★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2021/02/25|その他
― サヨナラ、私の初恋 −≪男と女の風景  24≫
 ≪読者のみなさん、推薦作です≫

 これは10年前の作品ですが、是非とも皆さんに読んで戴きたいと思いました。
 新作の構想は出来ましたが、次回に回しても、こんな不倫の愛、そんな夢に浸るのもアリかなと・・。
 読者の皆さんが、どんな年齢層か判りませんが、中年の方々と思って、リニューウアルして届けます。
 次回は、新作で頑張りますので、乞う、ご期待を・・。 
                          橘川 嘉輝  拝

 
             2020年2月25日(木) 00:00時 更新

   我が家のベランダ・ガーデン

 今回は、今咲いている黄花の3鉢を、紹介します。
 
  ≪写真・左・・ハナニラ
 
この花ニラは、洋種のイフェイオンで、3週間前にアップしましたが、もうこんなに満開になりました。
 
  写真・中・・オウバイ
 この≪黄梅≫は,小品盆栽で、2本の木を夫婦に見立てて仕上げています。
 本来は、小枝がスーッと長くの伸びるのですが、刈り込んであるため花も少ないです。
 
  写真・右・・不明≫
 これは、他の鉢から飛び込んできたもので、不明です。
 でも、こんな風に意地を張って咲くのも、素晴らしいですね。
 

 
                        男と女の風景  24

  ― サヨナラ、私の初恋 −


 船越浩介と浜田朋美は、桜木町駅で待ち合わせると、タクシーで横浜の山下公園までやって来た。
 そして、公園を横切って、チケット売場の小屋を抜けると、その先には、横浜港の眺望が広がっていた。
「ワァー、この解放感、ステキ―・・」
 それを見た浜田朋美は、思わず両手を挙げて、叫んでいた。
 浩介は、白くて大きな遊覧船≪マーリン・ルージュ≫の前まで、朋美を連れて来ると、しばし船体を眺めて、マストを見上げていた。
「朋美さん、この船に乗るよ」
「エエッ・・、まさかでしょ」
 朋美は船の大きさに驚き、しかも乗船することに驚いた。
 まだ船は岸壁から出港する前だったが、朋美は浩介に手を引っ張られて乗船した。
 そして、二人は豪華な船内に入ると、さらに階段を登って,屋上のスカイデッキに上がった。
 そこには、夕陽が西に傾いた薄暮の大空が広がっていた。

 見れば、澄んだ青い空に、夕陽に染められた茜色の薄い雲が、寂しげに流れていた。
 そして、遠くに白いベイブリッジを眺め、さらに角度を変えると、高層のグランドホテルや観覧車、さらにマリンタワーも一望できた。
 朋美は、初めて見る光景に、息を飲んだまま、じっと目を凝らして眺め入っていた。
「こんな素晴らしい景色、感動的です。この思い出は、一生の宝です」
 朋美は、そう言いながら浩介の手を求めると、ギュッと握った。
 
 それから、船内の広いダイニングに入ると、二人はテーブルを挟んで晴れやかな気分になっていった。
「船越さん、まさか、ディナー・クルージングだなんて」
「どう・・、このシッチュエーションは・・。二人のお別れパーティだから、シックでオシャレに、ってね」
「ありがとうございます」

 朋美は、内心、申し訳ない気持があって、丁寧に頭を下げた。

「これはね、考えた末のサプライズなんだ」
「ええ、最高にステキな記念日になりそうですね」

 朋美は、嬉しくなって胸が高鳴ってきた。
 
 ベージュ色のコートを脱いだ朋美は、薄いピンクのスーツで、いつになく着飾っていた。
「それでは、乾杯しよう」

 二人はグラスを掴むと、赤ワインで乾杯をした。
「それぞれの前途に」
「私からお別れを言い出すなんて、本当にごめんなさい」
「まぁいいですよ。君が幸せになるんなら・・」

