★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2020/06/11|その他
○ 女たちの独愁 ○ [男と女の風景・167]
 
             2020年6月11日(木) 00:00時 更新 
                            
  ○我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、もう五月に咲き終わっていますが、皆さんにお見せしたい3品を、紹介します。
 
  ≪写真・左・・姫ツキミソウ
 これは、背丈が20センチにも満たない矮性の≪姫月見草≫です。
 おそらく、交配による園芸種でしょう。
 
   ≪写真・中・・ハルサメソウ≫
 これの特徴は、葉に黄色い斑が入っていることです。
 それにしても、こんな小さな株に、花の茎が30センチも伸びて花を咲かせるなんて、驚きです。
 
  ≪写真・右・・ウズラバタンポポ≫
 この特徴は、葉に黒っぽい斑点が入っていて、それがウズラの羽根のようなため、この名前になりました。
 ご覧のように、綿帽子の種がいっぱいです。
 

                         [男と女の風景・167]
                   ― つづき・2 ―

  ○ 女たちの独愁 ○
 
 
 次の週の水曜日、石橋は、またスナック≪みはま≫に行った。
 すると、優美が水割りを作りながら、「朋子さん、ぞっこんでしたよ」と、チョッと皮肉っぽく言った。
「なに、妬いてるの・・」
「いいえ。でも、『私、天にも昇る心地』って、言ってました」
――ああ、もしかして、キスをしたのを言ったのかな。
  ヤバイ、かも・・。
 この泣き顔の女は、総てを黙って飲み込むはずなのに、今日は、なんとなく積極的に話しかけてきた。
「そうか。僕の悪い癖が、また出てね・・。だって、朋ちゃんは、男の眼を見ないで、話すんだもの・・」
「だから、ですか」
「そう、あの人には、男性恐怖症だって言ったんだ」
「アッ、私も、そうですよ」
 二人分の水割りを作ってもらったので、優美と乾杯した。
 
「でもね、二人のファザコンは、タイプが違うんだ」
「ああ・・、そうですね」
「あの人のは、父親が立派過ぎて近寄れなかった。でも、君のは、多分、泥臭いんだ」
「ええ、私は、男運に恵まれてない、と言うより、翻弄されて、不幸のどん底に落とされました」
 ママが、向こうの常連客と話し込んでいるのを承知して、優美は喋り続けていた。
「男性には、裏と表があって、普通は素顔を見せないんです。だから、裏の顔になにが潜んでるか、それが恐怖なんです」
 石橋は、おおよそ想像がついたが、敢えて聞いてみた。
「なんで、君は、男をそう疑うんだ」
「ええ、私の父も、亭主も、豹変した裏の顔を出す時は、おぞましい程、酷い男達でした」
――ああ、そうだったのか・・。
  でも、今日は、なぜかよく喋るな。
  普通は、そんなプライベートまでは喋らないけど・・。
  酒のせいか。それとも、朋子とのライバル意識か。
「ええ、まるで無法地帯の荒くれ者で、もう私の手に負えなかったんです。本人は仕事で自暴自棄になって、家では暴言や暴力が絶叫の中で行われて、もう絶望的な地獄でした」
――ああ、この女も優しさを求めているのに・・、
  父親にも、亭主にも、満たしてもらえなかったんだ。
「ですから、母も私も離婚して、今は娘と女三代が助け合って、アパートで暮らしてます。」
 そこには、朋子とは全く違う境遇の女が、報われない人生の孤愁を感じながら、細々とと生きていた。
――ああ、どうか、拾う神よ、出現してくれ・・。
  ここに頑張っている女がいるんだ。
 石橋はかすかな望みを求めて、神頼みで祈るしかなかった。
 しかし、実は石橋は、自分なりに出来ることを用意していたのだ。
 
 それから、優美がさり気なくトイレに立った。
 そして、戻ってきたのを見計らって、内ポケットから白い封筒を取り出すと、黙って後ろ手に渡した。
 それは、銀行のCDの横にある封筒で、10万円が入っていた。今日、自分の貯金から下ろしてきたのだ。
 厨房で中身をチェックした優美が、目を剥いてカウンターの前に飛び出てきた。
「オレの気持」
 石橋は、さり気なくそう伝えた。
 それは、ママにも内緒だったから、優美も下手に騒げずにいた。
 そして、感極まった泣き顔になると、黙って小さくお辞儀をした。
――そうだよ、女三代の家族だろ。
  大した助けにはならないだろうけど、そう、オレの気持。
  オレは、拾う神には、なれないけどな。
 それは、去年、妻には内緒で、自社株を売却して、貯金をしていた一部だった。
 石橋の会社には、持ち株会の制度があり、給与から一定額を天引きして、積立額が1000株を超えると、売却できるのだ。
――まぁ、こんな事をしたのは、初めてだけど・・、
  飲み屋の世界はこんなものだよ。
  そう、寂しい者同士が、慰め合えればね。
  だって、お金を貸してくれと頼まれて、貸したら、もう帰ってこない。
  だったら、献金した方が、サッパリするよ。
  優美の気心に触れて、そうする気になった。
  それだけ、だから・・。
 
