【おもいで】
第4-1章 : どうするか?。
『ただいま~。』
『“ひとみ”さん、戻りましたよ。』
“ひとみ”は晋二郎の声に、
『は~い、お帰りなさい。』
『ポカポカはどうでした?』
晋二郎の顔を見ながら、“ひとみ”が聞いてきた。
晋二郎は、“ひとみ”に向かって、
『いや~最高ですよ!』
『露天風呂から見える日本海は最高ですね。』
『俺、気に入ったので、1時間位入っていましたよ。』
晋二郎と、“ひとみ”の会話を聞いていた、父親が、2人に向かって、
『明日、漁から戻ったら三人で行くか?』
『どうだ、“ひとみ”。』
話を聞いていた、晋二郎も“ひとみ”に向かって、
『“ひとみ”さん、そうですよ。 明日は3人で行きましょうよ。』
“ひとみ”は少しの時間考えていたが、2人に向かって、
ニコっと微笑みながら、
『そうよね、私もたまには温泉に入って疲れを癒してもいいわよね。』
“ひとみ”の言葉に、
『そうですよ、“ひとみ”さん。』
『温泉に入って、日頃の疲れを癒してください。』
晋二郎の言葉に頷きながら、
『じゃー明日3人で行きましょ!』
”ひとみ”の言葉を合図に、
”裕”が車庫に向かうために外に出て行こうとした時、
”ひとみ”父に向かって、
『吉田さん、お父さん、今日の晩御飯は後、1時間ぐらいで食べれるから、そのつもりでいてね。』
『いい分かった。』
“ひとみ”の話を聞いた、父親が、
『“ひとみ”今日は晩御飯の時間早くないか?』
“ひとみ”は頷きながら、
『当たり前でしょ。だって、今日はお昼抜いちゃったんだから、2人とも
お腹空いているでしょ。』
晋二郎と、裕は顔を見合わせながら、
『ハハハハ』
と、笑い出していた。
晋二郎は、食事が用意されるまでの時間地図を眺めていた。
何故ならば、今回のツーリング計画の見直しを考えていたのである。
『どうしようかな~。 何処を変更するかな。』
1人呟きながら、マジックで地図を“コツ”・“コツ”と叩いていた。
『う~ん。』
『どうしようかな・・・・。』
独り言を呟きながら広げた地図を眺めながら、
『やべ、書いてねーよ。』
そう、呟くと鞄の中らマジックを取り出して、3日目の走行コースを地図に書き込んだ。
【3日目:走行コース】

地図にマジックで書き込みが終わると晋二郎は、
地図を睨みだしながら、
『ここ、能登ユースホステルの居心地がいいんだよな~。』
『う~ん、どうするかな・・・・。』
晋二郎は、1人考えながら、
『あと、2日間連泊するかな?』
そう、呟くとまた地図と睨めっこを始めてしまった。
晋二郎が、1人悩んでいた時、食堂から“ひとみ”の声で、
『吉田さん、お父さんご飯用意出来ましたよ。』
『冷める前に食べてください。』
“ひとみ”の声に応えるために
『は~い。 今行きます。』
晋二郎が地図をたたみながら、返事を返した。
『すいません、遅くなりました。』
晋二郎は、“ひとみ”と“裕”にペコリと頭を下げてから席に座ったと同時に、
“裕”が、
『吉田さん、ほれ、持って。』
“裕”が、声を掛けながら“総司(そうじ)”を晋二郎のグラスに注ごうとしていた。
『“裕”さん、ありがとうございます。』
晋二郎と父親のやり取りを見ていた、“ひとみ”が、2人に声を掛けた。
『じゃ、吉田さん、お父さん。 ご飯いただきましょう。』
“ひとみ”が、
『いただきます。』
と、言った言葉に反応するように晋二郎と“裕”も声に出して“いただきます”と挨拶しながら、グラスに注がれた“総司(そうじ)”を飲み始めた。
晋二郎が、“総司(そうじ)”を飲みながら、“ひとみ”が料理したテーブルの上の晩御飯を眺めて、
『“ひとみ”さん、凄いお料理ですね。』
『スズキのお刺身をいただきますね。』
晋二郎は箸でスズキの刺身を皿にとり、“総司(そうじ)”を飲みながら、口へと運んだ。
『美味い!』
『“ひとみ”さん、美味いですよ。日本海のスズキは美味しい!マジです。』
と、言いながら、“総司(そうじ)”とスズキを飲みながら食べていた。
晋二郎の食べ方を見ていた、“ひとみ”が、笑いながら、
『吉田さん、駄目です。』
『そんな、食べ方をしたらスズキ無くなっちゃいますよ。』
“ひとみ”の言葉に“ハッと”した晋二郎は、2人に向かって、
『失礼しました。。。。』
『食べるペース落とします。』
晋二郎の言葉に、“ひとみ”と“裕”は思わず、声を出して笑い出した。
