2019年8月29(木) 00:00時 更新 ○我が家のベランダ・ガーデン○ 今回は、この夏の真っ盛りに花や実をつける3品を、紹介します。 ≪写真・左・・姫・アサガオ≫ 皆さんご存知の≪朝顔≫で、確か≪江戸絞り≫の銘がありました。 これは、妻が購入した種の袋に、2粒、残っていたのを撒いたものです。 種を撒くのは遅れましたが、ツルは元気に2メートル以上にも伸びて、順次花を咲かせています。 ≪写真・中・・峨眉山イヌビワ≫ 峨眉山とは、中国・四川省にある霊峰です。 イヌビワは、実はクワ科イチジク属です。 見た目はビワに似ていますが、食べると味も食感もイチジクです。 しかも、美味しくないそうで、そのため名前に≪イヌ≫がついたようです。 ただし、普通の≪イヌビワ≫は、日本の山野にも自然と生えているそうです。 ≪写真、右・・姫・サルスベリ≫ これは姫性・矮性の≪百日紅≫で、葉の長さが1センチもなくて、密生しており、しかもこの花の塊が3センチにもなりません。 そのため、小品盆栽に適していて、数年の若い木でも、直ぐに花を咲かせるので、珍重されています。 しかも、≪百日紅≫は名前の文字通り、真夏の暑い日でも百日間にもわたって、次々と別の枝先に花を咲かせるので、楽しめます。 [男と女の風景・149] ☆ はぐれ鳥の巣箱 ☆ 神島は、週末の金曜日になると、いつもこのバー≪ピットイン≫にやって来る。 勤務先は東京なのだが、飲み会で深夜の遅くに藤沢に着いても、この店には必ず立ち寄るのだ。 その日、神島が9時過ぎに着くと、亀田がにこやかに出迎えて、挨拶代わりの握手を求めてきた。 「先輩、お待ちしてました」 亀田とは、この店で飲み友達になってから、隣同士でバカな冗談を言い合う相棒みたいな存在だった。 だが、名刺交換はしていなかったから、お互いに昼間の顔は知らなかった。 ただ、神島は、自分がサラリーマンで、定年が63才まで延長されているとは言った。しかし、それが常務取締役としての定年だからとは、言ってなかった。 そして、亀田は、「間もなく僕も定年ですよ。その先は、どうなることやら」と言ったが、実は、子会社への天下りが既に決まっていた。 しかし、二人には、酒場で一緒に飲めれば、公私共にどうでもよい事だった。 バイトの香澄が、手慣れた手つきで水割りを作っていると、神島が定番の言葉をかけた。 「本日もまた、ハイオクのガソリンを入れに、ピットインです」 神山が店の名前と引っ掛けた決まり文句に、香澄は可笑しそうにニコッと笑った。 それは毎度のことで、聞き慣れたとはいえ、あえてそう言う大人の駄洒落が、微笑ましい戯言に聞こえたのだ。 それから、亀田と乾杯すると、お互いの表情に元気な様子を見ていた。 すると亀田が、酔いに任せて、香澄に声を掛けた。 「君は可愛いね。僕の娘みたいだよ」 「オーイ、亀さん、君は独身だろ。娘はいないよね」 「いや、先輩、親子ぐらいの関係だね、って、言ってるんです」 「でも、本当の親だったらさ、こんな危ない客が来る店では、働かせないよ」 「ワァーオ、そうですよね」 亀田が、大袈裟に驚いているのを見て、香澄は吹き出した。 「そうですよね。こんな可愛い子を、酔っぱらいの餌食にはさせないですよ」 「だろぅ。でもね、飲んだら、年の差なんか関係ないんだ。単なる男と女だよ」 「エエッ、その方がヤバイですよ」 「なにを言ってるの。香澄はもう、立派な大人だよ」 神島が、マジな顔で言うと、香澄があえて悪戯っぽく覗き込んできた。 「香澄はね、我々を見て、いい男か、悪い男かなんて、もう見極めてるんだよ」 「いえ、ムリ、ムリ・・、それはムリですよ。だって私、未熟者ですから・・」 「なにを言ってるの、バージンではないでしょ」 「ええ・・、まぁ・・」 「それでは、さぁて、どう見極めてるかだ」 「あっ、はい・・」 香澄は、そう応えたっきり、目をキョロキョロと動かして、二人を見比べると考え込んでしまった。 