★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/09/12 0:00:01|その他
★ すれ違う自我 ★ [男と女の風景・151]
 2019年9月12(木) 00:00時 更新  
 

  我が家のベランダ・ガーデン

 皆さん、すみません。
 この欄は、写真を用意したのですが、画像のメモリー・オーバーのため、次回に回させて戴きます。


                 [男と女の風景・151]
  ★ すれ違う自我 ★
 
 宮内誠也は、会社が5時半に終わってからも、自分のデスクで30分以上も、気が抜けたようにボーッとしていた。
――ああ、また課長に怒られたよ。
  主任として、しっかり仕事をしろ、って・・。
  みんなが聞いている職場で、罵倒されてさ。
  あの課長は、瞬間湯沸器で、突然、爆発するんだ。
  確かに、部下のミスは主任が責任を取る。
  いつも言われるから、肝に銘じているよ。
  でも、僕だって忙しいから、見逃すことだってあるんだ。
 皆が退席して、オフィスがガランとしてきて、誠也はふと何気にフワァッと立ち上がった。
 それから、ビルを出ても、悄然としてトボトボとあてどもなく歩いていた。
 誠也は、あの鬼の形相が、ずっと頭から離れなかった。
――経理は数字が命、そんなのは判ってるよ。
  でも、新人のあの子が、余計なデータを投入したんだ。
  ああ、アウトプットをチェックすれば、ミスだと判ったのにな。
 今回の出来事は、月次の決算書が出来上がったので、課長のPCに送って、決裁を仰ぐ、その資料にミスがあったのだ。
 東京から乗った電車の中でも、その怒られた事だけが、頭に克明にこびり付いていた。
――ああ・・、オレは主任としてはダメだな。
  会社なんか辞めたいよ。
  でもさ。格別な特技も資格もないから、転職なんて出来ないよ。
  サラリーマンは、上司を選ぶことも、拒否することも出来ないんだ。
  でも、いくらなんでも、あの罵倒の仕方はな・・。
 
 誠也は、丸の内のオフィスを出てから、9時に藤沢駅に着いた。
 改札に向かう人混みの中で、ふと駅の時計を見て、驚いた。
――エッ、もうこんな時間なの・・。
  電車の1時間を引いても、あとの2時間は、なにをしていたんだ。
  エッ、思い出せないよ。
 藤沢駅の改札を抜けた時、向かい側から来た女子高生に、ぶつかってしまった。
 相手の二人は話しながら来たし、誠也は俯いて歩いていたから、行き交う人混みでは良くあることだった。
――アッ、そうだ。
  もしかして、会社を出てから日比谷公園に・・。
  そうだよ。夕暮れが、いつの間にか夜になっても、
  オレは、暗くて細い道を歩き廻っていた、かも・・。
  そう、気がついたら、有楽町のガードに電車が見えたんだ。
 誠也は、なぜ、あんな場所をほっつき廻ったのか、判らなかった。
――あの時、なにか救いを求めていたのかな。
  それとも、あんな課長や、あんな仕事から、逃げたかったのかな。
   そんなことを、自分に問いかけていたのかな。
 そして、あの課長の鬼の形相が、まだ頭に張り付いていて、気分が滅入っていた。
 だから、もうヤケ酒を飲む気分になっていた。
 
 誠也は、時々来るスナック≪ライム≫に入った。
 ここには、高校の同級生と飲んだ時に、二次会で連れてこられた店だった。
 だが、ママが美人で愛想が良かったから、親近感がわいていたのだ。

 見ている感じでは、どうも自分の息子と同年代だから、子供と接するように優しいのだと思った。
 
 誠也が店に入ると、カウンターに席がひとつだけ空いていた。
 左の隣りには、時々話をしたことがある華代がいたので、ボソッと「失礼します」と声を掛けて座った。
 華代はOLで、もう三十路の大先輩だったが、独身だと聞いていた。
 ママが笑顔で「いらっしゃい」と迎えたが、誠也は黙って会釈をしただけだった。
 そして、作ってくれた水割りを、独り黙々と飲み始めた。
 だが、やっぱり頭の中には、、顔を青ざめて罵倒した青鬼の顔が、しっかりと浮かんでいたのだ。
――アアー、アンチクショー、アッタマキタナー。
 誠也は、もう腹の底から絶叫したい心境だった。
 グラスを引き寄せると、一気にグイグイと飲み干した。
 そして、一息つくと、マイボトルを掴んで自分で水割りを作ろうとした。
 すると、隣でさり気なく様子を窺っていた華代が、ボトルを掴んで「あなた、今日はどうしたの」と咎めた。
「あなた、会社でなにか事件が、あったんでしょ」
 華代は、誠也の仏頂面を見て、直感でズバリと指摘した。
「まぁ、今日は酔っ払って、忘れることよね」
 華代は、水割りを作りながら、まるで兄貴分のような気安い口振りで、サラリと言った。
 そして、誠也は、新しい水割りを会釈して受け取ると、また一気に半分も飲んでしまった。
 それからは、向かいにあるボトル棚をじっと見つめたまま、黙然としている。
 
