★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2021/11/11|その他
 ● 天使の溜め息 ● 「男と女の風景 186」
 
        2021年11月11日(木) 00:00時 更新

     草花たちのレポート
 今回、秋の風情を感じさせる木々たちを3種を紹介します。
 これ等は、普通の家の庭に育ちますが、この紅葉の秋にこそふさわしい木々たちです。
 
  ≪写真・左・・ビラカンサ
 これはバラ科の常緑低木で、原産地はヨーロッパ南部―西アジアに生息するそうです。
 
  写真・中・・千両≫
 これは、千両の木であり、その実です。一般には、万両の実が下に垂れているため、その違いが語られます。
 しかし、皆さん、実は1両、10両、100両と、個別に固有の植物があるのです。皆さんも、ヤフーで検索の程。
   一両・・アリドオシ
   十両・・ヤブコウジ
   百両・・カラタチバナ
   千両・・クササンゴ
   万両・・ヤブタチバナ
   億両・・ツルシキミ
 
  ≪写真・右・・カエデ
 これは、紅葉を始めたカエデです。
 カエデには160種以上あるそうで、これは詳細不明です。

 
 
                    「男と女の風景 186」
                  ― つづき・3 ―

  ● 天使の溜め息 ●
 
 あれから、10時を過ぎた頃、岡田雄介と理香子はスナック≪A≫を出て、家路についた。
 そして、人通りのない街の裏通りを藤沢駅へと、とぼとぼと歩いていた。
「岡田さん、プロポーズは嬉しいんですけど、さっきも言った通り、母を独りにして、置き去りには出来ませんので・・」
「ウン、それは判った。ただ、そのお母さんの条件を、仮に除外したとして、僕と結婚すること自体は、OKなの・・」
「ああ、迷いますね」
「どうして・・」
「だって、初対面で、どんな人柄か判らないし・・。恋愛経験なんて、私には、未知の領域ですよ」
「アア、僕だって初めてですよ。では、先ずは友達から、始めないかな」
「はい、それでしたら、賛成です」
 そんな会話をしていたら、駅に着いたので、そこで別れた。
 理香子はJRの辻堂駅だったし、雄介は江ノ電の石上方面だった。
 だが、雄介は今日、なぜか電車に乗らずに、歩いて帰宅することにした。
 

 しかし、雄介は歩きながら、なぜ、あんなにも大胆にプロポーズしたのか、自分でも不思議だった。気が小さい雄介は、かつて自分からアッピールをした事がなかったのだ
――これまでのオレは、気が弱くてさ。
  あんなに思い切ったアプローチは、初めてだったよ。
  そう、近藤に先を越されて、一瞬、カーッと気が燃えたんだな。
  『ナンダト・・。オレの方に優先権があるだろぅ』って・・。
  オレは、断られたら恥ずかしい、って・・、
  そんな変なプライドが、いつもあったんだ。
  エッ、もしかして・・、
  逆に、アイツが敢えてオレに挑発して、仕掛けたのか・・。
  ああ、アイツ、シャイなオレを知っていたから、催促したんだ。
 雄介は、もしそうなら、近藤に感謝だなと、独り笑みを浮かべていた。
――だが、もし付き合うことになったら、初恋かも・・。
 もう三十路になる雄介は、夢見る少年のように、胸がときめいていた。
 
 だが、その頃、スナック≪A≫に残された近藤と亜里沙は、口数が少ないままカウンターで向き合っていた。
「近藤さん、今晩はこちらで泊りですか」
「ウン、そこのグランドテル・・」
「明日、私の母と会ってくれますか」
「エッ、なんで・・」
「ええ、さっき親の許可を取らないとと、言われましたので・・」
 亜里沙が、なんとかして是非とも広島に行きたいと、そんな願いが伝わってきた。
「近藤さん、広島に住み込みのスナックとか食べ物屋さんて、ありませんか」
「アア・・、あるかも・・」
 亜里沙は、ワラをも掴む思いで、近藤の顔をジッと見ている。
「アッ、そうだ。よく行くお好み焼き屋≪よし美≫で、年寄り夫婦がお手伝いが欲しいって、言ってたなあ」
「アッ、はい。私、その店でも・・」
「そこなら、2階で老夫婦が暮らしていて、1階の奥に1部屋あったから・・」
「近藤さん、是非ともお願いです。明日母に会って下さい」
「ウーン、話は判ったけど、先方と連絡を取らないと・・。そうか、明日、朝に電話をして、OKならお母さんと会って・・。そんな段取りで新幹線を遅らせれば・・」
 亜里沙は、思わず両手を差し出すと、近藤に握手を求めてきた。
――ああ、お母さん、許してくれるかな。
  でも、これで、地獄から抜け出せるかも。
  しかも、運が良ければ、近藤さんとも・・、そう、結婚かも・・。
 亜里沙には、広島の地が写真で見た原爆ドーム以外に、どんな街なのかイメージが湧かなかったが、胸の中に思いもよらない夢が膨らんでいた。
 
