★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2020/05/28|その他
○ ファザコンの女たち ○  [男と女の風景・167]
             2020年5月28日(木) 00:00時 更新 
                            
  ○我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、葉に斑が入った苗木の3品を、紹介します。
 
  ≪写真・左・・ユキヤナギ
 この≪雪柳≫は、山野草の仲間から手に入れたものですが、葉に白い斑が鮮明に入っているのが特徴です。
まだ、15センチほどの苗木で、花は咲いていません。
 
  ≪写真・中・・五色バラ≫
 このバラの特徴は、ご覧のように、春の新芽に五色の斑が、極彩色のように入っている点です。
 でも、花は白くて地味です。
 
  ≪写真・右・・ハクチョウゲ≫

  この≪白丁花≫は,親木から挿し木をしたものですが、、まだ10センチ程なのにもう花を咲かせています

                   [男と女の風景・167]
                    ― つづき 2 ―

  ○ ファザコンの女たち ○
 
 森山は、彩香に春香も加わって、三人で談笑をしながら水割りを飲んでいた。
 すると、二人組の客が帰るからと、華純(かすみ)に合図をした。
「ママ、お会計」
 その呼び出しがかかって、厨房からママが出てきた。
 チラッとカウンターを見たママが、「アラ、彩香ちゃん、いらっしゃい」と声を掛けたが、隣に座っている森山にも目を止めた。
 眼を合わせた森山は一瞬、ハッとした。
どこかで見たことがある、懐かしい顔だと思った。
 確かに、見覚えがあったが、どこで、どう会ったのかや、まして名前などは、思い浮かばなかった。
 さり気なく様子を見ていると、ママも気になったのか、時折チラッと見ては首を捻っている。
 

 そして、二人の客を送り出して、ママがカウンターの中に戻ると、怪訝な顔で森山を見ている。
「ママ、うちの会社の課長で、森山さんです」
 綾香が、そう言って、自慢げに紹介した。
 見れば、スーツをビシッと着こなしていて、いかにもサラリーマンであり、管理職に見えた。
 森山が、穏やかに「一杯、どうですか」と、ママに声を掛けた。
 すると、「はい、いただきます」と、初めての客に恐縮している。
 そして五人で乾杯をすると、さっそく森山が「ママと、どっかで会ったような気がするんですけど」と、問いかけた。
「ええ、私も・・。ずっと昔・・」
そんな会話を、彩香も春香も、二人の顔を見比べながら、興味深げに聞いていた。
「ああ・・、もしかして、クラブ≪エリザ≫ですかね」
「おお、そんなクラブ、ありましたね。ウン、確か1回だけ、行ったことがありますよ」
 すると、思い当たったのか、二人は同時に「アアッ」と声を挙げて、お互いを指差した。
「そうだ。この店の名前、友代さんだよ」
「そう、昔の主人がお連れした人ですよね。森山さん、ですか。そう、モリさんですよね。ああ・・、懐かしいです。ええ、あれからもう20年以上は経ちますよね」
 それを聞いていた彩香と春香は、目を剥いて驚いている。
 森山は、思わず身を乗り出すと、カウンター越しに握手を求めた。
 すると、カウンターの奥で耳をそばだてていた華純も驚いて、近寄って来た。
――ママは、私より5年も前に、森山さんと出会っていたのか・・。
  でも、ママも私も、若い頃の森山さんを知ってるなんて・・。
  偶然とはいえ、なんかゾクゾクッと寒気がする。
  ああ、なにか運命的なものを、感じるな。
 
 だが、ママは、あの場面を思い出して、どうしたものかと内心、戸惑っていた。
 娘たちの前で暴露するのはどうかと、一瞬、躊躇したのだが、森山を前にして意を決した。
「モリさん、その節は、大変お世話になりました」
「いえいえ・・」
 森山は、お礼を言われて戸惑ったが、あの時の修羅場を話していいのか、どうか、迷っていた。
 だが、3人の女の子たちは、目を輝かせて、続きの話を待っていた。
「あのね、華純が高校に入ったので、私、パートの仕事から、クラブ・エリザに替えたのよ。そしたら、3か月ぐらいして、別れた亭主の水原がモリさんをお連れして、お店に来たの・・。そう、あれは離婚して、もう5年は経っていたかな・・」
 だが、ママは、この先を話すかどうか、まだ迷っていていた。
 しかし、三人の女の子を見渡して、皆が興味津々なのを見たら、話すしかなかった。
 
