★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2020/05/21|その他
○ ファザコンの女たち ○ [男と女の風景・167]
               2020年5月21日(木) 00:00時 更新 
                            
  ○我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、この春に咲いた花たち3品を、紹介します。
 
  ≪写真・左・・行者ニンニク
 これは、冷涼な気候を好み、北海道が最大の自生地です。
 行者が、荒行に耐える強壮薬として食用にしたので、この名前に・・。
 ガンや動脈硬化などを予防し、抗菌作用も強いとのこと。また、ビタミンも豊富で、疲労回復にも良いそうです。
 ただ、この鉢のものは、葉に、白い散り斑が入っている珍品です。
 
  ≪写真・中・・姫ツキミソウ≫
 これは背丈が15センチほどで、姫性の園芸種です。
 
  ≪写真・右・・庭セキショウ≫
 これは、日本庭園にある石菖と、葉が似ていますが、違うと思って調べました。
 そうしたら、アメリカ原産で、園芸用に持ち込まれて、この名前になったようです。
 背丈は20センチほどで、こんな可愛い花を咲かせます。
 

 
               [男と女の風景・167]
                    
  ○ ファザコンの女たち ○
 
 二月の初旬、庶務課の庶務担当である神田彩香(あやか)は、ここ数日、タイミングを見計らっていた。
 それは、上司である庶務課長と山本主任の二人が、同時に不在になる必要があったからだ。
 そして、ある日、二人が不在になった時、福利課の森山課長の前に来ると、小声で「チョッと、ご相談が・・」と申し出た。
「エッ、なに、なんなの・・」
 彩香は、真顔で森山を見ていたが、この場では言いにくそうだった。
 そんな様子を察した森山は、面談コーナーで話を聞くからと、誘導した。
 
 二人は、改めて、狭い間仕切りの中で、テーブルを挟んで向かい合うと、彩香が切り出した。
「あのぅ、実は山本主任のお母さんが先月、お亡くなりになりまして・・」
「ああ、そうなのか・・。それは、知らなかったな」
「その後、同期の石井さんが、元気をつけようと食材を持って訪問したそうです。そうしたら、もう三週間も経つのに、自宅の部屋は、散らかっていて、荒れ放題だったそうです」
「フーン」
「ええ、どうも、ショックが大きくて、放心状態のようで」 
――ああ・・、それで山本は最近、ボーッとしてるんだ。
  ヤツは多分、マザコンなんだよ。
  だから、母親の死は、強烈なショックだったんだ。
 しかし森山は、神田がなにを言いたいのかと、いぶかった。
 だが、先ずは黙って聞くことにした。
「それで私、部屋の片付けで、お手伝いに行こうかと・・」
――ええっ、若い女性が、他人の家に入るとはな。
 森山課長は、そんな普通はしない行動に、しばし考え込んでしまった。
「まぁ、山本君は、君の直属の主任だからさ、彼に気を遣うのは判るけどね。ただ、君が彼を上司以上の大切な人だって、思っているんならいいけど・・、でも、そうでないなら・・」
 森山は、さらに≪手助けをすれば、彼はますます立ち直れないよ≫と付け加えたかったが、途中で止めたのだ。
 だが彩香は、その一言を聞いて内心、ドキッとした。
――ああ、課長は、公私混同はダメだと言ってるんだ。
  私情に流されるな、って・・。
  しかも、主任をマザコン・ショックだと見ているのかも・・。
  そう、実はそうなの・・。ズバリ、マザコンなのよ。
  だから、もう35才なのに、独身なの・・。
  でも、それを見抜くなんて、さすが森山さんだな。
  まぁ、本人が自分と戦うしかないかも・・。
 綾香は、しばらく考えていたが、「はい、判りました」と、神妙な顔で頭を下げた。
 この件を、自分の上司である庶務課長に相談すれば、軽く一笑に付すのは判っていた。しかも、主任のプライベートを守るためには、秘密を厳守する信頼感が必要だった。
 だから、敢えて、信頼できる隣の福利課長に相談したのだ。
――やっぱり、森山さんだね。
  言うことが的確で、説得力があるよ。
 
