★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/08/01|その他
☆ カオスのはぐれ者 ☆ [男と女の風景・148]
             2019年8月1(木) 00:00時 更新  
 
   ○我が家のベランダ・ガーデン
 
  ≪写真・左・・サルスベリ
 これは、皆さんご存知の≪百日紅≫です。
 ただ、これは、名前に≪一才≫がついた百日紅でした。若木でも、花や実がなるものを言い、一才桜などがありました。
 これは40年前に購入した時の記憶で、俗に言う姫性、矮性だったと思います。
 
  ≪写真・中・・オニユリ
 この≪鬼百合≫も、ポピュラーですから、余計な解説は不要でしょう。
 
  ≪写真、右・・不明
 この花は、マユミの鉢に飛び込んできたもので、名前は不明です。
 当初は、雑草そうかと思って抜こうとしたのですが、師匠から『雑草にも名前がある』と聞かされていましたから、様子を見ていました。
 そうしたら50センチも伸びて、こんな気品のある花を咲かせました。
 来年には新芽を鉢揚げして、大切に育てたいと思います。
 
  ≪ひと言・提案≫

 展示会や花屋で鉢物を買って来た時は、鉢替えの際に、表面の土はなるべくそっとしておくことを薦めます。
 鉢底と周囲に土を足す程度で、1―2年、様子を見ることです。
 意外な種の草花が飛び込んでいて、意外な姿や花を見せるからです。

 
  •               男と女の風景・148]
  ☆ カオスのはぐれ者 ☆
 
「茂木さん、なぜ結婚しないんですか」
「ウーン、昔は独身主義って、言ってたけど・・」
 茂木は、隣り合った美優(ミユ)に聞かれて、何気に応えた。
 この美優とは、このBambooで何度か会って、話をしたことがあった。
 見ればまだ20代の後半であり、ざっくばらんの陽気な女で、好奇心が旺盛だった。
「でもさ、ある時、女性の美的なイメージが壊されてね」
 茂木には、独身の本当の理由があったが、その出来事には触れずに、別の理由を言った。
「結局はね、付き合うのが面倒臭くなって、止めちゃった」
「アラ、どんなイメージですか」
「テレビのヒロインや女子アナ、あんな美人を見ると、僕は胸騒ぎがするよ。でも、見た目が美しいだけで、付き合うと実像は別なんだ」
「アラ、付き合ったことが、あるんですか」
「うん、一般の人だけど、あんな美人とは何人かあったね。でも、カッコいい美女は、プライドが高くって、我がままで、妥協を知らないから・・」
「確かに個性はあるし、個人差もありますよね」

「だって、母親を見れば、娘が見える、って、言うでしょ。でもね、実際にその母親に会って見ると、もっと巧みな演技をされて、かえって正体が見えないんだ」
「フーン、相当に疑ってますね」
「だから、もういいんだよ。このテーマはおしまいだ」
 茂木は、少し気に障ったのか、投げ遣りに言うと、水割りをグッと飲んだ。
 
 すると、茂木が最も嫌がる突拍子もない女が、店に現れて、しかも隣の席に座った。
 茂木は、思わぬ流れで二人の女性に挟まれて、なにか面倒なことが起きそうな、そんな嫌な予感がした。
 この女、真凛(マリン)とも、この店で何度か会っていたが、正にプライドが高くて高慢ちきな態度がイヤだった。
 だから、話しかけられても、何時も冷静沈着にむっつりとして、ただ相槌を打つだけだった。
 真凛は、自称、フリー・ライターだが、広告代理店の契約社員で、広告のコピーを書いているとのことだった。
 
