★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/09/26|その他
 ★ すれ違う自我 ★[男と女の風景・151]
                    2019年9月26(木) 00:00時 更新 
 

  我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、冬でも、いつでも美しくて、優しい緑を楽しませてくれるシダ類を紹介します。
 シダを育てていて意外なのは、この九月に新芽が出る種類が多いのです。冬を迎えるため、ですかね。
 
  ≪写真・左・・タマシダ
 これは繁殖力が強くて、環境条件が合えば、土が少なくても、細いスジの根を這わせて成長します。
 
  ≪写真・中・・ベニシダ
 実はこれ、春の写真ですが、赤い新芽が、紅羊歯の見分け方です。
 
  ≪写真、右・・ヤシャイノデ
 このイノデ(猪手)は、絶滅危惧種ですが、葉に艶のある緑と、茎が茶色の細い毛で覆われているのが特徴です。

                                                 
[男と女の風景・151]
                      ー つづき・3  ー

   ★ すれ違う自我 ★ 

 次の週の月曜日、出社した深川奈津美を見ていると、オフィスを歩く姿がなんとも緩慢だった。
 自分のデスクに座っても、見るからに睡眠不足なのか顔色が青白かったし、どこか虚ろでボーッとしていた。
 決算係の四人は、宮内の前に前田が座り、その横に奈津美がいたから、宮内の席からは斜め前に見えていた。
――奈津ちゃんは、どうしたのかな。
  顔色が悪いし、なにか魂を抜かれたようで、生気がないな。
  もしかして、あの大船での別れ方が、悪かったのかな。
  『僕は誰とも結婚しない』って、宣言したら、涙を流したんだ。
  そしたら、必死な思いで、縋って来たよ。
  『私、結婚しなくても、ずっと、一緒に、いたい』って・・。
  でも、オレだって必死だったし、本心を言うしかなかったんだ。
  『仕事では、自分の自我を殺してるけど、私生活では殺したくないんだ』
  それからは、ずっと会話がなくて、気まずかったな。
  仕方がないから、『ごめん』と言って、帰ってきたんだ。
  それ自体は後悔してないけど、なにか哀れだよな。
  ああ、どうしたらいいんだ。
  こんな話、誰にも相談できないし・・。
 宮内は、そんな思いで、一日中、奈津美をさり気なく観察していた。
 だが、前田も山田も、自分の仕事に没頭していて、そんな奈津美に気づくことはなかった。
 そして、夕刻の定時になると、奈津美はか細い声で「お先に、失礼します」と声を掛けて、席を立っていった。
 宮内は、よほど追いかけて声を掛けようかと思ったが、なぜか躊躇してしまった。
 それから約1時間、宮内は残業をして、帰路についた。
 
 JR藤沢駅に着いたのは、もう7時半を回っていた。
 だから、今宵は、立ち食いソバでも食べて、スナックに立ち寄ろうかと思っていた。

 電車を降りた乗客たちが、改札口に向かい、南北に別れて流れている
 そこには、いつもと同じラッシュの光景があった。
 その行列になった人の群れに沿って行くと、突然、フラフラッと目の前に人が出てきた。
 ハッとして交わそうとしたが、見れば、なんと奈津美だった。
 思わず抱き止めると、歩いている勢いもあって、宮内はよろけそうになったが、かろうじて踏ん張った。
「奈津ちゃん、どうしたの」
 だが奈津美は、下を向いて、なにかに堪えるように応えなかった。
 宮内は仕方がないから、人の流れを横切って、人待ちをする指定席売場の前まで連れて行った。
 そして、両肩を掴んで「おい、大丈夫か」とただした。
 すると、奈津美は宮内を見詰めたまま、瞬く間に目が潤むと涙をこぼした。
――ああ、ヤバイな。
 そんな奈津美を見て、宮内は機転を利かせた。
「夕ご飯は、もう食べたの」
そう覗き込んで聞くと、微かに首を振った。
「ヨシ、では食事をしよう」
 宮内は、しっかりと腕を組んで歩き出したが、途中でふと思いついた。
「あのさぁ、これを右に真直ぐ行くと小田急デパートがあるけど、その2階が、鎌倉へ行く江ノ電の改札口だから・・」
 奈津美が、鎌倉に住んでいるのは判っていたから、土地勘のない彼女に帰りのことを思って教えたのだ。
それから、駅ビルのエスカレーターを降りて、宮内は2階のイタリアンの店に入った。
 
