★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2022/01/20|その他
★ 拾ってくれた神さま ★≪男と女の風景 191≫
 
                       2022年1月6日(木) 00:00 更新

   ○ 草花たちのレポート

 今回は、春から夏、さらに秋になっても咲いていた園芸種の代表である≪パンジー≫の花を3枚を紹介します。
 
  ≪写真・左・・詳細不明
  写真・中・・詳細不明≫
  ≪写真・右・・詳細不明
 ネットで≪三色すみれ≫を検索してみたら、≪あき≫さんの≪パンジーの花言葉は、英語名は? 三色すみれとなった理由は?≫が大いに参考になりました。  以下、他の人の内容を含めて、その要点です。
 
 三色(サンシキ)すみれは、すみれ科で、ヨーロッパ原産の越年草であり、蝶が舞うような花です。
 花の色は、紫・白・黄と、赤・青・黄と三色の組み合わせで、ビオラとも言われます。
 ただ、花の径が5センチ以上がパンジー、4センチ以下がビオラとのこと。
 花言葉は、≪もの思い≫で、考え込んでいる人の顔だそうです。仏語でパンセとは思想であり、それが語源だとか。

 
 また、ヨーロッパでは、バレンタインデーにパンジーを恋人に送ります。
 その逸話は、聖バレンタインが牢獄に入れられた時、その窓にそっと咲いたスミレの花を見つけました。彼女はその花に『私を忘れないでください』と語り、そのメッセージを鳩に託したことが、由来とのこと。
 

 
               ≪男と女の風景 191≫

   ★ 拾ってくれた神さま ★
 
 菊池裕也は今、藤沢駅北側のコンコースで、独りぼんやりとベンチに座っていた。
 空は晴れていたが、目の前には、デパートと大型電気店の高いビルが左右にそびえ立っていた。
 裕也は、それを交互に見上げながら、そのボリュームにもう気分も圧倒されていた。
 
 そして裕也は、今日もハローワーク藤沢に、職探しで出向いたのだ。
 しかし、このご時世だから、自分に適した仕事などなかった。
 仕方がないから、最後は不慣れなトラック運転手に応募するしかないと、腹を括ってはいた。
――そう、喰って生き延びるには、どんな仕事でもやるしかないかも・・。
  でも、オレには生きる意味なんて、あるのかな。
  ああ、『人間失格』って、太宰治の小説があったな。
  でも、≪失格者≫だなんて、
  そんな烙印を押す意味さえ、オレにはないかも・・。
  確か、女を道連れにして、入水自殺をしたとか・・。
  今のオレと同じで、ダメな自分から逃げたかったのかも・・。

  営業マンの頃は、無我夢中で仕事をやったよ。
  他の同僚には負けまいとして、オレのプライドを賭けてな。
  でも、今、振り返れば、自分の身を削って、消耗していただけ・・。
 
 夕暮れ時の通路には、襟を立てて寒さを凌ぎながら歩く人たちが見えた。
――アァア、大学の頃が懐かしいな。
  オヤジがガンで死んで、本家から大学の学資を出してもらって・・、
  東京暮らしをしたけど、なにもいいことがなかったよ。
  だって、夜はコンビニでバイトをして・・。
  そう、卒業試験も、友達の下宿先で、ノートを借りて一夜漬けだった。
  オフクロは、少ない年金で独り暮らしだし・・。
  これからのオレは、お先真っ暗だから・・。
  そんなダメな自分から、逃げたいよな。
 すると、ホームレスの男が大きなリュックを背負って、目の前をとぼとぼと歩いていった。
――ああ、オレの末路を見ているようだな。
  きっと、今日もオレは、ただ生き長らえてるだけだよ。
  そう、目先の食い物をめざしてな。
  だから、体が働けるうちに、金を貯めておかないと・・。
 
 それから裕也が、駅のコンコースをとぼとぼと歩き、北側から南の階段を降りて、バス停に立った時だった。
「アラー、菊池さん」
「エッ、誰だっけ・・」
「私、早苗。判りませんか・・」
「イヤァ、見たことはあるけど・・。でも、どこで、かな・・」
 菊池裕也は、その女の顔には見覚えがあったが、いつ、どこで見たかは、思い出せなかった。
「ほら、昔、タチバナ通りにクラブ≪ジャガー≫って、あったでしょ」
「オオ・・、あの2階の・・、女の子が10人ぐらいいたクラブ・・。あったね。その時も、名前は早苗だったの・・」
「そう、秋田の女、って、何度もご指名を戴いて・・」
「オオ、あの早苗か。思い出したよ。あのショートカットの・・」
「そう。あの頃は、田舎丸出しの、元気娘だったけど・・」
 早苗は、見違えるほどに大人に見えたし、しっとりとした秋田美人になっていた。
 