 浩介はそう言いながらも、いかにも辛そうに溜息を吐いた。
「でも、その華やかなピンクのスーツ、似合うね。いつも黒で地味に見せてるけど、僕はこの方が好きだな」
「ええ、こんな機会ですから・・」


 ひと息ついた所で、朋美が静かに語り出した。
「さっき夕日を見ていた時、私、なぜかジーンと込み上げてきて・・」
「どうしたの・・」
「ええ、大空を赤く染めた夕日、あの透明に澄んだ薄暮の美しさに、たまらなく感動して・・」

「そう、美しい夕日だったね」
「それで、今日で終わりかと思ったら、ええ、なぜか悲しくなって・・」
朋美は、グッと胸に迫るものがあって、目を潤ませていた。
「そうだね。この半年の間、僕は幸せだった」
「私もそうです。本当に感謝してます。まるで夢のようでした」

二人はしんみりとして、伏し目勝ちだったが、相手の様子を気にかけていた。
「オオッ、ベイブリッジだよ」
「まぁぁ、素敵ですね」

 もう暗さを増した濃いい青空に、ライトアップされた白いベイブリッジが、窓越しに巨人のようにそびえ立っていた。
「うん、いいね。夜空に浮かぶ架け橋か・・」
「ええ、私達、ズウットいつまでも、いつまでも繋がっていたかったです」
「そうだね。あの橋のように、ガッチリと・・」

 
 今日が最後の別れだと意識していた朋美は、恐る恐る聞いた。
「船越さん、私のこと今でも好きですか」
「うん。嫌いではないよ」
「いいえ。好きかどうかを聞いてるんです」
「もちろん好きだよ」

 浩介が、サラッと事もな気に応えたことに、朋美はあえて聞き返した。
「そうなら、私を愛していますか」
「ああ、難しい質問だね」

 浩介は、神妙な顔をして考え込んでしまった。
「そもそも僕は、愛することの意味を知らないんだ」
「誰かを愛していると自分が感じれば、それが愛なんです」
 それを聞いた浩介は、不思議そうな表情をして黙り込んだ。

「フーン、でも、愛は永遠だって、だれもが願うよね。しかし愛を亡くして、別れていくケースはいっぱいある」
「・・・」
「では、そこで亡くした愛って、なんだったんだろうな」
「優しさとか、思いやりだと思います」
「そうかな。僕が思うには、愛って元々が幻想なんではないかな。あたかも二人を結び付けていると見せかけた、そんな架空の思い込みではないか、と・・」
「でも、人は優しくされると、愛を感じます」

「ああ・・、でも、ひとつだけあるかもしれないな。君に、愛を感じる時が・・」
「エッ、それは」
「ウン、君が僕に身を委ねてくれる時かな・・」

「エエッ・・」

 朋美は、ふとピンポイントに思い当たって、目を剥いた。
「それって、もしかしてエクスタシイですか」
「おお、そのエンディングもそうだけど・・。実は、君は初めから、心が開放されていて、恍惚のトランス状態になる。その夢の中の君、僕はそこに愛を感じるんだ」
「はぁあ、自分のことは、なんとも・・」
「親子の愛は本能的だけど、男と女の愛って、先ずは認め合う者同士がいて、お互いを求め合うものかも・・」

「ああ、そうですね」
「だから二人の心が重なって、体が重なったのが愛ではないかと・・」


「あっ、ワイン、追加しようか」
「ええ、お願いします。このコース料理も、上品で美味しいですね」
「そうそう。牛フィレが良かったな」

 二人は美味しい料理に満足していたし、二人の雰囲気をも満喫していた。
「私、お酒の味も、お酒の飲み方も、あなたに教えてもらいました。ええ、お酒は、私に新しい世界を見せてくれました」
「そうか」

 二人は顔を見合わせると、満足気な微笑を交わした。
「でも、今夜のワインは、僕にふさわしい味だな」
「どうしてですか」
「妻も子供もいる僕が不倫をして、そして今夜限りで終末を迎える」

