★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/10/03|その他
 ★ B型の女 ★ [男と女の風景・152] 
                 2019年10月3(木) 00:00時 更新 
 

  我が家のベランダ・ガーデン
 
  今回は、この時期に花を咲かせる3種を紹介します。
 
  ≪写真・左・・ミミカキグサ
 皆さんには≪耳掻き草≫なんて、聞き慣れない名前でしょう。私も山野草の会に入って、初めて知りました。
 これは、タヌキモ科に属する多年生の食虫植物だそうです。
 地中に捕虫嚢を付けていて、プランクトンを捕まえて栄養としており、池や沼の浅瀬に生育しています。
 そのためミズゴケで根元を固めて、水を切らさずに、よく日に当てて育てるといいようです。
 また、花の後にガクが残って、耳掻きのようになるそうです。
 日本全国で生育する在来種で、世界では200種以上あるそうです。
 見ての通り、葉は3ミリに満たなくて、花も小さくて可憐です。
 
  ≪写真・中・・斑入りホトトギス
 最近は、ホトトギスも園芸品として、様々に開発されてきました。
 この葉の白さが明白な斑入りは、花もきめ細やかで、なかなかに面白いものです。
 そこで、花をアップしてみました。
 
  ≪写真、右・・白タデ
 これは、昨年の種が多く撒かれて、密生して成長したものです。
 さすがに土の取り合いがあったのか、高さが10センチに満たないまま、こんなに花を咲かせています。

 
                                                [男と女の風景・152]
  ★ B型の女 ★
 
 ある日の午後、庶務担当の女の子が、支社長室のドアをノックして入ってきた。
「支社長、浜田さんから電話がありまして、在席していましたらお邪魔したい、とのことです」
「そうか。いいですよ」
 横浜支店長の塩谷は、あまり気にかけてはいなかったが、チョッと頭に引っかかるものがあった。
 浜田は相鉄線の二俣川に住んでいたし、自由時間が取れることもあってか、最近は塩谷を訪問することが時々みられた。
――浜田君は、格別な用事がないはずなのに、なにかな。
  最近、顔を見せるようになったけど・・。
  この半年ぐらいで、確か4回目だよな。
 浜田は、塩谷が以前、秘書課長をしていた時の部下で、当時は常務取締役の秘書をしていた。
 だが、その後、塩谷が支店長になってから知ったのだが、なぜか退職して、保険会社の外務員になっていた。
 そして、それから15分経った頃、浜田真由美がにこやかな顔で支社長室にやってきた。

 
「おお、ミッチィか、元気なの・・」
「ええ、お蔭さまで」
 そんな挨拶代わりの言葉を交わしながら、ソファに案内すると、塩谷はお世辞を言った。
「でも、相変わらず、いい歳の取り方をしているね」
「いえ、そんな・・」
「昔から言ってるけど、聖母マリア様のように清楚な美人でさ、その良さを残したまま、大人の色気が出て来たよ」
 浜田は、いつもながらに褒められたが、何度言われても嬉しくって笑顔を浮かべていた。
 塩谷は、なにか用事でもと聞きそうになったが、敢えてそのことは聞かずに知らん振りをしていた。
 浜田美智代は、塩谷が秘書課長になって3年後の35才の時、新人として秘書課に配属されてきた。
 先輩の秘書が、出産することになって、子育ては自宅でしたいからと、退職の申請があったからだ。

 だが、お互いに当時からはもう17年も経っていたから、52才と39才の中年になっていた
 
「先日は、同期入社の女子会がありましてね」
「ほう、まだ続いてるのか」
「ええ、あの年度は、学卒女子が営業職を入れて16 人、入社しまして、現職はもう5人しか残っていませんけど・・。その日は、2人が都合が悪くて欠席でしたが、あとは皆・・」
「そうか。でも、中年のオバサン連中だから、盛大だったんだろ」
「ええ、2年振りですから、それは楽しかったですよ。でもみんな、変らないですね」
 それからは、塩谷も知っている事務職の4名の話になり、もう経理の神崎しか残っていないと言う。
――やっぱり、格別の用事はないんだ。
  まぁ、気分転換の四方山話で来たんだろうよ。
  飲みに行こうか、って、誘ってもいいけどな。
  さて、どうしよう。
 なにげに時計を見ると、もう4時を回っていた。
 
