少年詩時評『AIとSNS』 佐藤重男
□ 前回、 【「口笛」、それは、愉快な、あるいは、うれしい気持ちのときに口からが飛び出す、という具合に、歓喜のシンボルとしての「口笛」、ということができるのではないでしょうか。】 ということを書きましたが、そういえば、と思い当たり、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を読み直したところ、次のような一節が目に留まりました。
― ジョバンニはにわかに顔いろがよくなって威勢よくおじぎをすると、台 の下に置いたかばんをもっておもてへ飛びだしました。それから元気よ く口笛を吹きながらパン屋へ寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買い ますと一もくさんに走りだしました。
―『銀河鉄道の夜』フォア文庫 岩崎書店 1986年7月 第21刷P105
そして、こんなくだりも。
― ジョバンニは、口笛を吹いているようなさびしい口つきで、ひのきのま っ黒に並んだ町の坂を下りてきたのでした。 ―同 P110
□ 本題に入ります。 これまで、本ブログ(「少年詩時評」)で、AIについて何度か取り上げてきましたが、9月8日付の次の見出しの記事を読んで、これまで漠然と感じていたことを上回る事態に、びっくりを越えてなんとも言えない不安に襲われたのでした。
AI暴走 人間さながら連携 オープンAI報告書 ―東京新聞9月8日付見出し
そして、この日を起点に、連日のようにAIに関する記事が紙面をにぎわしています。
AIが「人類滅ぼしかねない」在米研究者 開発競争懸念し退職 ―東京新聞9月11日付見出し AI開発「原則が必用」リスク懸念 米2社トップが表明 ―同 AI冷戦 引かぬ米中 暴走・悪用懸念の声届かず ―同
* 9月17日の新聞では、AI関連の記事と隣り合わせで、SNSの利用制限に関するEUの動向が報じられているではありませんか。 EU、15歳未満のSNS制限 「キッズ法」中毒性対策義務づけ ―東京新聞9月17日付け見出し AI開発 揺れる米 「脅威に大綱」超党派訴え 「新法不要」エヌビディア 「競争から距離」MS ―同 * さらに、9月18日の新聞も、AIとSNSについての記事を並べて報じています。 AI 対応不可欠 国連総長 国際連携訴え メタCEO 開発減速反対 企業の自主性強調 ―東京新聞9月18日付見出し EUキッズ法案 発表 動画・SNS 15歳未満制限、3歳未満は禁止 ―同
□ これまでのAIに関する報道記事は、どちらかというとそのメリットとデメリットの両方に目を配る、いわば功罪相半ば≠ニいうスタンスでの報道ではなかったでしょうか。その一部を切り取ってみます。
1/6 26年の経営課題は「AI」「地政学リスク」「関税」主要企業トップが年頭所感表明 1/17 性的偽画像 Xに対策要請 政府が初対応 AI法での指導を視野 小 野田担当相 2/2 生成AI 利用は2割 千葉大調査 75歳以上の利用率低く 利用し ない人の4割「必要性感じない」 2/8 【こちら特報部】人気就職先の業界「倒産過去最多」 生成AI進化 コン サルに影? 資料作成など代替か「人間の機微や情緒 どこまで」 2/14 AI時代の人材育成 柱 文科省 高校改革基本方針発表 2/27 【核心】AI悪用 低年齢化 保護者よりも知識 好奇心から犯罪 2/27 エヌビディア四半期最高益 11月〜1月期 AI需要で業績拡大 2/28 みずほが事務5000人 AIに代替方針 今後10年で 3/1 「相談AIに」小中校生5割 しんどさ感じる人調査 /身近な大人1 4%、友達19% 3/4 【こちら特報部】AI軍事利用 歯止めの術は 米国防総省と関連企業、 活用合意発表 起業は倫理を 社会は監視を ―以下、略 * それが、9月8日の記事を境に、そのデメリットについての指摘一色になったのは、先に紹介した通りです。 では、私たちは、規制を強化するべきか、あるいは現状をより前進させるべきか、どちら側に立つべきでしょう。 わたしは、「減速」ではなく、「一時停止」すべきだと考えます。企業が自主規制を唱えるのは、東日本大震災で明らかになった「科学技術神話の崩壊」という教訓にそむいた企業優先の思想にほかならないでしょう。 人間の側が減速を命じたとして、果たしてAIはそれに従うでしょうか。 開発の減速によっても、さらなる「暴走」を止めることはできない、今回の「AIの暴走」はそれを示唆してくれている、そんな気がしてなりません。
