★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2020/05/14|その他
○ 背中合わせの二人 ○ [男と女の風景・166]
 
                 2020年5月14日(木) 00:00時 更新 
                            
  ○我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、この春に新芽を出してきたシダ類を3品を、紹介します。
 
  ≪写真・左・・シシガシラ
 この≪獅子頭≫は、冬に葉が枯れて、こんなに元気な新芽を出してきました。
 これは、先日、気分転換でドライブして、秦野の≪地場産S≫で購入したものです。
 
  ≪写真・中・・不明≫
 これは、ネットで調べたら、≪サツマシダ≫に似ていましたが、正確性には自信がなくて、不明としました。
 中央に出てきた薄茶色の葉が、今年の新芽です。
 この濃いい緑の端正な葉が、私の好みで、展示会にも出品しました。
 
  ≪写真・右・・クラマシダ≫
 これは、≪黄金シダ≫にかなり似ていますが、葉がより肉厚で、秋になっても紅葉はしません。
 20年も前に購入したものですが、つい2年前に、細々と生き永らえているのを棚の隅に見つけました。
 そこで、大切に扱って、日の目を見せたら、こんなにも元気に密生してきたのです。
 この新芽の淡い緑も、大好きな色です。



                    [男と女の風景・166]
                     ― つづき・2 ―

  ○ 背中合わせの二人 ○
 
「ああ、田舎が懐かしいですね・・」
 タラの芽の天麩羅ソバを食べながら、美紀が独り言をつぶやいた。
「実は私、宮崎と熊本の県境にある椎葉村(しいばそん)で、生まれて、育ちました。ええ、そこは、平家の落人伝説のある秘境でして・・、実家は代々、旅館をしています」
 美紀は、目を細めて懐かしむように語っている。
「ええ、私の村には、≪平家まつり≫がありましてね。女性は緋色の装束で女官になり、男性は鎧兜の姿で、神事の儀式をして、それから街を武者行列するんです。ええ、あの伝統は、郷土の誇りなんです」
 高城は、平家の落人部落については聞いたことがあったが、まさか美紀がそこの出身者だとは、驚きだった。
――そうか。後で、ネットで調べてみよう。
  確か、平家の隠れ里で、日本の原風景が、あるって・・。
 
「では、なぜ東京に出てきて、早稲田なの・・」
「ええ、私は、俗に言う文学少女でした。だから、いつも図書館に通っていました。高校は、母の妹が住む宮崎市の進学校に行って、憧れの早稲田を目指したんです」
――よっぽど成績が良かったんだろうな。
  夢に向かって突進する少女、だったのかも・・。
「私、念願だった早稲田の演劇サークルに入りました。でも、イザとなると演技が出来なくて、脚本の方を担当しました」
「エッ、なぜなの・・」
「私みたいな田舎育ちは、舞台に上がると、観客の前では思い切った演技が出来ないんです。でも、充実感は満喫しました」
 純一は、美紀の臆病な心情が、なぜか判るような気がした。
――よっぽど根性を据えないと、大胆になれないんだよ。
  まぁ、葛藤があったんだろうけど・・。
「でも、なぜ、旅館を継がなかったの・・」
「ええ、私は三人姉妹の真ん中でして、姉夫婦が後を継いで、妹夫婦が手伝っています」
――そうか。三人姉妹の真ん中は、突拍子もない行動をするんだ。
  離婚したのも、それが原因かも・・。
  でも、まぁ、信念で行動したんだろうから・・。
  それにしても、どんな亭主、どんな経緯だったのかな・・。
 純一は、興味津々だったが、そこはプライベートだからと、それ以上は追及しなかった。
「高城さん、私の名前、お店では美紀(みのり)ですが、実の本名は、祷里(いのり)なんです」
「ほう、珍しい名前だね」
「ええ、祖先を祈り、里の平安を祈るんです」
「ああ、そう言う意味か・・」
「ええ、祖父が、神社の神事でお神楽を舞っていまして、その祭日に、私が生まれたそうなんです」
「そうか。君は神様から授かったんだ・・」
――でも、こんな話って、めったにはしないよな。
  アア・・、一人暮らしで、話し相手がいないからだ。
  やっぱり、誰かに聞いて欲しいんだよ。
 