「ええ、お二人とも素敵な紳士ですし、その朗らかで軽妙な会話が、とってもオシャレなんです」 「おお、香澄ちゃん、美しい褒め言葉で纏めるよね。さすがに大人だよ」 「イャーァ、ダメですよ」 「まぁいいよ。僕は既婚者だし、還暦のジジイだから、どう評価されようとね。でも、亀田君、頑張れよな。君には、挑戦権があるんだ」 「ワァーオ、ですね」 二人は共に、こんなバカな会話が出来るからこそ、いい酒だと感じていた。 そんな楽しいバカ者同志の酒を飲んでいると、もう11時を回っていた。 神島が、「それでは、ぼちぼち帰るかな」と呟くと、「先輩、もう一軒、付き合って下さい」と亀田が言い出した。 「ウーン、明日は土曜で休みだから、まぁ、いいか」 神島は、もう酔ってはいたが、そう言われると、このノリのいい流れだから断れないなと諦めた それから連れて行かれたのは、以前にも一度来たことがあるカウンター・バーの≪アリス≫だった。 客が10人も座れる長いカウンターの店で、若い女の子が4人もいて、白いブラウスが清楚で華やかさを感じさせた。 カウンターの席に座るなり、亀田が目の前に立つ女の子を紹介した。 「先輩、この理香子さん、どうですか」 「うん、可愛いね」 少し丸ぽちゃで愛嬌のある顔が、にこやかにほほ笑んでいる。 「覚えてますか」 「ウーン。顔には見覚えがあるけど、何年か前だよね」 「いいえ、わずか3か月前ですよ」 「エッ、そうか・・」 理香子は、少し戸惑ったようにジッと見ている。 「でも、酔っ払っていたからな。それで、なにを話したっけ・・」 「アラ、素敵なレディだって、褒めてくれましたよ」 理香子は、腰に手を当ててあえてポーズをとると、流し目を送ってきた。 「イヤァ、僕は多分、その大きな目が愛くるしい、って、言ったんでは・・。だって野性味が溢れていて、個性的だから・・」 「ああ、そう、そうでしたね」 それまで理香子は、適当に応えていたが、具体的に言われて、改めて思い出した。 理香子は、ハーフのような顔つきで、大きな目がクリッとしていて、目尻が切れ上がっているのだ。 「でも、本当に嬉しい時は、その目を細めてね、独り噛みしめるように微笑むんだ。しかし、陽気にアッケラカンと笑う時は、単に調子を合わせているだけでね」 「ああ、そうも言われましたよね。ええ、確かに・・」 「亀さん、女の子はね、ありふれた言葉で褒めても、ダメなんだ。プライドの高い子は、そんなの当然よ、って、軽く聞き流すんだ・・」 「ああ、平凡な褒め方はダメですか」 亀田は、神島を見詰めたまま、妙に納得した顔で頷いている。 「特に、O型の女性は、具体的に褒めないと・・。でも、この理香さんは、確かB型だったよね」 「ああ、よく覚えてましたね」 「そう、少しずつ思い出してきたよ」 そんな話をしていると、アシストの子が水割りを作ってくれて、乾杯した。 「先輩、この子、いい子でしょ」 「うん、そうだね。多分、心根が優しくって、性格がいいと思うよ」 だが、神島はそう応えながらも、亀田がなぜか、理香子を売り込もうとしているのを、感じた。 ――確か、前回来た時、バツ1、コブ1って、聞いたけどな。 それなのに、なぜ、オレに・・。 「先輩、理香ちゃんが、あの紳士に会いたいなって、何度も言うもんですから、今日、やっとお連れして・・」 「アラ、恥ずかしいです」 「エッ、こんな野暮なご老体に、ですか」 神島には、二人の言ってる意図が見えなかった。 「先輩、この子にアプローチするには、どうしたらいいんでしょう」 「なにを言ってるの・・。B型の女性は、もう腹の中で決めてるんだよ」 「エッ、それって・・」 「特にこの世界ではね、B型の女は、客を見て、私的に付き合ってもいいか、イヤか、もう決めてるんだ。顔や態度には出さないけどね」 「ほぅ・・」 「だから、もしNOと判定されたら、どんなにアプローチしても、NOはNOなんだ」 「ああ、そうなんですか」 ――そうだよ。B型は、興味が湧かないと、普通に対応するんだ。 だから、B型を口説いても、判定するのはBの方だから、 NOと判定されていたら、無駄な努力なんだ。 