 浩介は、あえて平静を装いながら、自分の心境を語っている。
「この赤ワインの渋みは、僕の人生で、最後の一杯にふさわしいよ。そう、そんな寂しさが凝縮された渋さなんだ」
 朋美は、しみじみと語る浩介の気持を見ていた。
 浩介は、ふと家族を思い出して、目を細めた。

「君には新しい結婚相手が出来た。だから僕は、黙って君の前から消えるよ。新しいお二人にとって僕は、邪魔者なんだ」
「そんな風に言わないで」

 朋美は、思わず悲しそうになって、下を向いてしまった。
「君がその男と婚約する前から、僕たちは付き合ってきた。正直、何度もセックスをしたよ。でも、君は、彼を選んだ」

「ごめんなさい」

「いや、非難しているんではないんだ。僕は既婚者だから、私は彼と張り合う資格はないんだ。そう、無資格者なんだ」
「でも、私を愛してくれました。それだけで、私には充分でした」
「そうだね。でもね、僕は、家族を見捨てることは出来ないんだ」
「でも、もう裏切ってますよね」
「エッ・・、ああ、そうだよな」

 浩介は、黙って朋美を見詰めるしかなかった。
 
「でも、実は私も、あなたを裏切っているのかもしれません」
「エッ、どういうこと」

 朋美は、言ってしまってから、一瞬、躊躇した。
「実は船越さん、私には小学校一年生の男の子がいます」
「エエッ、本当なの・・。信じられない」
「ええ、我が家は今、母と三人で暮らしています。父が45歳で病気で亡くなって,母は苦労して私を育ててくれました」

「・・・」
「でも、父は新築の家を残してくれました。今では、感謝しています」
「そうか。そうするとバツイチだったのか」
「ええ。実は、私の夫だった人は、DVでした」

 浩介は、初めて明かされる朋美の過去に、驚いたまま絶句をしていた。
「ええ、家庭内暴力だったんです。子供がいたので、私は3年間、我慢しました。でも、限界を超えたので離婚したのです」
「そうか。初めて聞く話ばかりだな」
「いいえ。別に隠していたわけではないんです。ただ、そんな話題にならなかった。それだけです」
「そうだね。確かに隠したのでも嘘でもないよ。ただ僕には、君がどんな家庭環境かなんて、どうでもいいんだ」



「でも、初めてお酒をご一緒した時、『君は、どこか影のある女だね』って、言われました。それで、もう私の暗い過去をお見通しで、判ってくれてるんだと、感動したんです」
「イヤァ、単なる直感ですよ」
「いえ、私、ジーンと来て、魂が震えたんです。私の存在を認めてくれたのは、かつて母だけでした。でも、もう一人、船越さんが現れたんです」
 朋美は、そう言うとジッと浩介を見詰めながら、次を言うべきかどうか迷っていた。
「ええ、父は土建業で、家の中でも、外でも、自分がしたいように振舞ってました。俗に言う≪飲む・打つ・買う≫、そんな男でした」
「そうなのか・・」
「ええ、父の温もりを知らない私は、あの時、優しいあなたの懐に抱かれたいな、って・・」
「だからか・・。あの居酒屋を出た時、酔った勢いで突然、キスを求めてきたのか」
「ええ私、遠くから見ているだけの初恋はありましたけど、間近に感じた恋は初めてでした」
「ヘェー、では、僕が初恋の男なのか・・。嬉しいな」
 朋美は、恥ずかしそうに微笑むと、黙って頷いた。
 

 すると、グラスを持ったまま、窓から夜景を見ていた朋美が、ふと、自分のことを言い出した。
「私、前の夫がDVでしたから、再婚の話には慎重でした」
「そうなら、どうしてなの・・」
「ええ私、地元の二俣川で、町内会長の奥さんに紹介されたんです。奥さんを病気で亡くした子連れの男性がいるけど、どうかって、母に話がありましてね。その人は中学校の先生で、中1と少5の娘さんが二人いて、もう手はかからないけど、祖母や娘たちからも再婚を勧められたから、って・・」
「ああ、それはいい話かも・・」
「ええ、母に言われました。『孫の啓太には、父親も家族もいっぱいいたほうが、身も心も健康に育つよ』って・・」