「その後、先輩が立ち上げたタウン誌の会社に就職して、記者や編集をしました。ええ、読み書きが生き甲斐でしたから・・」
 美紀は、残ったカツオ出汁のスープを、間を置くように飲み干した。
「私、いずれは物書きになりたいんです。その夢は今も・・」
「オオ、素晴らしいね。その夢は、死ぬまで捨てないでよ」
「はい、何時まで経っても、私は夢見る少女なんです」
 純一は、そう励ますと、話題を変えようとして、「水割りを、飲もうか」と言って、立ち上がった。
 キッチンに行って、冷蔵庫からアイスを取り出してベールに盛った。
 そして、グラスを二つとバーボンのボトルをトレイに乗せて応接間に戻ってきた。
 
 すると、美紀は、ソファーから立ち上がっていて、棚の置物をつぶさに眺めていた。
「高城さん、このガラス戸の棚にあるのは、マイセンの陶器の人形ですよね」
「そう、踊る少年少女も、馬車に乗る貴婦人も、そう」
 美紀は、まるでヨーロッパのお伽の国に迷い込んだ、そんな錯覚さえしていた。
「でも、この家は、外観だけではなくて、部屋の造りも、置物も、総てが素敵なんですね」
「いいだろう。自慢の我が家なんだ。オヤジに感謝だな」
 東側の壁には、一面、古びた蔵書がびっしり詰め込まれていたし、西側は暖炉と置物の棚があった。

 そして、南側は天井まであるガラス窓に、もう陽に焼けて色褪せていたが、重厚なカーテンが左右に引かれていた。
 だが純一は、そんな会話をしながら、水割りを作っていた。
「この応接間は、素敵だし、落ち着けますね」
 美紀は、余程気に入ったのか、さらに部屋中を見回している。
 
「もうひとつ自慢なのがね、朝、目を覚まして、2階の寝室から見る景色なんだ。それが、また絶景でね。英気が湧いてくるんだ」
「ああ、2階からですか。もっと高い場所から、相模湾が見渡せるのか・・、羨ましいですね」
「あのね、2階のベランダから見ると、1階の朱色の屋根瓦も見えてね。白壁とのコントラストが絶妙なんだ」
 美紀は、こんな高級別荘のような雰囲気に、もう気分も舞い上がっていた。
「もしご希望なら、庭でバーベキューをしてもいいよ」
「エッ、そんなことも、出来るんですか」
「ウン。そのセットもあるから・・」
「アア・・、それでしたら、お店の女の子にも、体験させてあげたいな」
「もちろんOKだよ。計画が決まったら、言ってくれる・・」
「はい。私もそうですけど、こんなリッチで、レトロで、しかも解放された空間で生活をしたことがないから、絶対に喜びますよ」
 
 それから、二人は、水割りのグラスを合わせた。
「ああ、これがバーボンですか」
「そう、ブラントンのゴールド・・。アルコール度数は51度・・」
 美紀は、こんな豪華な部屋でお酒を飲むのは初めだったから、まるで夢の中ににいる気分だった。
「ああ、そうだ。ショットグラスに氷を1個だけ入れて飲むと、本当のバーボンが味わえるよ」
 純一は、またキッチンに行って、小さなショットグラスを持ってくると、半分ほど注いで、アイスを入れると掻き回した。
 それを、美紀は舐めるようにチョッと口に含むと、目を剥いた。
「ああ、スコッチより上品な香りで美味しい」
「最高だろぅ・・。でも、酔わないでよ」
 美紀は、そう念を押されて、ハッとすると、自分の秘密を言うべきか、どうか迷った。
 
 美紀は考えた挙句、真顔になって座り直すと、純一を見詰めて言い出した。
「高城さん、実は私、お店のママにしか言ってない秘密が、あるんです」
――エッ、秘密だと・・、それはなんだ。
  しかも、美紀の目は真剣だぞ。
「実は、私には≪てんかん≫の持病がありまして・・」
「エエッ・・」
「ええ、めったには起きないのですが、発作的に痙攣を起こすんです。そんな時は、頭に柔らかいクッションを敷いて、冷静に見守って下さい」
「それだけで、いいの・・」
「はい、痙攣や硬直があっても、頭さえ守ってくれましたら・・。多分、直ぐに治りますから・・」
――しかし、ママには仕事上で、言う必要があるけど、
  オレには、なぜかな。
  そうか。驚かないように、予告したんだ。
  しかし、そんな持病って、可哀想だよな。
「そんな発作が心配で、私、強い刺激はダメなんです」
「ああ、いいですよ。残りは、僕が飲みますから・・」
 美紀は、すまなさそうに両手を合わせた。
「ああそうか。ビールぐらいならいいけど、ウイスキーのストレートはダメなのか」
 
