『ほ~、こりゃ凄いじゃないか吉田さん。』
晋二郎は、“裕”の言葉に気分を良くして、
 『どうですか、“裕”さん。 この川鯛食べがいが有りますよ。』
“裕”は晋二郎の顔をみながら、
 『ほんと、大したもんだよ吉田さん。』

そう、言うと“裕”はクーラーボックスから川鯛を持ち上げ、
 『吉田さん、写真撮ろうよ。』
 『ここで、川鯛を持ってくれないか。』
晋二郎に、そう告げ、“ひとみ”には、晋二郎のデジタルカメラで写真を撮るように指示を出し。

 『吉田さん。 撮りますよ。』
 『いい顔をしてくださいね。』
そう、言いながら“ひとみ”は写真を4枚も撮っていた。
 『吉田さん、写真に問題が無いか確認して貰っていいですか?』
晋二郎は、頷きながら“ひとみ”が撮ってくれた写真を確認してから、
 『“ひとみ”さん。ありがとうございます。』

その時、“裕”が晋二郎に向かって、
 『吉田さん、お願いが有るんだけどきいてくれないかな。』
晋二郎は、“裕”に向かって笑顔を見せながら、
 『どうしたんですか、“裕”さん。 なんでも言ってくださいよ。』
“裕”は、真面目な顔をしながら、
 『この川鯛を俺に売ってくれないか。』
晋二郎は、“裕”が何を言っているのか分からず、
 『はい?』
と、変な返事をしてしまった。
状況を理解している“ひとみ”が、“裕”に代わって説明を始めた。

 『吉田さん、実は兄さんが来月こっちに戻って来て、新しい養殖の仕事を
  しながら、父の仕事を手伝う事に決まったんです。 それで、今日その
  説明に帰ってきたんです。』
晋二郎も笑顔で、
 『“ひとみ”さん、“裕”さん良かったですね。』
 『俺も、いい日に川鯛釣れて良かったですよ。』
晋二郎の言葉を聞いた、“裕”が、
 『じゃー、吉田さん。』
 『この良型の川鯛を売ってくれるんだね。』
晋二郎の、“裕”の言葉に頭を左右に振って、否定した。
 『“裕”さん、“ひとみ”さん。』
 『この川鯛は、僕から“裕”さん一家へプレゼントさせてください。』

晋二郎の話を聞いた、“裕”が、
 『吉田さん、本当にいいのかよ。』
 『このサイズは滅多に七尾でも上がらないサイズだから、吉田さんが
  考えているよりもいい値段で売れるぜ。』
晋二郎は、“裕”に向かって、
 『“裕”さん。 お金じゃないんですよ。 ここの問題ですから。』
そう、言いながら晋二郎は自分の胸を指で挿して見せた。

3人がユースホステルの前で話していた時、
 『親父、どうしたんだよ。』
 『あれ、吉田さん何処に行ってたんだよ。探していたんだぜ。』
と、康夫が“裕”のサンダルを履きながら、外に出てきた。

 『ほ~。 良型じゃんこの川鯛。』
 『どうしたんだよ。』
康夫の話を聞きながら晋二郎がニコニコしてると、
 『まさか、吉田さんがこの川鯛釣ったのかい?』
晋二郎は、康夫の言葉に笑顔で大きく頷いて見せた。
康夫は信じられない様に、
 『ほんとかよ。やるね~吉田さん。』
康夫と晋二郎の会話を、聞いていた“裕”が、“ひとみ”に向かって、何か話をしていた。
“ひとみ”は、時々“裕”の言葉に頷いて見せた。

 『吉田さん。じゃーこの川鯛遠慮なくいただくよ。』
晋二郎は、“裕”に向かって、
 『“裕”さんOKです。 “ひとみ”さん、美味しい料理お願いしますね。』
晋二郎の言葉に“ひとみ”、指でVサインを作って見せた。
 
第5-2章に続く






2021/03/22 23:23:02|おはなし
おはなし : おもいで  第4-4章 : お兄ちゃん。
【おもいで】
第4-4章:お兄ちゃん。

“裕”がKH(ケッチ)500を見て興奮している、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、“ひとみ”が呼んでいるから、行こう。 こいつの事は、ポカポカから戻ってきてから話を聞くらな。』
そう、言うと“裕”は、“ひとみ”の声に応えるように、
 『おー、“ひとみ”。 今、行くよ。』
“裕”は晋二郎の手を取り、受付へと戻り、食堂脇の柱に掛けてある車のキーを取り、2人のもとに戻り、
 『お待たせ。じゃー行こうか。』
“ひとみ”と晋二郎は頷き、3人で駐車場へと向かい、“裕”の車でポカポカへと向かった。
 
車は、15分ほどでポカポカに到着した。
 『吉田さん、“ひとみ”ここは、俺が払うから。』
そう、言うと、受付で大人3人分の料金(¥1800-)を支払った。
 
温泉に入る前に、晋二郎が大体の上がる時間を告げ、念のための待ち合わせ場所も決めてから、それぞれ“男湯”・“女湯”へと向かった。
晋二郎は、脱衣所にて早々に服を脱ぎ、浴場へと向かった。
そんな晋二郎を見ながら、“裕”が、
 『吉田さんは温泉が好きなんだな。』
と、呟いた。
 
晋二郎が、洗い桶にお湯を貯め、身体にかけ、顔を洗って、
 『ぷはー、気持ちがいい!』
と、1人呟きながら湯舟に向かった。
 
晋二郎が湯舟で温泉を思いっきり堪能していた時、“裕”が湯舟に入ってきて、
 『吉田さん、どうだい仕事後の温泉は?』
 『“裕”さん、ほんと気持ちがいいですよ。昨日・今日とほんとに最高な気分です。』
晋二郎は、“裕”に今の自分の気分を説明した。
 
『ところで、“裕”さん。 聞いてもいいですか?』
『どうした吉田さん。』
晋二郎は、車庫に入っていたKH(ケッチ)500について、事前に“ひとみ”から、自分の兄のオートバイと話を聞いていたが、KH500の
誘惑に勝てずに、質問を始めた。
 
『“裕”さん、あのKH(ケッチ)500も、“裕”さんのですか?』
“裕”は、晋二郎に向かって手を左右に振りながら、
『いいや、俺のじゃないよ吉田さん。』
『じゃー、なんで“裕”さんの手元に有るんですか?』
“裕”は、晋二郎に向かって、ゆっくりと口を開いて説明を始めた。
 『実はな、吉田さん。 俺には“ひとみ”より4つ上息子がいてな、康夫って言うんだよ。KH(ケッチ)500は、その、康夫のオートバイなんだよ。』
晋二郎は、驚いた顔をしながら、
 『“裕”さん、KH500に乗るなんて相当好きな方じゃないと普通乗りませんよ。』
“裕”は、笑いながら、
 『そうだよな。あんな乗りにくいオートバイ好きじゃなきゃ乗れないよな。』
話を聞きながら晋二郎は、“うん”・“うん”と頷いて見せ、
 『でも、“裕”さん。』
 『何だい、吉田さん。』
 『今、“ひとみ”さんのお兄さんは、どうしているんですか?』
“裕”は、晋二郎を見ながら、
 『今、あいつは富山で養殖に仕事しているよ。』
 『大学(がっこう)で養殖について勉強していたからな。』
晋二郎は、“裕”に向かって、
 『富山湾って、言うと“ブリ(ハマチ含む)”の養殖ですか?』
“裕”は晋二郎の言葉に、
 『吉田さん、富山湾がブリで有名だからって、=(イコール)養殖じゃないよ。』
 『それに、富山湾では、ブリの養殖はそんなに行われていないだよ。』
晋二郎は、“へ~”っと言う顔をしながら“裕”を見ながら、
 『とういう事は、なにの養殖ですか?』
 『サクラマスだよ。』
晋二郎は、驚いた顔をしながら、
 『サクラマスですか。』
 『何、吉田さん、サクラマス知っているの?』
晋二郎は、大きく頷いて見せた。
そんな、晋二郎の顔を見ながら、“裕”が、
 『吉田さんはなんでも知っているんだね。驚きだよ。』
と、呆れたような声で呟いた。
 
