★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2020/04/23|その他
 ◇ 傍 に い て ◇[男と女の風景・164]
                              2020年4月23木) 00:00時 更新 
                            
  ○我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、雑木(ぞうき)の盆栽仕立てを2品、紹介します。
 
  ≪写真・左・・ヤマモミジ
  ≪写真・中・・ヤマモミジ≫
 これは、どちらも同じ鉢の≪山紅葉≫です。
 ≪写真・左≫は赤い新芽ですが、≪写真・中≫は1週間後のもので、もう新緑の風情が出ていますね。
 これは、50年ほど昔、近くの裏山から採ってきたもので、樹高を40センチほどに抑えて、盆栽作りにしてあります。
 ただ、≪ヤマモミジ≫とは総称で、この鉢の具体的な名前は不詳です。カエデに近いのかも・・。
 
  ≪写真、右・・ザクロ
 これも50年ほど昔、盆栽用の苗として買ってきたものです。
 実はこれ、≪捻幹(ネジカン)ザクロ≫と呼ばれて、幹が捻じれて皮の部分が波を打ったようにシワができて、古木のように見える貴重品です。
 

                    [男と女の風景・164]
                 ステイ・ウィズ・ミー
  ◇ 傍 に い て ◇
 
 服部は、今日も差し迫った仕事がなかったから、部下の山田課長に言って、オフィスから早目に退社してきた。
 服部は、課長になりたての頃、部長から「あれはどうした。これはどうするんだ」と、いつもせっつかれていた。
 だから、部長になってからは、部下を信頼して、気忙しく急がせることはしないことにしていた。
 ただ、問題点の指摘や、目標実現のアドバイスは、自分の経験から的確に指導してきた。
 しかも、部下の成果は、部下の名前で公表させて、本人の手柄としていた。
 そんな部長だったから、部下達からは信頼されていたし、むしろ意見を聞きに来られていたのだ。
 
 それから服部は、いつも立ち寄る横浜駅に近いコーヒースタンドで、一杯飲みながら一息ついていた。
 新型コロナの対策で、駅の構内も通路も、店にも人影が少なくて、みんなマスクをしていた。

 すると、店に入ってきた女が、カウンターに席をふたつ空けて座った。
 服部が何気に見ると、赤いジャンパーにジーパン・スタイルの女性で、フットワークも軽快そうだった。
 女性はマスクをしていたが、コーヒーを飲む時に、それを外した。
 服部は、さり気なくその横顔を見て、どこかで見たような、そんな見覚えがあった。
――エッ、もしかして、昔、部下だった小林さんでは・・。
  あの透き通った色白の頬が、印象的なんだ。
  そう、課長になって間もない頃、配属されてきたから、
  そうか、もう20年くらい前だな。
  でも、確か3年くらいで、早く辞めたんだ。
  そう、主任から、彼女が辞めるとの報告を受けてはいたけど、
  退職した次の日、デスクのトレーに、白い封筒があったんだ。
  開けたら、『大変お世話になりました。感謝します』とあったな。
  仕事が超多忙で、辞めた理由を聞いていなかった。
  今まで退職願は何度も見たけど、お礼の封筒は初めてだよ。
  普通は、最後の日に挨拶に来るのに、封筒とは、と、
  それだけが、今でも印象に残っている。
 
 服部は、高い丸椅子を降りると、その女性に近寄っていった。
「もしかして、小林さん・・」
 突然、名前を言われて、ハッとした女は、振り向き様にジッと見ている。
「エッ、もしかして、服部さんですか」
「そう、服部です」
「エエッ、アァ・・、お懐かしいです」
「そうだね。もう20年くらいは経つよ」
「ええ、その髪、ロマンスグレーで、素敵ですね。ですから、一瞬、誰かと思いました」
 服部は、思わず握手をしようとしたが、コロナの伝染に気づいて、直ぐに手を引っ込めると軽く肩を叩いた。
 小林貴美子の丸くぽっちゃりとした顔の印象は、昔と変わらなかった。
 ただ、入社した頃は、髪形がオカッパだったが、さすがに今は、長く伸ばしていた。
「隣に座ってもいいかな」
 服部は、一応断ってから、自分のコーヒーを持ってきた。
 
