★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/08/15|その他
☆ カオスのはぐれ者 ☆ [男と女の風景・148]
 
                      2019年8月15(木) 00:00時 更新  
 
  我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回は、≪ホトトギス≫の3種を紹介します。
 最近は、園芸用に品種改良が盛んに行われているようで、園芸店に行くのも楽しくなりました。
 
  ≪写真・左・・ダルマ・ホトトギス
 ご覧のように、葉が丸くていかにもダルマです。
 最近手に入れたもので、未だ花は見ていません。
 
  ≪写真・中・・斑入り・ホトトギス
 これは、斑の入り方がシャープで、花は薄い紫色で、可憐です。
 
  ≪写真、右・・斑入り・ホトトギス

 これは、親株から切り取って、挿し芽で育てているものです
 これはかなり以前からあり、斑入りとしては改良が未熟かと思われます。
 

                     [男と女の風景・148]
                            ー つづき 3 ー
 ☆ カオスのはぐれ者 ☆
 
 それから、八月のお盆が明けた日に、真凛は、定刻より早く本社・企画部に出勤した。
 オフィスのドアを開けると、「おはようございます」と大きな声を出した。誰に向かってというよりは、新しい職場に挨拶をしたのだ。
 すると、窓際のデスクで亀田部長が、「おおい、ここだ」とにこやかに手を振ってくれた。
「アッ、部長、宜しくお願いします」
 すると部長は、企画1課長の西田を呼んで、紹介してくれた。
「今度、君の課に配属になる本庄真凛君だ。宜しく」
 真凛は、勝負の日には、いつも上下が黒のパンツルックで、バシッと決めていた。
 そして、長い髪を三つ編みで両サイドに編み込んでいて、キリットしたOL女子の容貌を見せていた。
 もう課内では、新人が転入する話は伝わっていたから、そのまま課員7名の朝礼で紹介された。
 皆は好奇の目で見ていたが、見た感じは仕事の出来そうな才女に見えたから、安心と羨望が交錯していた。
 
 そして、与えられたデスクは、実際に指導する中島主任の隣りだった。
 だが、右手には、仕事でコンビを組む小野田佳奈がいて、二人に挟まれることになった。
 見れば、中島は痩せた体型で、いかにもインテリで学者風の男だった。年齢は30才くらいで、真凛よりは5才も若かった。
 小野田も線が細い印象だが、知的な美人で、二十代の後半に見えた。
 真凛は、両隣の二人には、「ご指導を、宜しくお願いします」とさらに丁寧な挨拶をした。
「あのぅ、私はフリーの契約社員でしたから、オフィス勤務は初めてなんです」
「先輩、気になさらないで、私がなんでもアシストしますから」
「はい、有難うございます」
 小野田に先輩と言われて内心、アレッと思ったが、ここは低姿勢でと頭を下げた。
 初めてのOLで謙虚に振舞ったが、それ以上に、先日のビンタ以来、高慢な自分を痛切に反省もしていたのだ。
 
 そして、真凛が、先ず任された仕事は、アンケート調査によるマーケッティングだった。
 だが、それは真凛が頭脳明晰で、仕事が出来るスタッフとの、横浜支社長の売込みがあったからだ。
 普通なら、こんな高度の仕事は、直ぐには担当させてもらえないのだ。
 もう既に、調査結果の原始データが集計されていて、これから分析に入る段階だという。
 真凛は、アンケートの企画書や調査票など、当初からの資料を、主任から渡されて、よく勉強するようにと言われた。
 だが、資料を見ても、内容の要旨も全体像も見えなかった。
 どうしたものかと面食らっていると、隣から小野田が資料を丁寧に解説してくれた。
「ああ、データを読むって、こういうことですか。納得です」
 内容は難しくはないが、アプローチする手法が見えなかったのだ。
 
 テーマは、≪結婚と出産による家庭作り≫であり、その全国的な意識調査で、サンプル数は5,000件を超えていた。
 だが、広告会社が、こんな手法で対象者の実態調査をするなんて、初めて知ることだった。
「この原始データが、現代の日本社会を知る手がかりなんです。結婚観とか、核家族化の進み具合とか、社会変動のかなり深層を探れるんです」
 小野田は、この調査の企画段階から参加していたため、自信ありげに、淡々と説明をしてくれた。
 しかも、過去2回、2年ピッチで、この調査が実施されおり、その変化の推移や比較なども出来るとのこと。
 彼女が言うには、調査の目的は、データを様々に分析して、どんな特徴や特性があるのか、そのコメントを出すことだという。
 