 石橋は、ぼんやりと酒を飲んでいた。
 会社の仕事は、毎日、気が抜けないほど忙しかったから、帰りは息抜きで、夜な夜な飲み歩いていた。
――会社を出て、家に帰るまではオレの時間だ。
  だから、仕事も家族も、一旦は頭から消したいんだ。
  でも、何時からこんなスタイルになったのかな・・。
  そうか。仕事が多忙になったのは、30才で主任になってからだよ。
  まぁ、給料を貰ってるから、仕事が最優先なのは、当然だけどな。
「石橋さん、大丈夫ですか」
 朋美が、いきなり顔をヌーッと出して、覗き込んできた。
「ああ、普通だよ。このポケーッとしているのが、オレのストレス発散なんだ。仕事は忘れたいからね」
「石橋さんは、やり手の管理職なんでしょ」
「イヤァ、しがないサラリーマンですよ」
「仕事で見せる真剣な顔を、見たいですね」
「いや、無我夢中なだけ・・」
 二人は、いつものたわいのない軽口を交わしていた。
「でも、先ほどは、有難うございました」
 石橋は、敢えて目を見開くと、「さて、なんだっけ」と、とぼけた。
「アラ、この人、ニクイんだから・・」
 優美は、大袈裟に両手を擦り合わせて、いつもの泣き顔で笑っている。
 そして、水割りを作ってもらうと、また乾杯した。
――そう、なんの変哲もない飲み屋の風景、
  これが、いいんだよな。
  なんのシガラミもなくて、貸し借りのない人間同士、
  あるのは、心の交流だけだ。
 
 すると、隣に見たことがある常連が座ってきた。
「オオ、ユーミン、元気だったか」
「はい、元気でしたよ」
 男は酔っているのか、大声を出して話しかけた。
――ああ、騒がしいな。
  静かに飲んでいたいのに・・。
  まぁ、頃合を見て、早めに帰るか。
 優美が、水割りを作りながら、男のファッションを褒めた。
 さり気なく見ると、白いスーツの下に、派手な赤い花柄のアロハシャツを着ていた。
 すると男は、席を立って自慢げに見せびらかすと、とうとうとハワイ旅行の話から、アロハの買い物ツアーの話をし始めた。
 そんな話は聞きたくもなかったが、大声が耳に飛び込んできていた。
ふと、ママがなにかの用事で、石橋の前に来たので、さり気なくチェックのサインを送った。
「アラ、石橋さん、もう帰るんですか」
「ウン、今日は体調が悪くてね」
 そんな二人の会話を聞いて、優美はさり気無く厨房を回ると、フロアに出てきた。
 そして、飲み代を払った石橋に「有難うございました」とお辞儀をすると、ドアを開けてついてきた。
 優美は小走りで前に出ると、手際よく、エレベーターのボタンを押した。
 そして、振り向くと、いきなり石橋に抱きついて、プチュッとキスをしてきた。
 その突然の行動に、石橋は「エッ、何事だ」と驚いたまま、されるままになっていた。
 そして、エレベーターのドアが開くと、唖然としたままの石橋を中に押し込んで、ドアが閉まるまで深々とお辞儀をしている。
――あの女、こんなに大胆だったのか。
  泣き顔で、引っ込み思案なのに・・。
  子育てで自信がついた主婦は、したたかで,強いのかも・・。
 石橋は、ビルから出ても、唇にねっとりとした温もりを感じていた。
 