 そして、アパートに着いた理香子は、窓越しに台所の電気が点いていることに、いつもと違う違和感を覚えた。
 ドアにキーを差し込むと、カギは開いたままだったし、ドアを開けると、キッチンのテーブルには、なんと母が座っていた。
「アラ、まだ起きていたの・・」
「そうよ。あなたを待っていたの・・。それで、あの後、どうだったの・・」
「アー、お母さん、私ね、プロポーズされたの・・」
「マァ、良かったわね。それで・・」
「私、お母さんと二人暮らしだから、結婚しても、お嫁には行けないって、お断りしたの・・」
「フーン、やっぱり、そうなのか」
 母の和美は、チョッと落胆して、顔を曇らせた。
「理香子、私を思う気持は嬉しいけど・・、でも、それは間違いよ」
「エッ、なにが・・」
「だって、自分の運命は、自分で決めるべきよ。私は、あと20年は、1人であのお店をやっていきます。その後は、お世話になるかも・・。その時には、お願いね」
「エエッ、それでいいの・・」
「勿論よ。私は、あなたの重荷にはならないから・・、それで、どうなったの・・」
「お互いに、恋愛は初体験だから、友達から始めよう、って・・」
「そうね。それは賛成だな」
 母と娘が、そんな会話を交わすと、風呂上りの和美は「湯冷めをするから、寝るよ」と言って、布団にもぐりこんでしまった。
 
――フーッ、さてどうするかな。
  岡田さんは、人柄は良さそうだし、育った家庭も、きっといいよ。
  明るくって、真面目で・・、そうか、非の打ち所がないよね。
  唯一、恋愛経験がない点か・・。私もそうだけど・・。
  そう、セックスも、リードしてくれるのかな。
 理香子は、キッチンで独りポツネンと考えていた。
 
 次の日、近藤は、新幹線の広島行を午後の5時に変更して、10時に広島のお好み焼き≪よし美≫に電話をした。
「アノゥ、以前、藤沢で通っていたスナックの、バイトの女の子が、住込みでいいから是非とも働きたいって・・」
「・・・」
「ウン、その子は、中々にいい子だし、人物は僕が保障するから・・。ただ、まだ親の承諾を取っていないので、そちらが良ければ、話を進めるけど・・」
 店主は、「是非とも欲しい」と言うので、近藤は亜里沙にメールを送った。
 すると暫くして、「JR藤沢駅の改札で、11時30分に母と行きます」と回答があった。
 
 それから、定刻に改札口で待っていると、「近藤さん」と声がかかった。
 バイトの時よりラフな服装の亜里沙がいて、その傍に小奇麗な母親が立っていた。亜里沙が、お互いを紹介し合うと、二人は挨拶を交わした。
 だが、どうも亜里沙は、母親に本題を言ってなかったようで、母親は戸惑っていた。
「お母さん、詳しい話は落ち着いて話すから、取り敢えずコーヒーでも」
 亜里沙は、そう急かせると駅ビルのエスカレーターで1階に下りて、カフェに案内した。
 
「お母さん、この人、素敵でしょ」
「そうですね。こんなイケメンの方とお知り合いとは・・」
 近藤は、スーツを着こなして、ビシッとネクタイを締めていたから、仕事が出来そうなサラリーマンに見えた。
「この人は、バイトで行ってる店の常連さんでね。2年前に実家のある広島に帰って、昨日は東京に出張したの・・。それでね、私を、広島のお好み焼き屋に、住込みで紹介してくれるって・・」
 母親は、そう言われても、その言わんとする意図がピンとこなかった。
 だが、なにかに思い当たったのか、突然、血相を変えた・
「エッ、亜里沙、まさか、あなた・・」
「ウン・・、私、広島に行こうかな、って・・」
「マァ・・」
 母親は、即座に≪それは、ダメよ≫と言いかかったが、近藤の眼を見て、狼狽してしまった。
「ネェ、いいでしょ。私、新しい世界で、そう、広島で出直したいの・・」
「あのぅ、僕が後見人として、この子の身の安全を保障しますから・・」
 近藤は、事態がもう走り始めていたから、精一杯、バックアップした。
 母親は、近藤の口添えで、一呼吸置くと、冷静さを取り戻していた。