「真凛、今日は元気が良さそうね」
「ええ、いつもの≪売れない女の決起集会≫だったんです」
 ママの問いかけに、遠慮なく応えている。
「ええ、芸術や文学の世界ばかりではなくて、妻としても売れない女、そんな願望が満たされない女達の激励会なんです」
「では、ヤケ集団なんだ」
 真凛は、ママに言われて「アー、そうですね」と妙に納得すると、ケラケラと笑い出した。
「そうなんです。お互いに決意表明や近況報告をして、激励をしたり慰め合ったりで、大いに盛り上がるんです」
 真凛は、かなり酔っているようだが、本人はまだ正常のつもりで、飲み足らないのかグイグイと飲んでいる。
 ママはそんな様子を見ていたが、こんな程度はまだ修羅場ほどではないと、軽く構えていた。
――さぁ、ベロベロに酔っ払ってご覧よ。
  性根の悪いサタンにでもなって、悪態をついてみたら・・。
  いいよ。今宵は悪霊の正体を見てみようじゃないか。
 ママは冷静に見極めていたし、最悪でも飲み潰れるだけだろうとタカを括っていた。
「そう言えば、応募した小説は、どうだったの・・」
「ええ、今日まで、まだ連絡がないですから、もうダメですよ。もう五回目ですけど・・」
 そう言うと、真凛は落胆したように、大きな溜息を吐いた。
 
 真凛は、長い髪を三つ編みで両サイドに編み込んでいて、キリットした女の素顔を見せていた。   
 そんな髪をアップにした真凛を見て、佐伯は思い当たった。
 会社の先輩から、『自分の顔をあからさまに見せるのは、自分に自信がある女だ』と、聞いたことがあった。
 逆に『素顔を見たいから、前髪を上げて、ってお願いすると、恥ずかしいからイヤと、拒む女性がいる』とも。
――まぁ、この女性は、自信満々で生きているんだろうな。
  でも、自信とは、自己信頼なんだけど・・。
  だから、自信と過信の違い、それが判ってほしいよ。
「私の亭主は5歳年下だけど、彼には言ってあるの・・。私が浮気しても、それを咎めないでね、って・・。その条件で結婚したのよ」
「アラ、自分に都合がいいのね」
「だって、無理矢理、口説かれたから・・」
 真凛は、ママに茶化されて、ますます酔った勢いで、茂木にも聞こえるように言った。
――ああ、ヤダな。こんな傲慢な女なんて・・。
  男を侮辱してるよ。こんな女は無視だね。
  好きなように、男をひっかけては、やりたい放題に、やれば・・。
 茂木は、このキャラは、自分とは絶対に混じり合わない水と油、そんな風に見ていた。
 だから、もう興味が湧かないとばかりに、内心、冷ややかな目で、真凛を見放していた。
 そして、顔を背けてママを見ながら、独り黙然と酒を飲んでいた。
――所詮、気心が通じ合えない女だよ。
  まぁ、見た目はインテリで美貌の持ち主だけど、
  でも、肝心のハートがないんだよな。
  ああ、今日はまずい酒になりそうだな。
  オイ、オマエ、早く消えろよ。
 それとも、オレが店を変えるかな。
 茂木は、ふと嫌気がさして、「ママ、チェック」と言ってしまった。
「アラ、今日は早いんですね」
「ウーン、一軒目で日本酒の冷やを、かなり飲んだからね」
 茂木は、真凛が来たから帰るとは言えなかったから、さりげなく別の理由で誤魔化した。
 
