≪読者のみなさん、推薦作です≫
これは10年前の作品ですが、是非とも皆さんに読んで戴きたいと思いました。 新作の構想は出来ましたが、次回に回しても、こんな不倫の愛、そんな夢に浸るのもアリかなと・・。 読者の皆さんが、どんな年齢層か判りませんが、中年の方々と思って、リニューウアルして届けます。 次回は、新作で頑張りますので、乞う、ご期待を・・。 橘川 嘉輝 拝 2020年2月25日(木) 00:00時 更新
○我が家のベランダ・ガーデン○
今回は、今咲いている黄花の3鉢を、紹介します。 ≪写真・左・・ハナニラ≫ この≪花ニラ≫は、洋種の≪イフェイオン≫で、3週間前にアップしましたが、もうこんなに満開になりました。 ≪写真・中・・オウバイ≫ この≪黄梅≫は,小品盆栽で、2本の木を夫婦に見立てて仕上げています。 本来は、小枝がスーッと長くの伸びるのですが、刈り込んであるため花も少ないです。 ≪写真・右・・不明≫ これは、他の鉢から飛び込んできたもので、不明です。 でも、こんな風に意地を張って咲くのも、素晴らしいですね。 ≪男と女の風景 24≫
― サヨナラ、私の初恋 −
船越浩介と浜田朋美は、桜木町駅で待ち合わせると、タクシーで横浜の山下公園までやって来た。 そして、公園を横切って、チケット売場の小屋を抜けると、その先には、横浜港の眺望が広がっていた。 「ワァー、この解放感、ステキ―・・」 それを見た浜田朋美は、思わず両手を挙げて、叫んでいた。 浩介は、白くて大きな遊覧船≪マーリン・ルージュ≫の前まで、朋美を連れて来ると、しばし船体を眺めて、マストを見上げていた。 「朋美さん、この船に乗るよ」 「エエッ・・、まさかでしょ」 朋美は船の大きさに驚き、しかも乗船することに驚いた。 まだ船は岸壁から出港する前だったが、朋美は浩介に手を引っ張られて乗船した。 そして、二人は豪華な船内に入ると、さらに階段を登って,屋上のスカイデッキに上がった。 そこには、夕陽が西に傾いた薄暮の大空が広がっていた。 見れば、澄んだ青い空に、夕陽に染められた茜色の薄い雲が、寂しげに流れていた。 そして、遠くに白いベイブリッジを眺め、さらに角度を変えると、高層のグランドホテルや観覧車、さらにマリンタワーも一望できた。 朋美は、初めて見る光景に、息を飲んだまま、じっと目を凝らして眺め入っていた。 「こんな素晴らしい景色、感動的です。この思い出は、一生の宝です」 朋美は、そう言いながら浩介の手を求めると、ギュッと握った。 それから、船内の広いダイニングに入ると、二人はテーブルを挟んで晴れやかな気分になっていった。 「船越さん、まさか、ディナー・クルージングだなんて」 「どう・・、このシッチュエーションは・・。二人のお別れパーティだから、シックでオシャレに、ってね」 「ありがとうございます」 朋美は、内心、申し訳ない気持があって、丁寧に頭を下げた。 「これはね、考えた末のサプライズなんだ」 「ええ、最高にステキな記念日になりそうですね」 朋美は、嬉しくなって胸が高鳴ってきた。 ベージュ色のコートを脱いだ朋美は、薄いピンクのスーツで、いつになく着飾っていた。 「それでは、乾杯しよう」 二人はグラスを掴むと、赤ワインで乾杯をした。 「それぞれの前途に」 「私からお別れを言い出すなんて、本当にごめんなさい」 「まぁいいですよ。君が幸せになるんなら・・」 浩介はそう言いながらも、いかにも辛そうに溜息を吐いた。 「でも、その華やかなピンクのスーツ、似合うね。いつも黒で地味に見せてるけど、僕はこの方が好きだな」 「ええ、こんな機会ですから・・」