 あれは5年前の、裕也が30才の頃で、マンション販売の営業マンとして羽振りを利かせていた頃だった。
 裕也は今も独身だが、当時は、歩合制の給与は良かった。だから、ちょっと高級なクラブだったが、週に2回ほどは通っていた。
――ああ、あの頃が、オレのピークだったのかも・・。
  今はボロボロで、喰って行くのがやっとだよ。
  あの時代は、過去の栄光かも・・。
 裕也は、秋田でも市内だったが、早苗は奥羽本線をさらに北に行った能代の出身で、裕也より3才も年上だった。
 聞けば、能代高校を出て農協の事務員をしていたが、23才で農家の長男と結婚して、28才で離婚したとのこと。
 原因は、子供が出来なかったからだと、本人は言っていた。
 
「菊池さん、どうですか。私のお店に、寄っていかないですか」
「エーッ、君はお店をやってるの」
「ええ、小さな小料理屋ですけど・・。直ぐそこのビルの3階で・・」
「ウーン、いいけど・・。正直に言うと、オレは今、失業中でね。金が・・」
「アラ、いいわよ。あの時のお礼返しですもの・・」
 裕也は、早苗をそんなに面倒を見たとは思っていなかったが、早苗はかなり恩義に感じていたのだ。
 
 早苗は離婚して、暫らくは実家の農業を手伝っていたが、田舎の閉鎖的な世間体もあって、幼馴染を頼って藤沢に出てきたのだ。
 そして、結局は手頃なスナックから、クラブへと転々として、≪ジャガー≫で、同じ秋田出身の裕也と出会ったのである。
 確かに、当時はファッションや言葉使いも、センスが余り良くなくて、客からのご指名も少なかった。
 だから、気の合う裕也に指名されて、すごく助けられたと、たまらなく嬉しかったのだ。
――そうよ、あの頃、私はお金はないし、気持も寂しくて・・。
  アパートへ帰っても、孤独感に襲われてさ。ヒザを抱えていたの・・。
  離婚されたという世間の眼に、耐えきれなくなって、
  自分から秋田を出て来たけど・・。
  でも、独りぼっちで頼れる人はいなかった。
  世間に捨てられて、必死に這い上がるよう、頑張っていたのよ。
  でも、同郷の秋田の男、菊池さんに助けられたの・・。
 それから、二人は、飲み屋街へ続く裏道をとぼとぼと歩いていた。
 
 そして、店に着くと、その入口には、藍色の布地に≪さなえ≫と白抜きされた暖簾がかかっていた。
 さらにそれを掻き分けると、白木の格子に曇りガラスの引き戸があった。
 早苗は、中に入るなり明かりをつけると、直ぐに「先ずは、ビールでいいかしら・・」と聞いてきた。
「ああ、ビールなんて久しぶりだな。最近は喰って行くのが、やっとでね。宜しく・・」
 それを聞いて、早苗は、ジョッキを用意しながら、裕也が経済的に相当に困っているのだろうと察した。
 そして、出されたジョッキを、裕也は愛でるように受け取ると、さっそくグイッと美味しそうに飲んだ。
「菊池さん、今日の晩御飯、未だでしょ。有り合わせの残り物だけど、作ってあげようか」
「オオ、助かるな。なんでもいいよ。お腹がいっぱいになるなら」
「サバの干物にお味噌汁だけど、いいかな」
 早苗は、時々自宅で夕食を作るのが面倒だから、お店で軽く済ませていた。
 
「でも、菊池さん、職安だなんて、どうしたの・・」
「会社が倒産して、失業保険でさ、今は食い繋いでいるんだ。酷い世の中になったもんだよ」
 早苗は、慰めようがなくて、黙って食事を作っていた。
 そして、ビールが飲み終わる頃、小さなお盆に、ご飯と味噌汁、さらに焼いた塩サバが乗っていて、漬物が付いていた。
 すると、早苗もカウンターに来て、二人並んで食べ出した。
「アア、うめえな。この燻りがっこ(イブリガッコ)、懐かしいな」
「ああ、それはね、秋田の弟から送ってきた残り物・・」
 裕也は、遠く秋田を思い出しながら、カリカリと噛んでは味わっている。
「でもね、菊池さん、私は今、実家で弟と食事をしている、そんな懐かしい風景を思い出してるの・・」
 早苗は、年上だったから、今は裕也を、まるで身内の弟のように見ていた。
 
「でもさ、早苗ちゃん、アッ、もう今は女将かな」
「アラ、どっちでも、いいわよ」
「でも、女将さんは、いい女になったよな。あの頃から、美人だったけど、センスがイマイチで、しかも平気で高笑いをしてたからな」
「お蔭さまで・・」
 今はエプロン姿だったが、長い髪を撫でつけて後ろで纏めて、艶っぽく化粧もしていたから、若女将のように色っぽかった。
「でも、店を出すなんて、頑張ったんだね」
「ええ、小料理屋を目指して、必死でしたよ。昼間はコンビニでバイトをして・・。そう、食うや食わずで、必死に貯金をしてね」
――そうか。自分の店を開くのが目標だったのか。
  だって、文無しで、田舎から出て来たんだろ。
  ああ、尊敬しちゃうな。
  オレだって、やれば出来るかも・・。
 裕也は、なんとなく元気づけられて、頑張る気持が湧いてきた。
「このお店はね、コロナ禍で客足が減って、前の女将さんが居抜きで手放したのよ。だから、ビッグチャンスだと思って・・」
「そうか、コロナ禍を逆手に取ったのか・・」
 早苗は、自分なりの目標を定めて、強い意志を持っていた。
 