 次の週の金曜日、森山は会社の帰りに、藤沢駅に近い有隣堂で、面白い本でもないかと店内を物色していた。
 すると、「アッ、課長だ」と、女性の声がしたので、振り向いた。
 なんと、そこには、あの神田彩香が笑顔で立っていた。
「オオ、なに・・、君も藤沢に住んでるの・・」
「ええ、鵠沼です」
「僕は、善行だけど・・。でも、ここで会うとは、奇遇だね」
 そんな軽い会話を交わしたが、彩香はなにかを期待しているように、動こうとしなかった。
「そうだ。君、食事は・・」
「いえ、まだです」
「では、どう・・。焼き鳥でも・・」
 そんな流れで、森山は、腹ごしらえで時々行く焼き鳥屋に案内した。
 
 座敷に上がってテーブルに向かい合うと、森山はジョッキの生ビールと、焼き鳥の盛合せを注文した。
「君さぁ、会社の制服姿もいいけど、このセーターにパンツルックも似合っていて、いいね」
「はぁ、有難うございます」
 森山は、彩香がコートを脱いだ姿を見て、スリムでスタイルがいいのに改めて気づいた。
 だから、率直な感想を言ったのだが、女性には、先ず褒めることから始めると決めていた。その方が、女性はノリがいいのだ。
 ジョッキが来て、乾杯すると、彩香が切り出した。
「先週は、アドバイスを戴きまして、主任の家に行くのを止めました」
「そうか。彼のためには、その方がいいよ」
 
 暫くの間、綾香は、自分の指先を見詰めていたが、ふと気落ちしたようにつぶやいた。
「ええ、山本主任も私も独身ですが、どうも波長が合わないんです」
 綾香が、また違ったテーマを言い出してきて、森山は黙ってしまった。
「私、主任から何度か誘われて、デートをしました。休日には横浜の桜木町から、中華街まで散策して、食事も・・。でも、どこか、合わないんです」
 綾香は、溜息交じりにそう言うと、怒りが込み上げてきたのか、ジョッキを持って大胆に飲みだした。
「あのさぁ、君への質問を、ひとつ。いいかな・・」
「えっ、なんですか」
 森山は、彩香の眼を見詰めたまま、冷静に語りかけた。
「君が十代の頃、お父さんの印象を、優しいとか、怖いとか、一言で言うと、なに・・」
「そうですね。父はいつも優しくて、褒めてくれて、ええ、スキンシップで父を感じてきました。子供の頃は、そんな印象です」
 森山は、彩香をチラッと見ると、黙って考え込んだ。
 
「アッ、でも父は、私が高校の時にガンで・・」
「そうか。君は、その時、泣いて泣いて、泣き濡れたよね」
 彩香は、あまりにもズバリと言われてしまって、返事もできずに、森山をジッと見ている。
「君は、それ以来、心の中には男の部分が欠落して、空白のままなんでは・・。だから、もう男には、興味さえ湧いてこない」
 綾香は、自分でも意識しなかった心の闇を指摘されて、ドキッとすると、思わず口に手を当てた。
 そして、上目使いで、森山が次に言う言葉を待っていた。
 だが、森山は黙ったまま、目の前にある自分のジョッキを、黙然と見詰めたままだった。
――ああ、もしかして、私ってファザコンかも・・。
  森山さんが今、気づかせてくれたんだ。
  確かに、薄々は感じていたけど・・、決定的な烙印を押したんだ。
  ≪君は、正真正銘のファザコンだ≫って・・。
  でも、こんな私に、そんなに厳しく言わなくてもいいのに・・。
 綾香は、思わず泪が零れてきて、オシボリでそっと拭った。
「ああ、言い方がきつくて、ゴメン」
 綾香は、「いえ、いいんです」と言いながら、気にしないようにと、手の平を振った。
――でも、森山さんは、私のハートを判ってくれたんだ。
  そう、私が寂しがり屋で、ファザコンだってことを・・。
  だから、私の本当の理解者かも・・。
 