 その後も、石橋は相変わらず仕事が忙しかったし会社からの帰りは息抜きで、夜な夜な飲み歩いていた。
 だが、それは平日だったから、土曜日の朋子のことは、すっかり忘れていた。
すると、2週間ほどして、1通のメールが入って、驚いた。
≪ 石橋 様
 大変ご無沙汰してますが、お元気ですか。 朋子です。
 お会いするお時間を戴けたら、幸いです。
 当方は、平日の5時以降でしたら、予定を調整致します。
 日時、場所をご指定願いますか。  かしこ ≫
――ああ、どうするかな。
  ヤバイ領域に突入するかも・・。
  でも、自分は、愛人だと公言した女だから・・、
  多分、我が家庭にまでは、入り込まないだろう。
  まぁ、仕方がないな。付き合うか。
 そう思った石橋は、≪今週末の金曜日、6時に藤沢駅で、どうですか≫と返事をした。
 すると、間もなくして≪了解しました≫と返事がきた。
――もしかして、2週間、連絡を待っていたのかも・・。
  でも、我慢できなくなって、メールをくれたんだ。
  控え目で、節度のある女だからな。
 
 その約束の日、石橋は予定通りに藤沢駅に着いて、改札を出ると、直ぐ目の前に朋子が現れた。
 石橋は、思わず嬉しくなって、「やぁ、久しぶりだね。元気だった」と声を掛けた。
 すると、朋子は、「ええ、お蔭さまで・・」と、あくまでも控え目だった。
 朋子は、いつもの通り黒いスーツ姿だった。
 そして、髪をアップにして、まるでキャビン・アテンダントだった昔のように、ビシッと決めていた。
 それから、歩き出すと、朋子は何気に腕を組んて来て、石橋の温もりを感じていた。
 駅を出ると、石橋は、いつも行く居酒屋に案内した。
 コロナ騒動で客は少なかったし、随所に飛沫防止のビニールの壁が吊るされていた。
 二人は4人掛けのテーブルに、並んで座ると、さっそくビールをジョッキで注文した。
 
 だが、二人の間には共通する話題がなかった。
 しばらく、黙ったままでいると、ジョッキが届いて、乾杯をした。
「あのぅ、メールをして、ご迷惑をおかけました」
「いや、そんなことないよ。仕事が忙しかったし、君の生活のリズムも判らなかったから・・」
「ええ、私は今、横浜の商工会議所と顧問契約をしていまして、中小企業のコンサルタントをしてます」
――エエッ、この女、そんなに出来るの・・。
「はい、数多くのお客様がいまして、毎日が、結構忙しいんです」
――なんだと・・。
  この女が経営の指南役だって・・。信じられないな。
  そんな知性と、センスがあるなんて・・。
 石橋は、改めて、朋子をまじまじと眺めた。
「ええ、経営者のメンタルヘルスもしていまして、悩みの相談も・・。特に最近はコロナ騒動で、様々な相談事が・・」
――なんというマルチの才能なんだ。
  ああ、オレより出来る女かも・・。
  そうか。もしかして、日本の最高学府かもな。
 石橋は、届いた焼き鳥を食べながら、さり気無く朋子の様子を窺っていた。
「君さぁ、そんな立派な仕事をしているのに、スナックでバイトとは・・」
「ええ、私、男性にサービスする仕事は好きですし、気分転換にもなりますので・・」
――ああ、子供に手が掛らなくなったのか・・。
  それで、刺激を求めているのかも・・。
  確かに、自分でカネを使って飲み歩くより、いいかも・・。
 
「あのぅ・・、ひとつだけお願いが、あるんですが・・」
「ああ、僕に出来ることなら」
 朋子は体を斜めにして、神妙な顔で石橋と向かい合った。
「私、決してご迷惑をおかけませんから、ずっと傍にいさせて欲しいんです。ええ、月に何回かお会いするだけで・・」
「エッ、それだけ・・。それはOKだけど、僕の存在なんて軽いでしょ」
「いえ、それがズッシリと、重たいんです」
――高学歴のインテリで、メンタルヘルスもしているのに・・。
  そう、他人の相談役なのに、自分の相談役にはなれないのか。
  ああ、自分のファザコンが越えられないのかも・・。
「ええ私、自分の身の上話をしたのは、石橋さんが初めてです。ましてや、母の系譜が上臈(じょうろう)だったなんて・・」
――確かに、秘密を暴露したよな。
  でも、≪男の眼を見ない≫から、始まったんだ。
  それって、オレの単なる直感だよ。
  しかし、直球勝負の連続ストライクで、アウトだったのか・・。
  それで、眠っていた女が、目を覚ましたのかも・・。
 