 するとチャイムが鳴って、気がつけばランチタイムを知らせるものだった。
――ああ、あっという間だったね。
  根を詰めて仕事をすると、時間を忘れるよ。
  この没頭するのって、いいかも・・。
「本庄さん、ランチをご一緒に・・」
 小野田にそう誘われて、食堂に行くと、若くて溌剌とした社員たちがぞろぞろと集まってきた。
「ああ、あなた、若くていいですね」
「いえ、もう27ですよ」
「アラ、私、35ですよ。しかも独身で、寂しい毎日」
「でも、結婚すると、なにかと忙しくって、大変ですよね」
お互いになに気ない会話をしながら、個人情報を探っていたのだ。
小野田は持参した手弁当を食べ、真凛は食堂の野菜スープ付きのスパゲッティを頬張っていた。
 話を聞いていくうちに、小野田がさる国立大の社会科学を出ていて、この会社の先輩にアプローチされて、昨年、社内結婚をしたとのこと。
 真凛も、ある女子大の文学部心理学科を出たが、作家活動をしたいから、フリーのコピーライターをしていたと言った。
「ただ、今日の仕事は面白いし、熱中できるのがいい」とも言った。
 
 ランチの雑談を終えてデスクに戻ると、小野田が、原始データに検索キーを入れると、多様な分析が出来るという。
 それは、男女別、年代別、都道府県別、収入別とかのキーであり、その組み合わせも可能だという。
 そんな集計ソフトでデータ処理するのも、驚きだった。
 確かに結果の数値には違いがあるのだが、その数パーセントの差に意味があるのかどうか、その評価は難しいとのこと。
 そんな手順が判ると、真凛は次はなにが出るのかと、楽しみになって、検索キーを変えながら、ひたすら数字を追いかけ続けていた。
――ああ、これが本当の専門職かもな。
  でも、こんな統計処理が出来るなんて、世の中、進歩してるよね。
 そんな仕事に、真凛は、いつの間にか我を忘れて没入していた。
 気がつけば、職場にはもう誰もいなかったし、もう夜の7時を過ぎていた。
 
 それから、新橋駅に着くと、暑さもあって、無性にビールが飲みたくなった。
 自分に≪禁酒令≫を出したのは承知していたが、今日は初出勤の記念すべき日であり、特例の限定であればと、飲むことにした。
 見回すと、≪新橋ガード下横丁≫の看板が見えた。
 中に入ると、居酒屋が立ち並ぶ路地があって、見渡せば客席がオープンで境目を感じなかった。
 しかも、どのテーブルも満席で、スーツやワイシャツ姿のサラリーマン達で賑わっていた。
 きっと同じ職場の仲間なのだろう、屈託なくオダを挙げて、陽気に盛り上がっていた。
 真凛は、≪おばんざい家≫の看板を見て、覗き込むと満席のようだったが、カウンターに1席あるようで、店員が手招きをしてくれた。
 先ずは、ビールをジョッキで頼み、京だしのおでんと豚の角煮を注文した。
 
 そして、出されたジョッキを小さく掲げて一人乾杯をすると、一気にかなり飲んだ。
 キンキンに冷えたビールがノドを抜ける時、その突き刺す刺激に、真凛は思わず目を剥いた。
――ああ、美味しいね。最高だよ。
  そう、今日は、充実した一日だったね。
  無我夢中で没頭したのは、大学の受験以来だよ。
  ああ、これが、本当の仕事なのかも・・。
  私のこれまでは、ぬるま湯だったな。
  でも、思えば、人生の転機は、あのビンタだったよね。
  あれで、高慢な鼻をへし折られて、目が覚めたんだ。
  茂木さんに、感謝だよ。
  でも、今にして思えば、カッコ良かったよね。
 真凛は、本社出勤の初日の夜に、そんなことを感じながら、お通しの湯葉を摘まんでいた。
――でも、都会のど真ん中、それなのに場末の居酒屋、
  しかも満席の中で、一人ポツンとしてビールを飲んでる。
  こんな独り酒の女・・、カッコいいかもね。
  誰かが写真で切り取ったら、一生の思い出だろうな。
 真凛は、こんな猥雑な状況の中で、女が独り飲んでいる風景を思い描いていた。
――そうよ。掃き溜めに鶴、って、感じかな・・。
そして、満足気に遠くを見ながらニコッとすると、独りテレたように肩をすぼめた。
――アッ、アナタ、ヤバイよ。
  また独善のナルシズムが、ヌーッと顔を出してる。
  そうか。この高慢な唯我独尊、勝手な思い込みがね。
  ああ、本当に、ヤバイかも・・。
  困ったな。こんな自分のキャラは、もう直らないのかな。
  アッ、でも・・、自分の汚点も濁点も、
  そして、鼻タカなオゴリや慢心も、人前に出さなけれは・・。
  そう、自分だけのプライドとして、仕舞っておくのよ。
  そうよ。アナタ、出そうになったら、グッと抑えるの・・。
 真凛は、なに気なく考えていたが、人の中で生きる知恵を、ひとつを授かったような気がした。
――ああ、お酒って、少し酔って来ると、頭を正常にしてくれるのね。
  そう、特に独り酒はね。
 真凛は、残ったビールを飲み干すと、もう一杯追加した。
 
