少年詩時評『ひみつ』 佐藤重男
□ 「ひみつ」、「秘密」のことです。 これまで、本論考で指摘してきたことですが、高市政権は、憲法9条の改憲と併せて、「スパイ防止法」の成立に前のめりです。 そして、その第一段階として、立法事項を無視してまで、「表現の自由に反する」などの批判に耳を傾けることなく、「国旗損壊罪」の成立を強行しようとしています。 * 言うまでもなく、わたしたちは、子ども・大人の例外なく「ひみつ=秘密」を内心にかかえています。 そして、それこそが「プライバシー」そのものに他なりません。 一方、高市政権が目論んでいる「スパイ防止法」は、わたしたち国民の「内心=プライバシー=抱えている秘密」を個人の権利ではなく、公序良俗に反する行為、だと考えているかのようです。 そして、高市政権による「悪法」の多くが、わずか数日間の審議時間で、次々に採決にかけられ、その大半が可決される事態が続いていること憂慮せざるを得ません(たとえば、26日に衆院内閣委員会で多数決で可決された「国旗損壊罪」創設案の審議時間は3日間、約10時間半です―東京新聞記事より)。
□ さて、わたしたちの少年詩に登場する子どもたちは、いったい、どんな「ひみつ=秘密」を抱えているでしょうか。 見てみましょう(以下、長文ですが、読み続けていただければ、と思います)。 * まず、タイトルに登場する「ひみつ=秘密」。
ひみつ 小松静江「さみしい桃太郎」 62.2 ひみつ にしおまさこ「あひるの子」銀の鈴社 91.11 ひみつ 小島禄榔「海を越えた蝶」銀の鈴社 91.11 ひみつ 小島禄榔「地球が好きだ」銀の鈴社 92.11 ひみつ 池田あきつ「天気雨」銀の鈴社 91.7 ひみつ 三島慶子「空とぶことば」理論社 06.10 ひみつ 三輪アイ子「かたぐるましてよ」銀の鈴社 06.3 ひみつ いとうゆうこ「おひさまのパレット」てらいんく 06.10 ひみつ 武鹿悦子「ともだち」理論社 06.124 ひみつ あわのゆりこ「まねっこ」銀の鈴社 19.2 ひみつ たかはしけいこ「いっしょ」銀の鈴社 19.11 ひ・み・つ 三枝ますみ「ピカソの絵」銀の鈴社 87.12 ひみつ 川崎洋子「ハンカチの木」銀の鈴社 95.2 ひみつの時間 柘植愛子「赤いながぐつ」銀の鈴社 17.7 ひみつのじゅもん 滝波真里子「みんな王様」銀の鈴社 03.10 ひみつのポケット 星乃ミミナ「星空の旅人」銀の鈴社 88.12 秘密 李錦玉「いちど消えたものは」てらいんく 04.7 あのね ひみつ 小野ルミ「ゆきふるるん」銀の鈴社 89.12 そのひとの秘密 日友靖子「猫日和だから」銀の鈴社 87.9 真夜中の秘密 あわのゆりこ「まねっこ」銀の鈴社 19.2 わたしの ひみつ はなわたえこ「みずたまりのへんじ」銀の鈴社 93.9
以上、21編の「ひみつ=秘密」が見つかりました。 ご覧の通り、ひらがな表記の「ひみつ」が圧倒的多数派でした。
□ では、続いて、作品の中に登場する「ひみつ=秘密」です。
秋のとびら 宮田滋子「白鳥よ」銀の鈴社 12.8 秋へ通じる/ヒミツのとびらは あこがれ 星乃ミミナ「花かんむり」銀の鈴社 92.7 あこがれの 心と いっしょに/ひみつの 小箱に いれました あさがお 高崎乃理子「見えない空に」てらいんく 05.1 宇宙のひみつが/ゆれている あな 山本純子「ふ ふ ふ」銀の鈴社 14.8 ヒミツの穴に/しまっておくのが 一ねんせいだよ 清水たみ子「あまのじゃく」国土社 75.11 おいしかったよ。ひみつ、ひみつ。 