「確かに、そうだよね」
「それでは、お友達の家族交流から始めましょう、となって。ある日、みんなで港みらい21の赤レンガの倉庫を歩き、大観覧車に乗って、中華街で食事をして・・」
「そうか、それで・・」
「ええ。息子が、お姉さん二人に可愛がられましてね。普段はあまり笑顔を見せないのに、もう嬉しそうで。その時、≪そうだ。笑顔の啓太に育てよう≫って思ったんです」
「そう、子供はね、先ずは家族で揉まれて、社会勉強が始まるんだ」
「ええ、先生の家族も皆、いい人ばかりで。仮に、少々のことがあっても、啓太のためならって、決心したんです」
「そうか。君らしい道の選び方だよ。それは尊重するな」


 もうデザートが出てきたが、二人はさらにワインを追加した。
「しかし僕たち、すごい偶然の出会いだったね。あれは、神さまのイタズラか、それともご褒美か・・」
「私には、ご褒美でした。あの日、大学の友達と会って、食事をして、お酒が弱いのにショットバーに誘われて、飲んだんです」
「僕はお客さんと一杯やって、京浜東北で港南台に帰ろうとしたんだ。そこで偶然、君に会った。だって、君が相鉄線で帰る、その改札口の前で、だよ」

「ええ、『浜田さん』と、突然声を掛けられた時、私、なにかドキッとして、運命的なものを感じて・・」
「だって僕は、ヨーロッパ工芸品の輸入問屋で、商品を納品する商社マンだよ。窓口で君をよく見かけたけど、言葉を交わしたことはなかったよね」
「でも私は、あなたを知っていました」
「僕だって、いつも黒のスーツで地味な人、そんな印象しかなかった。でも美人だし、あの控え目な女性らしさが、好みのタイプだった」
「ありがとうございます」

 朋美は、色っぽい眼で浩介を見ると、丁寧にお礼を言った。
「それで飲み直しているうちに、僕がたまらずに口説いたんだ。そしたら、酔っていたとはいえ、あなたは拒まなかった」
「ええ、あの前段で飲んだ友達が、大胆な不倫話をして、それに刺激されたのかも・・。」
「どういう風に」
「彼女は、旦那さまに倦怠期を感じていて、ステキな男性と出会ってから、ダブル不倫をエンジョイしてるそうです」
「ほう、それはまた大胆だな」
「違った緊張感もあるし、満足感もあるそうです。それがまた自慢げで、羨ましくなって・・」

 朋美は、中年女の飾らない色気を、大胆に振り撒いていた。
「あなた、付き合った男性は・・」
「ええ、元の主人とあなただけです。でも、こんなトキメキの日々になろうとは・・」



 また会話が途切れたが、浩介は、ここはひと言、お詫びを言っておく方がいいと思った。
「ごめんな。君には回り道をさせてしまったよな。しかも、心に深い傷を負わせてしまったかも・・」
「いいえ、私は幸せでした。あなたと一緒の時間は、いつもトキメキで震えていて・・。そんな私、とっても幸せでした」
「そう言ってくれると嬉しいな。それでは、手を出してごらん」
「そう、そぅっと・・。どう、僕の気持が伝わるかな」
「ええ、とっても・・」

 いつも控え目な朋美は、微笑みを浮かべながら受け止めている。
「ああ、優しくて、でも苦労してきた手だよね。少し荒れているのは、家事のせいだろうね。君は頑張ってるから」
「でも、いいんです。母の面倒は、大好きな母への恩返しですから」。
「そうか。優しいんだね」
「はい、ありがとうございます。ああ私、嬉しい。ごめんなさい。私、もう泣きそうです」
「いいんだ。僕の胸をいつでも貸しますよ。今の僕には、そんなことしか出来ないから」
「ああ、抱いてください」