「ところで、なぜ、会社を辞めたの・・」

「ええ、常務も定年でお辞めになったし・・、イヤなこともありまして・・」
「そうか・・、イヤなことか・・」
 塩谷は俯いたまま、敢えて次の言葉を誘うように、独り言で呟いた。
 美智代は一瞬、どうしたものかと躊躇したが、この話の流れでは言うしかなかった。
「ええ・・、実は・・、塩谷さんの後任の方に、何度も食事をって誘われまして・・」
「フーン」
「私、何度もお断りして、でも、待ち伏せされたりして・・」
 塩谷は、「あの後任の山田だったら、あり得るな」と思ったが、黙って飲み込んだ。
「セクハラだって、部長に相談しようとも思ったんですけど・・、もう面倒だから、会社を辞めたんです」
――それにしても、全社のコンプライアンス委員会の、事務局だろ。
  それが、セクハラとはな。
  アイツ、大胆なのか、狂ったのか・・。
 
 塩谷は、美智代が辞めた理由を聞いて、さらに突っ込んでみたくなった。
「でも、君は、離婚したんだよね」
「ええ、まぁ世間で言う、性格の不一致ですかね。とにかく、優柔不断で、煮え切らないんです」

 美智代は、塩谷を見詰めたまま、平然として喋っていた。
「でも、学生時代にバイト先で知り合ったとか」
「ええ、私は最近、韓流のコンサートに行くんですけど、昔から瓜実型のイケメンに弱いんです」
「ほう。では、元の亭主は、そのイメージだったの」
「ええ。でも、気の弱い人でして・・」
 美智代は目を反らすと、遠くを見ている。
「あの人は、就職した会社の上司にイジメられて、気が変になってしまって・・。ええ、出社拒否になって・・、まぁ、最近で言う引き籠り、ですかね」
 さすがに美智代は悲しくなったのか、目を潤ませている。
――ミッチィの血液型は、確かB型だったよな。
  B型は、相手に構わず、こうと決めたら一直線に突進するんだ。
  決断が速いと言うより、一旦決断したら、頑固一徹で貫き通す。
  だから、見限ったら、よりを戻すなんてUターンはしないんだ。
  しかも、他の路線に乗り換えて、ケロッとしてマイペースで次へ進む。
  我が強いとも言うけど、ロマンチストなんだよな。
 塩谷は、会社や飲み屋で女性達を見てきて、血液型でその特性を自分流で解析してきた。
 直感的に仮説を立てて、その言動を眺めながら、本人に確かめるのである。
 概ね当たるのだが、外れた時は、本人に聞きながら、その理由を確認して、色々と学んできたのだ。
 
「それで、確か娘さんが・・」
「ええ、両親と一緒にマンションで、暮らしてます」
「そうか。では、マイペースでいいじゃない」
「でも、娘が反抗期になって、母からは『そっとしておきなさい』って言われて、その分、手がかからなくなったんですけど・・」
 美智代は、フッと気落ちしたように、溜息を吐いた。
「でも私、毎日の生活に張りがなくて、ぼんやりとした時間が多くなりましてね・・」
――そうか。それで、ここには気分転換で来るのか。
  まぁいいよ。話し相手をしてやるよ。
 
 塩谷は、美智代を飲みに誘うかどうか、さっきから気にしていた。
 これまでは、軽い気持ちで話し相手になり、しばらく雑談をすると、「お邪魔して、すみません」と美智代は帰っていった。
――まぁ、B型は、Yesか、Noか、はっきりしてるから、
  声だけでもかけてみるか。
  そう、オレは、B型を追いかけないことにしているんだ。
  Noと決めたら、絶対にNoだし、Yesだったら、追いかけてくるから・・。
  そう、B型は、自己中心主義で、興味がないと、心ここにあらずでね。
 塩谷は、さり気なくだが、美智代の前で腕時計を見た。
「おお、もう5時に近いよ。どう、一杯、飲んでいかない」
「エッ、いいんですか」
「ウン、今日は平穏無事だから・・」
「私、嬉しいです」
 美智代はニコッとすると、低い声で言った。
「それでは、先に出てくれないかな。10分ぐらいしたら、駅の西口で待ち合わせよう」
「それでしたら、私、高島屋の地下で買い物をしますので、30分後にどうですか」
 そして、二人はスマホのナンバーを交換した。
「これからは、庶務担当を通さないで、直接、僕のスマホに・・」
 