「君は、相変わらず可愛いね」
「いいえー。もう中年のオバサンです」
「いやぁ、その透き通る肌は、あの頃と同じだよ」
「ああ・・、有難うございます」
貴美子は、博多人形の頬がふっくらとした子供のようだった。
それが、薄化粧をして10才くらいは大人になった感じで、今でも若々しかった。
「しかし、こんな所で会うなんて、奇遇だね。今は、どうしているの」
「ええ、塾の講師を・・」
「おお、そうか。君にはいいかも・・」
「ええ、私、その後、結婚して・・、でも離婚しまして、今は、母と息子と三人で暮しています」
「でも、頑張っているんでしょ」
「ええ、まぁ・・」
 
「君さぁ、あの時は仕事で頭がいっぱいだったから、聞いてないけど、なんで辞めたの・・」
 貴美子は、一瞬、服部を見ると、黙ってしまった。
「言いにくければ、いいけど・・」
「でも、言っていいんですか・・」
 貴美子は、またチラッと見ると、服部の頑なな横顔を見て、改めて気を引き締めた。
「実は、主任から、いつも飲みに行こうと誘われまして、でも飲むと、次は口説いてきて・・、」
「フーン」
「ええ、俗に言うセクハラをされまして・・」
「エエッ、そうだったのか。ああ、気がつかなかったな」
「ええ私、どうしても、我慢が出来なかったんです」
 服部は、自分の部下がしただけに、なんとも応えようがなかった。
「あの人、なんか、ガツガツしていて・・」
――そうか、あの猪俣が、そんなことを・・。
  元気で行動派だったけど、そんなに悪いヤツだったのか。
  そう、いつも直球勝負だったから、思い込んだのかも・・。
  しかし、アイツは結婚して、子供もいたはずだがな。
 
 暫くして、服部は意を決すると、貴美子に覗き込んで聞いた。
「それでさぁ、あの退職の置手紙、あんなのは初めてだけど・・」
「課長、実はあの時、私は会社を辞めたくはなかったんです」
「エッ、どうしてなの・・」
「ええ、私には、課長が憧れの人でした」
「ナニィ・・、それも気がつかなかったよ」
 服部は、思わぬ告白に、気が動転してしまった。
――まさか、だよな。
  こんな可愛い子が、憧れてくれたなんて・・。
  でも、セクハラもあったから、退職の挨拶をしたくなかったのかな。
 
「そうだよ。あの頃は、プロジェクトを立ち上げたばかりでね、超多忙だったから・・」
「ええ、そうでした。でも、その必死な悲壮感が、見ていて素敵だったんです。この人は、すごいなって・・。そんな印象が今でも残っています。だから、私は尊敬していたんです」
「そうか。僕は、仕事に一途だったし、のめり込んでいたからな」
「ええ、見ていて鬼気が迫る、そんな真剣さがありましたね」
「そう、あの頃は、確かに燃えていたな」
「今は、もう部長さんですか」
「お蔭さまでね。でも今は、もう毎日が暇だし、50才ともなると、冒険は出来ないし・・」
「ええ、私も、四十路に入りました」
 貴美子がそう言うと、二人は、顔を見合わせてニコッと微笑んだ。
「ところで、貴美ちゃん、30分ぐらい、その辺で乾杯したいけど、どう」
「ああ、いいですね」
 
 横浜駅の西口は、いつも夕方にはかなりの人混みなのに、今は閑散としていて、居酒屋も閉まっているのではと心配だった。
 飲み屋街に入ると、確かに閉店中の店が並んでいたが、ひとつだけ赤提燈が見えた。
 入ると、客はいなくてガラガラだったが、店員が声を揃えて迎えてくれた。
 四人用のテーブルだったが、向かい合わせにならないように、隣どおし並んで座った。
 服部は、ビールの中ジョッキを二杯と焼き鳥の盛合せを注文した。
「そう言えば、君は、お酒を飲んでも、絶対に酔わないって、そんな評判を聞いたけど・・」
「ええ、当時はそうでした。でも、今は危ないんです」
 そんな話をしていると、ジョッキが届いて、「偶然の再会に乾杯」と、二人は笑顔でジョッキを合わた。
「しかし、僕はあのコーヒースタンドは、よく行くけどね」
「ええ、今日は、塾の休講による対策会議がありましてね。そのミーティングが早く終わったんで、ふと立ち寄りました」
「でもまぁ、20年も経った今日とは、奇遇だよな」
「ええ、神さまが、チョッと悪戯をしたんでしょう」
 服部には、そんな気軽な会話も嬉しかった。
 