 朋美は、心からそう願っていたから、本心を訴えていた。
「あなたの指先から伝わる、あなたを感じたいんです」
「そんな眼で見られると、僕はとろけそうだよ。もう今日は、最後のセレモニーは堪能したのに・・」
「でも、もっとあなたがほしい。あなたの総てがほしい。私は、総てを亡くしてもいい。あなたと一緒ならば・・」

 朋美は、もうワインに酔っていたが、雰囲気にも酔って、思いの丈を切々と訴えていた。
「つらいな。そんなことをしたら、お別れにならないよ」
「いいんです。地獄に落ちても、あなたの指先がほしい」
「そうだよね。君が頑張ってきたご褒美と、僕からの感謝の気持をこめて、もう一度抱いてあげたいな」


 朋美は、この半年間、お互いに求め合った愛の交換を思い出していた。
「ええ、私、ホテルに入って、あなたに優しく抱かれれると、もう小鳥のように震えるんです。あの優しい口づけだけで、魂が抜かれて・・」
「そう、君はいつも感じてくれていて、あの陶酔した表情に、僕は燃えるんだ。なんでこんなにも総てを受け止めて、感じてくれるんだ、って・・」
「でも、私に魔法をかけるのは、あなたなんです」

 朋美は、トロンとした艶っぽい眼で、じっと見つめている。
「しかし、Dカップで、キメが細やかで滑る肌、たまらないな」

「そう言われても、自分では判りません」
「しかも、ベッドに入ってからの君は、大胆だったよね」
「いいえ、私の肌を這う指先に、たまらない刺激を感じて、あなたの吐息にも感応したんです。もしかして、私の全身、総てが性感帯かもしれません」
「君の太腿に指先でチョッと触れただけで、君は感じてしまう。それから、その感じたままに、指先を求めるように両足を開くんです」
「まぁ、恥ずかしい」
「時には、息も絶え絶えに激しい息遣いが急に止まって、気絶したのかと、あわてて胸を指圧するんだ」
「もうその時、私は、覚えていません。きっとエクスタシーの限度を超えた極限なんです」


「でも、あなたのリードは、まるで催眠術なんです。暗示にかかった被験者を、心地よくさせてしまう」
「違いますよ。君が、トキメいて受け入れてくれるから・・。そう、僕は、あのうっとりした目線に悩殺されるんだ」
「あなたが、そうさせるのです」
「それって天性、それとも二人の相性、かな」
「お互いに求め合ってるのかも・・」

 浩介は、ふと朋美とのセックスに新鮮さを感じている自分に気づいた。
「実は、妻とのセックスは、もうマンネリ化を通り過ぎて、時たま思い出したようにするだけです。高校から付き合って、ずっとセフレでしたから」
「まぁ、そんなに」
「ええ。当時から妻は尽くしてくれました。若い時は、街角の陰や公園でもしてくれました。濃厚なサービスだったし、グッドジョッブではありましたけど、でも、優しさは感じなかった」
「それは感じ方の違いもあるでしょうし、当時のことを忘れているのかも・・」
「まあ、確かに日常的だったから、新鮮さはなくなっているな」

 浩介は、一呼吸を置いて、ワインを飲んだ。
 
「妻に比べると、あなたは両手を広げて受け止めてくれる。そんな女の優しさに、僕は総てを預けてしまうんです」
「母性なんですかね」
「そう。まだヨチヨチ歩きの頃、向こうで母が『さあ、おいで』って、両手を広げて微笑んでる。そんな光景なんです。ええ、母なる大きな懐、そんな包容力に、安心して飛び込んでいかれるんです」
「そんなこと言われたの、初めて・・」
「そうか。僕たちのセックスはね、愛ではなくて、胸をときめかせる恋かもしれないな」
「すると、やっぱり初恋ですかね」
「そう、無我夢中でガムシャラに突進していく恋心、でも繊細で、鋭敏な感性が感じ合ってしまう。初恋の感性そのままに、セックスにはまり込んでいくんだ」
「私はもう中年ですけど、気持は、初恋に揺れる青い少女のままです。自分でも信じられないほど青臭いのに、でも二人になると、燃えてしまう自分がいるんです」