そう、YESだったら、女からアプローチしてくるよ。 エッ、そうなら、オレがターゲットなの・・。 ウソだろぅ・・。こんな年寄りを・・。 神島は、長年の間、この世界で飲んできて、自分なりに女性のキャラクターを観察し、分析して、それなりの持論を固めていた。 ――オーイ、オレには女房、子供がいるんだぞ。 ちょんの間の浮気なら、遊びでもいいけど・・。 でもな、オレは楽しく酔っ払えれば、それでいいんだ。 「オーイ、後輩、業務命令でカラオケだ」 サラリーマンは、この業務命令に逆らえないのを共通認識にしていたから、亀田はしっとりとした演歌を入れた。 こんな時に亀田が歌う定番が、≪お袋さん≫だった。 そして、亀田は歌いながら、徐々に盛り上がってきて、やがてサビの部分で感極まると、声が震えて涙を浮かべるのだ。 神島は、そんな亀田の様子を何度か見てきた。 そして、亀田が歌い始めると、神島は小声で理香子に聞いた。 「確か、前回来た時、バツ1、コブ1って、聞いたけど・・」 「ええ・・」 「確か、娘さんだって・・」 「ええ・・、でも、パパがいいって・・。それで私、今は一人暮らしでして・・」 ――ああ、寂しい女なんだ・・。 そう、ふとした時に、寂しさを痛いほどに感じて、 きっと、ポロッと涙を流すんだろう・・。 なんで離婚したのかなんて、その原因はどうでもいいよ。 だって、離婚は、喧嘩両成敗で。どっちも半分は悪いんだから・・。 そう、どっちも主張して、どっちも聞く耳を持ってないんだから・・。 でも、日々の中で、虚しさを感じてるんだろうな。 だから、藁をも掴む思いで、なにかを求めているのかも・・。 でも、オレはなにもしてやれないよ。 それって、プライベートな領域だから・・。 ああ、理香よ、それは自分の孤独との戦いなんだぞ。 遊びで浮気をしても、後で切なさが残るだけだ。 自分を騙し切れないからな。 でもさぁ、そうとしか生きられないのかも・・。 ああ、はぐれ鳥の理香子よ、オレの巣箱で束の間の休息を・・。 なぁんて・・、カッコつけてもな・・。 情感を込めて歌う亀田が、感極まっていく歌を聞きながら、神島も魂が身震いさせられる思いがした。 ――ああ、バカだよな。 人間は、感情の動物だからさ。 こんなしんみりとした情緒の演出に、さ・・、 胸が揺さぶられて、泪が湧き出て来るんだ。 ああ、みんな、誰しも寂しいんだよな・・。 ふと見ると、歌い終わった亀田が、カウンターにマイクを置くと、目尻の泪を指でそっと拭っている。 そして、理香子はオシボリを目頭に当てていた。 ――ああ、いい大人が・・、見るに堪えない光景だな。 亀田はいまだに独身だけど、3年前に母を亡くしたって・・。 昔の演歌だった≪母を慕いて≫、そのままかもな・・。 亀田よ、泣け、泣いていいぞ。 神島は、そんな二人の様子を目の隅で感じながら、黙って前を向いたまま、独り水割りを飲んでいた。 「君たち、二人は、付き合ってないの・・」 やおら神島は、核心を突いた話を、さり気なくだが、単刀直入に聞いた。 「いやぁ、先輩、月に何度かは、朝まで飲んでる飲み友達ですよ」 「おお、いいね」 ――これは、とぼけてるのか、事実なのか・・。 それにしても、なんで理香子を、オレに売り込むんだ。 そう言えば、この亀田からメールが来たな。 ≪先輩を酒のツマミにして、理香子と朝まで飲みました≫って・・。 「それで、時には演歌で、ボロッとくるの・・」 「いいえ。亀田さんのこの演歌を聞くのは、初めてです。やっぱり先輩は、心の奥底を見ているんですね」 「いやいや、単なる業務命令だよ。選曲したのは、彼だから・・」 「でも、後輩を見る目が、とっても優しいんです」 ――この話だと、二人はまだ出来てないな。 多分、亀田には、アプローチする勇気がないんだ。 でも、寂しい者同士で慰め合ってるから、それでいいのかも。 二人には、身の回りに家族がいないから、朝帰りが許されるし・・。 「私、本当に心から優しい人を、求めているんです」 「そうか。