★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2021/11/18|その他
  ○ 女 の 情 念 ○  「男と女の風景 187」 
 
                2021年11月18日(木) 00:00時 更新

  ○ 草花たちのレポート
 
 今回も、秋の風情を感じさせる花たちを3種を紹介します。

 ただ、今回感じたのは、晩秋という枯葉の季節なのに、こんなにも多くの花たちが咲き誇っているのは、初めて知りました。
 
  ≪写真・左・・ツワブキ
 先ず、ツワブキも、普通のフキも、実はキク科なのに驚きました。
ただ、ツワブキ属とフキ属の違いはあるようです。
 これは、日陰で放っておいてもよく育ち、大きな葉で雑草も出ず、晩秋から冬にかけて花が咲き、毒がありますが調理をすれば食べられるそうです。
 それにしても、この株は立派ですね。
 
  写真・中・・ケイトウ≫
 これをケイトウで調べてみると、セロシア・ホルンという品種のようです。
 ただ、ケイトウは馴染み深くてポピュラーなだけに、多様な改良品種があるようです。

 
    ≪写真・右・・アメジストセージ
 この花は、当初不明でしたが、11/18に街を歩いていて、この鉢を見つけ、ついに名前を突き止めました。
 これはメキシコやアメリカの中南部に自生するシソ科のハーブとのこと。
 花は、白やピンクもあるそうです。  

                     「男と女の風景 187」
   ○ 女 の 情  念 ○   
 
 片瀬の料亭で夕方、高校時代のクラスの旧友達が集まって、同窓会の宴会が始まっていた。
 和室の二間をぶち抜いたテーブルにイス席には、総勢30人程が向かい合って、賑やかに話し込んでいた。
 皆が還暦を迎えて、その節目だからと開催されたのだ。
 メンバーには、見るからにご老人の人もいたし、まだ元気溌剌な中年もいて、人それぞれの人生を感じさせるものがあった。
 
 配膳をする和服の中居さん達に混じって、貴子はあれこれと指図をしながら、忙しく立ち回っていた。
 料理が運ばれてきた時、フッと感じることがあって、その女性をずっと見続けている男がいた。
――ウーン、あの人は、確か見たことがあるな。
  痩せていて、目元や鼻先に気品があって・・。
  エッ・・、もしや、江の島の貴子さんでは・・。
  そう、僕の初恋の人だよ。
 富樫は乾杯を終えて一段落した時に、さり気なく手を挙げて貴子を呼んだ。
「はい、なんでしょうか」

「もしかして、あなたは、貴子さんでは」
「エッ、はぁ、そうですが・・」
「あなた、近藤貴子さん、ですよね」
「ええ、そうですが」
 まもなく還暦を迎えるはずの貴子は、女としての美しさを未だに保っていて、それは富樫にとって永遠のモナリザだった。
 
「ああ、僕らが出会ったのは、もう40年も前ですけど・・。今は年を取って、ヒゲを生やしていますが・・」
「ハァ、どちら様でしょうか」
「富樫、健一郎です」
「ハァア・・、あのぅ、すみません。記憶がありませんでして」
「あなたは白百合学園で、江の島の老舗旅館の娘、でしたよね。僕はですね、湘南高校で・・」
「あぁぁ・・、そういう方、おられたかも・・」
「そう、うちの文化祭に来て、天使のようなあなたに、僕はぞっこんになってしまって・・。ええ、お付き合いをって、お願いしたら・・」
「どういう返事、でしたか」
「ええ、あなたは、考えた末に、友達から、って、言ってくれたんです」
「アァー、そう言う人いましたね。あぁ・・、あの時の富樫さんですか」
 貴子はやっと思い出したのか、笑顔を恥ずかしそうに指先で隠している。
 富樫は、思わず手を差し出して、握手を求めると、貴子も快く応じてくれた。
 
 それからも、忙しく料理を運ぶ貴子を、富樫は目で追い続けていた。
――そうだよ。何度かデートをしたな。
  地元では目立つからって、
  逗子や横須賀方面に避けて、行ったよな。
  そう、ファーストキスは、逗子からバスで抜けた秋谷海岸だった。
  大学に行ってからも、付き合っていたんだ。
  でも、ある時、私にはフィアンセがいるから、と言われて、
  どうしようもなく絶望的になって、
  独り裏路地の暗い夜道を、ひたすら歩き続けていたなぁ。
  そして、断腸の思いで、自分を断念させたんだ。
  良家の娘なのに、今なぜ、ここで働いているのかな。
 