「しかし、そんな持病とは、大変だね」
「ええ、お医者さんによれば、大脳の神経細胞が、突然、過剰に興奮して、発作を起こすらしいんです」
 美紀は、そう言うと、薄い水割りのグラスを口に当てて、遠くを見ている。
 すると、なにかを思い出したのか、突然、目が潤んできて、ボロボロと涙を溢した。
 純一は、そんな様子が見えていたが、ショットグラスを取ると、黙って飲みだした。
「高城さん、私が離婚したのは、夫の浮気が原因です。でも、息子を夫に取られたのは、てんかんのせいなんです」
――ああ、やっぱりそうか。
「突然、発作を起こしたら、子供の命が保障されないからと、裁判所も弁護士も、諦めるように説得してきました」
――そうか、確かに意識不明になったら、子供の命に係わるよな。
「あのマンションは、その慰謝料でもらいました」
「しかし、まぁ、君の人生は、ツキがなかったね。でも、これからは急上昇かもよ。だって、頑張った努力は、絶対に花が咲いて、実が成るから」
「そうですかね」
「そうだよ。僕なんては、もうピークを過ぎて下り坂だけど、君はこれからが勝負だよ」
――ああ、スーパーで偶然に出会ったけど、まるで、人生相談みたいだな。
  でも、そんな不幸な境遇に、同情するよ。
 
 二人は、レザーのソファーに並んで座っていたが、なんとも寂しげな顔を並べていた。
 純一は、この気まずい沈黙に反抗するように、ショットグラスのバーボンを、一気に煽った。
「私は毎日、独りぽっちですから、江の島をぽつねんと眺めてるんです・・。すると、気持が揺れ動いて、落ち込んで、ええ、寂しくて、寂しくて・・、悲しくなるんです」
「そうか・・。そんな時はさ、ここの芝生に寝そべって、さ。太陽の下で海を眺めれば、気分も晴れるよ」
「でも、同じ海の景色ですよ」
「君なぁ、海も空も、クールなブルーだけど、実は、ハートもブルーにしてしまうんだ。でもね、グリーンは、どこか温か味があって、心を和ましてくれるんだ」
「ハァー、なるほど・・。では私、ここに来てもいいんですか」
「ああ、僕がいない時は、勝手に庭に入ってもいいよ。休日だったら、電話をくれれば付き合うし」
「ああ、私、嬉しいです」
 純一は、美紀がこの庭や家を気に入ってくれたから、軽くそんな慰めの言葉をかけた。
「高城さん、今、私の秘密を黙って聞いてくれましたね。その心の優しさが、私にはジンときてまして・・」
「だって、人の出会いって、偶然の連続でしょ。いいんだよ。お互いに波長が合って、共鳴できれば・・」
「はい。私、寂しくなったら、ここにお邪魔します」
 二人は、縁も所縁もない関係で、単に夜のクラブで偶然、出会っただけの仲だった。
 ただ、お互いに独身であり、家族のしがらみがなくて自由の身だったから、純一はまるで友達感覚で話をしていた。
「今日のバーボンは、格別に美味しいね」
 そんな様子を見て、美紀は、思わず「ウフッ」と笑みを漏らした。
「だって、この家で美女と語り合うなんて、人生で初めてだよ」
 純一は、思わず語気を強めてしまった。
「僕はね、普段、寂しさは感じないけど、今は、普段以上に、すごい温かさを感じてるよ」
 