ひと息ついた所で、朋美が静かに語り出した。 「さっき夕日を見ていた時、私、なぜかジーンと込み上げてきて・・」 「どうしたの・・」 「ええ、大空を赤く染めた夕日、あの透明に澄んだ薄暮の美しさに、たまらなく感動して・・」 「そう、美しい夕日だったね」 「それで、今日で終わりかと思ったら、ええ、なぜか悲しくなって・・」 朋美は、グッと胸に迫るものがあって、目を潤ませていた。 「そうだね。この半年の間、僕は幸せだった」 「私もそうです。本当に感謝してます。まるで夢のようでした」 二人はしんみりとして、伏し目勝ちだったが、相手の様子を気にかけていた。 「オオッ、ベイブリッジだよ」 「まぁぁ、素敵ですね」 もう暗さを増した濃いい青空に、ライトアップされた白いベイブリッジが、窓越しに巨人のようにそびえ立っていた。 「うん、いいね。夜空に浮かぶ架け橋か・・」 「ええ、私達、ズウットいつまでも、いつまでも繋がっていたかったです」 「そうだね。あの橋のように、ガッチリと・・」 今日が最後の別れだと意識していた朋美は、恐る恐る聞いた。 「船越さん、私のこと今でも好きですか」 「うん。嫌いではないよ」 「いいえ。好きかどうかを聞いてるんです」 「もちろん好きだよ」 浩介が、サラッと事もな気に応えたことに、朋美はあえて聞き返した。 「そうなら、私を愛していますか」 「ああ、難しい質問だね」 浩介は、神妙な顔をして考え込んでしまった。 「そもそも僕は、愛することの意味を知らないんだ」 「誰かを愛していると自分が感じれば、それが愛なんです」 それを聞いた浩介は、不思議そうな表情をして黙り込んだ。 「フーン、でも、愛は永遠だって、だれもが願うよね。しかし愛を亡くして、別れていくケースはいっぱいある」 「・・・」 「では、そこで亡くした愛って、なんだったんだろうな」 「優しさとか、思いやりだと思います」 「そうかな。僕が思うには、愛って元々が幻想なんではないかな。あたかも二人を結び付けていると見せかけた、そんな架空の思い込みではないか、と・・」 「でも、人は優しくされると、愛を感じます」
「ああ・・、でも、ひとつだけあるかもしれないな。君に、愛を感じる時が・・」 「エッ、それは」 「ウン、君が僕に身を委ねてくれる時かな・・」 「エエッ・・」 朋美は、ふとピンポイントに思い当たって、目を剥いた。 「それって、もしかしてエクスタシイですか」 「おお、そのエンディングもそうだけど・・。実は、君は初めから、心が開放されていて、恍惚のトランス状態になる。その夢の中の君、僕はそこに愛を感じるんだ」 「はぁあ、自分のことは、なんとも・・」 「親子の愛は本能的だけど、男と女の愛って、先ずは認め合う者同士がいて、お互いを求め合うものかも・・」 「ああ、そうですね」 「だから二人の心が重なって、体が重なったのが愛ではないかと・・」
「あっ、ワイン、追加しようか」 「ええ、お願いします。このコース料理も、上品で美味しいですね」 「そうそう。牛フィレが良かったな」 二人は美味しい料理に満足していたし、二人の雰囲気をも満喫していた。 「私、お酒の味も、お酒の飲み方も、あなたに教えてもらいました。ええ、お酒は、私に新しい世界を見せてくれました」 「そうか」 二人は顔を見合わせると、満足気な微笑を交わした。 「でも、今夜のワインは、僕にふさわしい味だな」 「どうしてですか」 「妻も子供もいる僕が不倫をして、そして今夜限りで終末を迎える」 浩介は、あえて平静を装いながら、自分の心境を語っている。 「この赤ワインの渋みは、僕の人生で、最後の一杯にふさわしいよ。