 だが真凛は、茂木のチェックを聞いて、あえて突っかかった。
「私って、破天荒な女って言われてますけど。そんな私が私なんです」
いきなり真凛が言い放つと、鋭い目を向けて茂木に迫った。
「どうですか。こんなじゃじゃ馬慣らし、あなたには出来ます・・」
 そうつっかけられても、茂木は前を向いたまま、涼しい顔をして相手にしなかった。
「ネェ、アナタ。なんとか言ったら、どうなんです・・」
 真凛が顔を近づけてきたが、そう言われても、茂木は無視をしていた。
 ママは割って入ろうとしたが、この先の展開がどうなるか、ふと興味を持ってしまった。
「ねえ、どうなの・・」
「うるさいな。僕はね、バカなロバより、もっとダメな駄馬なんて、相手にしないんですよ」
「ナンダッテェー、私をバカにして」
 そう言うなり、手を出して茂木の肩を突っついた。
 さらに、「ねえ、どうなのよ」と、しっこく何度も肩を押しつけては、迫ってきた。
 だが茂木は、どこ吹く風かと、ずっと黙殺していた。
 しかし、指先で頭を突っつかれて、いきなり堪忍袋の緒が切れた。たとえ酔っ払っているとはいえ、頭を指で小突かれてカーッと来たのだ。
 茂木は突然、席を立つと真凛の胸倉を、グイッと掴んだ。
 怒りで引きつった茂木は、真凛を強引に椅子から引きずりおろすと、睨みつけた。
 緊迫した男の迫真さを目の当たりにして、真凛に怯えが走った。
 だが、いきなり手を張り上げると、ほっぺたをパチーンと張った。
「ギャー・・」
 張り飛ばされて、よろけた真凛は、椅子の背もたれで辛うじて体を支えた。
 店の中はやや暗かったが、真凛の頬に赤い手形が浮かんでいた。
 いつも冷静で、口数の少ない茂木の豹変に、3人は度肝を抜かれて、唖然として見ていた。
 
 それから茂木は、カウンターの席に戻ると、直ぐに冷静さを取り戻して、飲み始めていた。
 ママは、真凛が高慢な態度だけではなくて、他人に手を出したことが許せなかった。だから、内心では、茂木に拍手を送っていたのだ。
「マスター、魂まで腐ったこの人を、粗大ゴミで片付けてくれませんか」
「ハァ・・」
 マスターはそう言われても、ニヤッとするだけで動かなかった。
「なんか、胸糞が悪いですわ」
 すると真凛が、堪え切れずに突然、「アンター、何者ナノヨ−」と金切り声で喚いた。

 プライドを傷つけられて、我慢していたやり切れない思いが、一気に爆発したのだ。  
 それでも平然としている茂木に、「ギャーッ、この男、クヤシー」と断末魔の絶叫を発すると、カウンターにうつ伏した。
 

  しかし、やがて悲しそうに顔を歪めると、いきなりシクシクと泣き出した。
 なにかに思い当たって、哀しさが込み上げてきたのだろう。
 そんな様子を、ママもマスターも優実も、もう手の施しようがないとばかりに、黙ったまま見ていた。
「君はなぁ、絶世の美女かも知れないけど、人間のクズだよ。堕天使にもなれないな」
 茂木は、冷静な口調で、あえてダメ押しの宣告をした。
 だが真凛は、それほど馬鹿ではなかった。

 腹の虫はまだ納まっていなかったが、怒りをぶつける相手は、自分かも知れないと気付いていたのだ。
 
ピンと閃いた真凛は、泪の溜まった目で茂木をじっと見上げたまま、つぶやいた。
「私を叩いたのは、あなただけです。父親でさえも、叩いてはくれなかった」
――そうよ。我が家はカカア殿下で、父の存在感はなかった。
  マジメなサラリーマン、そう、単なる給料取りだったの・・。
  鵜飼の鵜だったのよ。
 だが、そんな様子を見ていた3人は、思わぬ発言にドキッとした。真凛が突然、なぜ父親のことを言ったのか、理解できなかったのだ。
――ああ、私、ビンタを喰らって、なぜか気が晴れたよ。
  冷静に、謙虚になることが、どういうことか判った。
  人としての正道と非道、その境界線が見えたような気がする。
  そう、あの鉄拳に目が覚めて、今は心から嬉しい。
 真凛は、自分のダメさ加減が見えてきて、憐れみを感じると、哀しさが込み上げてきたのだ。
 