「マァ、別の世界で出直したい気持、それは判るけどね。でも、余りにも突然だったから・・」
 だが、そこには父親の意見を聞くと言うことがなくて、近藤はやはり父親と娘は信頼関係にないなと直感していた。
「それでは、来週の月曜日に、その店に行って店長と話をして、具体的に給与とかの条件を確認して、連絡をします」
 近藤は、畳み掛けるように話を進めると、先方に見せるからと、親子の二人の写真を撮った。
――まぁ、これで父親とのトラブルはなくなるな。
  この母親は、信頼できそうだから・・、
  亜里沙も、いい大人になっていくよ。
 二人の笑顔は、先方の店主にも大受けするほど、晴れやかだった。
 
 次の週、雄介は土曜、日曜がもの凄く長い日に思えて、月曜日には待ち切れずに、職場の市役所から勇躍して≪かずカツ≫に出向いた。
 まだ早い6時だったから、客はいなかった。
 暖簾をくぐって「こんばんわ」と戸を開けると、串カツを挙げていた女将が、下を向いたまま「いらっしゃいませ」と言った。
 そして、ふと顔を挙げて雄介だと判ると、恥ずかしげにニコッとして、また下を向いてしまった。
 女将は、二人の状況を、娘の理香子から聞いていたから、余計な無駄口は気かないことにしていた。
 だが、雄介は、理香子が店に来るのを待ち焦がれながらも、内心ではトキメキながら、独りだけの乾杯に酔い痴れていた。
 
 すると、メールが入ってきて、見ると広島の近藤からだった。
  ≪先の土曜日、亜里沙の母とも会い、今日、お好み焼きの店主に親子の
   写真を見せて、住み込みが決定した≫
――ああ、近藤も面倒見がいいからな。
  でも、結婚を前提としないとは、しっかりしているよ。
  しかも、セックスレスだって・・。面白いな。
  ああ、自分の生き様なんて、自分の意志でどうにでも変えられるのかも。                             
  そう言う意味で、亜里沙は挑戦しているんだ。
  その主張は、立派だよ。
 雄介は、美味しい串カツを頬張りながら、近藤との出会いも、理香子との出会いも、皆、偶然なのに、なにか神様が仕込んだように思えてきた。
 
 だがその頃、理香子は職場の先輩・秋山和夫から飲みに行こうと誘われて、仕方なく東京駅の地下の居酒屋で飲んでいた。
 その日の4時から、職場のミーティングがあって、その流れで定時後に、3年先輩の男性から声がかかったのだ。
 女性は3人だったが、他の2人は先輩だったから、理香子は都合が悪いとは言えなかった。

 だが、残務整理に手間取って、母親に連絡できたのは、飲み会の乾杯が終わってから、さり気なくトイレに立った時だった。
「今日は、残業で、遅くなるから・・。それで、岡田さんは・・」
「もう来てるよ」
「そうなのか・・。宜しく言っといて下さい」
 
 そして、かなり盛り上がって、ジョッキのビールが空いて、秋山が3杯目を注文する時、二人の先輩女性が、用事があるからと席を立っていった。
 すると秋山が、理香子に「もう1杯だけ、付き合ってくれ」と言い出した。
 理香子は、そんな状況を判断して、「はい」と応えざるを得なかった。
 そして、3度目の乾杯をすると、秋山は「実はさ」と意味深な顔付きをした。
「オレはさ、君と結婚したいんだけど・・。どうかな」
「エッ、いきなり・・。まさかですよね」
「いや、本心だよ」
「アア・・」
 理香子は、予想外の展開に大きな溜め息を吐いていた。
 そして、今は店で待つ雄介の顔が浮かんできて、どうしたものかと、苦慮し始めた。
――なんで、ここでまた、プロポーズなの・・。
  今までは、まるっきりそんな予兆がなかったのに・・。
  まあ、秋山さんは、確かに仕事は出来るし、いい先輩だけど・・、
  でも、同じ職場だから、変に断れないしな。
  ここは、母をダメな理由にするか。
 