「でもね、ファザコンとマザコンは、求めるターゲットが真逆だから、擦れ違うんだよね。まぁ、山本主任との相性も、ムリだろうな」
「ええ、それは感じてました」
 綾香は、やっとか細い声で、そう応えた。
――そう、森山課長は、父に似ていて、私のタイプなのよ。
  仕事は出来るし、部下からの信望も厚いし・・。
  だって、さっき本屋で見かけた時、なんか、カーッと燃えてきたの・・。
  こんな気持になったのは、そう、10年振りかな。
  でも、いいの・・。片思いでも・・。
  だって、もし出来ちゃったら、不倫だから・・。
  でも私、この大人の男性に、ワクワクして憧れるのよね。
 綾香は、焼き鳥の串を取ると、ヤケ食いのように大胆に頬ばった。
 
――ああ、お父さん、もう少し傍にいて欲しかったな。
  だって、もっといっぱい甘えたかったのよ。
  そう、私は今、この男社会を彷徨っているの・・。
  どこに辿り着くのかな。
  でも、それって、私に課せられた命題かもね。
  まぁ、紆余曲折があるでしょうけど、お父さん、見守っていて・・。
 綾香は、ビールのジョッキを手で掴みながら、そんなことを考えていた。
――女性の初恋の人は、父親だって言うけど、当たってるかも・・。
  ああ、私、どうしたらいいのかな。
「おい、神田」
「アッ、ハイ」
 綾香は、いきなり名前を呼ばれて、ハッとして我に返った。
「君は、まさか、父親の亡霊を、追っ駆けてるんじゃ、ないよな」
「エッ・・、なぜ、そう言うんですか」
 綾香は、またズバリと切り込まれて、慌てた。
「ボーッとしていながら、懐かしそうに、微笑んでいたからさ」
「ああ、森山さんは、騙せないですね。ええ、今は、子供の頃に、父のベットに潜り込んだのを、思い出していました」
「フーン、やっぱりそうか。それは、思い出として胸の奥に仕舞っておけよ。それより、若い男を探すんだな」
――だって、目の前の人が、父とダブル・イメージで重なってるの・・。
  寂しいというより、甘えたいのよ。
 綾香は、もどかしい思いが湧いてきて、無意識の裡にジョッキを飲み干していた。
 それを見た森山は、右手を挙げて店員に合図を送った。そして、近くまで来た店員に、「ジョッキをふたつと、焼き鳥をもう一皿」と告げた。
 
「でも課長、嬉しいです」
「なにが・・」
「ええ、ズバリ、ズバリで、追い込まれましたけど、実は最高の理解者かも、って、熱くなりました」
 森山は、いつもなら軽く笑い飛ばすのだが、テーマが深刻なだけに、黙ってしまった。
――いやぁ、そのくらいは判るよ。
  女心は判らないけど、でも、子供心は、自分を見れば判るから・・。
  実は、オレは逆の面からのマザコンなんだ。
  そう、口うるさい母が、大っ嫌いなんだよ。
  いつも子供心を否定して、自分に従わせるんだ。
 だが彩香は、自分の話に反応しなかった森山が、なぜ黙殺したのか、気になって仕方がなかった。
すると、追加のジョッキが届いて、森山は、慌てて残ったビールを飲み干した。
 そして、二人は黙ったまま、ジョッキをカチンと合わせた。
 
「課長、どうしたんですか」
「ウーン、実は、僕もマザコンでね」
 綾香は、ポツリとこぼした言葉に、ハッとして、まじまじと森山を見詰めてしまった。
「僕は、母親が大っ嫌いなんだ」
 綾香は、森山が吐き出すように言った言葉に、思わず「エッ」と、言ってしまった。
――それって、自分の根幹に係わる秘密でしょ。
  それを今、赤裸々にカミングアウトするなんて・・。
  ああ、それが、私を無視した応えだったのか・・。
「そう、子供は親の言動や態度で、精神的な成長の仕方が違うんだ。だから、それが個性の違いになる。付き合うなら、その違いを理解しないと・・」
 森山は、もう冷静に語っていたから、彩香も冷静に受け止めていた。
「でも、もし自分に不満足や、マイナス面があるなら、それを自分で克服しないと・・」
 頭の回転がいい彩香は、直感的に自分の身に置き換えていた。
――ああ、私、甘えん坊だから、もしかして我が儘かも・・。
  そうか。女の子から大人の女になっただけでは、ダメなんだ。
  そう、人間として自立しないと・・。
  ああ・・、私って、未熟かも知れないな。
 すると、森山がなにを思ったのか、ビールをゴクゴクと飲みだした。
 