 それから、塩谷は、山田総務課長の席に出向いて「今日の現場は、問題ないか」と確認した。
 すると、「支社長、今の方、美人ですね」と、謎かけをしてきた。
「いやぁ、あの浜田さんは、昔、秘書課の部下だった人でね。当時は、本社で常務の秘書をしていたんだ」
「ヘェー、そうなんですか」
「今は保険の外務員だけど、ヒマだから油を売りに来たんだよ」
 山田課長は、そんな出来事を管掌するのも自分の仕事だとばかりに、支社長に問いかけてきたのだ。
 塩谷は、お互いにチェックする役目があるのは判っていたから、あえて山田課長のデスクに出向いたのだ。
 そこには、職場ではお互いにオープンで行こうという、そんな阿吽の呼吸があった。
 
 それから30分して退社すると、塩谷は横浜駅の西口が見える高島屋側に立って、待っていた。
 すると、案の定、美智代がビルの西口から出てきた。
塩谷は急いで近寄ると、美智代の腕を引っ張ってビルの裏手に廻った。
 それから、しばらく歩くとベイシェラトンホテルを越えて、天理ビルに入っていった。
 そして、塩谷は、≪北海道≫と言う高級居酒屋に案内した。
 そこは支社のビルから離れていたし、部下達には知られていない地味な穴場だった。
 やっぱり、塩谷は立場上、人目を気にしていたのだ。
 まだ早い時間だったから、店員の案内で、二人は夜景の見える席で向かい合った。
 
 ビールで乾杯すると、美智代がしみじみと、思い出すように切り出した。
「塩谷さん、こうして、二人で飲むのも10年振りですね」
「あぁぁ、そうだな。あの時は、中華街だったけど・・」
 二人は目を合わせると、あのデートを思い出して、クスッと笑った。
「でも、塩谷さん、あの後で山下公園に行ったでしょ。あの時、私は抱いて欲しかったんです」
「エッ、ウソだろ」
「いいえ、あの時は離婚して1年も経っていましたから、寂しくって・・」
 美智代は、しおらしく俯いて、小さな声で言った。
――まさかだよな。だって・・。
  そう、オレはそんな気はなかったんだよ。
  オレが企画室へ異動するので、送別会をやってもらって、
  その時に、『二人で食事に』って、そっとお願いをされたんだ。
「でも、課長、アッ、支社長・・。すみません。昔のイメージが強すぎて・・」
「まぁいいよ」
美智代は、塩谷の今の役職をトチッタお蔭で、言いたいことが言えなかった。「でも、あの頃は、僕もノリノリだったからな」
「ええ、色々とお世話になりました」
「まぁ、いい時代だったよな」
「ええ、特に、常務が社外の一般の人とトラブルになった時、矢面に立って下さって・・。マスコミにも対応して戴いたんです」
「そうだったね。そんなこともあったよ」
――そう、周囲からは突っ張ってるように見えただろうな。
  でも、いつも必死だったし、無我夢中だったんだ。
  反省することはあっても、悔いはないよ。
  オレは、精一杯、やり尽くしたから・・。
 すると、そこに北海道産のホタテのフライと蝦夷鹿のローストがテーブルに届いて、塩谷は「さぁ、食べようか」と促した。
 
 それから、飲み物に赤のグラスワインが追加されて、二人はじっくりと味わっていた。
 しばらくして、大きな窓から夜景を眺めていた美智代が、つぶやくように喋り出した。
「塩谷さん、私、絵を描いているんですけど・・」
「エッ、それは知らなかったな」
「ええ、あまり会社では言わなかったんですけど、子供の頃から絵を描くのが好きで、高校は美術部でしたし、大学でも美術クラブにいました」
「それって、油絵だよね」
「ええ、その当時の顧問の先生に、今も師事しているんですが、先日、『あなたの絵はここ3回の展覧会では、暗い絵ばかりですね』って、指摘されたんです。ええ、春と秋に、先生の弟子たちの展覧会がありましてね」
「フーン、では、今年も出展して・・」
「ええ、今回は花瓶に生けた花束を描いたんですが、それが自分でも、陰気に見えましてね。先生から、『あなた、もしかしたら精神的に病んでないの』って、言われたんです」
「フーン、やっぱりプロから見ると、描き手の心情が見えるのか・・。それって、すごいよね」
「ええ、自覚症状はなかったんですけど、改めて自分を見直すと、花束をこう描きたいという熱い動機がなかったんです。ええ、その絵は自分の情熱を亡くして、ただ描いた。それだけだったんです」
 塩谷は、人が無意識の裡に暗い絵を描くなんて、思いもよらなかった。
――精神状態が病んでいるのを、見破る眼力って、すごいよな。
  オレには、部下の心情なんて判らないよ。
  ただ、問題が起きたら、全体をどう動かして、修正するか。
  そういう組織の守り方で、やって来たからな。
 
