少年詩時評『雲』 佐藤重男
□ きのう、久しぶりに路線バスに乗りました。ちょうどわたしの横に、保育園児ぐらいの小さな男の子が窓際に、そしてその隣にその子の祖母でしょうか、年配の女性が座っていました。 車窓から空を見上げていた子どもが、「ねぇ、バアーバァ。どうして、くもはとけていくの?」と聞きました。年配の女性は、曇り空を見上げながら「あれはね、溶けていくんじゃなくて、風に流れて行ってるんだよ」と答えてあげています。 祖母の説明に納得できないのか、その男の子は、雲を追いながら、「ねえ、どうして、くもはとけていくの?」と、繰り返すのでした。 わたしは、二人の会話を耳にしながら、これは、小さな子に軍配をあげるべきかな、と同じバスに乗り合わせた幸いに感謝するばかりでした。
□ はたちよしこの作品から「雲」を引きます。
雲 はたちよしこ
一日として おなじ雲はないはず そう おもっているのに いつか みたことのある雲に 出会うことがある
その雲も 合図を送ってくれるのか なつかしくて 手を伸ばしたくて しばらく みている
やがて 雲は 少しずつ かたちを変え どこかへ去っていく
けれど あの雲は また 来てくれるにちがいない なつかしいひとのように
「海がピアノを弾いている」木元省美堂 2021.12
□ 少年詩のなかでは、「くも(雲)」は「かぜ(風)」に続いて、題材に採られることの多い自然現象の一つです。 どちらも、変幻自在、というか、とどまることを知らない、その特性≠ェ文学にとって格好の題材になっているのかもしれません。
― この項 完 ―
いつものことですが、作品の引用にあたっては、誤字・脱字等のないよう努めましたが、何かお気づきの点がありましたら、ぜひ、お知らせください
2025/5/18 |