「宮内さん、それも飲んで・・。また作るから」
 誠也は、思わぬことを言われて、振り向くと華代をジッと見ている。
 やおら、グラスを掴むと、残りの水割りを一気に飲んだ。
「それでも、私が今日飲んだ量には、まだ及ばないわ」
 華代は、また水割りを作りながら、平然として挑発していった。
 そして、三杯目が出来たところで、二人は軽くグラスを合わせた。
 だが、華代は、相変わらずブスッとしている誠也を見て、思わずプッと出すと吹き出すと、口に手を当てて笑い出した。
 そのいかにも可笑しそうな笑いに釣られて、誠也も照れ笑いを浮かべていた。
「そら、頑張って・・」
 華代は、軽く背中を叩きながら、エールを送ってやった。
そんな華代の優しい気配りに、誠也は内心、ホロッと来たが、あえて毅然として前を向いていた。
――オレは、男だから、弱気は見せないよ。
  でも、この人、案外と優しいんだな。見直したよ。
  いつもは、ツンと澄ましているのに・・。
 誠也は、華代に声を掛けられて、気を取られているうちに、あの忌まわしい青鬼のことは忘れていった。
 
「さぁ、宮内さん、恋の言葉遊びをしましょう」
「エッ、どういうことですか」
「あなたは独身、私も独身、では・・、あなたの場合、なぜ独身なのでしょう」
 誠也は、一気に濃い水割りを飲んだから、顔が火照っていたし、頭の中で脳ミソが狂い始めていた。
「そうだな。僕は女性に縁がなかったし、モテなかったです。アッ、いや、ただ遠くから見ているだけだった」
「アプローチもしなかったの・・」
 言われて見れば、確かに『お付き合いを』なんて、言ったことはなかった。
「僕はミーハーやオバカな女はダメなんです。逆にインテリ過ぎるのもダメ。まぁ、中のレベルで控え目な人かな・・」
「では、私はOKね」
「アッ、いやぁ、アナタみたいに、出来がよくて、頭が切れる人も苦手だな」
「アラ、立候補しようと思ったのに・・」
「ウソ・・、冗談でしょ」
 見ると、華代は、尖った鼻をツンと突き出して、満足そうに微笑んでいた。
 
「華代さん、愛ってなんですか」
「エッ・・、ウーン、曖昧で判らないよ」
 たわいのない言葉遊びをしていたら、いきなり直球を投げ込まれて、華代は戸惑った。
 誠也は、華代が自分より年上だとは判っていたが、どんな人物でなにをしている女なのか、なにも知らなかった。
「私、母の愛情は感じたけど、男性との愛は、ないな。ただし、友情を感じたことはあるよ」
「では、男性との恋愛経験は・・」
「中学の頃は片思いだったけど、でも、高校では、友達感覚からいきなりエッチだったでしょ」
「エッ、そうなんですか」
「そうよ。だから、恋愛感情を意識したことはなかったな」
――ああ、宮ちゃんは今、恋に落ちてるのかも・・。
  だから、迂闊に応えてはいけないよね。
  そう、頭が良さそうな坊やで、可愛いからね。
華代は、真面目な誠也には、正直に応えるべきだと思った。
「でも、華さん、僕は華さんが好きですよ」
「アラー、嬉しいな。でも、年上のお姉さんよ」
「ええ、それは判ってます。だから、女性として完成されてる、って、見えるんです」
「そうかな。私はまだ未熟者よ。だって、自分勝手だもん」
――フーン、そうかも・・。プライドが高そう。
  でも、ミステリアスで、興味が湧くな。
 誠也は、酒に酔っていたし、恋愛の話で、もう課長に罵倒されたことは忘れていた。
 