晋二郎が何気に時計に目をやった時、すでに“ひとみ”と約束した時間を、8分程過ぎていた。
 『“裕”さん、やばいです。約束の時間を過ぎてますよ。』
そう、言うと、
 『こりゃ、いけね。』
 『吉田さん、“ひとみ”に怒られちまう。』
そう、呟きながら、“裕”と晋二郎は湯舟を出て脱衣所へと向かった。
 
脱衣所を出ると、案の定“ひとみ”が怒ったような顔をしながら、待ち合わせ場所でもある休憩室のTV画面を睨むようにみていた。
晋二郎は、そんな“ひとみ”に向かって、
 『“ひとみ”さん、遅くなって申し訳無いです。』
“ひとみ”は、晋二郎の声に反応するように、
 『吉田さん、遅いですよ。』
 『15分も遅れていますよ。』
晋二郎と、“裕”は“ひとみ”の言葉に頭を掻いて誤魔化してみせた。
2人の姿を見た、“ひとみ”はニコリと笑顔になった。
 
 『グ~。』
と、変な音が聞こえたと思ったら、晋二郎がお腹を押さえながら、
 『お腹空きませんか?』
と、“ひとみ”と“裕”に話しかけてきた。
2人は、晋二郎を見てどちらともなく大笑いしてしまった。
そんな、3人を周囲の人達が“何”と言った目で見ていた。
 
笑いが収まった“裕”が、晋二郎に向かって、
 『じゃー、少し早いがお昼にするか。』
晋二郎と、“ひとみ”は顔を見合わせてから“裕”に向かって、
 『ありがとうございます。』
と、礼を言った。
“裕”は2人の言葉にしょうがね~な~と言わんばかりの顔をしながらも、食堂に向かって歩き始めた。
 
食堂では、3人がそれぞれ好きな物を注文していた。
食事が来るまで3人は今朝の漁について、話をしていた。
 『“裕”さん、今日は“のどぐろ”が大漁でしたね。』
 『さすが“裕”さんですよね。網を掛ける場所がGoodでしたよね。』
“裕”は晋二郎の言葉に、満足そうに微笑んだ。
 
漁の話で盛り上がっていた時に、注文した料理が運ばれてきた。
晋二郎は、注文した料理が届くと、速攻で割り箸を割り、
 『いただきます。』
と、言うなり注文した海鮮丼を食べ始めた。
“裕”と“ひとみ”は、海鮮丼を美味しそうに食べる晋二郎を微笑みながら見ていた。
 
ポカポカでの楽しい時間を存分に楽しんだ3人は、“裕”の運転する車でユースホステルへと戻って来た。
“裕”が車を駐車場に停め、歩いてユースホステルへ向かうと、入り口に男性が1人立っていた。
 『“ひとみ”さん、お客さんですかね?』
と、晋二郎が“ひとみ”に確認するように話しかけた。
“ひとみ”は晋二郎の声に反応し、
 『おかしいわね、予約のお客さんは居ないわよ。』
その男性に向かって、“ひとみ”が声を掛けようとした時、
男性が、3人を確認するように、
 『“ひとみ”、“おやじ”か・・・・。』
その男の声に、“裕”が、
 『お前、康夫か?』
 『えっ、康夫兄さん?』
“裕”が康夫に向かって、大きな声で、
 『お前何しに帰って来た。』
 『お前は、この家に用はないだろ。』
康夫を、“裕”に向かって、
 『おやじ、話が有るんだけど家に入れてくれないか?』
“ひとみ”が“いい?”と言うような眼をしながら“裕”を見ていたが、
“裕”は何も言わずに、晋二郎に目を向け、
 『吉田さん、煙草いかねーか?』
晋二郎は、“裕”の言葉に頷き、2人して防波堤へと歩き出した。
 
“ひとみ”は、康夫に向かって、家に入るように促した。
 『兄さん、家に入って。』
そう、康夫に向かって言いながら入り口の鍵を開けて、康夫を中に招き入れた。
 
 『変わって、ないよな~ここも。』
と、康夫は懐かしそうに周囲を眺めていた。
“ひとみ”が、康夫に向かって、
 『兄さん、どうしたのいきなり、連絡もなしに来て。』
康夫は、“ひとみ”の事を見ながら、
 『今やっている仕事なんだけどさ、何とか目処が立ったから、休みを取って帰って来たんだよ。』
 『それに、親父に話もあるしな。』
そう、“ひとみ”に話すと、
 『ところで、“ひとみ”。あの親父と一緒にいる男はお前の彼氏か?』
康夫は、“ひとみ”に確認するように自分の親指を立てた。
そんな康夫の行動を見て“ひとみ”が、
 『兄さん、何言っているのよ。 あの人はここ、能登ユースホステルのお客さんなの。』
 『それに学生さんよ。』
康夫は驚いた様に“ひとみ”の顔を見ていた。
 
 『それにしても、なんか親父と上手くやっているじゃん。その学生さん。』
“ひとみ”は、康夫を見ながら、
 『そうよ、お兄ちゃん。』
 『吉田さんは、毎日お父さんと漁に出ているのよ。』
康夫は、驚いた顔をで、
 『本当かよ、“ひとみ”。』
“ひとみ”は、康夫の問いにうんと頷いて見せた。
 
その頃、“裕”は防波堤の上で煙草を吸いながら、晋二郎に向かって康夫との事を話していた。
 『“裕”さん、お話は分かりました。』
 『康夫さんが、養殖業に進んだのは、“裕”さんの事を考えたからじゃないですか?』
“裕”は晋二郎の言葉に怪訝そうな顔を見せ、
 『なんで、そう思うんだ吉田さん。』
晋二郎は、“裕”の顔を見ながら、
 『これはあくまでも自分が思った事なんですが、漁は危険じゃないですか、よく、News等で事故・台風の話を聞くと危ないんだなと思ってしまいます。 でも、養殖業であれば、極端な言い方かもしれませんが、沖には必要以外出ることは無いじゃないですか。 そうすれば事故にあう事は極端に減りますよね。』
 『もしかしたら、康夫さんは、“裕”さんに事故に合って欲しくないから同じ漁業でも養殖の道を選んだのでは無いですかね。』
晋二郎がそう話すと“裕”は煙草を口に銜え火をつけ吸い始めた。
 
その後、晋二郎と“裕”は無言で防波堤の上で煙草を吸ってから、ユースホステルに戻って行った。
 
 『ただいまです。 “ひとみ”さん。』
晋二郎と“裕”は“ひとみ”に声を掛けながら戻ってきた。
受付で煙草を吸っていた、康夫は晋二郎を見ながら、
 『吉田さんだっけ、親父の漁の手伝いをしてくれてありがとう。』
 『親父が世話になったね。』
そう、晋二郎に告げると、“ペコリ”と頭を下げた。
 
