★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2021/11/04|その他
 ● 天使の溜め息 ●「男と女の風景 186」
 
            2021年11月4日(木) 00:00時 更新
 
    草花たちのレポート
 今回は、秋に咲いている花たちを3種を紹介します。
 これ等は、普通の家の庭に咲く花たちですが、まさか紅葉の秋に、こんなにも可憐な花たちが群れて咲いているなんて、と、驚きました。
 いずれも、名前は不明です。
 
  ≪写真・左・・不明
  写真・中・・不明≫
  ≪写真・右・・不明

 
                    「男と女の風景 186」
                  ― つづき・2 ―

  ● 天使の溜め息 ●
 
「オーイ、雄介、久々にオレ達のテーマソングをやるか」
「おお、いいね。亜里沙、例のヤツ、お願い」
 その例のヤツだけで、バイトの亜里沙は黙って頷くと、セットした。仲のいい男達は、この店で、この曲を何度も歌ってきたのだろう。
 そして、二人がマイクを持つと、理香子にも聞き覚えのあるイントロが始まった。
 その曲は、なんと、24時間テレビのテーマソング、≪サライ≫だった。
 頭出しの1番は雄介が情熱を込めて朗々と歌い、そして2番は近藤が情緒豊かに熱唱して、やがて合唱になっていった。
 歌い終わると、二人はハイタッチをして満足気だった。
「あのね。これを最初にやった時、雄介は最後に、感極まって泪ボロボロだったんだ」
「でもさ、オマエだって、泪で光っていたぞ」
 理香子は、この二人はもう30才のはずだが、いい大人が涙を溢すなんてと、内心驚いていた。
――でも、故郷を捨てた二人には、感極まるものがあったのかも・・。
  それにしても、こんなに気が合うなんて、いい飲み友達なんだな。
  アア・・、男同士って、羨ましいよ。
 盛り上がった二人は、昂ぶった気持が一段落をすると、近藤が祐介に語りかけた。
「雄介は新潟の出身だよな。オレは広島の山の中だけど・・」
 二人は、地方の出身で、大学には故郷を捨てて上京し、東京や藤沢で就職をしていた。
 だから、自分が育った懐かしい故郷への憧憬と、背中合わせの淋しさが、胸に込み上げてきたのだ。
 
「ところで、雄介、なんで新潟から出てきたの」
「ウン、冬の大雪には、子供の頃から慣れてはいたけど、でも、オレは雪が嫌でね」
 雄介は、淡々と語ってはいたが、どこか気が重そうに、顔をしかめていた。
「だから、東京の大学に」
「オレも、実家は、広島市の駅から電車で1時間も山の中なんだ。雪が積もることもあるけど、我が家は百姓だから、冬はオヤジが出稼ぎでね」
 陽気な近藤陽司は、アッケラカントして、自分を語っていた。
「冬は、家の中の雰囲気は暗かったな。それがイヤで、オレは百姓を捨てて、サラリーマンに・・」
「そうか。だから君は、広島支社に転勤してアパート暮らしか」
「そう、そうでないと嫁さんが来ないからね」
「オレの実家は、柏崎の造り酒屋でね。今は5代目だけど・・」
「オオ・・、すごいね」
「でも、不景気でね。家族会議で、『オレは後を継がない』って言ったんだ。そしたら、なんと妹が『私が挑戦する』って言い出して・・。マァ、確かに、杜氏とか従業員の生活もあるし・・」
――なるほど・・。二人には、それぞれ事情があって、
  自分なりの生き方を考えたんだ。
  ああ、私だって、両親が離婚したから、母と二人暮らしだよ。
  結婚したら、母を独りにはさせられないから、難しいよね。
  でも、次男坊となら、いいのかも・・。
  それにしても、≪かずカツ≫の後は継がないよね。
 
 すると、常連の中でも大御所の立花が、どこかで飲んで来たのか、かなりご酩酊の様子で陽気に入ってきた。

「オオ、諸君、元気しとるかね。オッ・・、近藤君、君は確か広島・・」
「ええ、今日は東京の本社に出張で・・」
「オッ、岡田君か・・、と言うことは、もう≪サライ≫は歌ったのかね」
「ええ、テーマソングですから・・」
――ああ、50代のおじさま、きっとどこかのお偉いさんでしょう。
  でも、いいよね。こんな友達感覚。
  客としては皆、平等なんだから。
 理香子は、スナックの常連仲間とはいえ、年齢差を意識しないで、こんなにも仲がいいとはと、新鮮な驚きだった。
「立花さん、来年あたりは役員になるんでは、と、もっぱらの噂ですよ」
 近藤の突っ込みに、ご機嫌の立花は、「イヤァ、部長になれたのがラッキーだったから、もう運は使い切ったよ」と、アッケラカントして応えた。
――ああ、こんなオヤジの姿もいいね。
  私の父は、家ではいつも仏頂面だったから・・。
  そう、接客の外面(ソトヅラ)がいいだけだったのよ。
 しかし、理香子はこんな男達の素顔を見るのは、初めてだった。
 それまでは、同年でも中高年でも、男性に対しては、どこか取っつきにくい壁があって、敬遠していたのだ。
 