そう、そんな寂しさが凝縮された渋さなんだ」 朋美は、しみじみと語る浩介の気持を見ていた。 浩介は、ふと家族を思い出して、目を細めた。 「君には新しい結婚相手が出来た。だから僕は、黙って君の前から消えるよ。新しいお二人にとって僕は、邪魔者なんだ」 「そんな風に言わないで」 朋美は、思わず悲しそうになって、下を向いてしまった。 「君がその男と婚約する前から、僕たちは付き合ってきた。正直、何度もセックスをしたよ。でも、君は、彼を選んだ」 「ごめんなさい」 「いや、非難しているんではないんだ。僕は既婚者だから、私は彼と張り合う資格はないんだ。そう、無資格者なんだ」 「でも、私を愛してくれました。それだけで、私には充分でした」 「そうだね。でもね、僕は、家族を見捨てることは出来ないんだ」 「でも、もう裏切ってますよね」 「エッ・・、ああ、そうだよな」 浩介は、黙って朋美を見詰めるしかなかった。 「でも、実は私も、あなたを裏切っているのかもしれません」 「エッ、どういうこと」 朋美は、言ってしまってから、一瞬、躊躇した。 「実は船越さん、私には小学校一年生の男の子がいます」 「エエッ、本当なの・・。信じられない」 「ええ、我が家は今、母と三人で暮らしています。父が45歳で病気で亡くなって,母は苦労して私を育ててくれました」 「・・・」 「でも、父は新築の家を残してくれました。今では、感謝しています」 「そうか。そうするとバツイチだったのか」 「ええ。実は、私の夫だった人は、DVでした」 浩介は、初めて明かされる朋美の過去に、驚いたまま絶句をしていた。 「ええ、家庭内暴力だったんです。子供がいたので、私は3年間、我慢しました。でも、限界を超えたので離婚したのです」 「そうか。初めて聞く話ばかりだな」 「いいえ。別に隠していたわけではないんです。ただ、そんな話題にならなかった。それだけです」 「そうだね。確かに隠したのでも嘘でもないよ。ただ僕には、君がどんな家庭環境かなんて、どうでもいいんだ」
「でも、初めてお酒をご一緒した時、『君は、どこか影のある女だね』って、言われました。それで、もう私の暗い過去をお見通しで、判ってくれてるんだと、感動したんです」 「イヤァ、単なる直感ですよ」 「いえ、私、ジーンと来て、魂が震えたんです。私の存在を認めてくれたのは、かつて母だけでした。でも、もう一人、船越さんが現れたんです」 朋美は、そう言うとジッと浩介を見詰めながら、次を言うべきかどうか迷っていた。 「ええ、父は土建業で、家の中でも、外でも、自分がしたいように振舞ってました。俗に言う≪飲む・打つ・買う≫、そんな男でした」 「そうなのか・・」 「ええ、父の温もりを知らない私は、あの時、優しいあなたの懐に抱かれたいな、って・・」 「だからか・・。あの居酒屋を出た時、酔った勢いで突然、キスを求めてきたのか」 「ええ私、遠くから見ているだけの初恋はありましたけど、間近に感じた恋は初めてでした」 「ヘェー、では、僕が初恋の男なのか・・。嬉しいな」 朋美は、恥ずかしそうに微笑むと、黙って頷いた。 すると、グラスを持ったまま、窓から夜景を見ていた朋美が、ふと、自分のことを言い出した。 「私、前の夫がDVでしたから、再婚の話には慎重でした」 「そうなら、どうしてなの・・」 「ええ私、地元の二俣川で、町内会長の奥さんに紹介されたんです。奥さんを病気で亡くした子連れの男性がいるけど、どうかって、母に話がありましてね。その人は中学校の先生で、中1と少5の娘さんが二人いて、もう手はかからないけど、祖母や娘たちからも再婚を勧められたから、って・・」 「ああ、それはいい話かも・・」 「ええ、母に言われました。