晋二郎は、康夫に向かって、手を振って見せ、
 『こちらこそ、“裕”さんに大変お世話になっています。』
その後、晋二郎は話題を変えるかのように康夫に向かって、
 『今日、KH500を見せていただきましたよ。 俺、実車を始めてみたので興奮しましたよ。』
康夫は晋二郎の言葉に、嬉しくなり、
 『運転(のって)みるかい?』
晋二郎は、驚いた顔をして、
 『エンジン掛かるんですか?』
康夫は晋二郎に向かってニヤリと笑い親指を立てて見せた。
 
 『じゃー吉田さん、車庫に行こうか。』
そう、言いながら康夫は既に自分の部屋から鍵を持って来ていたのである。
 
車庫に向かう途中、康夫が晋二郎に向かって、
 『吉田さんもオートバイに乗っているんだって、“ひとみ”に聞いたよ。』
 『なんでも、今、旅の途中なんだって。』
晋二郎は康夫の質問に、
 『はい。そうです。』
 『今は旅の途中ですが、ここ能登ユースホステルが気にいって連泊させて貰っているんですよ。』
晋二郎の話を聞いた康夫は、“ふぇ~”っと驚きの声を上げていた。
 
  
康夫が、シャッターを上げて、中から自分のKH500を出してきた。
 『ほら、吉田さん。』
 『KH500俺の自慢の愛車だよ。』
そう、言うと康夫は車庫に有ったウエスでKH500を磨き始めた。
磨いている途中で、
 『親父の奴、整備してくれたんだな。』
クラッチを握りながら1人で呟いていた。
 
その後、キーシリンダーに鍵を挿してエンジンを始動させるために、キックペダルでクランクを廻しだした。
最初は、“カシュン”・“カシュン”と音を立てるだけで、始動する素振りを見せなかったが、
何度目かのキックで、康夫のKH500は目を覚ました。
 『バリ、バリバリバリ』
と、音を立てた。
康夫はKH500が眼を覚ましたことを確認すると、アクセルをやや気持ち開けてみた。
KH500は康夫の気持ちに反応するように、2サイクル特有の甲高い音を立てながら、辺りを白煙で埋め尽くした。
晋二郎は、この光景に興奮したようで、
 『凄いよ!いい!ほんとKH500凄いよ。』
 『凄いよ、康夫さん。』
康夫を晋二郎の言葉に気分をよくしたのか、ユースホステルの入り口までKH500を移動させ、暖機運転を行った。
晋二郎は、部屋に戻り急いでデジタルカメラを手に戻って来て、
 『カシャ・カシャ・カシャ・カシャ』
と、興奮しながら写真を撮りまくった。
 
 
康夫は、暖機運転の終了したKH500に跨り、防波堤沿いに走ってみた。
 『キキ―ッ、』
康夫を晋二郎に向かって、
 『運転(のる)?』
と、声を掛けてきた。
晋二郎は、KH500の魅力に勝てず、
 『はい。お願いします。』
と、応えていた。
 
晋二郎も康夫と同じように、防波堤沿いにKH500を走らせた。
その時、晋二郎に2サイクルエンジン独特の匂いが鼻を突いた。
晋二郎が、能登ユースホステルの前にKH500を停め、
名残惜しそうに、跨っていたが、一度アクセルを開け、
 『バリ』
と、ふかしてからエンジンを停め、康夫に頭を下げて、
 『康夫さん、ありがとうございました。』
 『KH500楽しかったです。』
と、礼を伝え、
ユースホステルに設置されている自動販売機で缶コーヒーを2本購入し、
1本を康夫に渡した。
康夫は、晋二郎に、
 『いいの?』
 『ありがとうね。』
と、言いながら、缶コーヒーを受け取り、リップを引き起こし口へと運んだ。
 
 『いや~。』
 『コーヒー美味しいね。』
康夫は、晋二郎にそう告げた。
晋二郎も、康夫と同じように口にコーヒーを運び飲んでいた。
やがて、2人はどちらともなくオートバイの話を始め、オートバイについて話を始めていた。
 
 『じゃー今、吉田さんはGPz750Rで旅をしているのかい。』
 『それも、島根県・丹後半島そして今、能登に居るってことか。』
晋二郎は、“はい”と応えていた。
 
康夫とオートバイの話が盛り上がった時、
 『兄さ~ん。』
と、康夫の事を呼ぶ、“ひとみ”の声が聞こえた。
 
第5-1章に続く






2021/03/21 23:23:23|おはなし
おはなし : おもいで  第4-3章 : 真面目(マジ)かよ。
【おもいで】
第4-3章:真面目(マジ)かよ。

“のどぐろ”の刺身をおかずに船上での朝食を済ませた、晋二郎と“裕”は、2箇所目での漁場での作業を終了し、港に帰港した。
 
【七尾漁港】

“裕”の船が停船したのを確認すると、晋二郎が“もやい”を岸に向かって投げてから、船を飛びおり固定した。
船が固定されたのを確認した、“裕”が、エンジンを止め、船から降り、
 『吉田さん、俺これからお客さんを呼んでくるから煙草でも吸って待っていてくれ。』
 『あと、“のどぐろ”3尾と真鯛2尾をキープしておいてくれねーか。』
 『はい、了解です。魚は俺が選んでいいですか?』
“裕”は頷いて、
 『ただし、傷物だよ。』
晋二郎は、“裕”の言葉に頷いて、
 『了解』
と、返事を返した。
“裕”は晋二郎に手を上げて市場へと向かって歩いて行った。
 
晋二郎は、船に戻り、“裕”を見送ってから、お茶の入ったポットを手に取り紙コップにお茶を注ぎ一口、飲んでから、煙草をくわえ、火を点け吸い始めた。
 
 『ふ~っ。』
晋二郎は、紫煙を吐きながら、
 『仕事の後の一服は気持ちがいいな~。』
と、呟きながらコップに注いだお茶を口に運んだ。
 
“裕”が港に向かってから18分程経った頃、
 『お~い、吉田さん。』
と、晋二郎を呼ぶ声が聞こえた。
晋二郎は、自分を呼ぶ声に反応して周囲を見渡すと、
 『ここだよ~。』
客を呼びに行った“裕”が晋二郎をに向かって手を振っていた。
晋二郎も“裕”を確認すると応えるように手を振り返した。
 
“裕”の船にお客さんが乗り込んできた、
晋二郎はお客に向かって、
 『おはようございます。よろしくお願いします。』
と、挨拶をしていた。
 
お客は、“生簀”の“のどぐろ”を確認すると、
 『“裕”さん、今日は凄いね~。』
 『これだけの“のどぐろ”よく上げたね。』
お客が、口々にそう“裕”に伝えると、
 『おお、どうよ。今期初物だぜ。』
そう、お客に伝えると、お客が一斉に携帯電話で何処かに電話を掛け始めた。
 
“裕”と晋二郎は、お客の様子を見ながら、煙草に火を点け仲良く吸い始めた。
電話を掛けていた、お客が“裕”に向かって、何やら話掛ていた。
晋二郎は、直感で“交渉”とわかり“裕”から、少し離れ様子を見ていた。
 
交渉が終わり、
常連客の居なくなった、船で晋二郎とひとみの父は仕事終わりのお茶と煙草で一服していた。
そこへ、“ひとみ”が岸壁から2人に向かって、
 『お父さん、吉田さん。』
と、“ひとみ”が声を掛けてきた。
 
 『“ひとみ”さん。』
 『ただいまです。』
 『今日も、大漁で俺と“裕”さん、疲れました~。』
晋二郎の言葉を聞いていた、“ひとみ”が、“裕”に向かって、
 『お父さん、今日おかず有る?』
“ひとみ”の言葉に、“裕”と晋二郎が顔を見合わせ、“ニコ”っと笑いながら、
 『有るよ、ひとみ。』
 『ほら、これ!』
そう、言うと大型のクーラーボックスを見せた。
 
