少年詩時評『からだ その2「あたま―髪」』 佐藤重男
□ 今回は、「あたま」について見てみようと思います。 「あたま」と言えば、「かみ(髪)」、ですよね。 タイトルに「かみ(髪)」が登場する作品。1編だけ見つかりました。 全文を引いてみます。
髪の毛 土屋律子
朝の通学路 髪の毛とかすの 忘れた子 はねた髪の毛の先に 昨日みた夢 とまってる
朝の校庭 ジャングルジムで 遊んでいる子 やわらかい髪の毛の先から 夢のかけら おちていく
『るすばんカレー』」銀の鈴社 05・12
□ 続いて、作品の中に登場する「かみ(髪)」です。たくさん、あります。その数、かみ=12、髪=28、その他(しらが1、白髪1、かみかざり2でした。 少し長くなりますが、いつものように、一覧を掲げます。
秋がきた 小野寺悦子「小野寺悦子詩集」いしずえ 耳も髪も/さんせいした あこがれ 星乃ミミナ「星空の旅人」銀の鈴社 88.12 私は あの彼に 逢うたびに/髪のリボンを かえました 雨 帆草とうか「空をしかくく 切りとって」銀の鈴社 19.11 恋人は 髪を切りに行っている 黒い雨 さとう恭子「銀のしぶき」銀の鈴社 88.12 黒い雨よ/やめて/妹のこげた髪をよごすのは 六月の雨 小泉周二「太陽へ」銀の鈴社 97.11 ぼくの肩にまっすぐ/君の髪にまっすぐ 少女の海 川崎洋「海があるということは」理論社 05.3 たとえば/髪の毛の中に 揺れやまぬ波を おかあさん 中馬洋子「現代少年詩集94」 髪を赤く染め/はげしい言葉を使い さくら 金親尚子「あたたかな大地」銀の鈴社 95.4 長い髪をした少女と少年がかたをくんで しゃぼん玉 秋葉てる代「おかしのすきな魔法使い」銀の鈴社 99.10 先生の髪 やさしくかざれ 紅つばき 高瀬美代子「仲なおり」銀の鈴社 94.3 つややかな髪を/二月の風になびかせ 花天使 日友靖子「花天使を見ましたか」銀の鈴社 91.11 赤ちゃんの ほそい髪をゆらす 夕方の電車 さわだ さちこ「ねこたちの夜」出版ワークス 13.12 ふさふさと 金の髪をなびかせて どっち 江崎マス子「こうこいも」らくだ出版 11.3 頭ん髪毛をそっぱられそうやとです 人魚をつかまえた 垣内磯子「よなかのしまうまバス」銀の鈴社 97.12 みどりの髪の ちいさい人魚 変? 星野良一「星の声、星の子へ」銀の鈴社 22.12 ぼくは男の子なのに/髪を長く伸ばしたい 花 薫実里「山の風」てらいんく 08.7 私の髪に/やさしい手が置かれているのが 花吹雪 垣内磯子「午後の光」パロる舎 05.10 わたしの髪にもひとひらの郵便 踏切 宍倉さとし「海は青いとはかぎらない」銀の鈴社 94.3 髪をポニーテールに結び 枕 たのみつこ「眠れない夜は」てらいんく 08.10 思い出せない夢は/ねぐせの髪に/からまっている 迷い 杉本深由起「いつだってスタートライン」理論社 07.3 川風に 髪なびかせて 朝の道 かわてせいぞう「野原のなかで」銀の鈴社 91.2 ゆたかな髪に/白い蝶は 見ている 小松静江「古自転車のバットマン」銀の鈴社 94.3 背中までのばした髪が/さあっさあっとなびく 麦 水上不二「ぼくは地球の船長だ」理論社 06.8 髪をけずるひまもないマリアさまだったか。 四季のむすめ 日友靖子「花天使を見ましたか」銀の鈴社 91.11 髪に咲く花は サクラ 約束 新川和江「野のまつり」銀の鈴社 78.2 おさげ髪に そっと/あたらしいリボンを結んでくださいました やまんば 薫実里「山の嵐」てらいんく 08.7 私はやまんば/ぼうぼうの髪をときつけ 粉雪 はたちよしこ「海がビアノを引いている」木元省美堂 21.12 うつむいている青年の髪はぼさぼさだった 夜 小野浩「草幻郷の獏」椋の木社 89.3 君は長い髪を指でまるめながら/学生時代の話をしたね ――計、29編 ◆ やわらかいかぜ 大洲秋登「たちあがれ」かど創房 00.7 ながいかみの毛をなびかせて かっぱの おさら 宮澤章二「知らない子」国土社 75.12 かっぱの かみの毛 ひっぱった か のうた 岩佐敏子「へんてこあそびうた」リーブル 19.7 かみのけがすくないので/かつらをかぶり せんぷうき 石原一輝「雲のひるね」銀の鈴社 09.3 あかちゃんの/かみのけ そうっと ちょう さかのまこと「ひらがなうた」ブイツーソリューション 06.5 あなたの かみに/ふっと はねをやすめた でていった 木村信子「でていった」銀の鈴社 86.7 りゅうの なみだで/かみ あらい にほんご 星野良一「星の声、星の子へ」銀の鈴社 22.12 かみとかみと ちがいます ママは反抗期 まえだとしえ「かくれんぼ」四季の森社 18.12 ―ママ かみきらないでね ブランコだいすき 田沢節子「わき水ぷっくん」銀の鈴社 17.7 なかよくかたくみ かみのけそよぐ ふゆのはじめ いちかわゆう「あおいとり」ぶんしん出版 21.12 ぼくの/かみのけ 水たまり 中島和子「新しい空がある」銀の鈴社 97.6 池をのぞいて かみがた かえた ゆうやけ じんじん 阪田寛夫「ほんとこうた へんてこうた」 大日本図書 99.12 あのこの かみのけ/きんの こな ――以上、12編。 ◆ ははのしらが 大楠翠「はてなとびっくり」銀の鈴社 19.3 ははの しらがが うかんだ 夕暮れの電車の中で 小沢千恵「やわらかな地球」銀の鈴社 18.2 白髪に古い毛糸の帽子 ◆ ままごと 黒田恵子「ボクのすきなおばあちゃん」銀の鈴社 97.11 ゆらゆら赤いかみかざり 石の顔 永窪綾子「蝸牛」12号 椿の髪かざり 頭にさして
