★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2020/04/30|その他
 ◇ やっと来た青春 ◇[男と女の風景・165]
 
               2020年4月30(木) 00:00時 更新 
                            
  ○我が家のベランダ・ガーデン○
 
 今回は、いつの間にか他の鉢から飛び込んできて、花を咲かせている3品を、紹介します。
 そのため、いずれも花の名前は不明です。
 
  ≪写真・左・・不明≫
  ≪写真・中・・不明≫
  ≪写真、右・・不明≫

  
                [男と女の風景・165]

  ◇
 やっと来た青春 ◇
 

「アッ、もしかして富田先輩、ですよね」
 真治が、パーティ会場の隅にあるお酒コーナーから、ワイングラスを取って振り向いた時だった。
 ショートカットの女が、声を掛けてきた。
「エッ、誰だっけ・・」
「高校のサッカー部で1年後輩の、水沢貴代美です。覚えてませんか・・」
「ウーン、見たことがある顔だけど・・」
「先輩、私、あの当時から憧れていました」
 見ると、貴代美は、大きなクリッとした目で真治を見ながら、朗らかな笑顔を浮かべていた。

 
 その日は、1月の上旬で、真治の親友の結婚式が、横浜駅に近いホテルで催された。
 その正式な披露宴の後で、2次会の立食パーティが開催されたが、その席に真治も招待されていた。
 他にも新郎と新婦に親しい職場の同僚や、高校・大学の友人もいて、30人ほどの招待客で盛大に盛り上がっていた。

 

 真治は、壁際の椅子席に紀美代を案内して、改めて乾杯した。
「アッ、思い出したよ。水沢さんは、女子部のサブ・キャプテンでょ」
「ええ、そうでした。もう、12年も経ちますがね」
 真治はもう30才になっていたが、未だ独身だった。
 地味で温和な性格だったから、自分を前に出すことはしなかった。ましてや自分から女性にアプローチをかけたことなどなかった。
 だが、貴代美は同窓の後輩であり、陽気な女性だったから、真治には気安く話が出来た。
「でも、君は、あまり変わらないね。今、なにをしてるの・・」
「ええ、横浜の銀行でOLしてます」
「エエッ、僕もA銀行の横浜支店で、営業だよ」
「アラ、同業者なんですね」
 二人は、そんな軽い話をしていた。
 
 すると、メガネをかけた丸顔の男が、二人の前を通り過ぎようとした。
 その時、紀美代は弾かれたように腰を浮かすと、見たくもないと、真治の肩に顔を背けてきた。
「エッ、どうしたの・・」
「あの人、私をストーカーしているんです」
 貴代美は、いまいましい目で男の後姿を睨みつけた。
「まだ、決定的ではないんですけど、きっと、そうなんです」
「なんか、陰気でネチッコそうだったね」
「あの人、3年先輩で、同じ職場なんです。帰りに後を着けられてるような気がして、振り向くと居ないんですが、イヤな予感がして」
「ウーン、職場の上司に相談したら・・」
「アッ、先輩、仮想の彼氏になって下さい」
 真治は、突然そう言われても、その意味が判らなかった。
 
 紀美代は、いきなり椅子から立つと、テーブルに飲みかけのワイングラスを置いた。
 それから、真治を引っ張り出すと、やや強引に腕を組んできた。
 そして、ゆっくりと男の後を追うと、そのまま男を通り越して、扉を開けると外に出て行った。
 バラの花柄のジュータンが広がる廊下に出ると、そこは少し暗かった。
 すると紀美代は、直ぐ横にある大きな柱の陰に、真治を押しつけた。
「先輩、あの男が出てくるのを、見ていて下さい」
 そして、紀美代は真治の体を両手で抱き寄せると、いかにも抱き合っているよう見せた。
「これは、仮想の恋人同士です」
 何事かと、真治は戸惑っていたが、紀美代の意図が判ってきた。
 すると、あの男がドアを開けて、左右を見回している。だが、見当たらないようで、さらにロビーに出てきた。
「オオ、あの男出て来たぞ」
 真治が低い声で言うと、「私達を見つけましたか」と聞くので、「まだだ。でも近づいて来るよ」と応えた。
「オッ、見つけて、驚いてる」
 すると、紀美代はいきなり真治に飛び着いて、キスをしてきた。
――なんだ、これは・・。
  ヤバイよ。演技なのか、本心なのか・・。
  アア、女も三十路に近いと、大胆だな。
 真治は、いくら仮想の恋人とは言え、実際に肉感的に唇を合わせるなんてと、驚いた。
 それを見ていた男は、慌てて2次会の会場に戻っていった。
 だが、燃えてきてしまった紀美代は、執拗に求めてきた。
 そして、いつの間にか真治も夢中になって、それに応えてしまっていた。
 