『孫の啓太には、父親も家族もいっぱいいたほうが、身も心も健康に育つよ』って・・」 「確かに、そうだよね」 「それでは、お友達の家族交流から始めましょう、となって。ある日、みんなで港みらい21の赤レンガの倉庫を歩き、大観覧車に乗って、中華街で食事をして・・」 「そうか、それで・・」 「ええ。息子が、お姉さん二人に可愛がられましてね。普段はあまり笑顔を見せないのに、もう嬉しそうで。その時、≪そうだ。笑顔の啓太に育てよう≫って思ったんです」 「そう、子供はね、先ずは家族で揉まれて、社会勉強が始まるんだ」 「ええ、先生の家族も皆、いい人ばかりで。仮に、少々のことがあっても、啓太のためならって、決心したんです」 「そうか。君らしい道の選び方だよ。それは尊重するな」
もうデザートが出てきたが、二人はさらにワインを追加した。 「しかし僕たち、すごい偶然の出会いだったね。あれは、神さまのイタズラか、それともご褒美か・・」 「私には、ご褒美でした。あの日、大学の友達と会って、食事をして、お酒が弱いのにショットバーに誘われて、飲んだんです」 「僕はお客さんと一杯やって、京浜東北で港南台に帰ろうとしたんだ。そこで偶然、君に会った。だって、君が相鉄線で帰る、その改札口の前で、だよ」 「ええ、『浜田さん』と、突然声を掛けられた時、私、なにかドキッとして、運命的なものを感じて・・」 「だって僕は、ヨーロッパ工芸品の輸入問屋で、商品を納品する商社マンだよ。窓口で君をよく見かけたけど、言葉を交わしたことはなかったよね」 「でも私は、あなたを知っていました」 「僕だって、いつも黒のスーツで地味な人、そんな印象しかなかった。でも美人だし、あの控え目な女性らしさが、好みのタイプだった」 「ありがとうございます」 朋美は、色っぽい眼で浩介を見ると、丁寧にお礼を言った。 「それで飲み直しているうちに、僕がたまらずに口説いたんだ。そしたら、酔っていたとはいえ、あなたは拒まなかった」 「ええ、あの前段で飲んだ友達が、大胆な不倫話をして、それに刺激されたのかも・・。」 「どういう風に」 「彼女は、旦那さまに倦怠期を感じていて、ステキな男性と出会ってから、ダブル不倫をエンジョイしてるそうです」 「ほう、それはまた大胆だな」 「違った緊張感もあるし、満足感もあるそうです。それがまた自慢げで、羨ましくなって・・」 朋美は、中年女の飾らない色気を、大胆に振り撒いていた。 「あなた、付き合った男性は・・」 「ええ、元の主人とあなただけです。でも、こんなトキメキの日々になろうとは・・」
また会話が途切れたが、浩介は、ここはひと言、お詫びを言っておく方がいいと思った。 「ごめんな。君には回り道をさせてしまったよな。しかも、心に深い傷を負わせてしまったかも・・」 「いいえ、私は幸せでした。あなたと一緒の時間は、いつもトキメキで震えていて・・。そんな私、とっても幸せでした」 「そう言ってくれると嬉しいな。それでは、手を出してごらん」 「そう、そぅっと・・。どう、僕の気持が伝わるかな」 「ええ、とっても・・」 いつも控え目な朋美は、微笑みを浮かべながら受け止めている。 「ああ、優しくて、でも苦労してきた手だよね。少し荒れているのは、家事のせいだろうね。君は頑張ってるから」 「でも、いいんです。母の面倒は、大好きな母への恩返しですから」。 「そうか。優しいんだね」 「はい、ありがとうございます。ああ私、嬉しい。ごめんなさい。私、もう泣きそうです」 「いいんだ。僕の胸をいつでも貸しますよ。