「そしたら、いきなり私が接客している席に来て、『オマエ、こんなとこで、なにしてんだ』って、大声で怒鳴ったのよ。一瞬で店中が静まり返ったわよ。あの人、酔っ払うと酒癖が悪いの・・。私、仕方がないから席を立って、ドアの外に出て、それから、大喧嘩になったの・・」
「そうか。その時、森山さんが止めてくれたんだ」
 姉の華純が、話しを繋いでくれた。
「もう離婚したんだから、私がなにをしようと、勝手でしょ。私が、娘、二人を育てるには、パートより時給が高い方がいいのよ、って・・」
 ところが、あの時、酔っぱらった水原が、いきなり友代の胸倉を掴んで、殴りかかろうとしたのだ。
 森山は、咄嗟に割って入って、ヌーッと自分の顔を押し出して、「もう、止めろ」と怒鳴った。
 それを見て、水原は振り上げた手を引っ込めたのだ。そして、男は、黙って消えていった。
 森山は今、そんな場面を思い出していた。
 その喧嘩の仲裁をした後で、森山は、この友代に引き止められて、気分直しでそのクラブで酒を飲んだのだ。
――あの頃も、色艶のあるいい女だったな。
  しかも、相手への気配りがあって、思い遣りを感じたんだ。
  だから、苦労人だろうとは、思ったけどね。
 
「でも、なんで、ママはそんな人と結婚したのよ」
 また、華純が長女の立場からか、詰問するようにママに迫った。
「そうね。話したくないから、ずっと黙っていたけど・・。これも、モリさんとの運命の出会い、ですかね」
「ママ、もう一杯、キューッとどうですか」
 森山は、春香に目配せをして、別のグラスを用意させた。
 そして、春香が氷を入れると、黙ってグラスを取り寄せて、並々とウイスキーを注いだ。そして水を少な目にして、濃いいオンザロックを作った。
 ママは、神妙に頭を下げると、森山を見詰めたまま、一気にグラスの半分も飲んだ。
 
「あのね、私が25の頃、スナックでバイトをしていたの・・」
 ママは、濃いいロックを飲んで、覚悟を決めたせいか、話しにわだかまりがなくなっていた。
「彼はね、毎日のようにお店に来ては、口説いてきたの・・。甘いマスクで、優しかったのよ。聞けば建設会社の2代目で、両親に会ったら是非ともと言われてね。でも・・」
「でも、って、なに・・」
 ママが言い澱んだので、また華純が追い立てた。
 その言い方には、積年の恨みが噴出したような、そんな険悪さがあった。
「あのね。一緒に暮らしたら、あの男は、お母さんの言いなりだったの・・」
 ママは、険しい顔で睨みつける華純の顔を見て、苦々しい思いで溜息交じりに語っていた。
 それは、娘たちに初めて明かす、亭主との出会いであり、離婚した真相だった。
 
「ある時、華純の子育てのことで、言い争いになったの・・。その時、彼はなんと、お母さんの味方に付いたのよ。私、それで離婚を決意したの・・」
 そこでママは、またフーッと深い溜息を吐いた。
「それからは、酔っぱらいとの夫婦喧嘩が絶えなくてね。あなた方にも、辛い思いをさせたのよね」
「そうよ。いつも私は、春香をかばって、部屋の隅で泣いていたわ」
 華純は、下を向いて涙をこらえると、悲しい思い出を語った。
「でもね、子供のために、慰謝料を取るにはどうしたらって・・。それで、考えた末に、浮気調査をしたのよ」
「フーン」
 華純は、まだ憤懣が抜けていないのか、軽蔑的な目で見ていた。
「そしたらね、案の定、その証拠が掴めてね。訴訟を起こして、養育費を勝ち取ったわよ。でも、あの時は必死だったな」
 それは、娘たちの前で、初めて見せる悲痛な告白だった。
 そして、ママは、その時、なりふり構わず、訴訟で必死に対決したのを思い出すと、遠くを見遣った。
 ふと、切なくなったのか、ボロボロッと涙を溢した。
 すると、いきなりグラスを持って、残りの濃いいロックをグーッと飲み干した。
 ママは、この場は酒を飲んで、酔っ払うしかないと腹を括ったのだ。
 