 そして、おでんの煮卵や大根を摘まみながら、ふとオフィスで見た亀田部長や西田課長、中島主任、さらには小野田の顔が浮かんだ。
――アッ、会社の組織って、ひとつの世界なのよ。
  だから、会社の目標に向かって、全社員が突進するの・・。
  でも,私みたいにカオスを漂う者には、
  共通の目標はないし、共通のルールもないのよ。
  そうか。だから≪はぐれ者≫なんだ。
  でも、あの仕事、面白そうだから、私の居場所になるかも・・。
  ただし、仕事は給料を貰うんだから、一所懸命にね。
  でも、いつか最後は、創作活動をしたいのよ。
  だったら、仮の居場所だとして、どう・・。
 真凛は少し酔い始めた頭で、自分の立ち位置を考えていた。
 
 それから、二杯目を飲み終わる頃、ウトウトッとして、ハッと目が覚めた。
――ああ、疲れてるのかな。
  デスクに座りっぱなしで、データと睨めっこだったから・・。
  そうよ。真凛、明日も出勤だからね。
  そうか。生活のスタイルを変えないとね。
 そんなことを考えると、どっと疲れが湧き上がるようで、げんなりとしてしまった。
 だが、自分を奮い立たせると、新橋から電車で立ったまま藤沢に帰ってきた。
 そして、自宅へ帰るとそのまま眠りについた。
 
 そして、次の日も出勤すると、真凛はズッとデータと睨めっこをしていた。
 結婚の適齢期を、本人希望と実際の結婚年齢とのギャツフを見て、さらに地域別の差異を分析した。
――ああ、面白いね。飽きないよ。
 この基本に立ち返った調査こそが、当社の基盤であり、強みかも・・。
 やっぱり本社の中枢は、こんな頭脳で成り立ってるのかな。
 これはまだ、ほんの一端だろうが、そのレベルの違いに驚嘆していたし、そんな一員であることが嬉しかった。
 そしてランチ時に、また小野田と並ぶと、思わず言ってしまった。
「あなた、すごい仕事をしてるんですね」
「いえいえ、私は、まだ駆け出しですから・・」
「でも、データの分析って、面白いですね。日頃は気がつかないことを、客観的な数字で示すんですから。アナログ人間には、全くの別世界ですよ」
 小野田は、そう言われて嬉しそうに、謎めいた笑みを浮かべている。
 真凛が二日目にして、この仕事に興味を持ってくれたのが、とっても嬉しかったのだ。
 
 そして、午後からは、地域別の所得の水準と、物価の指数との比較をした。
 そこに、生活の満足度を加味して、その相関関係を示すデータがアウトプットされた。
 だが真凛は、それをどう評価するかという、経験値がなかった。
 小野田にそのデータを示して意見を聞くと、先ず、そう言う切り口で分析する問題意識が素晴らしいと褒められた。
 しかも、その関係指数は、かなり相関があるとのことだった。
 真凛は、淡々とした顔で解説する小野田に、尊敬の眼差しを送っていた。
――ああ、すごい実力だね。
  これで、経験5年でしょ。
  ああ、早く追いつきたいな。
 それから、分析結果を各人が発表する会議があると聞かされて。真凛は焦ったが、とにかく纏めることにした。
 そして,次の日もデータに埋もれながら、1日を過ごした。
 さらに金曜日には、残業をしてまで、レポートの作成に取り組んでいた。
 