「オオ、こんな美人の子、いいねえ。ママ、新人なの・・」
「いいえー、岡田さんがお連れしたんです」
「はい私、そこの≪かずカツ≫の娘でして、普通のOLをしてます。今日は母のお手伝いをしていましたら、岡田さんと初対面でお会いして・・」
「オオ、岡田君、ラッキーだったね。天使が舞い降りた、って、そんなお酒の天国だよ」
 すると、近藤が、「でもさあ、岡田、こんな美人で、理知的で、聡明な女性は初めてだよ」と、遠慮勝ちに言い出した。
 そして、どうしたものかと逡巡した挙句に、突然本音を言い出した。
「オマエには悪いけどさ、オレ、この人にプロポーズしてもいいかな」
「ナンダト・・。オレの方に優先権があるだろぅ」
――エエッ、なんという展開なの・・。
  まさかだよね。だって、私には二人とも初対面だし・・。
  お互い様で、まだ相手の人物を知らないし・・。
「おいおい君達、ヒロインの天使が困惑した顔をしてるぞ。もっとさぁ、お互いの実態、例えばだな、敢えて欠点とか、悪いところ、そんな負の側面もよく見て、理解し合わないと・・」
「はい、アドバイス、有難うございます。ええ、突然、宣告されたものでしたから、戸惑ってしまって・・」
 理香子は、大御所が2人にした説経にホッとしていた。
「そりゃあ、当然ですよ。まぁ、君たちが宣言したい気持は判るけど、さ。愛を育てるには、もうチョッと時間をかけないと・・」
 二人は改めてそう言われると、ライバル意識で勢いに乗ってしまったことを悔いた。
 
 すると、バイトの亜里沙が、独り言で呟いた。
「私なら、広島に行ってもいいのになぁ・・」
「エッ、亜里沙、本当か・・」
 近藤を初め、カウンターの4人ばかりでなく、ママもまさかの一言に、驚きの余り、ジッと亜里沙を見詰めている。
――ああ、別の天使が、突然、舞い降りてきたよ。
  気持は嬉しいけどな。
 近藤は、亜里沙が突然、一歩前に出てきたことに、戸惑ってしまった。
 だが、実は亜里沙は、以前から近藤に好意を持っていたのだが、近藤はそれを気づかずに、広島に帰ってしまったのだ。
 
 暫くの間、萎れて下を向いたままの亜里沙を、誰もが見るに見かねて、目線をはずしていた。
 すると、ママが、「亜里沙ちゃん、今のは本気なの・・」と声を掛けた。
 亜里沙は、ママをチラッと見ると、黙って頷いた。
「でもね、私、このお姉さんみたいに、頭は良くないし、スリムな美人ではないし・・、そう、私には、そんな資格はないから・・」
 ママは、呆けたように語る亜里沙を見て、何度も頷いている。
「ああ、やっぱりそうなのか。だって2年前、ここで近藤君の送別会をした時に、厨房で独り泣いていたのよね」
 近藤は、その明かされた秘話に、「エッ、まさか」と目を剥いた。
「近藤君、あなた、亜里沙ちゃんをどう思ってるの・・」
「イヤァ、いい子だし、遠慮っぽく引いているのが、好みだね」
「それで・・」
「イヤ、突然だったし・・、本人はまだ二十歳なんでしょ。だからさ、頭がパニクッて・・」
 すると大御所の立花が、「君達、向こうのボックスで、二人だけでよく話してごらん」と割り込んでくれた。
 するとと、ママが、一般には知られていない言葉を発した。
「近藤君、この亜里沙はね、ツキのない子でね。≪親ガチャ≫なのよ」
「エッ、なに、それ・・」
 近藤は、初めてママから聞く≪親ガチャ≫という言葉に、なにか突き刺さる危ないものを直感した。
「あのさぁ、その辺も、本人からよく聞いて、君なりの判断をしたら・・」
 経験豊かな立花が、当事者同士で判り合うことが最優先だと、アドバイスしてくれたのだ。
 
 すると、近藤が「あっちで、話そうか」と、グラスを持ってボックス席に移っていった。
 そしてスマホを取り出すと、気になっていた≪親ガチャ≫の意味を検索し始めた。
 すると、そこには、≪親は自分で選べない≫、≪どういう境遇に生まれるかは、全くの運任せ≫とあって、近藤はそれは当然だなと思った。
 だが、それは、ママが、『ツキのない子』と言った悲観的な言葉と被さっていたのだ。
――ああ・・、運のない家庭環境で育ったのかも・・。
  そう、もしかして、ダメ親かも知れないな。
  もしそうなら、ここは、本人が言うまでソッとしておこう。
 
