少年詩時評『ウソ、でしょ!』 佐藤重男
□ 2月26日付の朝刊を開き、目に飛び込んできた二つの記事を見て思わず口にしてしまったのでした。 その記事とは、購読している東京新聞の一面、左側に載っている次の見出しの二つです。
【武器輸出 紛争国へも可能に 自維が提言案 平和の姿勢転換】
【カタログギフト 首相、違法性否定 315人に3万円、計900万円超】
東京新聞によると、なんと、 【殺傷、破壊能力のある「武器」の輸出を原則解禁】 し、「非武器」については全面解禁とするということです。 「武器」を輸出できる相手国は17カ国にのぼり、紛争当事国になった場合は不可とするとしていますが、例外が設けられ、また、17カ国を通じて紛争当事国に提供される可能性についてはその可否は明示されていません。 いずれにしろ、「抜け道」が用意されており、新聞で報じられているように、【平和国家として堅持してきた『国際紛争の助長回避』という基本姿勢を事実上、転換する】ものです。(同) 「防衛産業」とは名ばかり、いよいよ「軍事産業」へとその本質をあらわにした、というべきでしょう。
□ 二つ目の記事にも、驚かされました。 石破茂前首相による商品券配布が、あれほどの非難にさらされてからわずか十一カ月弱、相変わらすの「金権体質」を見せつけられ、怒りを覚えるよりもあきれ返るしかありません(商品券問題は、受け取った全員が返納し一件落着としましたが、今回、315人のうちカタログギフトを返納した議員は1人もいません。もし返納すれば高市首相の行為に?を付けることになる、そんな反旗を翻すような真似などできようがないのでしょうが)。 しかも、自民党の「裏金問題」の当事者たちのほとんどが衆院選で当選し、旧派閥の復活さえ取り沙汰されている中でのできごと。傲慢な、としか言いようがありません。 高市首相は「党支部の政治資金から支出」だから問題ない、としているようですが、政治資金は、「個人献金」「法人献金」などのほか、「政党助成金」(国から支給される公的資金)などからなっており、お札に印は付いていないものの、「国から支給される公的資金」=税金、が使われているとしたら、「法的に問題はない」との言い逃れは通用しません。 * 先日、本ブログで、「高市首相の施政方針演説」について論じましたが、高市首相が、その演説の中で、『成長のスイッチを、押して、押して、押して、押して、押しまくってまいります』(「二 経済力」)と力説していますが、その「成長」とは、殺傷兵器の輸出解禁をも含む軍事費増強による防衛産業の再度の勃興であり、「裏金事件」の議員たちの「復活」による「1強」の基盤づくりへ貢献したことへの「祝い金」なども含まれることが明らかになった、ということに尽きます。 いずれにしろ、この二つの動き、「ウソ、でしょ!」で済ませてはならないでしょうし、後者の、高市首相から当選者へのカタログギフトの配布に対する釈明は、国民を欺くための「真っ赤な嘘」なのか、それとも支持者たちへの「白い嘘」だというのでしょうか。 閑話休題。
□ さて、少年詩の世界にも、「ウソ」は存在するのでしょうか。きっと、政治の世界とはその様相が異なるはず、と思いますが、見てみましょう。 * まず、タイトルに「ウソ」が使われている作品、次に、作品の中に「ウソ」が登場する作品を一覧にしてみます(わたしのデータベースより)。 【タイトル】(棒線の後は、作品の中での使用例) うそ 石井英行「おじいちゃんの友だち」銀の鈴社 94.3 ―ぼくのついた うそ うそ すずきゆかり「まっすぐ空へ」銀の鈴社 02.7 ―そういう形でうそをつくと うそをついたら 渡辺恵美子「空をひとりじめ」銀の鈴社 09.10 ―うそをついたら ドッキドキ カワウソのうそ 星野良一「星の声、星の子へ」銀の鈴社 22.12 ―カワウソの/つくうそに 嘘 坂本のこ「ぼくの居場所」銀の鈴社 01.4 ―何かをごまかすためについた嘘が うそっこ おはなし 北村蔦子「あかちんらくがき」銀の鈴社 82.12 ―うそっこおはなし したよ うそみたい 小林育子「カバになれたら」鳥語社 06.4 ―おっつきさんは/うそみたいに/まんまる うそつき 岩佐敏子「へんてこらんど」リーブル 97.8 ―わたしは うそつき うそなき たかはしけいこ「いっしょ」銀の鈴社 19.11 ― なし 動物は うそつかないよ 小林比呂子「横須賀スケッチ」銀の鈴社 05.8 ―鳥は うそつかないよ 白い嘘 西沢杏子「さくら貝とプリズム」銀の鈴社 21.4 ―白い嘘でもいいからついてはくれないだろうか。