「アッ、いいことを思いついたよ。どう、この家で、一緒に暮らさない」
「エエッ、まさか・・、あり得ないでしょう・・」
 美紀は、突然、純一が狂って、あり得ないことを提案してきたと、思った。
 こんな夢のような家に住めるなんて、夢のまた夢だったのだ。
「いやぁ、架空の話じゃないよ。それも、あり得るでしょ」
 美紀は内心、嬉しかったが、話が唐突過ぎて、半信半疑な思いで首をかしげている。
 純一も、考えたことがない話だったし、突如として頭に浮かんだアイデアだったから、思いつくままの提案をしていた。
「だって、2階の両親の寝室は、そのまま使ってもいいし、他にも部屋が空いてるから、賃料はいらないよ」
「エエッ、では無料で、使い放題ですか・・」
 また純一が、あり得ないことを言い出して、美紀はいぶかった。
「ただし、条件があるんだ。それは、結婚を前提とはしないこと、しかもセックスレス・・」
「エエッ・・。どういう意味ですか」
「だって、僕は単にフレンドリィであって、下心はないからね」
「ああ・・、さすがに、紳士ですね」
 純一には、もう性欲はなかったし、格別に意気込んではいなかったから、平静に話をしていた。
 それにしても、大人の男と女が、そんな共同生活をするなんて、美紀には想像がつかなかった。
 学生の頃は、一時期、部屋をシェアしたことはあったが、それでも女性同士だったのだ。
「でも、本当にいいんですか」
「うん、いいよ。ずっと独り暮らしだったから、話し相手がいるのも、いいかなって・・」
 純一は、寂しがり屋の美紀の話を聞いて、情にほだされてしまい、いつの間にかこんな話になっていた。
「二人は、未来へ向かう方向が別々で、背中合わせだけどさ。お互いの温もりが感じられれば、いいんじゃない」
 
「まぁ・・、あとは、そうだな。食費とか生活費は、折半で、どう・・。その方が、お互いに気兼ねがないし・・」
 その条件にも納得したのか、美紀は目を見張って頷いている。
「それから、ウーン、そうだな。お互いのプライベートには、不干渉にしようか」
 純一が、また意味の判らない提案をしてきて、美紀は首をかしげた。
「だからね、君が夜の仕事をしようと、執筆活動をしようと、どうぞご勝手に、なの・・」
「はぁ、私の好きなようにして、いいんですか」
「そう。お互いにウザったい存在になると、長続きしないから・・」
――確かに、そうよね。
  不干渉、それがいいかも・・。
「ただし、お互いに心配になるから、大まかな予定と所在は、連絡を取り合うこと・・。どう・・、こんな条件で・・」
「アーッ、とっても嬉しいんですが・・、でも、余りにも突然の話なんで、考える時間を下さい」
 美紀には、そんな他人との生活に、どんな変化があるるのか、想像もつかなかったのだ。
 
「ああ、私、今のマンション、どうしましょう」
「ウーン、地元の不動産屋に、相談したら・・。売り払ってもいいし、賃貸をすれば、毎月、賃料が入るし・・」
「ああ・・、そうですよね。毎月、賃料が入ってくれば、念願の執筆に専念できるかも・・」
「案外と、いいアイデアかも・・」
「まさか、あの慰謝料の代わりにもらったマンション、その賃料で暮らせるとは・・。でも、そんなラッキーな事って、あるんですかね」
「そりゃあ、今まで頑張ってきた君に、神様からのご褒美だよ」
「いいえ、高城さんからのご褒美ですよ」
「そうかな」
 純一は、単に美紀に同情して、ふとアドリブで出た同居の提案だった。
 だから、あまり深く考えずに、空いている部屋を提供するだけだと、気軽に思ったのだ。
 
「まぁ、僕もこの先、長くはないからさ。のんびりと暮らしたいんだ」
 純一は、気持が落ち着いてくると、自分から語り出した。
「僕も身寄りのない孤児だからさ。しかも、僕の方が寿命が短いから、その時には、両親のお墓に入れてくれれば・・」
「アラ、そんな先のことは、お互いに、コメントできませんよ。ただ、残った人が先に行った人の面倒を見る。ここは、そういうことにしておきましょう」
「そうだね。僕は両親の墓に一緒に入りたいし、もし君が先なら、田舎の村に遺骨を持っていくよ」
 純一は、淡々としていたが、老後のことを考えると、この奇妙な同居が、案外と安心をくれるような気がしてきた。
「ああ、こんな晩年が過ごせるなんて、私は果報者です。私は、高城さんに感謝して、私の総てを捧げます」
「それは、チョッとオーバーでしょう」
「だって、ツキがなかった私が、こんな幸せを感じたのは、初めてなんです。ええ、どんなに疲れていようと、朝の食事は、毎日作ります。休日は、もちろん全部・・。私には、そんなお礼返ししかできませんけど・・」
「それで、充分だよ」
「高城さん、私達、背中合わせよりも、肩を組んでいきましょうよ」
「オオ、そうだな」
 
                         ― おしまい ―
 
 





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