クーラーボックスを見た、“ひとみ”が、
 『その中、何が入っているの?』
2人は再び、“ニコ”っと笑いながら、“ひとみ”に向かって、
 『当ててみな“ひとみ”』
“裕”が少し意地悪な言葉を“ひとみ”に掛け、
船から降りてきた。
晋二郎が、船上から“裕”にクーラーボックスを渡すと、
 『“ひとみ”ほら、これ見て見な。』
そう、言葉を掛けながらクーラーボックスを開けて“ひとみ”に見せた。
 
 『ほんと、凄い!今日も凄いじゃない!』
ビックリした声を上げながら、父親と晋二郎の顔を交互に見ていた。
 『じゃー、お父さん、晩御飯はお父さんの料理ね。』
 『宜しくお願いね。』
 
そう、告げると“フフフフ”と笑顔を見せた。
“裕”は、“ひとみ”に向かって、指でOKマークを作って見せた。
 
 『吉田さん、朝飯を食べに行こうか?』
 『はい、“裕”さん。』
晋二郎は、“裕”に応えてから、クーラーボックスを手に持ち歩き出した。
 
ユースホステルに戻った、晋二郎は“ひとみ”の料理が出来るまで、昨日と同じように床に地図を広げ、この後どうするかを考えていた。
 『う~ん、真面目(マジ)にどうするかな。』
そう、言うと指を折りながら、日数を数え出して、
 『もう、今日で5日目か。』
と、呟きながら鞄から旅の計画書を出して、地図と見比べながら、
 
日程        :           9月13日(土)~26日(金)計14日間
コース       :           兵庫県(餘部)~ 京都府(舞鶴)~ 福井県(福井市)~石川県(能登半島)~富山
(富山市/五箇山)~岐阜県(白川郷/高山/郡上八幡)~長野県(松本/上田)~
走行距離 :           自宅~餘部(586㎞)~舞鶴(110㎞)~福井城(138㎞)~輪島(190㎞)~
富山/五箇山(170㎞)~白川郷/高山/郡上八幡(160㎞)~松本/上田(250㎞)
 
 『どうするかな~、長野方面。』
 『長野は、何時でも行けるからな~。』
と、呟いた。
晋二郎が、1人悩んでいたその時、“裕”が、声を掛けてきた。
 『吉田さん、少しいいかい。』
晋二郎は“裕”の声を少し驚きながら、慌てて地図と計画書を片づけ、
 『“裕”さん、どうしました。』
 
 『実は、吉田さん少しお願いが有るんだけど。。。。』
 『どうしました、“裕”さん』
“裕”は一呼吸入れてから、煙草を口に銜え、吸い出した。
晋二郎は、思わず“裕”を見て自分も煙草を吸いだした。
 
 『実は、吉田さん申し訳ないんだが、明日も漁を手伝ってくれないか?』
晋二郎は、“裕”の言葉を聞いてから、今、片づけた地図を“チラ”っと見てから、煙草を吸い込み煙を吐きながら、
 『“裕”さん、少し考えさせていただけませんか。』
 『自分も予定があるものですから。』
そう、言うと煙草を吸い始めた。
 
 『吉田さん、すまないな突然変な事を頼んじまってよ。』
 『今の話、忘れてくれや。』
そう、告げると“裕”は外へ向かって歩きだした。
 
“裕”と、入れ替わりに、“ひとみ”が受付に来て、
 『吉田さん、朝ごはん出来ましたよ。』
 『暖かいうちにご飯食べてくださいね!』
晋二郎は、“ひとみ”に頷きながら、
 『はい。了解です。』
と、告げた。
 
 『吉田さん、今、お父さんと話をしていなかった?』
晋二郎は、“ひとみ”に向かって、
 『はい、居ましたよ。今、外に居ると思いますよけど呼んできましょうか?』
“ひとみ”は晋二郎に向かって、
 『じゃー吉田さん、お願いします。』
 『了解です。』
そう、“ひとみ”に告げ、外に“裕”を呼びに出て行った。
 
 『“裕”さ~ん。』
 『ご飯できましたよ。 食べましょう。』
そう、言いながら晋二郎は“裕”を探していた。
晋二郎の声が聞こえたらしく、遠くから、
『お~い』
と、返事が聞こえた。
晋二郎は、“裕”を探したが、なかなか見つける事ができず、
 『“裕”さん、どこですか?』
 『こっち、こっちだよ吉田さん。』
晋二郎は、声の聞こえる方に歩いて行くと、そこは、“裕”の車庫だった。
 
晋二郎は、車庫に入ると、“裕”に向かって、
 『“裕”さん、探しましたよ。 朝ご飯食べましょう。』
 『遅れると、“ひとみ”さんに怒られますから。』
“裕”が、晋二郎に向かって、
 『そうだな、“ひとみ”に怒られるから行こうか。』
 『すまないね、吉田さん。』
晋二郎は、“裕”の言葉を聞きながら、車庫の中を見ていて、
 『“裕”さん、あれ、“裕”さんのCB550Fですか。』
“裕”は、頷きながら、
 『吉田さん、早く行こう。 そうしないと、“ひとみ”に怒られるからよ。』
 『はは。そうですね、早く行かないとご飯片づけられてしまいますからね。』
“裕”は晋二郎を見ながら、
 『ちげーねぇーな。』
2人は、そのまま、食堂へと向かった。

 『おそ~い。』
案の定、食堂に行くと“ひとみ”が遅いと言いながら、2人に対して文句を言ってきた。
晋二郎と“裕”は、
 『申し訳ない、“ひとみ”。』
そう、言いながら“裕”が“ひとみ”に頭を下げ、晋二郎も一緒に頭を下げた。
“ひとみ”は、ブツブツと小声で文句を言いながらも、
 『しょうがないわね、もう、ちゃんと朝ご飯の時間守ってくださいね。』
そう、言うと、
 『はい。朝ご飯んいただきましょう。』
晋二郎と“裕”も席に着いて、“ひとみ”の言葉につられて、
 『いただきます。』
と、声を掛けてから箸を手に取り食べ始めた。
 
 『“ひとみ”さん、この鯵(あじ)塩加減がよくて美味しいですよ。』
“ひとみ”は晋二郎と父親を見てから、
 『その鯵(あじ)は昨日、2人が釣ってきた鯵(あじ)ですよ。 新鮮だから美味しいでしょう。』
晋二郎は、“ひとみ”の話に頷きながら、鯵(あじ)を食べていた。
 
晋二郎が、食後のお茶を飲んでいると、
 『お父さん、吉田さん。 家を出るの9時半ごろでいい?』
晋二郎は、お茶を飲みながら、指でOKマークを作って“ひとみ”に見せた。
“裕”は、一言。
 『おーいいぞ。』
 『じゃー、家を出るまで1時間あるな。』
そう、言うと“裕”は、ご馳走様と告げると、席を発って外へと向かった。
 
晋二郎は、お茶を飲みながら眼で“裕”を追っていたが、湯飲み茶碗をテーブルに置き、
“ひとみ”に向かって、
 『ご馳走までした。 “ひとみ”さん。』
そう、告げると“裕”の後を追うように食堂を出て行った。