「もう、忘れてしまった当時を思い出すと、懐かしいな。僕はね、会社にも仕事にも恵まれたし、職場の皆にも恵まれたな、って、感謝してるよ」
「でも、私には、チョッと不満がありますけど・・」
「ああ、そうか。あの主任のセクハラがね」
「いえ、当時の課長にです」
「エエッ、僕は悪いことをしていないよ」
「ええ、そうなんですが、私の気持が届かなかったことが・・」
「なに、そんなに熱烈だったの・・」
「ええ、今でも熱烈なファンです」
 貴美子は、そう言うと、照れ隠しのようにジョッキで顔を隠しながら、半分も飲んでいった。
 
「でもさぁ、あの時、僕はもう結婚して、子供もいたんだよ」
「ええ私、それでも良かったんです」
――エッ、既婚者でもいい、って、なにがだよ。
  まさか、エッチではないよな。
「私、学生時代から、ボーイフレンドはいっぱいいました、でも、人間性に裏と表がなくて、尊敬できる人は服部さんだけでした」
「フーン、そうなんだ」
「お酒の席ですし、積年の想いから、私の気持を正直に吐露します」
――オオイ、なにが始まるんだ。
  ヤバイかも・・。
「ええ、私の父も、さる大手企業の部長になりました。でも、お酒に弱いのに、お酒に溺れて、いつも泥酔して帰ってきました。だから、尊敬よりも、むしろ軽蔑していました」
「・・・」
「ですから、自分の行動に責任を持って、断固として邁進する男性、そんな人が理想だったんです」
「でも僕は、オレ流で、好きなようにやっていただけだよ」
「ええ、でも信念がありましたよね。だから、お酒にも、女性にも溺れませんでした。その主旨貫徹に、男性らしさを感じたんです」
 貴美子は、飲んだ勢いもあって、自己主張を力説していた。
 そこに、焼き鳥の盛合せが届いて、服部は串を摘まんで食べながら、当時の思い出に浸っていた。
――ああ、そんな風に見られていたのか。
  だって、社長がいる御前会議の席上で、プランを発表したからには、
  なにがなんでも実現しないと、って、燃えたんだ。
  まぁ、中年だったオレの、青春だったな。
  そう、レトロな古き良き時代だったよ。
 
「服部さん、私は、彷徨える女なんです」
「そうかな。強い芯があるように見えるけど」
「いいえ。私は、実の父ではなくて、理想の父を求めて、放浪してきました」
 貴美子は、キッパリとそう言ってから、ジョッキを掲げると、一気に飲み干した。 
 それは、頭の中でくぐもっている憂さを、ビールと一緒に飲み込むような、そんなガブ飲みに見えた。
――ああ、もしかして、男の間を渡り歩いてきたのか・・。
  そう、男の遍歴が多いのかも・・。
 服部は、手を挙げて店員を呼ぶと、ジョッキを2杯、頼んだ。
「塾の講師は、皆さん優秀で、一騎当千なんですけど、生き様が中途半端な優等生は、私にはダメなんです」
「・・・」
 服部は、貴美子が喋るがままに、放って置いた。
――ああ、きっと、溜まりに溜まったストレスがあるんだよ。
  いいよ。聞いてやるよ。昔のよしみでな。
「ええ、彼等は、組織を取り纏めるリーダーではないんです。そう、心が広くて、強い信念を持つ人、そういう人こそ、優しさを持つ余裕があるんです」
 そこにジョッキが届くと、また貴美子はビールをガブ飲みした。
「ええ、父も優秀だったんでしょうが・・、でも、心の葛藤をお酒に頼って、しかもだらしなく溺れる人は、もっとダメなんです」
――そうか。言ってることは、判るよ。
  でも、君は、ある種のファザコンだよね。
  しかも、君だって、今は酒でストレスを発散させてるよな。
  まぁ、誰だって心は寂しいから、そんな自分の孤独を判って欲しいんだ。
  その潤滑油が、お酒なんだから・・。
 
「服部さん、優しい温もりを感じたいんで、抱いてくれますか」
「エッ、オレはコロナかもよ」
「いえ、信じていますから・・」
 服部は、店員が見ているだろうと意識しながら、大袈裟に両手を広げると、そっと肩を抱いてやった。
「ああ、課長、嬉しいです。私、あの頃の青春に戻りました」
 美貴子は、もう酔っているのか、体をぐったりと預けてきた。
「課長、キスをして下さい」
 服部は一瞬、躊躇したが、美貴子の頬にキスをしてやった。
「ハァ、とっても嬉しいです。ええ、胸の震えが、最高のテンションで燃えてきました」
――ああ、この透き通る頬に、キスをしてしまったよ。
  新人の頃に見た、ピチピチの新鮮さが、今でもあふれてる。
  オレも、引っ込み思案だった、そんな青春を思い出すな。
  今日は、なんという日なんだ。
  これって、再び出会った青春だよ。
  神さまは信じないけど、これは神さまのお引き合わせかもな。
  もう、50才なのにさ。
  こんな事があってもいいのかな。
  これって、正にプラトニック・ラブだよな。
  こんなハプニングは、やっぱり、神さまの気紛れかも・・。
 