 それから富樫は、10時半に藤沢駅の南口で待っていた。
 クラスの級友たちとは2次会に行ったが、途中で抜け出してきたのだ。
 それは、さっきの宴会の途中で、貴子と再会を祝して飲むことになっていたからだ。
「富樫さん、お待たせしました」
 富樫がハッとして振り向くと、質素な白い半そでのブラウスに着替えた貴子がいた。
さっきはアップに決めていた髪を下して、フワァッとさせていた。
「ああ、こういう感じも、若々しくていいですね」
 富樫は、そうお世辞を言って改めて見ると、貴子はジーバンにスニーカーを履いていた。
――ああ、昔を思い出すなぁ。
  そう、休みの日のデートは、こんなスタイルだったよ。
 
 それから二人は、貴子の娘・貴代子が、夫婦で開いていると言う赤提燈の居酒屋に入った。
 もう閉店に近くて、客は2人組だけだった。
 貴子が、「仕事上がりだから、ビールがいい」と言うので、富樫もそれに合わせた。
 娘が注文を聞きに来た時に、貴子が「この方はね、私が高校1年生の時の、初恋の人」と紹介した。
「エーッ、本当ですか。素敵な人ですね」
「いえ、その頃は、青っちょろい痩せビョウタンでしたがね」
「でも、ヒゲがカッコ良くて、貫録がありますし」
 富樫は、お世辞でも、ヒゲを褒められてご満悦だった。
 だが、娘の貴代子は丸顔だったから、貴子とは見た感じが全く違っていて、父親系の顔かと思った。
 ビールのジョッキが来て乾杯すると、貴子はいきなり半分ほど飲んで、美味しそうにハーッと息を吹き出した。
――ああ、そうだよね。もう少女じゃないんだよ。
  中年を通り越して、もう初老だもの・・。
  時には、大胆に・・。
 富樫は、イメージが崩されて少しげんなりしたが、自分も同じ年寄りだから仕方がないかと思った。
 
「でも、貴子さん、相変わらず、凛とした気品がありますね」
「いいえぇ、もうお婆さんでして・・」
「いや、その上品さって、あなたの生まれ、育ちなんです。僕ら庶民には決して得られない血筋なんです」
「ええ、その点、親には感謝してます」
「僕の青春は、あなたの寂しげに澄んだ顔で、いつも満ち溢れていました。ええ、いつもあなたを思い浮かべて・・」
 富樫は、昔を懐かしむように、目を細めて貴子を見つめていた。
――ああ、ほろ苦い青春だったな。
  でも、フィアンセがいたから、仕方がなかったんだ・・。
 そんな思い出に浸る富樫を、貴子は眼を細くして見つめると、自分の青春を思い出していた。
 
 すると、暖簾をくぐって、頭がハゲて小太りの男が「こんばんは」と入ってきた。
 それを見た貴子は、いきなり富樫に縋りつくと、「私たちは愛人同志、そんな演技をして下さい」と耳打ちした。
 だが、富樫はその意味がピンと来なくて、どうしたものかと戸惑っていた。
 そして、男は店内を見回すと、「アッ、姉さん、やっぱり、ここにいたのか」と、近寄って来た。
「アラ、佐倉社長・・。アア・・、バレちゃった」
「探しましたよ」
「社長、実はですね、この富樫さんは、私が昔、惚れていた懐かしの人なんです」
「ハァ、そうなんですか」
「ええ、40年振りに、お会いして・・」
 社長と呼ばれたこの男、佐倉真治は、さっきまで富樫たちが同窓会を開いていた割烹≪さくら亭≫の総支配人だった。
 この料亭は、本来は各種セレモニーなどの正式な懐石料理の店だった。
 だが、ランチは佐倉が捌く魚料理が自慢で、生シラスの他に、腰越漁港から取り寄せて、不足する分は市場から仕入れていた。
 
 佐倉は、まだ二人の仲を疑っているのか、富樫をジッと見ていた。
 だが、ごま塩混じりのヒゲを生やして、いかにも貫禄がある富樫の容貌に圧倒されて、黙っているしかなかった。
 すると、「社長、僕たちはね、実は高校時代から、綺麗なままで付き合ってきたんですよ」と大らかに告げた。
 富樫は、貴子の肩に腕を回して軽く抱いていたし、貴子は富樫の胸に取りすがっていて、いかにも惚れ合った男と女に見せていた。
 だが、富樫も貴子も、今日、その割烹≪さくら亭≫で宴会を開いたことは、言わなかった。
 すると、佐倉は、諦めきれないブスッとした顔で、カウンターの席に座り込んでいった。
 