 暫くして、二人が離れると、顔を見合わせて、お互いにテレている。
「これって、パーチャルだよな」
「いいえ、リアルですよ。だって、憧れの人だったんですから・・」
「アー、ヤバイかも・・」
 しかし、いくら成り行きとはいえ、真治は、こんなにしっぽりとキスしたのは初めてだったから、夢心地だった。
 
 それから、パーティがお開きになっても、二人は、なんとなくこのままでは、別れずらかった。
 真治はそんな空気を察して、もう一軒飲みに行こうと声を掛けた。
 二人は、既にかなり酔ってはいたが、ゆったりとした気分で飲み屋街に入った。
 そして、曲がり角を入ろうとして、真治はさり気なく後ろをチェックした。
 すると、あの小太りの男が、慌てて建物の陰に動いた。
 それを見届けると、真治は曲がって直ぐ、紀美代を背中に回して、飲み屋の暖簾がかかった入口に張り付いた。
「さっきのストーカー、名前は・・」
「はい、佐々木さん」
 しばらく様子を見ていると、佐々木が用心深く、建物の陰から顔を出して覗いている。
 そして、道路に二人の姿が見えなかったので、慌てた様子だった。
 佐々木が、真治の直ぐ前に来た時、突然、大声で「オイ、佐々木」と怒鳴った。
 佐々木は、その声に真治を見て、驚くと、怯えてしまった。
 真治は、ツカツカと佐々木の前に出ると、いきなりネクタイの結び目を掴んでグイッと引き寄せた。
「オイ、佐々木、オマエ、名刺を出せ」 
 佐々木は返事も出来ずに、怯えた目を泳がせている。
「オイ、名刺だ」
 真治はまた怒鳴ったが、その意味が判らずに、ただ首を小さく振っていた。
「オイ、このまま警察に行こうか」
 佐々木は、さらにワナワナと震えて、真治を見詰めている。
「オイ、名刺を出せ。出さないと警察だ」
 佐々木は、自分がストーカーをしているのを自覚していたから、警察だけは行きたくなかった。
 そして、胸の内ポケットから、名刺入れを出すと、渋々と差し出した。
「おお、Y銀行の佐々木宣夫か。役職は、課長代理なのか・・。オイ、もう、オレの女を、追っ駆けるのは止めろ」
「いや、違う。僕は、飲みに来ただけだ」
「ナンダト。さっきパーティの時に、ロビーまで追っ駆けて来ただろう」
 そうまで言われると、佐々木は反論できずに黙ってしまった。
「オイ、次の三度目にはな、警察に突き出して、オマエの上司にも直談判だ。銀行は信用第一だからな。犯罪者は、即刻、クビだぞ。いいな」
「はい。それだけは、ご勘弁を・・」
「だったら、やらないって、誓え」
「はい。誓います」
 泣きそうな顔で応えるのを見て、真治は、首元を掴んでいた手を放してやった。
 いきなり突き放された佐々木は、体をグラッと揺らすと、背を向けて脱兎のごとく駆け出していった。
 
 紀美代は、後ろから心配そうに、息を詰めて見守っていた。
――アア、もう、これで心配ないよ。
  でも、富田さんて、すごいな。
  他人事なのに、本気で体を張ってくれたよ。
  あの男は、刃物を持っていたかも知れないのに・・。
 貴代美は、まるで父親が命を張って子供を守ってくれた、そんな親子の深い血縁みたいなものを感じた。
「ああ、先輩、有難うございます。本当にすごいです」
 紀美代は、憧れるような目で見ている。
「でも、なぜ、名刺なんですか」
「ああ、それはね、名刺はサラリーマンの命なんだ。名刺を汚すと、自分の存在が亡くなるんだよ」
――なるほど。そうか。
  社名と、所属の部署、肩書き、それが、自分の存在証明なんだ。
  自分が暮らしている住所、それと同じかも・・。
 
 ふと、真治が振り向くと、暖簾に≪焼き鳥・鳥正≫とあった。
 ガラスの引き戸から中を覗くと、土曜日だからか、客席はまばらだった。
 真治には初めての店だったが、これもなにかの縁かと思って、その赤提燈に入った。
 そして、二人は、締めのビールをジョッキで乾杯した。
 紀美代は、今の出来事が信じられない程だったから、テンションも上がっていた。
「先輩、オレの女に手を出すな、って・・、刺し勝負の喧嘩腰でしたね」
「イヤァ、そうでもしないと、ああいうヤツは、また繰り返するんだ」
 紀美代が大きな目で勢い込んで突っ込んだが、もう冷静になっていた真治は、鷹揚に応えた。
「でも、こんな私のために・・」
「いや、正義のためにだよ、・・って言ったら・・」
「アア、もっとカッコいいです」
 真治は、つまらない話だとは思ったが、酒の席でもあるし、後輩だからこんなノリもいいかなと、軽く構えた。
 