今の僕には、そんなことしか出来ないから」 「ああ、抱いてください」 朋美は、心からそう願っていたから、本心を訴えていた。 「あなたの指先から伝わる、あなたを感じたいんです」 「そんな眼で見られると、僕はとろけそうだよ。もう今日は、最後のセレモニーは堪能したのに・・」 「でも、もっとあなたがほしい。あなたの総てがほしい。私は、総てを亡くしてもいい。あなたと一緒ならば・・」 朋美は、もうワインに酔っていたが、雰囲気にも酔って、思いの丈を切々と訴えていた。 「つらいな。そんなことをしたら、お別れにならないよ」 「いいんです。地獄に落ちても、あなたの指先がほしい」 「そうだよね。君が頑張ってきたご褒美と、僕からの感謝の気持をこめて、もう一度抱いてあげたいな」
朋美は、この半年間、お互いに求め合った愛の交換を思い出していた。 「ええ、私、ホテルに入って、あなたに優しく抱かれれると、もう小鳥のように震えるんです。あの優しい口づけだけで、魂が抜かれて・・」 「そう、君はいつも感じてくれていて、あの陶酔した表情に、僕は燃えるんだ。なんでこんなにも総てを受け止めて、感じてくれるんだ、って・・」 「でも、私に魔法をかけるのは、あなたなんです」 朋美は、トロンとした艶っぽい眼で、じっと見つめている。 「しかし、Dカップで、キメが細やかで滑る肌、たまらないな」 「そう言われても、自分では判りません」 「しかも、ベッドに入ってからの君は、大胆だったよね」 「いいえ、私の肌を這う指先に、たまらない刺激を感じて、あなたの吐息にも感応したんです。もしかして、私の全身、総てが性感帯かもしれません」 「君の太腿に指先でチョッと触れただけで、君は感じてしまう。それから、その感じたままに、指先を求めるように両足を開くんです」 「まぁ、恥ずかしい」 「時には、息も絶え絶えに激しい息遣いが急に止まって、気絶したのかと、あわてて胸を指圧するんだ」 「もうその時、私は、覚えていません。きっとエクスタシーの限度を超えた極限なんです」
「でも、あなたのリードは、まるで催眠術なんです。暗示にかかった被験者を、心地よくさせてしまう」 「違いますよ。君が、トキメいて受け入れてくれるから・・。そう、僕は、あのうっとりした目線に悩殺されるんだ」 「あなたが、そうさせるのです」 「それって天性、それとも二人の相性、かな」 「お互いに求め合ってるのかも・・」 浩介は、ふと朋美とのセックスに新鮮さを感じている自分に気づいた。 「実は、妻とのセックスは、もうマンネリ化を通り過ぎて、時たま思い出したようにするだけです。高校から付き合って、ずっとセフレでしたから」 「まぁ、そんなに」 「ええ。当時から妻は尽くしてくれました。若い時は、街角の陰や公園でもしてくれました。濃厚なサービスだったし、グッドジョッブではありましたけど、でも、優しさは感じなかった」 「それは感じ方の違いもあるでしょうし、当時のことを忘れているのかも・・」 「まあ、確かに日常的だったから、新鮮さはなくなっているな」 浩介は、一呼吸を置いて、ワインを飲んだ。 「妻に比べると、あなたは両手を広げて受け止めてくれる。そんな女の優しさに、僕は総てを預けてしまうんです」 「母性なんですかね」 「そう。まだヨチヨチ歩きの頃、向こうで母が『さあ、おいで』って、両手を広げて微笑んでる。そんな光景なんです。ええ、母なる大きな懐、そんな包容力に、安心して飛び込んでいかれるんです」 「そんなこと言われたの、初めて・・」 「そうか。僕たちのセックスはね、愛ではなくて、胸をときめかせる恋かもしれないな」 「すると、やっぱり初恋ですかね」 「そう、無我夢中でガムシャラに突進していく恋心、でも繊細で、鋭敏な感性が感じ合ってしまう。初恋の感性そのままに、セックスにはまり込んでいくんだ」 「私はもう中年ですけど、気持は、初恋に揺れる青い少女のままです。自分でも信じられないほど青臭いのに、でも二人になると、燃えてしまう自分がいるんです」