【作品のなか】(棒線の後は、作品の中での使用例) うさぎ 小沢千恵「やわらかな地球」銀の鈴社 18.2 ―今までのことが/うそのように思える時 冬のうた 新川和江「野のまつり」銀の鈴社 78.2 ―北風がいじわるなんて うそ なつやすみとおとうさん 宮田滋子「さくらは走る」銀の鈴社 11.3 ―なつおすみの おとうさん/きらいっ/うそ うそ やっぱり カバ 杉本深由起「はんぶんごっこ」銀の鈴社 08.7 ―うそが「そう」って さがす 柿本香苗「ペンを持つとボクね」竹林館 16.2 ―うそをついて かくしたことば じゅもん あわのゆりこ「まねっこ」銀の鈴社 19.2 ―泣き虫ウソ子が ぜんぶぼくのせいにするもんで 先生 富田栄子「にんじん笛」銀の鈴社 95.6 ―先生ってうそつきや そうかい 内田麟太郎「ぼくたちは なく」PHP研究所 10.1 ―なんども うそをつかれた 太陽へ 小泉周二「太陽へ」銀の鈴社 97.11 ―なんて/うそだよ なつのにおい いちかわゆう「ふ る る」ぶんしん出版 21.2 ―ことばにうそを/つけなくて はな まど・みちお「―おなかの大きい小母さん」大日本図書 00.1 ―うそからでる まことのような ぼくの場合 木村信子「こっちも むいてよ」かど創房 93.8 ―ぼくだって すこしはうそをつくけど ほんとだよ 武田尚子「赤い鳥青い鳥」銀の鈴社 85.8 ―ほんとだよ/うそじゃあないよ 森 秋原秀夫「地球のうた」銀の鈴社 93.7 ―ぼくがときどきうそをつくこと まいご ちよはらまちこ「パリパリサラダ」銀の鈴社 93.7 ―「うそばつかりついて」/とげとげしい声が
□ どうでしょうか。何か気がついたこと、ありませんか? そう、カナ表記の「ウソ」がたった一回だけしか出てこないではありませんか(それも、「泣き虫ウソ子が…」と)。 漢字の「嘘」はタイトルに2回。あとは、「うそ」ばかりです…。 わたしは、思わず「ウソ、でしょ!」と口にしてしまいましたが、少年詩の作品世界での常識は「うそ」のようです。 では、なぜ、少年詩の書き手の多くは、「嘘」「ウソ」ではなく「うそ」を使うのでしょうか。 「嘘」は硬い感じがしますし、「ウソ」は、否定的意味合いが強い、そう捉えられるのかも知れません。 その点、「うそ」は、否定的意味合いを弱め、肯定的な意味合いを持たせ、また、「ウソ」は断定的になりがちで、ちょっとなあ、と腰を引かせてしまいますが、「うそ」ならば、なんとなく茶目っ気も感じられ、読者対象として子どもたちを想定した時、親和性が強いのではないでしょうか。
□ 先ほど、高市首相のカタログギフトの件の中で、「白い嘘」と言いましたが、ご覧のように、少年詩のなかにも「白い嘘」が登場します(「真っ赤な嘘」は見つかりませんでした)。 せっかくですから、その作品を引いてみることにしましょう。
白い嘘 西沢杏子
午前0時。 眠れないわたしの耳のそばで のどを鳴らす猫。 昼間。 灰色の羽毛を庭に散らしたのは やっぱりきみではなかったのだろうか。
ね。飛び散った羽毛の中に 風切羽が1枚混じっていたんだよ。 いつも独りでりんごを食べにくる ツグミの羽根の色だったよ。
窓の外で吹き荒れる北風を どこかでしのいでいるツグミのことを 風切羽を1枚もがれた鳥が どんな思いで夜を過ごすかを いっしょに思ってはくれないだろうか。
そして、ね。 ツグミと遊ぼうとしただけで 命にかかわることはなにもしなかったと 白い嘘でもいいからついてはくれないだろうか。
『さくら貝とプリズム』 銀の鈴社 2021.4
□ 他にも、「うそ」をテーマにした面白い作品がたくさんあります。機会を改めて紹介したいと思います。
― この項 完 ―
いつものことですが、作品や新聞記事の引用にあたっては、誤字・脱字等のないよう努めましたが、何かお気づきの点がありましたら、お知らせください。また、作品「白い嘘」の引用に際しては、著者・出版社など関係者からの許諾を得ていませんが、論考への引用であること、引用先を明示してあること、そして、商業目的ではないことなどをもって、格段のご高配のほどいただければ幸いです。
2026.2.28 |