「実は私、母と二人暮らしでして、お嫁には行かれないんです」
「いいよ。お母さんは引き取るから・・」
「ええ、でも・・。実は母はトンカツ屋を、藤沢でやってまして・・」
 理香子は、あと20年独りでカツ屋をやると宣言した母の顔が浮かんで、ウソをついている罪深い自分に、また無意識に深い溜め息をついていた。
「実は、いつも早く帰って、お店の手伝いをするんですが、今日はお付き合いで、さっき残業だと電話でウソをついたんです」
 秋山は、理香子をじっと見つめたまま、考え込んでいたが、どうも嘘ではないかと見抜いているようだった。
「ええ、ですから、母の意見も聞かないと・・」
「そうか・・。でも、お母さんに会いたいな」
「いやぁ、それはチョッと・・」
「なぜなの・・」
「ええ、私は母にズッと一緒に暮らすって、言ってますし、そのトラブルを家庭には持ち込みたくないんです」
「そうか・・」
 秋山は、気落ちしたように肩の力を抜くと、黙々とビールを飲み始めた。
 美香子も、早くこの場を抜けたかったから、ガブ飲みを始めた。
「オイ、いいよ。そんなに無理して飲まなくても・・。早く帰って、お手伝いをしたら・・」
 理香子は、渡りに船とばかりに「はい、それでは失礼します」と、席を立った。
しかし、東京駅で電車に乗ってから、ふと、「もし岡田さんと結婚する羽目になって、それがバレたら、どうしよう」と思いついた。
――ああ、困ったな。なんで、こんなに立て続けなの・・。
  そうだ、課長に、横浜支社への転勤を申し出るかな。
  だって、お互いに机を並べるなんて・・息苦しいよ。
 
 そんなことを思いながら、藤沢に着くと、もう8時になろうとしていた。
 明かりや赤提燈の点いた飲食街は、コロナ禍もあって、閑散としていた。
 理香子は≪かずカツの≫店に入ると、後ろから雄介の肩をポンと叩いて、「いらっしゃいませと」挨拶をした。
「オオ、残業だって・・。大変だね」
「いえ、実は、職場の先輩に誘われて、断れなかったの・・」
 理香子は、作り話をするとあとが面倒だから、正直に応えたのだ。
 すると、女将が「理香子、今日のお手伝いは、もういいわよ」と気を利かしてくれた。
 それから、店を出ると祐介が「何処か行きたい所、ある・・」と、優しく聞いてきた。
「特には、ありませんけど・・、でも、二人で夜の散歩がいいかな・・」
 すると、雄介がサッと左腕を出してきたので、理香子は嬉しそうに腕を絡めていった。
「ああ、こんな散歩、初めてかも・・」
「フーン、そうなのか・・」
「そう、子供の頃は、こんな場面、父とはなかったし・・。でも、それなのに、こんな感じはどこか懐かしいのよね。あっ、憧れかも・・」
 二人は、行く宛てもなくビルを見上げながら、寂しい夜道を歩いていた。
 
「岡田さん、出会ってからまだ2回目なのに、父よりもずっと、気持がオープンでいられるの・・」
 理香子は、か細い声だったが、感極まったように涙を浮かべていた。
「そうなの、岡田さんには信頼感があって、一緒にいると解放的な気分になるの・・。そう、なにをしても、甘えられそうで、私、嬉しい・・」
 理香子は、独り言のように喋りながらも、時折、組んだ腕に力を込めることがあった。
 雄介は、その伝わってくるリズムが、呼吸して起伏する理香子の感情のように思えていた。
「ああ、私、幸せ・・」
 思いつめたように理香子が絶句した時、雄介は立ち止まって向き直ると、思わず理香子を引き寄せた。
 そして、2人は暫らくの間、眼と眼で見つめ合っていた。
 だが、理香子が涙に潤んだ目を閉じた時、雄介はそっと唇を触れていった。
「ああ、岡田さん、嬉しい」
 理香子は、吐息を吐くと、岡田の首に回した腕にギュッと力を込めて、岡田を求めて行った。
 
                      ― おしまい ―
 
 
 
 





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