晋二郎は、防波堤で煙草を吸っている“裕”を見かけ、声を掛けた。
 『“裕”さん。 鯵(あじ)美味しかったですね。』
 『日本海の鯵(あじ)は、太平洋の鯵(あじ)と歯応えが全然違いますね。』
晋二郎の話を聞きながら、“裕”はニコニコ顔で、
 『だろ、吉田さん。』
晋二郎は“裕”の言葉に頷いて応えた。
しばらく、2人で日本海を見ながら煙草を吸っていた。
 
晋二郎と“裕”が煙草の吸殻を拾って、ユースホステルの受付の灰皿に捨てていた時、
 『吉田さん、俺のCB見るかい?』
晋二郎は、大きな声で、
 『はい』
と、返事を返した。
そのまま2人は、ポカポカに行くまでの時間を、車庫で過ごすことにした。
 
『吉田さん、これが、俺のCBだよ。』
そう、いうとポケットからキーを取り出して、シリンダーに挿してONにした。
“裕”のCBはきちんと整備されており、メーターのランプが明るく点灯し、そのままセルボタンを押すと、元気よく、
 『キュン・キュン』
と、モーターが廻りだし、エンジンがかかった。
“裕”は、エンジンがかかると、アクセルを少し開け、点いてくるかを確認し、回転数を徐々に上げていき、
 『ブオンブオン』
と、アクセル煽り、エンジンの音を確認すると、アクセル閉めてアイドリングさせていた。
 
晋二郎が、“裕”に、
 『“裕”さん、跨ってもいいですか?』
“裕”はOKと指で応えた。
 『“裕”さん、ありがとうございます。』
礼を言ってから、“裕”のCBに跨った。
 
晋二郎は、シートの上で、腰を動かしながら、
 『“裕”さん、CBいいですよ。』
 『座りがいいです!』
 『乗ってみたいです。』
そう言うと、
 『吉田さん、CB気に入ったかい?』
 『はい。』
 『俺、実は昔、無免許でこのCB550Fの4本マフラーを運転したことが有るんですよ。』
 『凄い乗りやすいですよね。CB。』
晋二郎の話を聞いていた、“裕”は、ニコニコ顔で、晋二郎の事を見ていた。
 
“裕”のCBに跨っていた、晋二郎が車庫の中を見廻した時、
不意に、シートを被ったオートバイを確認した。
その時、晋二郎の頭の中に、昨夜“ひとみ”から話を聞いたお兄さんのオートバイだと直感した。
 
CBを十分に堪能した、晋二郎が降りて、
 『“裕”さん、あのシートを被っているの、オートバイですか。』
“裕”は晋二郎の質問に、
 『あーそうだよ。見てみるかい?』
 『はい。お願いします。』
“裕”はシートを被っているオートバイの横に行って、カバーを外した。
晋二郎は、そのオートバイを見て、
 『真面目(マジ)かよ。』
晋二郎は、興奮した声で、“裕”に向かって、
 『すんげー!俺、初めて見ましたよ。』
 『スゲーですよ。“裕”さん。』
 『これ、KH(ケッチ)500じゃないですか。』
 
【参考画像:KAWASAKI KH500】

晋二郎が、興奮して、“裕”に色々話をしようとした時、
 
 『父さ~ん、吉田さ~ん。 そろそろ行く時間よ。』
 『何処に居るんですか?』
と、2人を呼ぶ“ひとみ”の声が聞こえた。
 
第4-4章に続く






2021/03/20 23:23:23|おはなし
おはなし : おもいで  第4-2章 : のどぐろ
【おもいで】
第4-2章:のどぐろ

晋二郎は風呂を上がり、首にタオルを掛け1人外に出て、夜の日本海を
見ながら煙草を吸い、”ひとみ”から聞いたお兄さんの話を思い出しながら、
 『兄弟かいいな~。』
 『羨ましいな。』
そう、呟くと煙草を足で消してからユースホステルへと戻り受付の灰皿に煙草を捨ててから部屋へ戻り、布団に潜り込んで眠りに着いた。

 『ルルルルルルルルル』
前日と同様に晋二郎の携帯電話から小気味よい音楽が流れ、音楽を聴いて目を覚ました晋二郎は布団の中から腕を伸ばし携帯電話の音楽を停め時間を確認してから、起き上がり何時もの様に自分の顔を、
 『パン・パン』
と、2回叩いて目を覚ました後、
寝ていた布団をたたんでから食堂へと向かった。
 
既に食堂では、“ひとみ”が簡単な朝食を用意して晋二郎と”裕”の事を待っていた。
晋二郎はそんな、“ひとみ”に向かって、
 『“ひとみ”さん、おはようございます。』
と、声を掛けてから、食堂の席に着いた。
 
席に着くと、直ぐに“ひとみ”が晋二郎の前に簡単な朝食を置きながら、
 『吉田さん。 おはようございます。昨日は話を聞いてくれてありがとうご
  ざいました。』
晋二郎は、“ひとみ”に向かって、
 『“ひとみ”さん。気にしないで下さい。』
 『それより、ご飯食べていいですか?』
晋二郎の言葉に、“ひとみ”は微笑みながら、
 『どうぞ、吉田さん。 食べてください。』
と、応えながら晋二郎の前に大きな紙袋を置いて、
 『吉田さん、リクエストに応えましたから、今日も父の手伝い頑張って
  くださいね。』
そう告げて、晋二郎の湯飲み茶碗にお茶を注いでいたとき、
廊下から、”裕”の声が聞こえた。
 『おはよう。吉田さん。』
 『今日は、ちゃんと起きれたんだな。』
 『見込みがあるじゃないか、吉田さん。』
晋二郎に声を掛けながら、
“裕”が食堂に入ってきた。
 
 『あっ、“裕”さん、おはようございます。 今日も漁、宜しくお願いいたし
  ます。』
晋二郎は、“裕”に向かって挨拶をしてから、再び箸をとり”ひとみ”が用意した朝食を食べ始めた。
 
“裕”は、何時もの席に座り、“ひとみ”の朝食を待っていた。
 『はい。お父さん朝食よ。』
 『これを食べて今日もお仕事頑張ってね。』
 『それと、今日のお弁当は吉田さんに預けてあるからね。』
“ひとみ”は父親に向かって、矢継ぎ早に言葉をかけた。
 
そんな“ひとみ”の話に“裕”はちゃんと答えてから、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、弁当忘れないように注意してくれよ。』
食後のお茶を飲んでいた晋二郎に笑いながら声を掛けていた。
晋二郎は、“裕”に向かって、“はい”と返事をしながら、指でOKマークを作って見せた後、
 『ごちそうさまでした。』
と、告げ2人に頭を下げ食後の一服をするため、受付へと向かった。
 
晋二郎が受付で食後の一服をしていた時、
 『吉田さん、これ、お茶の入ったポットです。』
と、“ひとみ”が晋二郎に手提げの紙袋を渡した。
 
その時、準備が出来た“裕”が、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、そろそろ行こうか。』
晋二郎は、頷き、
 『はい、行きましょう。』
 
“裕”と晋二郎は、道路まで見送りに来た“ひとみ”に向かって、
 『行ってきます。』
と、声を掛けてから、港に向かって歩いて行った。

2人が港に着くと、前日に合った“裕”の友人たちが声を掛けてきた。
 『おはよう、兄ちゃん。』
 『おはようございます。』
 『兄ちゃん、漁、きつくねーか?』
晋二郎は、声を掛けてきた人それぞれに笑顔で対応していた。
 
先に船に乗って出港の準備をしていた“裕”が、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、“もやい”を解いてくれねーか。』
 『はい。了解です。』
晋二郎は、“裕”の依頼に応え、係留ロープを解いて、“裕”に向かって投げたあと、自分も乗船し昨日と同じ雨合羽に甲板上で着替えて、出港に備えた。