「今度再婚する人とでは、きっとエクスタシイを感じることはないでしょう。でも、もしそれがほしくなったら、お願いできますか」 「いいですよ。君には、いっぱい借りがあるから。ダブル不倫でも・・」 「それって、夫への裏切りですかね」 「でも、なぜそうしてまでして再婚とは・・」 「ええ、息子の笑顔もありますけど、私は精神的な安定がほしいんです。一人身の女ですから、ふと夜中に眼が覚めると、不安になって・・。それからは眠れない夜が続いて、不眠症になるんです。安心してくつろげる時間と場所が、フッとした時にほしくなるんです」
「でも僕たち、こんな話をするのは始めてだよね。いつもは、自然の流れでセックスをしてきたけど」 「ええ、今、改めて言葉にすると、そうだったんですね」 「お互いに求め合って、昇りつめて、そして僕は満足げにビールを飲んで、余韻に浸っていただけ・・。満たされた二人には、会話なんて要らなかった」 「ええ私も、昇りつめてしまった余韻に、ただボーッとして」 「そうか。そう、今、愛が見えたかも・・。愛って、相手を受け止めて、自分に受け入れる気持かもしれない。それが相手に対する心の優しさかも・・」
「船越さん、最後にお願いがあります」 「さて、なんだろう」 「実は、私の両親は昔、群馬の田舎から駆け落ちして、横浜に来たそうです」 「・・・」 「そのため、親兄弟や親戚の付合いがないんです。それで、小さな結婚式なんですけど、実は私の父親役で出席してほしいんです」 「エッ、なんだと・・」 「申し訳ないんですが、先方からも、片親だけではなく、親戚の人でもいいからと・・」 「そうか。花嫁の父か・・」 「ええ、あなたのような威厳と品格のある人なら、私も少しは見栄えがしますので・・」 「それでは、やりますか。でも、彼にはなんて説明するの」 「会社の人で、部署は違うけど、尊敬できるお偉いさん、かな」 「それって、かわいい嘘ですよね」 「ウフフ。でも、これは罪ではないですよね」
「おっ、直ぐ前にベイブリッジが見えるよ」 「あぁ、愛の架け橋だ。真っ暗な夜空に浮かんで、おいで、おいでって呼んでる」 「ねえ、スカイ・デッキに出てみようか」 「横浜港の夜風ですか、それもいいですね」 二人は、手を取り合うと、急いで階段を昇った。 すると、まさにベイブリッジの真下を通過する時で、その巨大な建造物の骨組みが丸見えだった。 浩介は、思わず朋美の手を引いて、「ああ、君のとろける唇がほしい」と呻くと、そっと抱き寄せてキスをしていった。 「僕は、君に愛を感じたよ。だから、君の存在と共に、僕の感性の記憶に刻み込んでおいたよ」
スカイデッキから見える港の様々な無数の明かり、それが目の前にパノラマとなって展開されていた。 それは、自分たちに向かって、拍手を持って祝福しているようにさえ思えた。 「船越さん、私を愛してますか」 「うん。愛してるよ。今の僕には、はっきりと、そう言える。君がくれた愛を、今夜のお別れディナーで、改めて認識したよ」 「ええ、私も、これが愛だと感じました」 二人は、お互いに背中に手を回して、夜の闇で瞬く光の帯を堪能していた。 「オッ、もう港に着くよ」 「アッ、私はイヤです。航路を変えて、銀河の果てまで・・」 ― おしまい ― |