「君はさぁ、精神的に強いのでは・・」
「いいえ、ストレスが溜まって、不安感で揺れ出すと、大地に根を張った大木にしがみ付きたい。そんな心情になるんです」
「そうか。君はさぁ、清水の舞台から飛び降りる、その根性を据えて、死んでもいいって腹を括るんだ」
「・・」
「そしたら、オレが下で受け止めてやるよ」
「ああ、有難うございます」
 石橋は、話の流れから大見えを切ってしまった。
「私、時として、恐怖の妄想に怯えるんです。ええ、それは判っているんですけど・・。石橋さん、私の総てを受け止めて下さい」
「おお、いいぞ。カモンベイビーだ」
 石橋は、なんとも不思議な世界に迷い込んだような、そんな感覚になっていった。
 そして、残ったビールをググッと飲むと、店員を呼んで追加を頼んだ。
 朋子のジョッキを見ると、半分も残っていた。
――この朋子は、外から見たら素晴らしい女だけど、
  でも、精神力が不安定で、脆いのかも・・。
  子供の頃から、誰かに頼り、大人になっても男に頼ってきたから・・。
  頼れる誰かがいないと、不安なんだよ。
 
 新しいジョッキが届いて、石橋が朋子のジョッキにカチンと合わせて、飲もうとした時だった。
イ ジケたように俯いていた朋子が、ふと顔を挙げて、寂しそうな眼を向けてきた。
――アッ・・、なんだ。あの切なくて、悲しそうな目線は・・。
  ああ、男として、ギュッと抱き締めてやりたくなるな。
  そう、あの押し殺した無表情なのに、怪しい目の動きは、
  返ってなにかを求めてる、って・・、そんな感じがするな。
  エッ、ハグをか・・。さらにキスもか・・。
  ああ、ヤバイかも・・。
 石橋は、禁断の果実をもぎ取るような、トキメキ感と罪悪感が混ざった、そんな複雑な心境だった。
――ああ、ここは飲んで、酔っ払って、誤魔化すしかないか。
  だって、一緒に飲むだけならいいけど、不倫はダメでしょう。
  中年女は大胆だからな。
 そんなことを思いながら、石橋は急ピッチで飲んでいった。
――オレは、優しい眼をした女がタイプなんだ。
  心から優しいと、思うから・・。
  でも、この淋し気な眼は、胸を打って・・、たまらないよな。
 
「ところで、このコロナ騒動は、大変でしょう」
 石橋は、知らん顔をして、話題を変えた。
「そうですね。中小企業さんは、廃業とか、事業停止とかで、パニックなんです。ええ、貯金のある会社は、休業しても、何とか立ち直れますけど・・」
 だが、その話題はそこまでで、また沈黙が続いてしまった。
「君は今、どこに住んでるの・・」
「ええ、鵠沼です。父はもう他界しまして、九州の母をこちらに呼んで、娘と3人で・・」
――ああ、優美と同じなんだ。
  いろんな家族がいるけどさ・・、
  でも、生まれ育った境遇や生活レベルが違うんだよな。
「僕は、私立の大学だけど、君は国立・・」
「ええ、東京大学です」
「エエッ・・、だから、コンサルタントなのか・・」
「ええ、航空会社に入って、出産で仕事を辞めて、でも、子育て中は、自宅で必死に勉強をしました」
「そうか・・」
「ええ、それで税理士や中小企業診断士の資格を取りました。それが今、役に立っています」
「ああ、君は優秀なんだね」
 朋子は、石橋の眼を見て話をしていたが、また俯いてしまった。
 そんな様子を見て、石橋はただ黙々と飲み続けるしかなかった。
 そして、ジョッキが空になって、店員を呼んでウイスキーがあるのを確かめると、ダブルの水割りを頼んだ。
 
 直ぐにダブルロックのグラスが届くと、「君は、飲まないの」と朋子に声を掛けた。
すると、あの目線に、また出会ってしまった。
――ああ、どうすれば、いいんだ。
 石橋は、どうしたものかと、水割りを飲みながら考え込んでしまった。
 そして、悩んだ末に、「朋ちゃんはさぁ、ハグをして欲しいの」と言ってしまった。
 ずっと俯いたままの朋子は、上目使いて石橋を見ると、黙って頷いた。
「そうか、判ったよ。お店を出たらね」
 朋子は、ホッと安心したのか、石橋を見つめる目は潤んでいた。
――エッ、本気で清水の舞台から飛び降りるの・・。
  それで、オレがこの女の総てを、受け止めるの・・。
  まさか、だろ。
  ああ、本当にヤバイかも・・。
  この彷徨っている女、もしかして全力で攻めて来るかも・・。
  ああ、イヤな予感がするぞ。
  しかし、その時は、男だから、受けて立つしかないよな。
 
                           ― つづく ―
 
 





     コメントする
タイトル*
コメント*
名前*
MailAddress:
URL:
削除キー:
コメントを削除する時に必要になります
※「*」は必須入力です。