その後も、3人で食事を楽しんでいた。
“裕”が晋二郎に向かって、
『吉田さん、今日の漁はどうだった?』
『楽しかったかい。』
晋二郎は、“裕”の問いに応えるように、
頭を縦に大きく2回頷いて見せた。
晋二郎の仕草を見ていた、“ひとみ”が、
『お父さん、今は駄目よ。』
『吉田さん、口にご飯が詰まっているから話ができないの。』
そう、説明した後、晋二郎にお寿司屋の湯飲み茶碗をそっと、渡した。
晋二郎は、湯飲み茶碗を手に取り、口に運んだ。
『ゴクリ。』
と、晋二郎の喉が脈を打ったあと、
『はぁ~。』
『助かりましたよ。 “ひとみ”さん。』
『ナイスフォローです。』
そう、“ひとみ”に告げてから、晋二郎は“裕”に向かって、
『“裕”さん、もう最高でしたよ。』
『明日も、漁、宜しくお願いします。』
晋二郎は、“裕”から視線を外し“ひとみ”を見ながら、両手を合わせ、
『“ひとみ”さん、明日も美味しいお弁当お願いします。』
『そして、もし可能であれば、おにぎりの数を4個にしてください。』
晋二郎からの要望を聞いた、“ひとみ”と“裕”は、先程と同じように大きな声で、笑いだした。
『吉田さん、笑わせないでください。』
『“お父さん”、私、お腹痛い~。』
“ひとみ”は、笑いを押えようと必死でいたが、
笑いを堪えれば堪える程、可笑しさが込みあげてきて、なかなか笑いを押える事ができなかった。
当の晋二郎は、2人を見ながら、何故に笑っているのかが“理解”出来ておらず、1人でお茶を飲んで、2人の笑いが止むのを待っていた。
“ひとみ”の笑いが、なんとか収まったらしく、晋二郎に向かって、
『吉田さん、明日のおにぎりの数を3個 ➡ 4個に増やせばいいんですよ
ね。』
晋二郎は、“はい”と、素直に応え、
『可能であれば、サイズも一回り大きくしてくれたら最高ですよ!“ひと
み”さん。』
晋二郎のとどめの依頼を聞いてしまった、“ひとみ”は、再び、声を大にして笑い出してしまった。
『吉田さん、ほんと、もうやめて~。』
“ひとみ”わ笑いながら晋二郎に向かって、指で“OKマーク”を作って見せた。
晋二郎はというと、笑い転げている“ひとみ”と“裕”に向かって、
『じゃ~、明日からおにぎりの数とサイズ変更宜しくお願いします。』
そう、告げながら晋二郎は敬礼のポーズをして“ひとみ”に依頼した。
“ひとみ”と“裕”2人の笑いが収まってからは、明日、漁の後に3人で行く“ポカポカ”の話題で話が盛り上がった。
『“ひとみ”。そろそろ父さん、風呂に入って先に寝るよ。』
『吉田さん、明日も楽しい“漁”にしような、期待しているから。』
『じゃー、お先。』
“裕”は晋二郎と“ひとみ”にそう告げると、食堂の席を発ち、鼻歌を歌いながら風呂場へと向かった。
そんな上機嫌の“裕”を晋二郎と“ひとみ”は笑顔を見送った後に、2人で色々な事を話し始めた。
“ひとみ”の話で晋二郎が一番驚いたことは、
『吉田さん、実は私に兄がいることを父から聞いていますか?』
晋二郎は、“ひとみ”の口から出た言葉に驚きを隠せず、思わず箸を停め口を“ぽかーん”と開いた状態で停まっていた。
“ひとみ”は晋二郎の姿を見て三度笑い出してしまった。
『吉田さん、もう、笑わさないでください。』
『私、腹筋が痛くて明日起きれません~。』
“ひとみ”の言葉に晋二郎は、開いた状態の口を閉じて、
『“ひとみ”さん、俺、“裕”さんからは、何も聞いていません。。。。』
“ひとみ”は笑うのを止め、晋二郎の顔を見て、話し始めた。
『実は、私には四つ年上の兄が居てね、5年前に父と大喧嘩して家を出て
行ってしまったんです。』
『父は兄に漁師の仕事を継いで欲しかったんですが、当時、兄も、漁業の
仕事をしていたんですが、仕事の考え方で父とぶつかってしまい大喧嘩に
なって、家を出て行ったんです。』
話を聞いていた晋二郎が“ひとみ”に、
『“ひとみ”さん、“裕”さんは、延縄(はえなわ)ですよね。 お兄さんの
漁法は定置網、それとも別の漁法だったんですか?』
“ひとみ”は頭を左右に振り晋二郎の質問に応え、
『兄は養殖の仕事をしていたんです。』
『父も兄も海の資源を摂りすぎずに守るという考え方は同じなのです
が・・・・。』
『父はあくまでも漁をしながら必要以上に魚を摂らずに自然の力で増やして
いく考えなのですが、兄は漁自体を否定する考えなんです。』