「でも彼は、お坊ちゃま育ちで、イケメンでね。箱根や城ケ島にドライブして、そう、デートの時なんかは、優しかったなぁ」
「ああ、ママ、その気持、判るよ。私も、そんな男に口説かれたの・・」
「だって、私の父親は頑固者で、ああしろ、こうしろって、威張り腐っていたの・・。だから、私は大っ嫌いだった。そんな私だったから、あの優しい男に口説かれて、結婚したの・・」
――ああ、このママも、ファザコンだったんだ。
  そう、こういう女は、父親とは反対のタイプに憧れるんだよな。
  青春時代に、満たされなかった空白を埋めるためにね。
「でもね。ママ、父の印象は、酔っ払って、怒鳴り散らして、怖かった。それだけだよ。ネ、春香」
「うん、そうだね」
 華純はスリムで、顔つきも体も痩せ型だった。
 だが、笑顔や悲しい顔など、その表情が豊かで、常に相手を意識して気配りをする女だった。
「でもそうか、ママの父も、私の父も、暴君だったんだ。だから私達は、真逆のヤサ男に、惹かれたんだね」
 華純は、母の気持が判ってきたのか、少しずつ機嫌を直していった。
――ああ、この母も娘も、ファザコンを引き摺ってるのか・・。
  そうか。ファザコンは遺伝子で繋がってるのかも・・。
 
 また静けさが戻って、皆は思い思いに水割りを飲んでいた。
 森山には、自分の家族のことが思い浮かんでいた。
――ウーン、結婚とは、なんなのかな。
  まあ、オレの嫁は、同じ職場のOLだったけど・・。
  でも、最近は、休日など、一緒にいるとウザったくってな。
  そう、小言が耳障りなんだよな。
  もう少し、放って置いてくれると、いいんだけど・・。
  でも、オレは、オヤジに似ているのかも・・。
  母が家族を取り仕切っていたから、父は無口で、異を唱えなかったし、
  オレも家庭では、母に言われるままだった。
  だから、オレは母が嫌いだったし、いつも遠くに逃げていたんだ。
  オレの青春は、女性とは無縁だったけど、
  でも、職場の連中との飲み会、あれで気軽に打ち解けられた。
  多分、オレもマザコンだろうけど、軽傷だと思う。
  だから、夫婦生活も、親子関係も、様々にお互い様なのかも・・。
 
 ふと、彩香が、次女の春香に疑問を投げかけた。
「でも、春香はさぁ、中学、高校から、男の子を寄せ付けなかったよね」
 彩香は、母親や長女の話を聞いていて、それとは異質な春香を感じていたのだ。
「ウーン、私、尻尾を振ってくる男って、信じてないから」
 春香は、自分の男性観の話になって、つっけんどんで冷やかに応えた。
「そう、そんな男には、露骨にイヤそうな顔をして、軽蔑していたのよ」
 春香は、やや丸顔だが、のっぺりとした無表情のままで、意識して聞き流しては無視する態度だった。
――ああ・・、父親を否定して、その余り、総ての男を拒絶するとは・・、
  そうか。そんなファザコンも、あったのか・・。
  しかし、どっちのケースも、不幸を呼ぶんだよな。
  きっと、この子は、一生涯、独身を通すだろうよ。
  まぁ、それも、その人の生き方だから・・。
  でも、信じられる男が、この子の前に現れて欲しいな。
 