操舵室で晋二郎の準備の様子を見ていた、“裕”が、窓から顔を出して、
 『吉田さん、行こうか!』
 『はい、“裕”さんOKです。』
晋二郎の言葉を合図に、“裕”はエンジンの回転数を上げ、昨日と同じように港を出て最初の漁場に向かって船を走らせた。
 
最初の漁場には、昨日とほぼ同じ時刻に到着し、“裕”と晋二郎は、早速網の巻き上げの準備掛かった。
“裕は”、刺し網の目印の“浮き”の紐にギャフをひっかけて引き寄せた。
 『ふ~っ』
晋二郎は“裕”からロープを受け取り昨日と同じように手繰り寄せた。
晋二郎もまた、"裕"と同じように、
 『ふー。』
と、息を吐きながら額の汗を首に巻いていたタオルで汗を拭いていた。
 
晋二郎が、しばらくロープを手繰り寄せていた時、網が見えてきた。
 『“裕”さん、網が見えてきました。』
 『おーし、分かった。』
“裕”は、操舵室から出てきて晋二郎と一緒に網を手繰り寄せ始めた。
 
暫くの間、昨日と同じように網を手繰り寄せてから、
船首にある網の巻き上げ機を操作して晋二郎が抑えているロープに巻き上げ機の爪を引っ掛け網の巻き上を始めた。
巻き上げ機のモーターが昨日と同じように“ウィーン”と音をたてて網を巻き上げ始めた。

晋二郎は、巻き上げ機を眺めながら、肩で息をしていた。

 『“裕”さん、今日は昨日と比べて網なにか重くないですか?』
“裕”は晋二郎の質問を聞いて、網の様子を見てから、
 『吉田さん、いい勘してるね。』
 『今日は、少し巻き上げに時間が掛かっているよ。』

昨日より20分も巻き上げに時間が掛かってしまったが、
 『“裕”さん、今日も魚が網に掛かっています。 それも大きいですよ。』
“裕”は、晋二郎の声を聞いてから覗き込むように海を眺めながら、
 『すげーな今日は。。。。』
そう1人呟きながら、巻き上げ機を停止させた。

 『どうしたんですか“裕”さん、巻き上げ停めて・・・・?』
“裕”は晋二郎の顔を見てから再度、網を眺めてから、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、申し訳ないが俺が“ストップ”と言うまで網を巻き上げてくれな
  いか。』
晋二郎は“裕”の言葉を聞いてから、黙って頷き網を巻き上げ始めた。

 『ストップ』
晋二郎は“裕”の声を聞いて、巻き上げを停めた。
“裕”は、水面ぎりぎりまで上がってきた網を眺めら晋二郎に向かって、
 『吉田さん、なかなか上手いよ網を停める位置。』
そう、晋二郎を褒めてから、
一言、
 『よし。』
と、呟いてから晋二郎に向かって、
 『吉田さん、今日は凄いよ!』
そう、言いながら海を眺めていた身体を起こし、晋二郎に巻き上げの指示を出した。

 『ウィーン・ウイーン』
と、モーターが音を立てて元気よく網を巻き上げはじめ、網にかかった魚が甲板上に網と共に姿を現した。
晋二郎は甲板上に上がってきた魚を見ながら、
 『“裕”さん、今日の魚は赤いですね~。なんていう名前なんですか?』
 『吉田さん、この魚知らないの?』
 『鯛の仲間ですか?』
“裕”は晋二郎に向かって、手を左右に振って見せ、“違う”・“違う”と見せてから、
 『この魚は“のどぐろ”だよ。』
 
【参考画像:のどぐろ】 
 

 
晋二郎は、“裕”の言葉を聞きながら、
 『“裕”さん、“のどぐろ”ってあの高級魚の?』
“裕”は黙って、頷いて見せた。
 
”裕”の姿を見ていた、晋二郎が、
 『”裕”さん、網から外して生簀(いけす)に入れなくていいんですか?』
”裕”、いけないと、声を出して、巻き上げを停めさせて、
 『吉田さん、網から外すの手伝ってくれ。』
晋二郎は、”裕”の言葉に頷いてから、甲板に腰を下ろして裕と一緒に網から”のどぐろ”を外し始めた。

『ボチャン・ボチャン』
と、2人で網から外した“のどぐろ”を生簀に入れていた。
晋二郎が、生簀の“のどぐろ”を見ながら、
 『旨そうなだな。』
と呟いた。
晋二郎の呟きを聞いていた“裕”が、
 『吉田さん、網の引き上げが終わったら、俺が昨日と同じように”のどぐろ”の刺身食わしてやるからよ。』
晋二郎は、“裕”の言葉を聞いて、一言、大きな声で、
 『真面目(マジ)ですか。』
 『俺、頑張りますよ。』
そう、返事をすると、
“のどぐろ”を網から外す速度をあげ作業を進めた。
そんな、晋二郎をみながら、“裕”が、
 『吉田さん、傷をつけないでくれよ。』
そう言いながら、晋二郎の姿を見ながら笑っていた。
 
 『どうだい吉田さん。今日は大漁だよ。』
そう、晋二郎に話掛けながら、生簀(いけす)を覗き込んでいた。
晋二郎と“裕”は網から“のどぐろ”を外し終えた後、晋二郎が明日の準備を始め、“裕”は船を新しい漁場へと移動を始めた。
 
“裕”は晋二郎に向かって声を掛けた。
『吉田さん、朝ごはんを食べていいよ。』
晋二郎はひとみの父親に向かって顔の前で手を左右に振りながら、
 『何言っているんですかお父さん。』
 『“ひとみ”さんのおにぎりは“のどぐろ”と一緒に食べるんですよ。』
そう言葉をかけてから晋二郎と”裕”は笑い出した。

その後、10分程度の時間で新しい漁場に到着した。
 
”裕”は、海の様子を少しの時間(あいだ)見てから晋二郎に向かって、
 『吉田さん、刺身食べるか。』
晋二郎は笑顔で、
 『はい。”のどぐろ”のお刺身お願いします。』
と、応えた。

”裕”は生簀(いけす)に網を入れながら、
 『お、こいつ元気がいいね!』

と、呟くと素早く網で生簀の中の”のどぐろ”をすくいあげると、
素早く甲板上で、さばき始めた。

晋二郎は、”裕”の包丁裁きを見て、
”う~ん、凄い”と呟いていた。

“裕”は、“のどぐろ”を締めてから18分程度で新鮮な刺身を作って晋二郎に声を掛けた。
 『吉田さん。ほれ、お待ちかねの“のどぐろ”の刺身だ美味いぞ。』
 『新鮮なうちに食べてみな。』
晋二郎は“裕”が作ってくれた刺身に箸をのばして口に運んで噛んでみると、
 『美味い!』
 『“裕”さん本当に美味いです。』
美味しそうに食べる、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、俺の分も残しておいてくれよ!』
 『そんな勢いで食べられたら俺の分が無くなっちまうからよ。』
そう、言いながら“裕”も座りながら、“ひとみ”の作ったおむすびと“のどぐろ”の刺身で朝食を始めた。

晋二郎は、操舵室に置いてある水筒を持って来て“裕”に向かってお茶を入れた。
 『“裕”さん。お茶です。』
そう声を掛けながらコップを置いた。
 『ありがとう吉田さん。』
礼を告げてからコップを口に運び、一口飲んでから、
晋二郎の顔を見ながら、
 『吉田さん。美味いな!』
 