 次の日のことだった。
 仕事が終わって、定時にオフィスを出てから、エレベーターに乗ろうとした時だった。
 背中越しに「宮内さん」と声を掛けられて、振り向いたら、そこに近藤奈保子がいた。
「おお、奈保ちゃんか、元気してる」
「ええ、ご覧の通り元気ですよ」
 二人は入社が同期で、時々飲み会で顔を合わせると、なんとなく気が合う仲だった。
 奈保子は、入社の直前に、学生時代からの彼と結婚していた。
 だが、3年目の梅雨時に、娘がいながら離婚したのだ。どうも実家に戻って、子供は母親に任せているようだ。
「どうですか。軽く一杯」
「おお、いいね。でも、どうせ飲むなら、横浜の方がいいな」
 奈保子は、横浜から相鉄線だったから、これまでも何度か、横浜の西口で飲むことがあった。
 
 東京駅から東海道線の電車に乗ると、車内は混んでいたから、二人はドアの前に立った。
「宮内さん、あの課長、また怒鳴ったそうですね」
「ああ、昨日ね。でも、地獄耳で、情報が早いな」
 近藤は総務課だったから、宮内の経理課とはオフィスが違っているのにと、宮内は不思議に思った。
「いえ、昨日のお昼には、もうその話で持ちっきりでしたよ」
 社員食堂でお昼ご飯を食べながら、女性たちの間で話題になったのだろう。
「まぁ、僕のミスだから・・」
「それにしても、あの罵倒は酷い、って、皆さん、同情的でしたよ」
 宮内は、もう終わったことだから、その話はしたくなかった。
 だが近藤は、仲のいい同期生として、慰めてやりたかったのだ。
 実は、昨日のうちにと思って、定時後にそっとオフィスを覗くと、宮内が独りポツンとしているのが見えて、気後れしてしまった。
 近藤は、あまり追求してはと、さり気なく視線を車窓の景色に移した。
「原因は、チョッとした不注意で、ミスを見逃したんだけど・・」
 気落ちした宮内は、独り言のようにボソッと言った。
「でもさ・・、決算書だから、会社の命取りになるから、仕方がないよな」
 本当の原因は、部下の女の子が、もう2年もやっているのに、データの処理を間違えたのだ。
 だが、宮内はその事実を誰にも言わなかったし、本人にも咎めなかった。
 あの時は他の案件で忙しかったのだが、宮内はひたすら自分のチェック漏れだと、自分に言い聞かせていた。
 
 横浜に着いて、駅の西口に近い居酒屋に入ると、直ぐにビールの中ジョッキーを注文した。
 奈保子は、宮内がそんなに落ち込んでいないのを見て、内心、安堵していた。
「宮内さん、こうして二人で飲むのって、半年ぶりですね」
「そうだな。この前は、三月だったっけ・・」
 同期生5人の飲み会を神田でやって、その帰りに、JRの横浜方面の2人だけで二次会をやったのだ。
 ジョッキが運ばれて来て、二人は乾杯すると、美穂子が問いかけた。
「ところで、宮内さん、その後、いい人、見つかりましたか」
「いやぁ、そんな気が起きないんだよな。藤沢のスナックの客で、仕事が出来る女性がいるけど、年上だし・・」
「アラ、年上はダメですか」
「まぁ、命令はないだろうけど、甘えるのが下手だし、イヤだからね」
「宮さんは、独立自尊ですものね」
 奈保子は、宮内が本質的にいい人柄だし、他人には見せない自分流のプライドを持っているのを知っていた。
 だから、今回のミスも、部下の責任だと言い逃れをしなかった、その自負が素晴らしいと思ったのだ。
――そうよ、この人、見た目以上にハートは高潔なのよ。
  私は、その本心が判るから、尊敬しちゃうな。
  元亭のあの男より、よっぽど芯があるのよ。
  この人なら、一生、着いて行かれるよ。
  だって、もし再婚するなら、この人よ。
  私は、勝手そう決めてるの・・。
  でも、こんな気持、判ってはくれないよね。
 奈保子は、ミスで落ち込んだ宮内を激励するつもりだったが、内心では、それ以上に、一緒にいたいという動機があった。
 
