同人誌『こぶし 15号』の詩編を読む 佐藤重男
□ 同人誌『こぶし 15号』(こぶしの会 2026.10)が届きました。 いつものように、順に作品を見て行こうと思います。
□ 宇田川直孝「思い出せない」「夢虫」「二つの音 と」「おめかげさん」「夕日と子ども と夜」 作品「思い出せない」は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状は、一般的には災害、事故、戦争などによる精神的衝撃(トラウマ)などによるフラッシュバック(意図せぬ記憶のよみがえり)をさしますが、逆に「思い出せない」のも、突然母親を失うことの精神的衝撃の大きさを物語っているのではないでしょうか。「青く澄んだ空」という、肯定的な現象に対して「不安」を感じるという非日常性が、そのことを示唆してくれているようです。 * 作品「夢虫」は、コスモスが群生するなか、「菜の花畑」の在り処を訪ねるという不可解さが、人生の「迷い子」を想起させます。ここにも、「不安」が漂っています。 * 作品「二つの音 と」は、「音」のあとに一文字空いて「と」が置かれてますが、この��間�≠ノこそ、作者の意志が隠されていると思われます。それにしても、「闇」「彷徨」という「陥穽」から、「わたし」はどう逃れようとしているのでしょうか。それとも、一生、囚われ人として「闇の中」に閉じ込められてしまうのでしょうか。ラスト二行、 行き場もなく もがく 自分が壊れていく 音がする は、何を暗示しているのでしょう。 * 作品「夕日と子ども と夜」もまた、一文字の余白が設けられています。 この作品も、壊れかけた抒情をうたいあげている、と言えなくもありませんが、どうでしょう。やはり、かけがえのない心的よりどころを失った、そのあまりの衝撃、それが宇田川の作品世界を形作っている根幹の��色�≠ネのかもしれません。
□ 鳳 梨花「マーガレッツホープ」「ティータイム」「共存」「元旦」「カモオアレワ」 作品「マーガレッツホープ」のタイルは、茶園を愛し、許嫁の住む英国に戻る船旅の途中に亡くなった、その娘の名前を付けた茶園の名前。 終連に流れる、娘に捧げられた哀悼の念の穏やかさが印象的です。 * 作品「ティータイム」のいう、「目覚めの朝は/アッサムで「休憩時間は/ニルギリで」は、紅茶をこよなく愛する人たちに共通の心境なのでしょうね。 * 作品「共存」は、自然とのそれ。さて、「大阪の北海道」とは、どこにあるのでしょうか。ネット検索してみたところ、大阪府の能勢町は観光スポットとして著名なことは分かりましたが、「大阪の北海道」というフレーズは見当たりませんでした。下手な観光紹介よりも、作品「共存」を全文そのまま使ってはどうでしょうか。 * 作品「元旦」は、前段があってこそ後段がいきているのではないでしょうか。それにしても、海の中の魚たちには観光も、元旦もないようで、人間たちが決めた「日付変更線」なるもののあいだを、 行ったり来たり 泳いでいるのだ、とか。 * 作品「カモオアレワ」のタイトル、熱帯地方の果物のことかと勘違い。 地球の周りを 回っている小惑星のことのようです。 小惑星といえば、10月20日未明、火星衛星探査計画「MMX」の探査機が無事打ち上げに成功。2013年7月に、地球に帰還の予定だそうですから、それまでのあいだ、どんな知らせが届くのか楽しみです。
□ 安田 充「なつやすみの宿題」「白い審判席」「なごる夏」「再読み込み」「本当はね」「氷の花」 作品「なつやすみの宿題」 やる やらない やる やらない まるで「花占い」のようですが、思った通り、どっちつかずの展開に…。 * 作品「白い審判席」は、タイトルに興味津々で読み進めましたが、そこは、テニスコートの審判席だったのですね。「廃校」の一文字が、作品全体を引き締めてくれているようです。 それにしても、「白い審判席」は意味深で、わたしたちを引き付けずにはいない、それほどのインパクトを持っています。 * 作品「なごる夏」のタイトル、「なごる」に戸惑いました。なんともお恥ずかしいことに「なごる」が分かりませんでした。辞書で調べたところ「名残る」、つまり、名残惜しい、ということだと分かりました。ああ、恥ずかしい! 出だし、 通りかかった公営プールに の「公営」がいいですね。 * 作品「再読み込み」は、ラスト、 この季節にあった全部のことの「全部のこと」が作品を生き生きとしている、そう思います。 * 作品「本当はね」は、子どもの視点でみた大人たちの言う「日常」とは、というトレンディな話題に取材しています。 日常は 「なんでもない」ものじゃなくて 「なんでもある」もの
そうですよね、知っていながら知らない素振り、が日常茶飯事のわたしたちへの痛烈な警告。 * 作品「氷花」は、詩だからこそできる問題意識の表意ではないか、そんなふうに思います。ある意味、わたしたちがしなければならない、そのことを先取りしている、という意味でも。アフガンで活動してきた、故・中村哲医師を想起せずにはいられません。
□ 今号のお薦めの作品は、宇田川直孝「二つの音 と」です。全文を引きます。
二つの音と 宇田川直孝
部屋に独り 闇の中 眠れぬままに妄想に彷徨う 聞える音は 二つ 時を刻む音 降る雨の音
傘が広がる わたしを覆い隠すよう 闇がより深い覆いを掛けた
閉じ込められた妄想が 行き場もなく もがく 自分が壊れていく 音がする
同人誌『こぶし 15号』こぶしの会 2026.10
□ 「☆あとがき」で、二人の同人が、尾上尚子に触れています。かつて、少年詩・童謡・詩論研究会で、何冊かの音読集を発行したことがありましたがその時、多くの人たちが「無理、無理」と言ったのに対して、「やろうよ」とわたしたちの背中を押してくれたのが尾上尚子でした。 何事にたいしても、訥々と語る、そんな、尾上尚子は、わたしにとっても忘れられない一人です。 * 同人誌「こぶし」では、少年詩に興味のある方の参加を呼びかけています。ぜひ、門を叩いてみてください。敷居は低いこと請け合います。
― この項 完 ―
いつものことですが、詩集名や新聞記事などの引用あたっては、誤字・脱字等のないよう努めましたが、何かお気づきの点がありましたらお知らせください。 また、作品「二つの音 と」の引用については事前に著者・同人誌の発行元などから事前に許諾を得ていませんが、引用先を明示していること、論考への引用であること、そして、商業目的ではないことなどから、関係各位の格段のご高配のほどいただければ幸いです。(文中、敬称略)。
2026/10/22 |