□ 「髪」が圧倒的に多かったのは、星野良一の作品「にほんご」(「星の声、星の子へ」銀の鈴社 22.12)にもあるように、「かみ」だと「紙」あるいは「神」とも読めてしまう、ということから、少し硬いかも知れないが「髪」と表記した方がわかりやすい、という判断があったものと考えられます。どうでしょうか? * 少年詩が、「髪」にこだわるとしたら、それは、どんな理由からなのでしょう。その人の容姿を表現することで、個の人格を際立たせようとする、という意思がはたらいているからではないか、そんな仮説を立ててみました。 腕、足、手指などの身体的な部位は、それが動作、つまり、動きが伴うことで特異な存在として見えてきますが、一方、白髪、長い髪、などなど、その存在だけでその人の個性として見えてくる、という特徴を持つのではないでしょうか。 * では、先に挙げた一覧の中で、髪がどう描写されているかを見てみましょう。 私はあの彼に 逢うたびに/髪のリボンを かえました 椿の髪かざり 頭にさして ながいかみの毛をなびかせて かみのけがすくないので/かつらをかぶって 長い髪をした少女と少年がかたをくんで 先生の髪 やさしくかざれ つややかな髪を/二月の風になびかせ 赤ちゃんの ほそい髪をゆらす みどりの髪の ちいさい人魚 ぼくの/かみのけの ぼくは男の子なのに/髪を長く伸ばしたい 私の髪に/やさしい手が置かれているのが わたしの髪にもひとひらの郵便 髪をポニーテールに結び 池をのぞいて かみがた かえた ねぐせの髪に/からまっている 川風に 髪なびかせて ゆたかな髪に/白い蝶は 背中までのばした髪が/さあっさあっとなびく 髪に咲く花は サクラ あのこの かみのけ/きんの こな おさげ髪に そっと/あたらしいリボンを結んで 私はやまんば/ぼうぼうの髪をときつけ うつむいている青年の髪はぼさぼさだった 君は長い髪を指でまるめながら
□ そんななかでも、 ながいかみの毛をなびかせて つややかな髪を/二月の風になびかせ なかよくかたくみ かみのけそよぐ 川風に 髪をなびかせ 背中までのばした髪が/さあっさあっとなびく など、「なびく」という動きのある描写もありますが、それは、髪が自分の意志で動いているのではなく、ほかの力を借りてのこと、と考えられ、やはり、髪は、静的象徴とみていいようです。 また、このほかにも、「つややかな髪」「みどりの髪の」「ねぐせの髪に」「ゆたかな髪に」「髪はぼさぼさだった」「ぼうぼうの髪を」「長い髪を」などの描写も見られました。 ただ、「こうだろうな」と考えていた、黒い髪、といった描写がほとんどないことに驚きました。 というのも、昭和の時代の話になりますが、「色の白いは七難隠す」とか、「黒髪は女の宝(鏡と櫛は)」とも言われたことがあり、「黒髪」は不可欠な描写だと思い込んでいたからこその驚きだったわけですが、それは、今にして思えば男の価値観の押しつけ≠ノ他ならないということに尽きる、と思います。 少年詩の世界では、こと髪に関しては、「男の価値観」など入り込む隙間もなかった、ということでしょう。 * 「髪」をテーマにしたからには、「髪には魂が宿っている」という日本古来の言い伝えや、グリム童話の「ラプンツェル」、あるいは、長い髪を豪快に振り回し、可憐な娘から勇壮な獅子へと変化する歌舞伎の獅子踊に見られる「毛振り」(この項、一部ネットから引用)、そして、長い髪で顔を隠した妖怪のことにも触れなければならないのですが、力及びませんでした。
□ この項の最後に、どうしてもみなさんに読んでもらいたい作品があります。 それは、「黒い雨」(さとう恭子「銀のしぶき」銀の鈴社 88.12)です。 全文を引きます。
黒い雨 さとう恭子
あめよ 黒い雨よ やめて 妹のこげた髪をよごすのは
あめよ 黒い雨よ やめて母のただれた背中をぬらすのは
あめよ 黒い雨よ せめて 流して胸にひきつるせつないいたみを
『銀のしぶき』銀の鈴社 88.12
□ では、「髪」についての論考はこの辺で閉じて、次回は、「目」について見て行くことにしたいと思います。
― この項 続く ―
いつものことですが、引用あたっては、誤字・脱字等のないよう努めましたが、何かお気づきの点がありましたらお知らせください。また、作品「髪の毛」(土屋律子)、「黒い雨」(さとう恭子)の引用に際しては、著者や出版社などから事前の許諾を得ていませんが、引用先を明示していること、商業目的ではないこと、そして、論考への引用であることをもって、格段のご高配のほどいただければ幸いです(文中、敬称略)。
2026/8/19 |