「富樫さん、有難うございます」
「イヤァ、いい演技が出来たかな」
「ええ、抜群でしたよ。でも、そこには深い訳がありましてね。いずれ、事情はお話しますけど・・」
 富樫は、その深い訳を知りたいと思ったが、男の背中を見て、日を変えるしかないかと諦めた。
 そして、貴子を見れば、もう何事もなかったように、澄まし顔でジョッキのビールを飲んでいた。
 だが、貴子が社長を流し目で見る鋭さには、なにか険悪な憎悪感が垣間見えていた。
 しかも、軽蔑するような不敵な笑みが、貴子の横顔に現れていて、上品な顔を消し去っていた。
――エッ、この般若のような表情、
  ああ、よっぽどの怨念があるんだろうな。
  もしかして、人間の深い業があるのかも・・。
  そう、複雑な人間関係の・・。
 そんな違和感を持った富樫には、ある疑問がズッと頭の奥に残っていたのだ。
――あの当時は、確か江の島にある老舗旅館、その娘だったはずだ。
  もし、跡を継いでいたら、今頃は女将のはずだけど・・。
  なのに、なぜ、あの片瀬にある割烹の中居なんだ。
  きっと、なにか、運命的な異変があったんだろうな。
  そう言えば、細面の顔に上品さは残っているけど・・、
  さらに痩せたようだし・・。
 それからも、あの佐倉はビールを飲みながらも、二人の様子を窺うように、座ったままさり気なく眼を流してきた。
 それを察した富樫は、「貴子さん、お店を変えませんか」と、声を殺して提案した。
 多佳子が頷くのを見て、富樫は席を立つと、チェックをしに行った。
 
 それから富樫は、行きつけのスナックへ案内すると、カウンターには客がポツンと一人いた。
 そして、二人はカウンターに並んで座ると、ママの千鶴に、貴子を「40年前の初恋の人です」と紹介した。
 千鶴は大袈裟に驚いて、笑顔で二人を歓迎すると、「水割りでいいですか」と確認して、セットを始めた。
「貴さん、今日は全く予想外の展開で、僕には嬉しい限りですよ」
「ええ、私も・・。これまでの人世、辛いことがいっぱいありましたけど、でも、富樫さんに出会って、もうみんな忘れました」
「そうですか。僕も嬉しいです。でも、まさかあの割烹で会うとは・・」
「ええ、実はさっきの社長は、私が結婚した人の弟でして・・。夫は、結婚して5年目に、心臓発作で亡くなりまして・・」
「オオ、ついてないですね」
「ええ。それであの社長が、その跡を継いだのです」
 富樫は、際どい話題は避けようと思っていたが、いつの間にかその領域に迷い込んでいた。
 しかし、貴子は少しも気に留めずに、まるで親しい友人に語るように話をしていた。
「ただ、その後、夫の両親も次々と他界しましてね、今は、中居さんの纏め役で仕事をしています」
――まぁ、しかし、さっきの鋭い流し目、なにかありそうだな。
  そう、なんとも険悪な憎悪感が、あの男に突き刺さっていたよ。
 
 それから、貴子は「久しぶりの外出で、この解放感がいいの・・」と、水割りの2杯目を飲み始めていた。
――まぁ、確かに、夜に出かける大義名分はないのかも・・。
  でも、あの社長、貴さんを探して、追いかけて来たんだろう。
  僕と一緒だったから、遠慮したけど、あの羨ましそうな目、
  あれは、貴さんにぞっこんかも・・。
 富樫は、あの社長が、もしかして、兄嫁の後家をつけ回しているのではと、思い至った。
――そうだよ。色、恋が絡まないと、憎悪や怨念にはならないからな。
  あの男だって、結婚しているだろうし・・。
  家族たちは、どんな屋根の下で、暮らしているのかなぁ。
  他人事ながら、私生活が気になるな。
 
「でも、富樫さん、お酒で気を紛らわせるのは、いいんですけど・・。でも、やっぱり、寂しいんです」
 貴子は、グラスを持って遠くを見つめたまま、独り呟いた。
「そうですか・・」
 富樫も、独り嘆息するように、溜息を吐いた。
 もう人生の黄昏を迎えた富樫には、生きていく上での目標がなくなって、ただ移りゆく日々をつないでいるだけだった。
 夫婦の生活の仕方は、もう馴れ合いになっていたし、自分の世界をただ淡々と生きているだけだった。
 時には、感性の違いから夫婦の意見が対立して、お互いに感情的になることはあった。
 だが、ふとして気が付くと、直ぐに放り投げてしまうのだ。
 そう、対立して主張するほどの価値がないとして、その無意味さを悟るからである。
――でも、寂しさ、って、なにかな。
  そう、かつて満たされなかった心の空白・・、かも・・。
  言い換えれば、欲求が満たされずに、不満足のままに残された・・。
  ただし、人間関係だけに限定される。
  そうだとするなら、この人は、なにに満たされていないのか・・。
  ああ、そうか。早死にした夫、その夫婦関係かも・・。
  ならば、夜の営みか・・。
  まあ、確かに、我が家はずっと満足してきたし、
  今だって、すぐ手の届く処にあるからな。
  ただし、もう今は、少し辟易としてるけどな。
 ただこれは、富樫の勝手な推測であり、貴子がなにを求めているのかは、皆目見当がつかなかった。
 
                           ― つづく ―
 
 
 

 





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