 奈保子は、思い出したようにジョッキを掴むと、飲みっぷりも絶好調で、残りも少なくなった。
「あっ、ビール、お替りしていい」
「ああ、どうぞ。割り勘だし・・。オレも追加だな」
 誠也は、手を挙げると店員を呼んで、ビールを追加した。
「アッ、そうだ。今年の秋にも、また同期でゴルフしようよ」
「おお、そうだな。前回の湘南シーサイドは、楽しかったな」
――まぁ、親と同居だから、余裕があるのか。
  しかし、なにか押してくる感じだな。
  でも、この美穂子とは、個人的な付き合いはしないよ。
  だって、お嬢様育ちで、チョッと我が儘で、
  そう、かなりマイペースなんだもの・・。
「私ね、娘が小学生になって、手が掛らなくなったけど、それでも結構忙しいの・・。だから、今日みたいに、時には息抜きがしたいのよ」
「フーン、色々と大変なんだろうな。まぁ、気持は判るよ」
「宮さんは、ゴルフの練習に行ってるの・・」
「いや、全然」
「私は、月1ぐらいで行ってるよ」
 
 追加のジョッキが届いて、二人はまた乾杯した。
――でも、奈保子、大丈夫かな。
  前回の二次会では、かなり絡みつかれたからな。
  すごく酔っ払ってさ。腕で支えてやっても、千鳥足で・・。
  駅前でいきなり抱きつかれて、プチュッとされたんだ。
  あの時は、面食らったな。初めてだったし・・。
  女の方が、ずっと大胆だよ。
  既婚者だから、気安いのかな。
  それにしても、本人は、あの出来事を覚えていないんでは・・。
 だがあれは、奈保子からすれば、単に酔った上での軽い出来事だった。
結婚したことがある奈保子にとっては、セックスは日常茶飯事であり、我が娘と軽く挨拶代わりのチューをするのと、同じことだった。
 だが同時に、女性は、嫌な男には絶対にしないことも、誠也には判っていなかった。
 
「宮さん、私、江の島に行ったことがないの・・。今度、一緒に行きたいな」
「ああ、今度ね」
 宮内は一瞬、言い澱んだが、酒を飲んだ勢いで、軽く応えてしまった。
「まぁ、僕の庭みたいなところだから、いいよ」
「ワァーッ、嬉しい。娘を連れて行ってもいい・・」
「ああ、全然、OKだよ・・」
 誠也はサラッとそう言ったが、内心では、デートだけでも面倒なのに、コブ付きだとイヤだなと思った。
 そして、それ以上に、休日に自分の時間を取られるのが嫌だった。
 実は、母が心臓が弱くて、スーパーに一週間分の買い出しをしなければならなかったのだ。
 しかも、調理の助言をもらいながら、おかずの作り置きもしておくのだが、その母との時間が誠也には楽しみだった。
 母と息子がお互いに冗談を言い合い、笑いを交えて食事を作る。それは、まるで母とままごとをしているようで、誠也は素直に童心に帰れた。
 誠也の父親はガンでもう他界していたから、間もなく70才になる母と、そんな愛情に満ち溢れた二人暮らしをしていたのだ。
 誠也が結婚に興味がないのは、実は、母との生活の中に他人を入れたくないという、そんな心理が働いていた。
 
「宮さん、次は焼酎のお湯割りがいいな」
「ああ、どうぞ・・。でも大丈夫なの・・」
 見れば、いつの間にか2杯目のジョッキは、もう残っていなかった。
 奈保子は、店員を呼ぶと自分で注文をした。
「私ね、こういう機会がないと飲めないの」
「でも、前回はベロベロだったよ。ちゃんと家に帰れたの・・」
「ええ、アッ、そうそう・・。宮さんとお別れのチューをしたら、アラ、ヤバイって気がついて、正気に戻ったの・・」
「おお、あの強引なブチュを、覚えてるんだ」
「ええ、お恥ずかしい限りで・・。失礼しました」
「そうだよ。こんな童貞君に・・」
 その言葉に、エッと反応した奈保子は、キッとして、上から目線でジッと見ている。
「オーイ、そんな軽蔑した目で見るなよ」
 二人は同期生のよしみで気軽に会話をしていたが、突如お互いに気まずくなって、黙ってしまった。
 奈保子は、テーブルに置かれた焼酎をググーッと飲むしかなかった。
――ああ、オレは余計なことを言ってしまったな。
  でも、これは事実だし、これで奈保子からは敬遠されるよ。
  そう、恋愛ごっこは面倒だから、もう放っておいてよ。
 もう黙り込んでしまったこの二人、その自我が求める願望は、実はすれ違っていたのだ。
 だが、その願望の実態は、お互いに知らなかったのである。
 そして、しばらくして、二人は居酒屋を出ると、そのまま別れてしまった。
 
                     ― つづく 

 





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