いのち会うとき 高瀬美代子「オカリナを吹く少女」銀の鈴社 06.3 二人だけのひみつの森へ どんな音がするでしょうか 宮中雲子「どんな音がするでしょうか」 銀の鈴社 96.7 ひみつ ひみつを かかえていたら かたつむり 檜きみこ「しっぽいっぽん」銀の鈴社 92.5 ひみつが出ていって しまわないように こまっちゃう 宮田滋子「星の家族」銀の鈴社 97.6 ちいさな ひみつは こん虫のはなし 高丸もと子「あした」理論社 06.12 ヒメシジミ はじめてひみつしられたからには 海に来た川 宮中雲子「手と手のうた」銀の鈴社 09.9 秘密の呪文があるでしょうか 霧の輪 佐野のり子「ミミズのバイオリン」花梨社 16.4 お母さんの秘密であることを知ってるわ クラゲ 宮田滋子「愛一輪」銀の鈴社 03.7 嘘がない/秘密がない しゃぼん玉 いとうゆうこ「せんとのなまえ」てらいんく 21.2 浮かぶ/秘密をまもったまま 空のクルージング 宮中雲子「宇宙からのメッセージ」銀の鈴社 02.7 秘密、秘密です 手紙 糸永えつこ「ふしぎの部屋から」銀の鈴はゃ 01.3 わたしだけの ひみつ 手紙 山本純子「チョコレート」四季の森社 21.10 って何度も聞かれたけど ひみつ手紙のハト 高木あきこ「どこかいいところ」理論社 06.11 ヒミツ、ヒミツ、ヒミツ……と やわらかな地球 小沢千恵「やわらかな地球」銀の鈴社 未知への冒険心を誘う/秘密の扉が 春へ はたちよしこ「海がピアノを弾いている」木元省美堂 21.12 巻き貝 ―― 海へのひみつの坂道 オレンジ色のふるさと いとうゆうこ「おひさまのパレット」 てらいんく 06.10 だあれもしらないひみつのふるさと ポケット 垣内磯子「かなしいときには」銀の鈴社 99.5 だれにも ひみつの たからもの ぼくの心の中のポケット 田中たみ子「へこたれんよ」銀の鈴社 13.7 ぼくの古米のなかに だあれも知らない/ひみつのポケット もってるよ星つなぎ 高丸もと子「あした」理論社 06.12 すばやく/ひみつを消して 流れ星 宮田滋子「星の家族」銀の鈴社 97.6 それは 人に 言えないひみつ? まくら 南郷芳明「花時計」銀の鈴社 00.9 もう どれほどの秘密を 帰り道 佐野のり子「ミミズのバイオリン」花梨社 16.4 決して秘密の通路を捜してはいけない ゆびきりげんまん 福田恵美子「あさがおのパレット」竹林館 21.9 ひみつが うまれたみたい いいゆめみたから 三輪アイ子「かたぐるましてよ」 ひみつにひみつに しーとこ
以上、作品に登場する「ひみつ=秘密」は、28編でした。 こちらも、やはり、ひらがな表記の「ひみつ」が大勢を占めています。
□ せっかくですから、作品に登場する「ひみつ」の内実を垣間見ようと思います。 作品に登場する「ひみつ」のあり様をみると、 ひみつのとびら しまっておく 秘密の呪文 秘密を守ったまま わたしだけのひみつ だれもしらない
などなど、「ひみつ」が「ひみつ」であるのは、他者の目に触れない=内心の問題、あるいは、限られた伝播性が保障されることで、「ひみつ」は「ひみつ」として成立する、ということになります。 ですから、容易に他者に漏れるのであれば、それは「ひみつ」たりえない、ということになります。 そこなんです。「ひみつ」は、外部からではうかがい知れないものだ、ということほど権力者にとって恐れることはありません。いったい、あいつは何を考えているんだ、それが皆目見当もつかないとすると、対策の施しようがありませんから。 こうして、権力者は、二つのカテゴリーを設けることになります。 一つは、個人(国民)同士が互いに監視しあい、互いの「ひみつ」を密告し合う制度(報奨金など含む)の創設。 もう一つは、個人の内心に踏み込んで、彼が抱えている「ひみつ」が何であるかを暴き、それを「罪」として拘束する権利を持つ官吏=戦前の特高(特別高等警察)を設け、それに法的根拠を与えること。 以上、この二つが「スパイ防止法」なる悪法の正体です。
