上:野辺山の牧舎(油彩 6F) 中:奥多摩西端の山々(木炭 SM) 下:雲を纏う八ヶ岳(油彩 30変) 八ヶ岳東麓に広がる野辺山高原。かっての森林鉄道、野菜列車は今では新型車両で観光客を運び、佐久へ抜ける国道141号線は季節の連休ともなれば、渋滞を起こすほどのたいそうな賑わいを見せている。 はじめて野辺山高原を目にしたのは1955年。穂高からの帰り、涸沢からの道すがら、「行ってみようよ」の声に誘われて八ヶ岳に回り、赤岳を越えて県界尾根にかかる時であった。足下から一気に落ちる崖垂のムーヴは、斑らに見える草地のあたりを滑りながら千曲の源流を越え、奥多摩西端の山際で静かに止まるかのようだった。眼下に広がる原。そこには何かしら惹かれるものがあった。後日、雑誌『山小屋』に載った尾崎喜八「念場ガ原、野辺山ノ原」を目にした。そして、その後、手に入れた尾崎喜八の『山の絵本』は私を八ヶ岳とその周辺に決定的に惹きつけた。 あのとき私を八つに誘ったパートナーは翌年北岳のバットレスに堕ちた。残された私は彼と誓ったヒマラヤを諦め、あれから五十年。今、八つの麓をひとり歩いている。時折、北岳を仰ぎながら。 ・・・『八ヶ岳東麓』・・・ |