 すると亜里沙が、自分用のオレンジジュースを持ってきて、ソファーで向かい合って座った。
「そうか、亜里沙は広島に来たいのか」
 近藤をチラッと見ると、大きくうなずいた。
「でも、なんで来たいの・・」
「近藤さんは優しくて、明るいし、私のタイプだから・・」
「フーン、それだけ・・」
「はい、私、白馬の王子様をみつけたの・・」
「そうか、今の世界から、どこか新しい世界に行きたいのか・・」
 下を向いたままの亜里沙は、持ってきたオシボリで、こらえきれ切れずに流れる涙を拭っている。
「今の世界って、例えば、自分の家から出たいの・・」
 亜里沙は、具体的に言われて、それが図星だったのにギクッとしたが、大きくうなずいた。
 近藤は、自分の家を出たいとする亜里沙の動機に、事の重大さを感じた。
 そして、「ママ、チョッと相談したいんだけど・・」と、声高にママに呼びかけた。
 すると、ママは気転を利かして、大御所に「一緒にお願いします」と頼んで、二人がボックス席にやって来た。
 あれから大御所は、ママから≪親ガチャ≫の意味や、亜里沙が虐待を受けている境遇を聞いていた。
 だから、仕方なく渋々と腰を上げたのだ。
 
「大先輩のお二人のご意見を、お聞きしたいんです。今、この子は現在の状況から、新しい世界に出て行きたい、と希望しています。その理由はボンヤリとですけど、感じました。さて、私はどうしたら・・」
「君、結婚する意志はあるのかね」
「はい、現在は未定です。結婚するとも、しないとも、断言できません」
 近藤がそう応えると、大御所は考え込んでしまった。
「でも、一緒に広島で暮らすことは出来ます。ただし、条件付きです。ええ、結婚を前提としないこと、セックスレスであること、そして亜里沙は、広島でバイトをして、いずれは独立すること」
「君、その覚悟は、ある意味で立派だよな」
 大御所は、穏やかな顔で、近藤を落ち着かせようと、語り出した。
「でも、亜里沙が今、苦境にあるとしたら、それを精神的に支えてやること・・。そして、自分の力で乗り越えるよう、アシストすること・・。そういう意味では、安易な手助けではなくて、この藤沢で自立させることが、最優先ではないのかな」
 するとママが、「そう、広島行きは、親に対して自分勝手で無責任な行動よ。だから、お二人さんは、もう少し時間を置いて考えるべきよね」と、割り込んで来た。
「でも、そうしたら、私、もう会えないかも・・」
「アラ、スマホでいつでも会えるでしょ」
「ああ・・、そうですね」
「そうよ」
 すると、亜里沙は辛い思いを胸いっぱいに吸い込むと、ゆっくりと溜息を吐き出していた。
「今は、二人の愛を、時間をかけて育てることが最優先だな。もっと冷静になって、よく考えてごらん」
 大御所は、ずっと戸惑っていたが、やっと自論が言えてホッとしていた。
 そして、二人の先輩は、若い二人を残して席を立っていった。
 
 あれ以来、ずっと気にしていた雄介が、「立花さん、どうでしたか」と、カウンターに戻ってきた大御所に聞いた。
「ウン、結論を急がずに、じっくり時間をかけて、お互いの愛を育てろ、って、言って来たよ」
 すると、理香子が「そうですよね。今ここで話をしていたんですが、私にも、直ぐにOK出来ない理由があるんです」と、訴えてきた。
「まぁ、人、それぞれに事情があるんだよな」
 大御所は、人生経験から、様々なケースを見てきただけに、同情的だった。
「ええ私、母と二人暮らしですから、結婚しても、実はお嫁には行かれないんです」
「でも、その辺は、話し合えば・・」
「岡田君、はやる気持は判るけど、もっと酒を飲んで、ワイワイと陽気にやって、自分を売り出したら、どうなの・・。君は、ナイスガイだからさ」
「そうですよ、岡田さん、もっと陽気な素顔を見たいですよ」
 雄介は、結婚を意識するあまり、イジケている自分に、ふと目覚めていた。
「よし、判った」
 理香子の励ましに、サッと頭を切り替えた。
「先輩、大いに飲みましょう」
 雄介は、そう言うとグラスを持って、皆と乾杯をした。
 
「ママ、僕のテーマソングを・・」
 立花が雰囲気を変えようと、カラオケで自分のオハコを頼んだ。
 そして、ノリのいい≪青春時代≫のイントロが始まると、「これはね、もう40年以上も昔の歌でーす」と、大御所がマイクを通して紹介した。
 そして、まさに自分の青春時代を思い出したのか、太くて伸びのある声で熱唱し始めた。
――ああ、これはオレ達の応援歌だよ。
  ≪青春時代の真ん中は 胸にとげさすことばかり≫、か・・。
  オレには彼女はいなかったけど、だからこそトゲに刺されたな。
 雄介には、学生時代も、最近までも、男女の関係はなかったし、だからこその辛い思いが多々あったのだ。
 
 そして理香子は、ぼんやりと立花の歌を聞いていたが、母の面影が頭に浮かんでいた。
――もし仮に、この雄介さんと結婚するって、言ったら・・、
  母はなんと言うかな・・。
  そんなことは考えていなくて、寝耳に水かもね。
  そうよ。母を独り、置き去りには出来ないのよね。
  それが親子の絆、なのよ。
  アナタ、自分の将来を、どう考えているの・・。
  さぁて、どうしますかね。
 美香子は独り、大きな溜息を吐いていた。
                                 ― つづく ―
 
 
 





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