 もう夕食時のピークは過ぎていたが、それでもテーブル席はひとつしか空いていなかった。
 お冷を持ってきた店員が、「お決まりですか」と声を掛けてきた。
 メニューを見ていた宮内は、「ボンゴレがいいな」と応えた。
 すると、奈津美もそれでいいと言う。
「アッ、ビールはハイネケン・・。これ、小ビンでしょ」
 それを見ていた奈津美が、「私も・・」と言い出した。
 奈津美は、1時間も待ち続けて、やっと宮内に出会えてホッとしたのか、生気を取り戻していた。
 二人で乾杯をしたところで、「オイ、どうしたんだ」と、宮内は心配になって覗き込んだ。
「はい、どうしてもお会いしたくて・・」
 奈津美は、か細い声だったが、気持を奮い立たせてはっきりと言った。
――ああ、やっぱりそうか。
  でも、オレのプライベートは、誰にも邪魔されたくはないんだよな。
  格別にやることも、趣味もないけどさ・・、
  でも、オレはオレでいたいんだ。
 ふと見れば、奈津美は、ひまわりの絵柄がプリントされた黄色いハンカチを鼻に当てていた。
――ああ、今日はピンクのシャツに白いパンツルックだよ。
  案外とお洒落で、可愛いな。
  しかも、濃いグレーにチェック柄のスーツ、
  この決め方もカッコいいし、センスがいいな。
  イヤァ、もしかして、気持を明るく持とうとして、かも・・。
 
 宮内は、しばらく考え込んでいたが、ここは自分から言うしかないと覚悟した。
「ごめんな。僕ってさ、我が儘な男なんだよな。そう、自分勝手でね」
 宮内は、独り言のようにボソボソッと言った。
「でも、私の気持を判ってくれて、親切で・・」
「そうかな」
「ええ、こんなお邪魔虫が突然、現れても、こうして一緒の時間を割いてくれてますから・・。私、これだけでも嬉しいんです」
「そうかな。だって、藤沢まで遠出して、1時間も待っていたのにさ、君をそのまま帰せないでしょ。僕の部下だし、仲間だから・・、これは礼儀としてのお持て成しだよ」
「ええ、例えそうであっても、私、嬉しいんです」
――ああ、惚れられたか・・。
  恋は盲目って言うけど、もう止められないのかも・・。
「でもさ、君は僕の部下だし、仲間だから、それ以上でも、それ以下でもないんだ」
「はい、判りました。あくまでも主任の立場でしたら、それで結構です」
 奈津美は、熱い気持を押し殺して、あくまでも冷静だったし、遠慮した言い方になっていた。
「でも、時にはこうして会って下さい。お願いです。邪魔者として邪険にしないで下さい」
「ウン、それはしないよ」
 そこに料理が届いて、二人は早速フヲークを取って食べ始めた。
 
「でも、君は仕事が出来るし、なによりも職場でも気配りがいいよね。だから、OLとしては、高く評価しているよ」
パスタを食べていた奈津美は、慌てて飲み込むと、「ハァ、有難うございます」と応えた。
 宮内は、友達以上の交際をしないのは、あくまでも自分の生き方にあると、それが言いたかったのだ。
――だけど、なぜ、オレは自分にこだわってるのかな。
  独身主義と言いながら、結婚が怖いのでは・・。
  アアッ、また見えない自分が、顔を出してきたよ。
  そう、実は自分の本心が曖昧で、明確に説明できないんだ。
  それなのに、この子との交際を拒んでる。
  しかも、拒む理由が見つからないんだ。
  この子は、こんなに切々と訴えているのに、オレは高慢ではないのか・・。
  ああ、自分が判らないよ。
 宮内は、パスタを食べながら、不確かな自分を意識していた。
「奈津ちゃんさ、もう少し時間をくれる。今のままだと、自分の考えがまだ曖昧で、自分にウソをつきそうだから・・」
「はい、判りました」
「ああ、オレってダメな男だな」
「いいえ、そんなことは・・」
 考えが纏まっていない宮内は、自分に対する嫌悪感が湧いてきた。
 
 宮内は残ったビールを飲み干すと、言葉を投げ出すように言った。
「オレってさぁ、自分勝手に生きたいんだよな」
「ええ、どうぞ、ご自由に・・。私は、それを止めません。宮内さんの望むように生きても、それを云々しません」
 そこまで言われると、もう宮内は脱帽だった。腹の座った奈津美の発言には、なにも抗弁できなかったのだ。
――オイ、自我とはなんだ。
  自分が、他者とは異なった存在であることを、認識することだよ。
  しかし、その自分を認識する自我には、意味があるのか・・。
  オマエ、自分に固執して、自己主張をしてるだけだろ。
  独立自尊と言えば意味があるけど、
  単なる我が儘であり、独善ではないのか・・。
  そう、≪自我≫なんて安っぽい言葉遊びをして、
  カッコいいポーズに、酔い痴れているのでは・・。
  そう、哲学的だなんて、インテリぶってさ・・。
  ああ、疑問符がいっぱい湧いてくるよ。
  じっくりと考え直すしかないか。
 宮内は、ビンが空なのを確かめると、ビールをもう一本、追加した。
 そして、なにかに触発されたように、残りのパスタをガツガツと食べていた。
 