「富田さん、なぜ、結婚しないんですか」
「ウーン、格別な理由はないよ。ただ、チャンスがなかった。それだけだよ。寄ってくる子はいなかったし」
 真治は、自分のことを淡々と話していた。
「そうなんですよ。ミーティングでも、先輩は、いつも一歩、引いてましたから・・」
「だってさ、意見が対立したって、大同小異でしょ。共有する理念が合っていれば、方法論はどちらでも・・」
 紀美代は、この第三者的で、大らかに達観したような人柄に、深い魅力を感じていた。
「あのぅ、先輩、あの当時、私、富田さんに憧れてまして・・、キャプテンにお付き合いしたいって、打ち明けたんです。そしたら、本人に伝えておくよ、って・・」
「アア・・、あったかも・・。それが君か」
「ええ」
「でも、そういうのに興味なかったからな・・。だって、オレは出来が悪かったから、暗い受験勉強と、気晴らしのサッカーに夢中だったから・・」
 
 ジョッキでビールを飲みながら、遠くを見ていた真治が、ふと紀美代に目を向けた。
「それより、なぜ、君は独身なのよ」
「ええ・・、実は・・、私は、ある男に二股をかけられたんです。それで、男性不信になって・・」
 真治は、内心「フーン」と聞き流したが、疑問が残った。
「でも、なぜ二股だって・・」
「ええ、ある時、支店の先輩が、私を呼び出したんです。
『あなた、先週、私の隆司とラブホに行ったでしょう』
『エッ、見てたんですか』
『そうよ。最近、隆司が変だなと思って、後をつけたの・・。そしたら、案の定よ。あの男とは、縁を切ってくれない』                       
『そうですか。判りました。そんな浮気男とは、金輪際、会いません 』
そんなことがあって、それ以来、男性不信になったんです」
 真治は、自分では無意識だったが、苦虫を噛み潰したような顔つきになって、聞いていた。
――しかし、この女は、ソイツとやったんだよな。
  ああ・・、この女、不潔でヤだな。
 真治は、もう30才だというのに、いまだに童貞だった。
今日のネットリしたキスは、アドリブとはいえ、この女としてしまったことを悔いていた。
――ああ、ビールを飲んで、口をゆすぐかな。
  でも、それを飲み込むしかないんだぞ。
  アアー・・、酔っ払って、忘れるしかないか。
 真治は、ジョッキを掲げると、グイグイと飲みだした。
 そして、鬱積してきた嫌悪感を、残ったビールで一気に飲み込んだ。
 しかし紀美代は、真治が、ずっと素知らぬ顔で聞いていたのが、なんとも気になっていた。
「でも先輩、実は私、ホテルに入るのが嫌で、逃げ帰ったんです。なんか、そのために言い寄ってきた感じがして・・」
――アア・・、そうか。
  よかったよ。
 ホッとした真治は、店員に空のジョッキを指差して、追加を頼んだ。
 
 紀美代は、酒に酔って赤ら顔だったが、意を決したように、緊張感を走らせた。
「先輩、女の私から言うのも、変ですが・・」
そこまでは言ったが、真治の目と目が合うと、その先を言い澱んでしまった。
「なに、どうしたの・・」
「はい・・、先輩、私と付き合ってくれませんか」
「エッ、オレと・・。エエッ・・、オレって、無神経で、無粋な男だよ」
「いいえ、心の底から信頼できる男性、そう思います」
「キミー、発狂したんじゃない。こんなオレに・・」
「いいえ。私は、正常です。清水の舞台から飛び降りる、そんな覚悟で言っています」
 真治は、予期せぬ突然の告白に、気が動転してしまった。
「まさか、だよね。こんなこと、あるのかな・・」
「どうか、お願いします」
 紀美代は、テーブル越しに両手を滑らせてきた。
「ああ、判ったよ。じゃあ、友達から始めよう」
「ワーッ、嬉しいです」
 そして、二人はまた乾杯をした。
 
 ふと、真治には、面白いアイデアが浮かんだ。
「ところで、君はウォーキングとか、ランニングはしてるの・・」
「最近は、あまりないですけど、でも足には自信があります」
「そうなら、ウォーキングはどう」
「いいですね。それで、コースは」
「そうだな。一度計画したんだけど、藤沢駅から徒歩で深沢を抜けて、源氏山公園から銭洗い弁天を経由して、鎌倉駅までは、どう」
「オオー、いいですね。距離はどのくらいか知りませんけど、でも、久々に燃えてきましたよ」
  紀美代は、気分がワクワクして、目を輝かせてきた。
 
 二人は、かつて高校時代には、同じサッカー部の部員として、同じ時間を過ごし、一緒に鍛えた仲間だったのだ。
――ああ、やっと私の青春が来たよ。
  そう、こんなデートがしたかったんだ。
真治だって、そんな懐かしい青春に立ち返って、紀美代とは友達から始めたかった。
                     ― おしまい ―

  
≪作者のお詫び≫
 最近の数作は、出来の悪い駄作で、大変申し訳ありません。
 次回は、精一杯頑張りますので、今後とも宜しくお願いします。
                    橘川 嘉輝  拝
 
 

 





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