晋二郎は自分のお茶を飲みながらニコリと笑って応えた。
 
第4-3章に続く






2021/03/19 23:23:23|おはなし
おはなし : おもいで  第4-1章 : どうするか?
【おもいで】
  第4-1章 : どうするか?。

 『ただいま~。』
 『“ひとみ”さん、戻りましたよ。』
“ひとみ”は晋二郎の声に、
 『は~い、お帰りなさい。』
 『ポカポカはどうでした?』
晋二郎の顔を見ながら、“ひとみ”が聞いてきた。
晋二郎は、“ひとみ”に向かって、
 『いや~最高ですよ!』
 『露天風呂から見える日本海は最高ですね。』
 『俺、気に入ったので、1時間位入っていましたよ。』
晋二郎と、“ひとみ”の会話を聞いていた、父親が、2人に向かって、
 『明日、漁から戻ったら三人で行くか?』
 『どうだ、“ひとみ”。』
話を聞いていた、晋二郎も“ひとみ”に向かって、
 『“ひとみ”さん、そうですよ。 明日は3人で行きましょうよ。』
“ひとみ”は少しの時間考えていたが、2人に向かって、
ニコっと微笑みながら、
 『そうよね、私もたまには温泉に入って疲れを癒してもいいわよね。』
“ひとみ”の言葉に、
 『そうですよ、“ひとみ”さん。』
 『温泉に入って、日頃の疲れを癒してください。』
晋二郎の言葉に頷きながら、
 『じゃー明日3人で行きましょ!』
 
”ひとみ”の言葉を合図に、
”裕”が車庫に向かうために外に出て行こうとした時、
”ひとみ”父に向かって、
 『吉田さん、お父さん、今日の晩御飯は後、1時間ぐらいで食べれるから、そのつもりでいてね。』
 『いい分かった。』
“ひとみ”の話を聞いた、父親が、
 『“ひとみ”今日は晩御飯の時間早くないか?』
“ひとみ”は頷きながら、
 『当たり前でしょ。だって、今日はお昼抜いちゃったんだから、2人とも
  お腹空いているでしょ。』
晋二郎と、裕は顔を見合わせながら、
 『ハハハハ』
と、笑い出していた。
 
晋二郎は、食事が用意されるまでの時間地図を眺めていた。
何故ならば、今回のツーリング計画の見直しを考えていたのである。
 『どうしようかな~。 何処を変更するかな。』
1人呟きながら、マジックで地図を“コツ”・“コツ”と叩いていた。
 『う~ん。』
 『どうしようかな・・・・。』

独り言を呟きながら広げた地図を眺めながら、
 『やべ、書いてねーよ。』
そう、呟くと鞄の中らマジックを取り出して、3日目の走行コースを地図に書き込んだ。
 
【3日目:走行コース】

地図にマジックで書き込みが終わると晋二郎は、
地図を睨みだしながら、
 『ここ、能登ユースホステルの居心地がいいんだよな~。』
 『う~ん、どうするかな・・・・。』
晋二郎は、1人考えながら、
 『あと、2日間連泊するかな?』

そう、呟くとまた地図と睨めっこを始めてしまった。

晋二郎が、1人悩んでいた時、食堂から“ひとみ”の声で、
 『吉田さん、お父さんご飯用意出来ましたよ。』
 『冷める前に食べてください。』
“ひとみ”の声に応えるために
 『は~い。 今行きます。』
晋二郎が地図をたたみながら、返事を返した。
 
 『すいません、遅くなりました。』
晋二郎は、“ひとみ”と“裕”にペコリと頭を下げてから席に座ったと同時に、 
“裕”が、
 『吉田さん、ほれ、持って。』
“裕”が、声を掛けながら“総司(そうじ)”を晋二郎のグラスに注ごうとしていた。
 『“裕”さん、ありがとうございます。』
 
晋二郎と父親のやり取りを見ていた、“ひとみ”が、2人に声を掛けた。
 『じゃ、吉田さん、お父さん。 ご飯いただきましょう。』
“ひとみ”が、
 『いただきます。』
と、言った言葉に反応するように晋二郎と“裕”も声に出して“いただきます”と挨拶しながら、グラスに注がれた“総司(そうじ)”を飲み始めた。
 
晋二郎が、“総司(そうじ)”を飲みながら、“ひとみ”が料理したテーブルの上の晩御飯を眺めて、
 『“ひとみ”さん、凄いお料理ですね。』
 『スズキのお刺身をいただきますね。』
晋二郎は箸でスズキの刺身を皿にとり、“総司(そうじ)”を飲みながら、口へと運んだ。
 『美味い!』
 『“ひとみ”さん、美味いですよ。日本海のスズキは美味しい!マジです。』
と、言いながら、“総司(そうじ)”とスズキを飲みながら食べていた。
晋二郎の食べ方を見ていた、“ひとみ”が、笑いながら、
 『吉田さん、駄目です。』
 『そんな、食べ方をしたらスズキ無くなっちゃいますよ。』
“ひとみ”の言葉に“ハッと”した晋二郎は、2人に向かって、
 『失礼しました。。。。』
 『食べるペース落とします。』
晋二郎の言葉に、“ひとみ”と“裕”は思わず、声を出して笑い出した。
 
その後も、3人で食事を楽しんでいた。
 
“裕”が晋二郎に向かって、
 『吉田さん、今日の漁はどうだった?』
 『楽しかったかい。』
晋二郎は、“裕”の問いに応えるように、
頭を縦に大きく2回頷いて見せた。
晋二郎の仕草を見ていた、“ひとみ”が、
 『お父さん、今は駄目よ。』
 『吉田さん、口にご飯が詰まっているから話ができないの。』
そう、説明した後、晋二郎にお寿司屋の湯飲み茶碗をそっと、渡した。
 
晋二郎は、湯飲み茶碗を手に取り、口に運んだ。
 『ゴクリ。』
と、晋二郎の喉が脈を打ったあと、
 『はぁ~。』
 『助かりましたよ。 “ひとみ”さん。』
 『ナイスフォローです。』
そう、“ひとみ”に告げてから、晋二郎は“裕”に向かって、
 『“裕”さん、もう最高でしたよ。』
 『明日も、漁、宜しくお願いします。』
 
晋二郎は、“裕”から視線を外し“ひとみ”を見ながら、両手を合わせ、
 『“ひとみ”さん、明日も美味しいお弁当お願いします。』
 『そして、もし可能であれば、おにぎりの数を4個にしてください。』
晋二郎からの要望を聞いた、“ひとみ”と“裕”は、先程と同じように大きな声で、笑いだした。
 
 『吉田さん、笑わせないでください。』
 『“お父さん”、私、お腹痛い~。』
“ひとみ”は、笑いを押えようと必死でいたが、
笑いを堪えれば堪える程、可笑しさが込みあげてきて、なかなか笑いを押える事ができなかった。
 
当の晋二郎は、2人を見ながら、何故に笑っているのかが“理解”出来ておらず、1人でお茶を飲んで、2人の笑いが止むのを待っていた。
 
“ひとみ”の笑いが、なんとか収まったらしく、晋二郎に向かって、
 『吉田さん、明日のおにぎりの数を3個 ➡ 4個に増やせばいいんですよ
  ね。』
晋二郎は、“はい”と、素直に応え、
 『可能であれば、サイズも一回り大きくしてくれたら最高ですよ!“ひと
  み”さん。』
晋二郎のとどめの依頼を聞いてしまった、“ひとみ”は、再び、声を大にして笑い出してしまった。
 『吉田さん、ほんと、もうやめて~。』
“ひとみ”わ笑いながら晋二郎に向かって、指で“OKマーク”を作って見せた。
晋二郎はというと、笑い転げている“ひとみ”と“裕”に向かって、
 『じゃ~、明日からおにぎりの数とサイズ変更宜しくお願いします。』
そう、告げながら晋二郎は敬礼のポーズをして“ひとみ”に依頼した。
 