「塩谷さん、私、最近はもぬけの殻のようにボーッとして、頭も気持も空白なんです」
 塩谷は、ホタテのフライを頬張っていたが、ふと何事かと視線を送った。
「ええ、生き甲斐がなくて、ただ惰性の毎日を繰り返している。そんな精神状態なんです」
「そうか。まぁ、人生、山あり谷ありだからな。頑張るしかないよ」
「でも・・、私・・、助けてほしいんです」
「エッ、なにを・・」
 塩谷は、また何事かと、怪訝な顔で覗き込んだ。
「ああ、僕に出来ることなら、昔のよしみで、なんでもアシストするよ」
美智代は、少女のような清楚な顔に、一抹の寂しさを漂わせていた。
「ええ、実は抱いて欲しいんです」
「エッ、なんだって・・。ハグではなくて・・」
 塩谷は、真顔になって聞き直したが、美智代は黙ったままだった。
「君、本気で言ってるの・・」
 美智代は、強い意志を示すように固い表情になると、塩谷の目を見詰めたまま頷いた。
――ああ、なんと言うことだ。
  ミッチィのB型が、顔を出してきたよ。
  B型は猪突猛進だからな。ヤバイかも・・。
 
 塩谷は、しばらく深刻な面持ちで考えていたが、重い口を開いた。
「僕には、女房も子供もいるし・・」
「ええ、戯れ事でもいいんです。行く宛てもない私は、こんな私を忘れたいんです」
「そうか。だったらさ、ベロベロに酔っ払ったら、どう・・。自分を忘れられるし、ストレスが発散されるし・・」
「そうですか・・。そうかも知れませんね」
「そうだよ。じゃあ、もう一軒、案内するよ。時たま行くスナックで、支社では誰も知らない店だから、飲み放題で・・。しかも、酔っぱらったら、タクシーで帰れるし・・」
 美智代は、納得したように頷くと、カウンターで隣り合った塩谷の肩に、自分の頭を傾けてきた。
――ああ、エッチは免れたかも・・。
  でも、この子は大胆だから、なにをするか判らないしな。
 美智代は、端正な顔付きで手際よく仕事をするのだが、他の秘書達からは、思いっ切りが良くて大胆だと言われていた。
 
 それから、塩谷は食事の清算を済ませて、「それでは・・」とエレベーターに乗った。
 すると、美智代が突然、抱きついてきて、顔を上げるとキスを求めてきた。
――オーイ、これは酔っぱらってるの・・。
  それとも、本気なの・・。
 塩谷は、思わずたじろいでしまった。
 だが、美智代の幼気(いたいけ)な表情をみて、塩谷は思わず引き寄せられてしまって、被さっていった。
 すると、美智代は背伸びをして、強く求めてきた。
 1階に着いて、ドアが開くまで、二人は抱き合っていた。
「ああ、君の気持を感じちゃったな。そんなに可愛くて、哀しそうにお願いされるとさ、僕も男だから・・」
 塩谷は、照れ臭そうに弁解した。
 そして、美智代はもう一度、両手で塩谷を抱きしめると、顔を上げて「私、嬉しい」と呟いた。
 
 塩谷が案内した≪菊代≫は、ママが一人でやっている店で、いかにも場末のスナックだった。
 そこは、狭い路地裏の飲み屋街の一角にあって、薄暗い照明の中で、カウンターに5席あるだけの小さな店だった。
 塩谷が「お久しぶりです」と声を掛けたが、ママは「いらっしゃいませ」とだけ、物静かに応えた。
 もう歳の行ったママは、地味な和服を着て、控え目で口数の少ない女だった。
 美智代は、ママの本名が菊代なんだろうなと思った。
 見れば、カウンターに白髪の男が独り、背中を丸めて飲んでいた。
 この店は、先代の支社長が難題が起きた時に独りで飲む店だと、密かに案内してくれたのだ。
 