「いやぁ、なんか、湿った話になっちゃったな」
「でも、勉強に似なりましたよ。こういう大人の話って、いいですね」
 ビールで少し酔いが回ってきた森山は、ふと思いついた話題に替えた。
「ところで、君はどんなタイプの男がいいの・・」
 綾香は、森山を見詰めたまま、恥ずかしそうに言い澱んでしまった。
「まぁ、いいよ。では、もっと話題を変えよう」
「アッ、いえ・・、実は課長みたいな人・・」
「エエッ、ウソだろ」
 森山が真顔で驚くのを見て、彩香は、思わず可笑しそうに「ウフッ」と笑ってしまった。
「オイ、からかうなよ」
「いいえ、本心ですよ」
「なんだと・・。オレは妻子ある身だぞ」
 森山は、彩香が、単に話の流れで合わせただけだとは思ったが、それでも嬉しかった。
「でもまぁ、ずっと独身なのが自分流だったら、君は、その流儀のままでいいんだ」
 森山は、慌てて話題を変えたが、また元の湿った話に戻ってしまった。
「ええ私、克服できなくても、自分と戦ってみます」
「ヨーシ、それでいいよ」
「でも、もし溺れそうになったら、助け舟をお願いします」
「それが、君の甘え体質なんだよなぁ」
「アア・・、そうですよね。反省します。でも、窮地に追い込まれたら、SOSを発信するかも、です」
「しょうがない女だな。判ったよ。受けて立つよ」
 中ジョッキとはいえ、空きっ腹だったから、二人はもう酔っていた。
 
「課長、この後どうしますか」
「いや、別に予定はないけど・・」
「では、私の友達のママと姉がやってるスナック、どうですか。今日は金曜日だから、友達の春香も出ていると思います」
綾香は、いつも1人で行くのだが、今日は森山を同じ会社の課長として、自慢したい気持が湧いていた。
――まぁ、どんな店か知らんけど、行ってみるか。
  ボトルを入れても、懐には金はあるから大丈夫だし・・。
 森山は、彩香とは部署が違っていたから、こんな風に親しく飲むのは初めてだった。
 それだけに、こんな流れで飲むハメになって、さらに知人のスナックを紹介するという。
――まぁ、こういう偶然は、活かせば、いい経験になるんだ。
  そう、人生はプニングの連続だから・・。
 そのスナック≪友代≫は飲食ビルの3階にあって、森山は外の看板では知っていたが、入ったことはなかった。
 焼き鳥屋を出ると、彩香が寄って来て、「腕を組んでもいいですか」と聞いてきた。
「ああ、もうお互いに酔っ払ってるから、お好きにどうぞ」
 綾香は、「ワァー、嬉しい」と言うと、腕を組んできて、頭を森山の肩に擦り付けてきた。
――ああ、この女、甘えん坊なんだな。
  そう、可愛らしい女の子、そのまんまだよ。
  確か、もう三十路なのに・・。
 
 ビルのエレベーターを3階で降りると、小さな明かりに≪友代≫の文字が見えた。
 綾香が、ドアを開けて「こんばんわ」と入っていくと、森山は後に続いた。
 やや暗い店内を見回せば、ボックス席がひとつに、カウンターには5、6人が座れた。
 まだ時間が早いせいか、カウンターには客が2人並んで座っていた。
「アラ、アヤちゃん、久しぶり」
 友達の春香が、「元気だったぁ」声を掛けてきた。
 そして、カウンターの隅に座って、オシボリで手を拭いている時だった。
 先客の相手をしていた姉の華純(かすみ)が、何度も振り向いては、首をかしげながら森山を見ている。
 そして、ツカツカと森山の前に来ると、「もしかして、森山さんですか」と声を掛けてきた。
「エッ・・、ええ、森山ですが・・」
 森山は、いきなり名前を呼ばれて、目を剥いて驚いている。
――ああ、この人、知らないな。
  多分、初対面のはずだけど・・。
  でも、この人、オレの名前を知ってるよ。
 森山は、怪訝そうに姉の華純を見詰めながら、「確か、初対面ですよね」と聞き直した。
「ええ、森山健太郎さん、ですよね」
「はい、そうです」
 森山だけでなく、会話を聞いている彩香も、妹の春香も、この展開が意味不明で、華純をただ見守るだけだった。
「あれから、15年は経ちますかね。偶然とはいえ、嬉しいです」
「ウーン、申し訳ないけど、話しが見えないなあ」
「あの当時、この先のビルの1階に、≪グレース≫と言うスナックがありましたよね」
 森山は、遠い昔の記憶を辿っていった。
 そして、思い当たると「ウン、そんな店、あったね。ああ、よく行ったかも・・」と応えた。
――あれは、確か主任になって間もない、30才の頃だよ。
  しかし、この人は、初対面だよな。
 