 服部は、なんとも晴れ晴れしい気分で、ビールを飲んでいた、
「課長、これからも、こうして会ってくれますか」
「ウン、いいよ。こういう酒は、懐かしいし、美味しい酒だから」
 貴美子は、隣の席から頭を服部に擦り付けて来ると、「ああ、嬉しいです」と言った。
「そんなに熱烈歓迎なの・・」
「そうですよ。まるで夢みたいです」
 そう言われて、服部は、こそばゆい思いになっていた。
――ああ、こういう気心が通じ合った酒って、いいよな。
  まるで、高校時代の同級会みたいでさ。
「課長、私、寂しいんです。だから、いつも傍にいて欲しいんです」
 突然、美貴子の話しが変ってきたが、酔いが回ってきた服部は、頭の中でその感想を独り語っていた。
――ああ、そうか。ステイ・ウィズ・ミーか。
  そう、みんな、孤独なんだよ。
  エッ、ステイ・ウィズ・ミーって、
  確か、≪私と泊まって下さい≫って、意味もあるぞ。
  それは、まさかだけど・・。
  でも、なんで離婚したのかな。
「私、先々が不安で・・。このまま年老いていくのか、って・・」
――そりゃあ、みんなそうだよ。
  肉体的には、皆、老人になっていくんだ。
「私、精神的に不安定になって・・。ええ、時々、家でお酒を飲んで、朝になって気がついたら、居間で寝ているんです」
――やっぱり、酒に飲まれてるのか。
  相当に、ストレスが溜まってるんだろうな。
  でも、サラリーマンは、みんなそうだよ。
 服部はいい気分で酔っていたから、もう聞き役になっていた。
「私は、まるで毒ガスでパンパンになった風船みたい、なんです。だから、こんな女を、針、一本突き刺して、爆発させて欲しいんです」
――ああ、なんか、自虐的だな。
  エッ、この女は、なにが言いたいんだ。
  まさか、欲求不満で、爆発しそうなのか・・。
 すると、店員が「ラストオーダーになりますけど」と言ってきた。
 服部は、チェックを頼み、貴美子に「オオイ、制限時間だから、帰るぞ」と声を掛けた。
 
 そして、店を出て歩き出したが、貴美子の歩き方はかなり危なかったから、肩に手を回して、支えてやった。
 すると、酒に強かったはずの貴美子が、ガクッとヒザを落した。その瞬間、服部はマトモに抱くと、かろうじてその場で踏ん張った。
――オオイ、いいかげんにしろよな。
  なんだ。絶対に酔わない女と、男達から敬遠されていたのが、
  こんな程度なのか。
  オレも、酔っぱらっているけどさ。
 すると、貴美子がいきなり抱きついてきて、プチュッとキスをしてきてた。
 服部は一瞬、驚いたが、思わずそれを受け止めると、熱いキスを交わしてしまった。
 火が付いた服部は、さらに舌を押し込んでディープキスをしていた。
 そして、男の欲望が疼いて、右手が貴美子のジャンパーの上から、胸をまさぐっていた。
すると貴美子は、チョッと乳首に触れただけで、もうビクッと体を伸び上がらせていた。
――ああ、この中年の女、久々のエッチなんだろうな。
  そう、一度、エクスタシーを知った女は、体の芯から疼くんだよ。
  女がその軌道に乗ったら、もう止められな。
「課長、欲しいんです」
――なんだと・・。
「お願いです。部長・・」
 服部は、自分も酔っばらっていたが、どうしたものかと、しばし考え込んでしまった。
――やっぱり、欲求不満なんだよ。
  中年の女って、恥ずかしさを投げ出すと、大胆だからな。
  エッ、もしかして、ステイ・ウィズ・ミー・・。
  オレを、体で繋ぎ止めようとしているのか・・。
  ああ、偶然あのショップで会ったとは言え、
  ワラにもすがる思いなのかも・・。
  これも、神さまの悪戯なのかな。
                            ― おしまい ―
 
 
 





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