なるほど・・」 「ええ、父も夫も優しいんですが、厳しかったんです」 ――ああ、それって、男なら仕方がないんだよ。 競争社会を勝ち抜くにはね。 でも、この女、 甘えたくても甘えられなかった、そんな甘えん坊なのかも・・。 理香子は、俯いて浮かぬ顔をしていた。 「でもね、みんな厳しい世界を勝ち抜いてきたんだ。特に、自分には厳しくしてね。そうしないと、トップ・レベルには這い上がれないんだ」 「でも、子供心には遠い存在で、スキンシップがなかったんです」 「しかし、この亀さんは、心の底から優しいよ」 「いやぁ、僕なんてダメですよ」 「いやいや、心が広いから、包容力があるし・・」 「ええ、でも、どこかに距離感を感じるんです」 ――ああ、この男、やっぱり臆病なんだ。 女性恐怖症で、近寄っていく勇気がないんだろう。 それには、なにか原因があるだろうけど・・。 神島は、それがある種のマザコンだとは思ったが、黙って水割りに手を出して、味わうように飲んだ。 ――男と女って、微妙なんだよな。 お互いに、相手に求めるものが、微妙に違っているとダメなんだ。 特に、この歳にまでなるとね。 そうだとするなら、飲み友達の男と女でやればいいんだ。 理香子は、しばらくの間、無言で下を向いていたが、いきなり神島を泪目で見ると、意を決したように言った。 「先輩、私、ハグだけでも、して欲しいんです」 「ああ、いいですよ。でも・・、この店を出る時にね」 ――この女の過去に、なにがあったかは知らない。 でも、この四十路半ばの大人の女が、未だに引き摺っているもの、 その正体を知りたいな。 すると、理香子は、自分の残った水割りを一気に飲み干した。 そして、やおらボトルを掴むと、自分で濃い目の水割りを作りだした。 それから理香子は、神島を睨みつけるように見つめると、なんと、天を仰いで一気に煽ったのだ。 そんな、マジにヤケになった理香子を、二人の男たちは、ただ呆気にとられて見ていた。 「神島さん、お願いがあります」 理香子は、一歩、下がると、一礼をした。 「私、添い寝でいいですから、ベッドで優しく抱いて欲しいんです」 「エッ・・」 理香子は、酒の勢いを借りたが、勇気を振り絞って、あらぬことを言ってのけた。 神島は、その大胆さに驚いたが、内心では冷静に見ていた。 「そうか・・、判ったよ。添い寝だけをね。ああ、いいですよ」 すると、その返事を聞いて、理香子は込み上げる思いが極まったのか、涙をボロボロッとこぼした。 ――ああ、こんな人畜無害の老いぼれとは言え、甘えたいなんて・・。 子供の頃から、よっぼど父親の温もりを、渇望してきたんだな。 そう、父親に抱いてもらう夢を、ずっと見続けてきたのかも・・。 こんな老体が、癒しになるんなら、両手を広げて受け止めてやるよ。 ― おしまい ― ≪筆者後記≫ 読者の皆さん、私は、もう150編もの≪男と女の風景≫を書いてきました。 実は、もうネタ切れで、今回は、仕方なくムリムリに書き出しましたが、やむを得なくなって、こんな最後で締めました。 この作品は、予想外の展開や起伏のない駄作で、申し訳ありません。 ええ、これは、ありそうで、なさそうで・・、でも、よくある、そんな妄想の産物です。 でも、この作品を書き終わった今、こんな男と女の機微に触れた風景をずっと書いてきて、その20年前の出発点に戻ったのかなと、改めて思いました。 なぜか、この節目を迎えるに当たって、この駄作で、原点に回帰したように感じているのです。 おそらく、この作品で、私のブログは今週、アクセス件数が10万件を突破することでしょう。 本当に、有難いことです。 初期の頃は、アクセスが一日に一件という日もありました。 でも、嬉しくって、PCの前で、両手を合わせて胸が熱くなったのを、今、思い出しました。 本当に、皆さんのアクセスに支えられて、私はここまで来れたのです。 今後とも、執筆が不可能となるまで頑張りますので、ご支援の程、お願いします。 橘川 嘉輝 拝 |