□ ところで、少年詩の世界では、なぜ、「秘密」ではなく、「ひみつ」が多いのか。 それは、少年詩の作品が、主に子どもたちに向けて書かれていることに起因するのは言うまでもないでしょう。 というのは、「秘密」という表記は、硬質な感じを与えてしまい、硬い容器の中に閉じ込められている、そんな圧迫感と言うか脅迫観念に近いものを感じさせ、なかなか近寄りがたい印象を持たせてしまうことから、少年詩の書き手たちは「ひみつ」というやわからな表記を選ぶのではないか、そんなふうに考えられます。 そこには、一人でも多くの子どもたちに少年詩を手渡したい、そんな願いが込められているのではないでしょうか。 * よく、子どもたちの間では、「ここだけのヒミツだよ」、ということを言い交わしますが、それは、互いの信頼関係を指すものにほかならず、一方、大人たちが「ここだけのヒミツだよ」などと言い合うことはまずありません。 そういう意味では、子どもたちの交わす「ひみつだよ」は原初的なものであり、一方、大人たちにとっての「ヒミツだよ」は、信頼関係とは無縁で、むしろ、社会的、政治的なものである、と考えてよいのではないでしょうか。 * その、子どもたちの間で交わされる「ここだけのヒミツ」が、権力者たちが画策している「スパイ防止法」よって、「国家に対する裏切りであり、重大犯罪の対象そのもの」、と断じられるその日が、ついそこまで近づいています。 そういう意味では、渡辺白泉の「戦争が廊下の奥に立つてゐた」を想起させます。
□ そのほかにも、少年詩の作品の中に登場する主人公が子どもであっても、権力者から見れば、「その子どもたちを操っているのは大人(書き手)」ということになりはしまいか、あるいは、ITに長けた14歳未満の子どもが、インターネットを通じて知り合った外国人と情報交換をしていたところ、その外国人が「スパイ防止法」によって逮捕されるという事態が発生した時、少年にも累がお呼びはしないか、などなど、心配の種は尽きませんが、それらのことを老婆心や深読みだとして片づけてしまってはならないのではないでしょうか。
□ ここまで、いろいろ心配事ばかりを数え上げてきましたが、「ひみつ=秘密」をテーマにした数多くの作品の中から、次の二つを引いて論考を閉じることにします。
ひみつ たかはし けいこ
せかいは ほんとうに これだけだろうか どこかに ひみつが ないだろうか
がっこうへ いって かえってきて じゅくに いって 陽がのぼって ひが しずんで まいにち
どこかのくにでは せんそうしていて こどもが うえていて
ひとが しんだり うまれたり
いじめが あったり テロが あったり かんばつが あったり こうずいが あったり
どこかに ひみつが ないだろうか
ああ せかいは このために あったんだと みんなが おもう しゅんかん
ああ みんな このために いきていたんだと おもう しゅんかん
せかいは ほんとうに これだけだろうか
どこかに ひみつが かくされていないだろうか
『いっしょ』銀の鈴社 2019.11
わたしの ひみつ はなわたえこ
みみ かしてって たっちゃんが モニョモニョ モニョ みみの ところが くすぐったく なった
わたしにだけって たっちゃんが モニヨモニョ モニョ みみに ひみつが はいりこんで いった
『みずたまりのへんじ』銀の鈴社 93.9
□ 冒頭でも触れましたが、「ひみつ」は、内心に関わる問題であり、高市政権がなんとしても「スパイ法」を国会に提出し、強行採決も辞さずに法案を可決しようというのは、他でもない、「国旗損壊罪」の創設と同様に、国民の「内心」の問題に立ち入ることで、政権維持に都合のいい社会的合意(「空気」忖度)を醸成したいからに他ならないことは言うまでもありません。 ― この項 完 ― いつものことですが、引用あたっては、誤字・脱字等のないよう努めましたが、何かお気づきの点がありましたらお知らせください。また、作品「ひみつ」(たかはしけいこ)、「わたしのひみつ(はなわたえこ)の引用に際しては、事前に著者や出版社などから事前の許諾を得ていませんが、引用先を明示していること、商業目的ではないこと、そして、論考への引用であることをもって、格段のご高配のほどいただければ幸いです。
2026/6/29 |