“ひとみ”と“裕”2人の笑いが収まってからは、明日、漁の後に3人で行く“ポカポカ”の話題で話が盛り上がった。
 
 『“ひとみ”。そろそろ父さん、風呂に入って先に寝るよ。』
 『吉田さん、明日も楽しい“漁”にしような、期待しているから。』
 『じゃー、お先。』
“裕”は晋二郎と“ひとみ”にそう告げると、食堂の席を発ち、鼻歌を歌いながら風呂場へと向かった。
 
そんな上機嫌の“裕”を晋二郎と“ひとみ”は笑顔を見送った後に、2人で色々な事を話し始めた。
 
“ひとみ”の話で晋二郎が一番驚いたことは、
 『吉田さん、実は私に兄がいることを父から聞いていますか?』
晋二郎は、“ひとみ”の口から出た言葉に驚きを隠せず、思わず箸を停め口を“ぽかーん”と開いた状態で停まっていた。
“ひとみ”は晋二郎の姿を見て三度笑い出してしまった。
 
 『吉田さん、もう、笑わさないでください。』
 『私、腹筋が痛くて明日起きれません~。』
“ひとみ”の言葉に晋二郎は、開いた状態の口を閉じて、
 『“ひとみ”さん、俺、“裕”さんからは、何も聞いていません。。。。』
 
“ひとみ”は笑うのを止め、晋二郎の顔を見て、話し始めた。
 『実は、私には四つ年上の兄が居てね、5年前に父と大喧嘩して家を出て
  行ってしまったんです。』
 『父は兄に漁師の仕事を継いで欲しかったんですが、当時、兄も、漁業の
  仕事をしていたんですが、仕事の考え方で父とぶつかってしまい大喧嘩に
  なって、家を出て行ったんです。』

話を聞いていた晋二郎が“ひとみ”に、
 『“ひとみ”さん、“裕”さんは、延縄(はえなわ)ですよね。 お兄さんの
  漁法は定置網、それとも別の漁法だったんですか?』
“ひとみ”は頭を左右に振り晋二郎の質問に応え、
 『兄は養殖の仕事をしていたんです。』
 『父も兄も海の資源を摂りすぎずに守るという考え方は同じなのです
  が・・・・。』
 『父はあくまでも漁をしながら必要以上に魚を摂らずに自然の力で増やして
  いく考えなのですが、兄は漁自体を否定する考えなんです。』
晋二郎は、“ひとみ”の話を聞きながら時折頷いていた。
 
“ひとみ”との話が聞き終わった晋二郎が、
 『“ひとみ”さん、なんで突然お兄さんの話をされたんですか?』
“ひとみ”は晋二郎を見ながら、
 『それはですね、吉田さん。』
 『吉田さんが、兄さんににているんです。 それにオートバイに乗って
  いる事かしら。』
 『だから、父も、吉田さんに対して他の人とは違った接し方をしているんだ
  と思います。』
晋二郎は、“ひとみ”の言葉を聞いて今日の朝、“裕”さんの知り合いが不思議
そうに自分の事を見ていたのを思い出していた。
 
晋二郎は、“ひとみ”に質問をした。
 『“ひとみ”さん、お兄さんはどんなオートバイに乗っていられたんです
  か?』
 『やはり、“裕”さんと同じでホンダですか?』
“ひとみ”は、思い出すような顔をしながら、首を横に振って晋二郎の問いに応え、
 『吉田さんのオートバイはどちらのメーカーなんですか?』
晋二郎は、素直にメーカー名を告げた。
 『僕のはカワサキですよ。』
晋二郎の言葉を聞いて、“ひとみ”は膝(ひざ)を叩いて、
 『そう、それ、カワサキですよ。』
 『兄のオートバイは。』
 『確か父がよく話していたんですよ、“康夫”はなんで“あれ”を買ったんだっ
  て。』
 『“ひとみ”さん、お兄さんは何に乗っていたんですか?』
“ひとみ”は晋二郎に向かって手を左右に振って、
 『吉田さん、私に分かる訳ないじゃないですか。』
 『兄のオートバイもまだ、お父さんのと一緒に車庫に入っていますから、
  明日お父さんに聞いてみてください。』
 『父は、口では色々兄の事を悪く話すくせに、未だに兄のオートバイを
  時間があれば整備しているんですよ。』
 『ほんと、素直じゃないんですよね。』
そう、晋二郎に話をしながら、“ふっ”と1つ溜息をついた。
 
少し時間をおいてから晋二郎が、“ひとみ”に向かって、
 『今、お兄さんは何処にいるんですか?』
“ひとみ”は、晋二郎に向かって、
 『兄は今、富山です。 富山で養殖の研究・開発をしています。』
 『実はその兄から富山に来て、自分の仕事を手伝って欲しい旨の相談が
  入ったんです。』
晋二郎は、やや驚いた顔を“ひとみ”に見せながら傍に置いてある湯吞み茶碗を
手に取り口へと運び“ごくり”と1口飲んでから、
 『“ひとみ”さん、そのことを“裕”さんに話したんですか?』
“ひとみ”は晋二郎の問いに首を横に振り、
 『いいへ、話してはいません。』
 『何故?』
 『父は、絶対に行きませんから。 父は、ここ七尾の海が好きですし、
  漁師という仕事に誇りをもっていますから。』
 
晋二郎は、“ひとみ”の話を聞いて、“うん”と頷いて応えながら、
 『“ひとみ”さんは、どうなんですか?』
“ひとみ”は晋二郎の顔を見ながら、
 『“どう”って何がですか?』
 『いや、“ひとみ”さんは富山に行きたいのかなって思ったもんですから。
  聞いてみたんですよ。』
晋二郎の質問に“ひとみ”は直ぐに応えられずに視線をテーブルに落としてから、
 『わかりません。』
 『ただ、私はここ七尾が好きなんです。出来る事でしたら、父・兄と私の
  3人でここで暮らしたいんです。』
晋二郎は“ひとみ”の回答を聞いて、微笑みながら、
 『じゃー、その事をお兄さんとお父さんに正直に伝えればいいんじゃ
  ないんですか。』
 『一人で悩んでいてもしょうがないじゃないですか。』
晋二郎の言葉を聞いた、“ひとみ”は考える顔を見せ、
 『分かりました、吉田さん。 お父さんにそのことを伝えてみます。』
 
そう、“ひとみ”は晋二郎に向かって応えると、
 『じゃー、吉田さん。片づけ手伝ってくださいね。』
 『はい、了解です。』
晋二郎は、“ひとみ”に敬礼しながら応え、
テーブルの上の食器を“ひとみ”と一緒に片づけ始めた。
 
 『ふ~っ。』
 『“ひとみ”さん、片付け終わりましたね。』
 『はい、吉田さん、お手伝いありがとうございました。』
“ひとみ”は、晋二郎に向かって、ペコリと頭を一度下げ、
晋二郎の顔を見ながら、
 『じゃー、吉田さん。 お風呂に入って早く寝てください。』
 『明日も、今日と同じ時間に起きてお父さんの漁を手伝ってくださいね。』
晋二郎は、“ひとみ”に指でOKマークを作って見せてから、
 『じゃー、お風呂先にいただきますね。』

そう、“ひとみ”に声を掛け、食堂を後にして風呂場へと向かった。
 
第4-2章に続く






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