「奈津ちゃん、君から見て、オレはどんな人間に見えるかな」
「そうですね・・」
 宮内が、敢えて別の角度から問いを発すると、奈津美はしばらく考え込んでいた。
「宮内さんは、自分のポリシーを持っていて、自分に忠実なんです。ええ、芯が強くて、自分を貫いていく人・・」
「おお、褒めるね」
「ええ、その主張や行動は、時には理想論ですが、いつも正論なんです。しかも、極めて日本人らしい全うさであり、日本の良識なんです」
「エッ・・、と言うことは、日本文化の影響を受けてる」
「ええ、多分・・」
 宮内は、届いたビールを飲みながら、それがどういう意味か考えていた。
「もしかして、ご両親の指導や躾から学んだもの、それを出発点にしているのでは・・」
 そう言われて、宮内は内心、「エッ、それってズバリかも」と意表を突かれて驚いた。
 突然、頭の中がパニックになって、黙って奈津美を見詰めたまま、考え込んでしまった。
――ああ、オレは、両親に反発してきたのに、そこが出発点だったとは・・。
  オレの自我は、両親と対立した論理にあると、自負してきたんだ。
  でも、第三者から見ると、指導された両親と同類だなんて・・。
  両親の呪縛から、未だ解放されてないんだ。
「宮内さんは、理路整然としているし、しかもご自分にはウソをつかない。だから、とっても理解できるし、安心なんです」
――ああ、なんということ・・。
  オレの内面は読み切られて、丸裸にされてるよ。
  この女、すごいな。尊敬するよ。
  自我なんて言葉に捕らわれて、そこに存在感を求めるなんて・・、
  オレは大バカ者かも・・。
 また宮内はビールを飲むと、無意識にグラスを持ったまま、独り遠くを見ていた。
 
――他人に煩わされない自由を求めるオレ、
  でも、それは孤独を気取っている単なるポーズかも・・。
  逆に、他人との関わりの中で、見えてくる自分、
  その本心こそが、自我かもしれない。
 宮内は、これまで考えもしなかった逆説に、突然、ブチ当たっていた。だがそこには、頭の中でピンと閃くものがあった。
――他者から独立して自由な自分に、自我がある、と、
  オレは、これまで、そう思い込んでいた。
  だが、他者との交流の中で見える自分に、自我があるのかも・・。
  この奈津美がいて、交流して、共に行動をするから、
  それに対してYESとか、NOと言える。
  それは、自分の願望や正論に基づいているから、
  そこにこそ、自分の自我そのものが出てくるのかも・・。
  とすれば、奈津美と付き合う中で、自分が見えて来るかも・・。
 
「奈津ちゃん、やっと結論が出たよ」
「ハァ・・」
 宮内が突然、そう言い出して、奈津美はなんのことかと見つめている。
「奈津ちゃん、僕と付き合ってくれ。僕からのお願いだ」
「アッ・・、はい、私、嬉しいです」
「ただし、お願いの条件付きだけど・・」
 奈津美は、不思議そうな目で宮内を見た。
「先ず、二人が付き合っても、オレ流で行動させてもらう。そして、それが我が儘か、良識かは、君が判定する。その上で、そのコメントは、君が感じたままを明確に言って欲しい」
「ハァ、それはどうしてですか」
「勝手なオレ流の行動って、他人から見ると、どう見えるか。それを知りたいんだ」
 奈津美は、言っている意味は判ったが、こんなことを言う人は、初めてだった。
 しかも、深刻そうな顔をして、マトモに話をしていた。
「自分には見えない自我は、君のコメントを受け止めて、じっくりと反芻して・・、そこから、見えてくるかも知れないんだ」
「はい。では、その都度、私の率直な感想を言わせて戴きます。それで宜しいですか」
「ウン、宜しく。自我なんて、一生涯でも解けない永遠のテーマだろうけど、でも、自分を追いかけたいんだ」
 奈津美は、そんな修行僧のような宮内に、身内から湧き上がる尊敬の念を感じていた。
――ああ、この人は本当に自分と向き合っているんだ。
  なにかを求めたり、縋ったりは、していないのよ。
  ただひたすら、自分が何者かを見定めようとしている。
  その一所懸命さが素晴らしい。
「人間てさ、自分の価値は、他者との比較でしか評価できないんだよ。だから、コメントを言われて、初めて気づくことが多いはずなんだ」
 
「どう、気分がいいから、もう一軒、飲んでいかない」
 すると奈津美は時計を見て、「もう8時を過ぎてますので、私、帰ります」と応えた。
「そうか。では、江ノ電は、3階に戻った先だから」
「ええ私、バスで帰ります。その方が自宅に近いんで」
「エッ、そんな路線があるの・・」
「ええ、ネットで調べましたら、この下のバス停から、鎌倉行が出ていますので」
 宮内は、奈津美が調査済で、用意周到なのに驚いた。
 そして、エスカレーターを降りたところで、立ち止まって聞いた。
「もう一軒、て、僕が誘ったのは、我が儘なの・・」
「いいえ、それは宮内さんの願望です。そして江ノ電と言って下さったのは、親切心からです」
「ああ、ここには、まだ自我は出ていないんだ」
「それでは、失礼します」
 奈津美は踵を返すと、オシャレなファッションが背を向けて、颯爽と帰って行った。
――ああ、最後がこんな展開だなんて、滑稽だよな。
  オレの自我だなんて構えていたけど、単なる願望だって・・。
  しかも、キッパリと≪失礼します≫だって・・。
  ああ、面白くなりそうだな。
  だって、プライベートのコメンテーターが付くんだよ。
 
                          ― おしまい ―
 
 





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