 それを引き継いだ塩谷は、ウイスキーのマイボトルで水割りを作ってもらうと、また美智代と乾杯をした。
 だが、美智代が見せた目線は、どこか気持を込めたように色っぽかった。
――ああ、キスをしちゃったからな。
  仕方がなかったよ。求められたんだから・・。
  これって、浮気なのかな・・。
「塩谷さん、私、元気が湧いてきました」
 いきなりそう言われても、美智代が言わんとする意図が見えなかった。
「ええ、このときめく気持って、新人で入社した時のようですね。私には凄い刺激になるし、ヤル気を奮い立たせてくれるんです」
美智代は、目を輝かせて、生気をみなぎらせている。
「ええ、忘れていた自分を、思い起して、なにか前向きに行動をしたいなって、そんな原動力になるんです」
 塩谷は、美智代がどこでヤル気を起こさせたのか、それが判らなかった。
「支社長、あなたは昔の課長時代から、素晴らしい人でした。だから私は、憧れていたんです」
――そうかな。だって、オレはそんなにいい男だとは、思ってないよ。
  そりゃあ、一流の大学を出ているエリートかも知れないけど・・。
  でも、男はそんな学歴や肩書きじゃないよね。
  女房は、『素朴な人柄がいい』って、認めてくれたけど・・。
 美智代は、ウイスキーの水割りをもう飲み干していた。
 そんな飲みっぷりを見たママは、黙ったまま氷を足して作り出した。
 だが、塩谷は目をつぶって首を小さく振ると、ウイスキーを薄めにするようサインを送った。
 
 しかし美智代は、新しい水割りを大胆に飲んでいた。
――オーイ、大丈夫か。
  まぁ、タクシーに乗せるからいいけど・・。
  でも、酔っ払って撃沈したら、ヤバイよな。
 塩谷は、そんな心配をしていたけれど、美智代が飲んで元気を取り戻すなら、それでもいいと思っていた。
「でも私、またOLに戻りたいな」
 美智代は、独りしみじみと呟いた。
 もう二度とは、あの会社のOLには戻れないのが判っていたが、懐かしさが湧いてきて、思わず口を突いてしまった。
「でも、もうあの会社は、無理ですよね」
「そうだな。再雇用はしていないし・・」
 美智代は、頭では無理を承知していたが、気持の中では昔の自分を復活させて、その思い出を追いかけていた。
「ああ、過去の栄光ですか」
「アッ、そう言えば、あったな。そこは中小企業だけど、取引先の親しい社長に聞いてみようか・・」
「OLですか」
「ウン。信頼できる秘書が欲しい、って・・」
「まぁ、嬉しい」
「君なら、安心して推薦できるけど・・。もう、そのポスト、埋まってるかも・・。まぁ、聞いてみるよ」
――ミッチィは、精神的に、かなり追いつめられているんだ。
  女の転換点かもな・・。
  離婚した女の寂しさかも・・。
 
 すると、トイレに立とうとしたのか、美智代が椅子から立ち上がったところで、腰が砕けてよろめいてしまった。
「オイ、大丈夫か」
 美智代は、椅子の背もたれを掴んで、「はい。大丈夫です」と応えた。
「さぁ、お開きにするか。タクシーを呼んでおくよ」
「いえ、ちゃんと歩けます。チョッと、トイレへ」
 塩谷は、流石にもう酔っただろうと、心配だったから、ママにチェックをしてもらった。
 そして、トイレから戻ると、美智代は「失礼しました」と、まともな口調で謝った。
「本当に、大丈夫なの」
「ええ、少し酔ってますけど、意識はありますし、歩けますから」
 そんな会話をしてから、塩谷は美智代の腕を抱えて、店を出た。
 酔った体は少し重かったし、足の運びも遅かったが、意識ははっきりしていた。
 細い路地を曲がったところで、美智代が「塩谷さん、キスをして下さい」とせがんできた。
「オーイ、もういいよ。今日は、おしまい」
 だが、美智代は突然、しがみついてくると、首筋に唇を押しつけてきた。
 そして、その唇が、まるで生き物のように這い回り、狂おしい程に求め続けてきた。
 塩谷は、無下に払い退けられなかったから、しばらくは、されるままに任せるしかなかった。
 だが、気がつけば、美智代の手が自分の股間に伸びてきて、強く押しつけていた。
「オイ、止めろ。止めないと、オレは、もう君とは付き合わないぞ。秘書の仕事も、なしだ。いいか」
 そう言われて、美智代がおもむろに顔を上げると、その目には涙が零れていた。
――ああ、たまらないな。
  こんな可愛い女が、オレを求めるなんて・・。
  抱いてやりたいよな。
 
                       ― つづく ―
 
 

 





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