「菊池さん、これから、どうするの・・」
「ウーン、家賃や生活費が大きくてね。トラックの運転手なら、就職口があるから、最悪はそれで・・」
 裕也は、気分を落としたままで、あまり乗り気ではなかった。
「だってさ、田舎者だから、この辺の道路を知らないんだもの・・」
 すると、早苗はどうしたものかと、眉間にシワを寄せて考え込んでいた。
 そして、その挙句に、カウンターの前で裕也に向き合うと、あらぬことを言い出した。
「菊池さん。一緒に暮らさない・・。ただし、セックスレスよ」
 裕也は、その言葉の意味が直ぐには呑み込めなくて、ジッと早苗を見詰めていた。
 だが、ふと閃いて「エエーッ、そう言うことか。それなら喜んで・・。オレもセックスが苦手でね」と、裕也は笑顔を取り戻した。
 早苗は、結婚してから子供が出来なかった。だが、医者からは亭主の方に問題があるのではと、言われていた。
 しかし、結婚相手や家庭に縛られる生活には、もう耐えがたい辛抱だと思っていたのだ。
 
――でも、この人、酔っぱらった時、プチュッと大胆なキスをしてきて・・。
  見たら、私の口紅が、ベットリと口の回りについていたわ。
  そう、それから、私のオッパイも揉んできたのよ。
  私も久しぶりで感じたから、暫らくは任せたけどね。
  あれは、今期の営業成績がトップで、皆と盛大に飲んだようで、
  それでも、飲み足りなくて、ジャガーに来ても飲んだの・・。
  そして、アフターで朝までやってるスナックでも飲んで、
  最後は、酔い潰れたのよ。
  ひと眠りした朝方に、タクシーを呼んで送り出したけど・・。
  あの時に、私を大胆に求めてきたのよ。
  やっぱりストレスが溜まっていて、本能が目覚めたのかも・・。
  でも、その日は、10時までの4時間しか眠れずに、
  目を真っ赤にして、コンビニのバイトに出たんだ。
 
 すると、裕也が考えた上で、さらに条件を付け加えてきた。
「それからさ、条件をもうひとつ・・。家賃とかは折半という条件でね」
「アラ、いいの・・」
「実はさ・・、今は払えないけど、借金の扱いで、どうかな。いつかは必ず返すから・・」
「ウーン、それって、私の貯金になるのかな。だったら、家賃と食事代を込みで7万円でいいよ」
「エッ、食事代も含めて・・」
 早苗は、黙って頷くと、「昔、すごくお世話になったから・・」と呟いた。
 
 そんな話から、早苗は昔の出来事が、頭に浮かんできた。
――そうよ。あの時は、すっごく助けられたの・・。
  田舎の弟から、母が胃ガンで突然、入院した、って・・。
  血を吐いたから、医者は長くないって・・、そんな連絡が入ったの・・。
  でも、あの時はね、藤沢に来て半年だったからさ、
  私には、秋田に帰るお金がなかったのよ。
  あれは、菊池さんの席に付いていた時、だったな。
  病気の母を思い出すと、我慢できなくなって、思わず涙を溢したのよ。
  そしたら、事情を聴いてくれて、その場で5万円を貸してくれたのよ。
  そして。夜行列車に乗って、やっと間に合ったの・・。
  でも、母はもう意識を亡くしたままで、あの世に行ったわ。
  私、泣いたよ。ワンワン泣いた。神様を呪った。
  でも母は、健やかな笑みを浮かべたまま、眠っているようだった。
  私は、この人のお蔭で、母の死に目に会えたのよ。
 
 しかし裕也は、早苗の作ってくれた夕ご飯を美味しそうに食べながら、別のことを考えていた。
――ああ、知らない土地の藤沢で、同郷の田舎者に助けられたよ。
  借金にはなるけど、でも頑張れば・・。
  そう、借金の返済だから、ヤルしかないし、
  ああ・・、ヤル気が出て来たな。
 早苗は、新店舗を出すに当たって、貯金をかなり取り崩していた。
 だが、クラブ時代の客ともコンタクトできていたから、頑張ればなんとかなると読んでいた。
「ああ、女将さん、この世の中、拾ってくれる神さまって、いるんだね。オレ、ガンバルからさ」
「そうね。頑張ろうよ。でもね、最初に拾ってくれたのはアナタよ。だって、あの頃はお先真っ暗で、絶望的だったから・・。私、海にでも飛び込むしかないと、覚悟を決めてたの・・」
「そうか。オレも、さっきまでは、そんな心境だったよ」
 二人はカウンターの前で見つめ合うと、手を取りあった。
 そして、思わずお互いに抱きしめ合っていた。
 
                              ― おしまい ―
 

 





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