 すると水割りを作っていた春香が、二人のグラスを押し出してきた。
「華純さん、突然の言い掛かりみたいで、チョッと・・」
「ああ、失礼しました」
 二人は姉妹のはずだが、店では他人行儀で名前を呼びあっていた。
「ええ、私、二十歳の頃、グレースでバイトをしてまして、何度もお見かけしたんです。でも、森山さんの前には、いつも先輩のお姉さん達ががいまして、遠くから素敵だなって、見てました」
 すると妹の春香が、「それでは、片思い、ですか」とさり気なく言った。
「そうね。だから、森山さんは、私のことを知らないのよ」
「そうだよな。初めてだよな」
 森山は、やっと話が見えてきて、内心ほっと安心した。
「ええ、当時は、これぞスーパー・エリートだ、って、見えてました。今でも、そうですが・・」
 すると、彩香が、「森山さんはね、うちの会社のエースでして、私は毎日、同じ職場で・・」と、自慢げに割り込んで来た。
「あぁ、羨ましいな」
 そんな会話をしてから、やっと二人は乾杯をした。
 それから、森山は、春香に彩香と同じボトルを入れるよう頼むと、「君も、一杯どう」と言ってやった。
 そして、3人で、改めて乾杯した。
 
「今日は、なぜか偶然が、偶然を呼んでくるね」
「ええ、まさか華純さんが、森山さんのフルネームを覚えていたなんて・・。しかも15年も前ですから、よっぽどの強烈なインパクトだったんですね」
「ウーン、驚いたな」
「やっぱり、森山さんは、昔からモテてたんですね」
「いやいや、普通だよ」
「春香さぁ、華純さんは独身なの・・」
 綾香が小声で聞くと、「あの人は独身よ。でも、バツイチなの」と返してきた。
「すると、またライバル登場ですか・・」
「なにを言ってるの、僕は妻子ある身だよ」
 綾香は、さり気なく挑発してきたが、森山は取り合わなかった。
「春香さぁ、あなたから見て、森山さんはどう・・」
「そうね。紳士的なのがいいし、飾り気がなくて、ナチュラルなのが素敵ですね」
「ほーら、褒め方が違うでしょ」
「なにを言ってるの、今のは営業上の社交辞令だよ」
「アッ、いえ・・、私も好みのタイプですよ」
 春香が、慌てて自分を主張した。
 だが、彩香には突然、嫉妬心が燃えてきて、不安な気持ちになった。
「そうそう、ある店のママに、言われたことがあるよ。あなたはギスギスしてないし、女の子を口説く気なんてないのよ、って・・」
「ああ、それって当たっているかも・・」
 今度は、彩香が突発的に割り込んで来た。
 
「でも、今日は、これからさらに、ハプニングが起こるのかな」
「ワァーオ、ワクワクしますね」
 しかし、彩香は、目の前で、こんな華純の15年前の話が聞けたのが、衝撃的だった。
それは、普通では考えられない再会だったのだ。
 人と人とが偶然に出会う、それが人生かもしれないと、彩香は、なにか運命的なものを感じていた。
――私だって、偶然あの会社を受験して、合格したよ。
  そして、庶務課に配属されて・・、先週、山本主任の相談をした。
  そして、今日、偶然、有隣堂で出会った。
  そして、親友の春香の店に来たのよ。
  ああ、人生って気紛れで、偶然の連鎖かも知れないな。
  そうなら、偶然を大切にして、素直に味わうのが人生かも・・。
 
                     ― つづく ―
 
 





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