□ 一方、SNSの年齢制限についてはどうでしょう。 諸外国にならって我が国も急ぎ年齢制限を設けるべきでしょうか。ここでも、メリット、デメリットのどちらに与するのかが問われています。 また、これまでの知見に基づき、いったい、何歳以上なら弊害なくSNSを利活用できるのか、その評価は、科学的に立証されているでしょうか。たんなる感情論に同調するのか、そうではないのかどうか、も含めて検証されているのかどうか。 アルゴリズムやネット依存、いじめの手段・・・、否定的な見解の根拠は?そして、子どもたちにとって「有害」なのに、なぜ、大人には何の問題もない、と断言できるのか。その根拠は? * 大人には問題ないが、子どもには見逃せない大問題だ、とする「理屈」、いつかどこかで聞いたことありませんか? そう、マンガです(そして、ファミコンへと続くそれ)。 マンガばかり読んでいるとバカになる=Aそう言って大人たちは子どもからマンガを取り上げることに汲々としてきた歴史があります。重なりません? 「あのマンガが悪い」のではなくマンガが悪いのだ、という大人たちと。 * もう少しマンガとSNSを並べて考えてみましょう。 マンガが読み手である子どもに何らかの影響を与えるとして、それは、「書き手の世界観」という極めて個人的な範疇にとどまり、そういう意味では、狭い観念の影響力にとどまると考えてよさそうです。 一方、SNSは、その発信者が膨大な数に及び、そこに存在する世界観も桁違いに膨大な数であり、個人ではとても対処できない、価値観や利益誘導が内包されている、と考える必要があります。 ならば、個人の尊厳やプライバシーなどを守るためには、そして、今後もSNSを利活用していこうとするならば、功罪についての社会的合意の確立と明文化という仕組みは必要ではないでしょうか。論ずるに遅いということはありません。早急に議論を進めるべきです。 * 15歳未満は利用制限、という年齢制限は妥当なのかどうか、科学的、合理的であることに加え、人間としての倫理観などの知見が求められています。
□ 補足なりますが、先日、本ブログのなかで「読解力」について考察しましたが、改めて新聞記事を読み直して気付いたことがあります。 それは、OECDが2025年に実施した学習到達度調査(PISA)の調査対象の3項目らうち「読解力」のOECD平均が、他の2項目(「科学的活用力」「数学的応用力」)に比べ、低い数値になっている、ということです。 つまり、世界の子どもたちの「読解力」が低下しているということだと思います。 これは、世界的に共通する何かが起きている、そして、それは、チャットGPTなどの生成AIやSNSと関係がありはしないか、という推測を導き出す、と考えられないでしょうか。 * 一方、障害者をはじめとする、いわゆる社会的弱者といわれる人たちの間で、AIやSNSを必要としている人たちがたくさんいます。 そして、わたしたちがもっとも意識しなければならないこと、それは、子どもたちを社会的犯罪の加害者にしてならないこと、同時に、子どもたちにとっての利便性(AIやSNSなどの「道具」にとどまらず)を奪ってはならない、ということに尽きると思います。 今後進むであろうSNSの年齢制限についての議論に子どもたちも加わる、その態勢が不可欠であることは言うまでもないでしょう。 * 最後に、AIについて危惧されていることについて。 攻撃型ドローンなどに搭載され、戦闘を経験したAIが、その成果をほかのAIと共有し、今回のように外部システムに侵入し攻撃するその先に見えるものはなんでしょう。 高市政権は、そんなAIを搭載した攻撃型ドローンを、2030年までに8万台導入する方針を明らかにしています。
― この項 完 ―
いつものことですが、新聞記事等の引用あたっては、誤字・脱字等のないよう努めましたが、何かお気づきの点がありましたらお知らせください(文中、敬称略)。
2026/9/21 |