晋二郎は、“ひとみ”の話を聞きながら時折頷いていた。
“ひとみ”との話が聞き終わった晋二郎が、
『“ひとみ”さん、なんで突然お兄さんの話をされたんですか?』
“ひとみ”は晋二郎を見ながら、
『それはですね、吉田さん。』
『吉田さんが、兄さんににているんです。 それにオートバイに乗って
いる事かしら。』
『だから、父も、吉田さんに対して他の人とは違った接し方をしているんだ
と思います。』
晋二郎は、“ひとみ”の言葉を聞いて今日の朝、“裕”さんの知り合いが不思議
そうに自分の事を見ていたのを思い出していた。
晋二郎は、“ひとみ”に質問をした。
『“ひとみ”さん、お兄さんはどんなオートバイに乗っていられたんです
か?』
『やはり、“裕”さんと同じでホンダですか?』
“ひとみ”は、思い出すような顔をしながら、首を横に振って晋二郎の問いに応え、
『吉田さんのオートバイはどちらのメーカーなんですか?』
晋二郎は、素直にメーカー名を告げた。
『僕のはカワサキですよ。』
晋二郎の言葉を聞いて、“ひとみ”は膝(ひざ)を叩いて、
『そう、それ、カワサキですよ。』
『兄のオートバイは。』
『確か父がよく話していたんですよ、“康夫”はなんで“あれ”を買ったんだっ
て。』
『“ひとみ”さん、お兄さんは何に乗っていたんですか?』
“ひとみ”は晋二郎に向かって手を左右に振って、
『吉田さん、私に分かる訳ないじゃないですか。』
『兄のオートバイもまだ、お父さんのと一緒に車庫に入っていますから、
明日お父さんに聞いてみてください。』
『父は、口では色々兄の事を悪く話すくせに、未だに兄のオートバイを
時間があれば整備しているんですよ。』
『ほんと、素直じゃないんですよね。』
そう、晋二郎に話をしながら、“ふっ”と1つ溜息をついた。
少し時間をおいてから晋二郎が、“ひとみ”に向かって、
『今、お兄さんは何処にいるんですか?』
“ひとみ”は、晋二郎に向かって、
『兄は今、富山です。 富山で養殖の研究・開発をしています。』
『実はその兄から富山に来て、自分の仕事を手伝って欲しい旨の相談が
入ったんです。』
晋二郎は、やや驚いた顔を“ひとみ”に見せながら傍に置いてある湯吞み茶碗を
手に取り口へと運び“ごくり”と1口飲んでから、
『“ひとみ”さん、そのことを“裕”さんに話したんですか?』
“ひとみ”は晋二郎の問いに首を横に振り、
『いいへ、話してはいません。』
『何故?』
『父は、絶対に行きませんから。 父は、ここ七尾の海が好きですし、
漁師という仕事に誇りをもっていますから。』
晋二郎は、“ひとみ”の話を聞いて、“うん”と頷いて応えながら、
『“ひとみ”さんは、どうなんですか?』
“ひとみ”は晋二郎の顔を見ながら、
『“どう”って何がですか?』
『いや、“ひとみ”さんは富山に行きたいのかなって思ったもんですから。
聞いてみたんですよ。』
晋二郎の質問に“ひとみ”は直ぐに応えられずに視線をテーブルに落としてから、
『わかりません。』
『ただ、私はここ七尾が好きなんです。出来る事でしたら、父・兄と私の
3人でここで暮らしたいんです。』
晋二郎は“ひとみ”の回答を聞いて、微笑みながら、
『じゃー、その事をお兄さんとお父さんに正直に伝えればいいんじゃ
ないんですか。』
『一人で悩んでいてもしょうがないじゃないですか。』
晋二郎の言葉を聞いた、“ひとみ”は考える顔を見せ、
『分かりました、吉田さん。 お父さんにそのことを伝えてみます。』
そう、“ひとみ”は晋二郎に向かって応えると、
『じゃー、吉田さん。片づけ手伝ってくださいね。』
『はい、了解です。』
晋二郎は、“ひとみ”に敬礼しながら応え、
テーブルの上の食器を“ひとみ”と一緒に片づけ始めた。
『ふ~っ。』
『“ひとみ”さん、片付け終わりましたね。』
『はい、吉田さん、お手伝いありがとうございました。』
“ひとみ”は、晋二郎に向かって、ペコリと頭を一度下げ、
晋二郎の顔を見ながら、
『じゃー、吉田さん。 お風呂に入って早く寝てください。』
『明日も、今日と同じ時間に起きてお父さんの漁を手伝ってくださいね。』
晋二郎は、“ひとみ”に指でOKマークを作って見せてから、
『じゃー、お風呂先にいただきますね。』
そう、“ひとみ”に声を掛け、食堂を後にして風呂場へと向かった。
第4-2章に続く