「そうか。男性不信なのか・・」
 姉の華純が、仲良し二人組の話に入ってきた。
「私もね、スナックでバイトを始めた頃は、チャライのは軽薄でヤだったな。でもね、どっか寂しくって、優しさを求めていたのよ」
 そんな華純の自己弁護を無視して、彩香は、また問いかけた。
「それで、春香はどうなの・・。ずっと独身なの・・」
「そうだね、多分そうだよ」
「じゃあ、独身同盟で、一緒に暮らすか・・」
「ああ、いいかも・・」
春香は、彩香の冗談めいた提案に、あっさりと合意した。
――そうだよな。二人で慰め合って、生きていくのもいいかも・・。
  それは、同性愛ではなくて、
  信じあえる者同士の、慰め合いなんだろうな。
 森山は、子供達が引き摺っている親に対するコンプレックス、その影響の大きさを痛切に感じていた。
 
 そして森山は、あの男の悪評をずっと聞いていたので、仕事ぶりから、少しは褒めて持ち上げようと思った。
「でも、あの水原さんは、頑固だけど、職人気質のいいオヤジさんでね。仕事の上では、腰が低い人だったよ」
「それは、当然ですよ」
ママが、すかさず反発してきた。
「だって、水原建設は小さい会社で、森山さんの大手の下請けですから、平身低頭でないと・・」
「しかし、穏やかで、温和な性格に見えたけどなぁ」
「あの人は、O型なんです。ですから、お上には従順ですが、内弁慶で、下の弱い者に対しては命令して、従わせようとするんです」
――ああ、そうかもしれないな。
  裏と表があるとも言えるけど・・。
  でも、O型は、カッコつけ師で、ナルシストなんだ。
  そう、職場の同僚も、部下にも、O型にはそういうキャラが多いよ。
  オレはお上に従順だから、下の者はオレに従順であれ、ってね。
  そう言う意味では、趣旨一貫しているのかも・・。
  まぁ、それもある種の遺伝子、なんだろうけどな。
 
「森山さん、今日はなんという日なんですか」
「なにが・・」
 華純が突然、感動したように声を挙げたが、森山には意味不明だった。
「だって、母が結婚したいきさつも、離婚した理由も、初めて聞けました。しかも、母だって、見た目の優しい男を求めたんです」
 華純は、森山を見詰めたまま、一気にしゃべっていた。
「そんな女心も知らずに、あんな父と結婚したのを、私はずっと責めていました。アア・・、ママ、ごめんなさい」
 華純はそう言うと、ママに深々と頭を下げた。
 すると、ママは華純の手を取って、「いいのよ」と慰めた。
「ええ、私には子供がいなかったから、直ぐに離婚しましたけど、でも、母には私達二人がいたんです。ですから・・、きっと、すっごく、すっごく辛抱、したんだと・・」
 華純は、もう鼻を詰まらせて、涙声になっていた。
「アア・・、お母さん・・」
 華純は、両手を広げると、ママに抱きついた。
 すると、春香も思いが募ってきて、ワァーッと抱きついていった。
 そして、母と娘たち三人は、声を挙げて涙を流しながら、ガッチリと抱き合っている。
 
 そんな成り行きを見詰めていた森山と彩香は、期せずして顔を見合わせると、頬笑みを交わした。
 そして彩香は、懐かしい父親を思い出して、内心、自分は恵まれたファザコンなんだと、父に感謝していた。
 森山も、母と娘が抱き合っている様子を、ジッと見つめていた。
――母と娘、その家族が、正に肉親として感じ合い、ひと塊になってる。
  親と子の間でわだかまっていた不信感、それが溶けたんだ。
  偶然の出会いがあって、こんな予期せぬ展開から、
  この家族は、大切な絆を取り戻したんだ。
 そして、森山は、こんな場面に出くわしたのは、初めてだったから、ジワッと込み上げるものがあった。
――しかし、飲み屋街の片隅に、
  ファザコンを引き摺っている女たちが、こんなにもいるなんて・・。
  日常では顔にも出さないけど・・、
  でも、心の奥底で、優しい父親を求めてるんだ。
  そう、ファザコンの女たちは、男社会の中を漂流しているんだ。
  ああ、哀れだし、可哀想だよな。
 
                      ― おしまい ―
 

 





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