 あれから、5日後の月曜日に、梅沢常務を筆頭にした報告会が開かれて、データの解析結果が発表された。
 そして、結婚観について、東京と地方との差異を論じていた時だった。
 あるデータの有意差には、ほとんど差がなかった。
「ああ、テレビの影響なのか、現在の若者は、都会も地方も格差がないね」
 中島主任がそう言った時、真凛にはふと疑問が湧いた。
 地方との格差を示すデータは、東京よりも、神奈川県との格差の方が大きかったのだ。
「都会に流入した若者の比率は、どうなんですかね」
声は小さかったが、真凛が意見を言い出した。
「地方から東京に来て間もない人は、育った地方の価値観のままですよね。だから、結婚観は、東京と地方との格差がないんです」
 真凛が、意見を言い始めて、誰もがなにを言い出したのかといぶかった。
「でも、都会で育った2代目、3代目は、都会の感覚の真っただ中で育ったから、その生粋の都会っ子の結婚観が、必要なんでは・・。つまり、若者の流入人口を差し引いた数値で、差異を評価しないと・・」
 真凛が最後まで言って、やっと皆は彼女の言いたいことが理解できた。
 聞いていた皆は、確かに、流入する人口を除外した数値で、評価すべきだと、思い始めていた。
 
 しばらく冷静に考え込んでいた中島主任が、発言した。
「ああ、鋭い指摘だね。さすが神奈川県民の感性はすごいよ。確かに、地元の出身者が多い神奈川の方が、地方との格差は大きいから・・」
 すると、ベテランの統計マンである西田課長から、発言があった。
「確かに、東京都民の出身県別、居住年月、そんなデータも欲しいですね」
真凛は、西田課長から、そんな意見まで出たのが嬉しかった。
――でも、統計データって面白いね。
  これって、社会現象を、統計データで解析するという科学、だよね。
  文科系の私には、未知の世界だよ。
 すると、黙って聞いていた梅沢常務から、最後に発言があった。
「今日の報告は、皆さん、それぞれに参考になったでしょうし、面白かっです。特に、東京都民の評価を、他県からの流入人口で調整するのは、今までにない着眼点です。その切り口の鋭さは、素晴らしいと感じました」
 真凛は、皆の視線を感じながら、何度も会釈をしては、嬉しさを噛みしめていた。
 だが内心では、常務に評価されたことが、何よりも嬉しかったのだ。
 横浜支社長に推薦されて、それなりに恩返しがてきたという、満足感があふれていた。
 
 その晩、真凛は、小野田にお礼方々、新橋の≪ガード下横丁≫に案内した。
 この1週間、データ解析の指導だけでなく、仕事に取り組む後姿を見て、真凛は初心に還る気持になれたのだ。
 その一途に取り組んで、真摯になれたことが、とっても嬉しかった。
 二人は、ジョッキが来ると、晴れがましい笑顔で乾杯した。
「小野田さん、有難う。この歳になって新人に帰れたのって、最高ですよ。未熟な自分、それを実感できて、嬉しいんです」
 真凛は、胸の内にあるがままを吐露しながら、込み上げる感動で目が潤んでいた。
「でも、本庄さん、あの東京への流入人口、あの切り口は素晴らしかったですね。あのデータを発表していた中島主任が、脱帽して、率直に本庄さんを褒めたんですから・・」
「ええ、数字に対しては厳格であれ、って、統計学者の矜持、そう、真のプライドを感じました。尊敬すべき人です」
――ああ、かつて、こんなに心の底から、率直に語れただろうか。
  いつも、相手に調子を合わせて、上辺だけのお愛想で誤魔化して
  そう、作り笑いで、無難に取り繕ってきたの・・。
  これまでは、虚飾の人間関係だったような、そんな気がする。
「でも、仕事は中身勝負、厳然とした数値の勝負なんですね」
 ずっと、考え込んでいた真凛が話し始めた。
「ええ私、仕事の核心に触れたような気がして、心臓に震えが来ました」
「でも、、たった一週間で、その境地に立てるなんて、素晴らしい思考力と感性があるからですよ」
 真凛は、本心から話せる人に、やっと巡り合ったような気がした。
 
 その日、真凛は帰りに≪Bamboo≫に立ち寄ると、期待した通りに茂木がいた。
 胸の内がざわついたが、遠慮がちに隣に座った。
「いつも、お世話になってます」
真凛は控え目に挨拶をしたが、茂木は、チラッと見ただけで、応えなかった。
 ママの作った水割りを、また勝手に茂木のグラスにカチンと合わせると、飲みだした。
「茂木さん、お蔭さまで、私、離婚しました。それから、今度、新橋の本社まで通うことになりました。ええ私、今、生まれ変わろうとしています」
 真凛が、そう話しかけても、茂木は空っとぼけたように、黙然としていた。
 そして、二人には会話がないまま、静かな時が流れて行った。
 
                      ― つづく ―
 
 





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