「今度再婚する人とでは、きっとエクスタシイを感じることはないでしょう。でも、もしそれがほしくなったら、お願いできますか」
「いいですよ。君には、いっぱい借りがあるから。ダブル不倫でも・・」
「それって、夫への裏切りですかね」
「でも、なぜそうしてまでして再婚とは・・」
「ええ、息子の笑顔もありますけど、私は精神的な安定がほしいんです。一人身の女ですから、ふと夜中に眼が覚めると、不安になって・・。それからは眠れない夜が続いて、不眠症になるんです。安心してくつろげる時間と場所が、フッとした時にほしくなるんです」

「でも僕たち、こんな話をするのは始めてだよね。いつもは、自然の流れでセックスをしてきたけど」
「ええ、今、改めて言葉にすると、そうだったんですね」
「お互いに求め合って、昇りつめて、そして僕は満足げにビールを飲んで、余韻に浸っていただけ・・。満たされた二人には、会話なんて要らなかった」
「ええ私も、昇りつめてしまった余韻に、ただボーッとして」
「そうか。そう、今、愛が見えたかも・・。愛って、相手を受け止めて、自分に受け入れる気持かもしれない。それが相手に対する心の優しさかも・・」

「船越さん、最後にお願いがあります」
「さて、なんだろう」
「実は、私の両親は昔、群馬の田舎から駆け落ちして、横浜に来たそうです」
「・・・」
「そのため、親兄弟や親戚の付合いがないんです。それで、小さな結婚式なんですけど、実は私の父親役で出席してほしいんです」
「エッ、なんだと・・」
「申し訳ないんですが、先方からも、片親だけではなく、親戚の人でもいいからと・・」
「そうか。花嫁の父か・・」
「ええ、あなたのような威厳と品格のある人なら、私も少しは見栄えがしますので・・」
「それでは、やりますか。でも、彼にはなんて説明するの」
「会社の人で、部署は違うけど、尊敬できるお偉いさん、かな」
「それって、かわいい嘘ですよね」
「ウフフ。でも、これは罪ではないですよね」

「おっ、直ぐ前にベイブリッジが見えるよ」
「あぁ、愛の架け橋だ。真っ暗な夜空に浮かんで、おいで、おいでって呼んでる」
「ねえ、スカイ・デッキに出てみようか」
「横浜港の夜風ですか、それもいいですね」

 二人は、手を取り合うと、急いで階段を昇った。
 すると、まさにベイブリッジの真下を通過する時で、その巨大な建造物の骨組みが丸見えだった。
 浩介は、思わず朋美の手を引いて、「ああ、君のとろける唇がほしい」と呻くと、そっと抱き寄せてキスをしていった。
「僕は、君に愛を感じたよ。だから、君の存在と共に、僕の感性の記憶に刻み込んでおいたよ」



 スカイデッキから見える港の様々な無数の明かり、それが目の前にパノラマとなって展開されていた。
 それは、自分たちに向かって、拍手を持って祝福しているようにさえ思えた。
「船越さん、私を愛してますか」
「うん。愛してるよ。今の僕には、はっきりと、そう言える。君がくれた愛を、今夜のお別れディナーで、改めて認識したよ」
「ええ、私も、これが愛だと感じました」

 二人は、お互いに背中に手を回して、夜の闇で瞬く光の帯を堪能していた。
「オッ、もう港に着くよ」
「アッ、私はイヤです。航路を変えて、銀河の果てまで・・」

 
                           ― おしまい ―
 
 
 





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