 真凛は、マイボトルを掴むと、自分のグラスにドボドボッとウイスキーを注いだ。
 それを見たママが、慌ててアイスを追加して、さらに水を足した。
 そして、真凛はカウンターに置かれた茂木のグラスに、勝手にカチンと合わせると、独り乾杯をして美味そうに飲んでいる。
「茂木さん、お蔭さまで目が覚めました。感謝してます」
 真凛は、素直な気持ちでペコリと頭を下げた。
「でも、この先が見えないんです。ええ、きっとカオスの中を彷徨うことでしょう」
 隣り同志で並んだ茂木は、そう言われても、前を向いたままなにも反応しなかった。
「ええ、私は、人の道からはぐれたバカな女でした」
――そう、母は父を軽蔑してたのよ。
  だから、私もそんな目で男性を見ていたんだ。
  この、茂木さんもね。
  そうか。昔付き合った男達も、亭主も、皆、年下だよね。
  上から目線で、甘えさせてやって、しかも服従させていたのかも・・。
  でもね、本当は弱いパパを応援していたんだ。
  そう、いつも≪パパ、ガバッテ≫って・・。
 店には次の客が来なかったから、ただ深閑として、まるで誰もいないような気配だった。
 
「マスター、お願いがあるんですけど」
「はい、なんでしょう」
 茂木が静寂を破って声を挙げると、皆は沈黙から解放されたように、安堵の溜息を吐いた。
「あのぅ、リクエストで≪青葉城恋歌≫を・・」
 なんと茂木は、真凛との騒動をもう忘れたかのように、生オケで歌いたいと言い出したのだ。
 マスターは心得たとばかりに、譜面と歌詞カードを揃えて、普段はしないマイクまでセットしてくれた。
 この歌は、茂木の持ち歌の中でも、心の中でなにかを求める時に歌う、究極の歌だった。
 ギターの伴奏で歌い始めた茂木は、少しか細い声だったが、情感を込めて切々と歌っていた。
 それは、青臭い青春時代を思い出しながら、亡くした恋人とのロマンを物語る歌詞で綴られていた。
 だが、最後の歌詞は、聞いている者でさえ、思わずその哀愁に涙がそそられてしまうのだ。
――ああ、茂木さんは、彼女を亡くしたのかも・・。
  『あの人はもういない』って、そう言う意味だよね。
  この歌で、心の闇に、彼女の面影が浮かぶのかも・・。
  そうよ。何時までも、恋心を引き摺るロマンチストだよ。
  ああ・・、いいな。
  こんな純粋さって、私にはないよ。
  やっぱり私は、感性がないダメな女かも・・。
  ああ、この人は、根っから優しい男性だよ。
  そんな人が、思いっ切りビンタを張ったなんて・・。
  エッ、私の小説は、相手の心には響かないの・・。 
 真凛は、自分の感性がどこか狂っていることに、気付かされて、思わずハッとした。
 茂木が歌い終わると拍手が湧いたが、また沈黙に戻ってしまった。
「茂木さん、ワンモア・リクエスト、どうです・・」
「イヤァ、これが僕のラストソングですから」
 マスターにもう一曲と促されたが、茂木はやんわりと断った。
 
 茂木は水割りでノドを潤すと、また物思いにふけっている。
――ああ、僕は何のために、何を目指して生きているのかな・・。
  最愛の凜子を失って、もう15年も彷徨ってる。
  僕って、バカだよな。
  でも、そうとしか生きられないんだ。
  あの子は、愛のなんたるかを教えてくれた。
  そして、愛を尽くして、自分を相手に捧げて、
  そう、人に尽くすことを、僕に教えてくれた。
  そんな、人の心情の機微を悟らせてくれたんだ。
  ああ、感謝、感謝だよ。
  そう、奨学金をもらいながら、やっと卒業したのに・・。
  凜子は、0Lになって、直ぐの五月病で命を絶った。
  僕には相談されなかったから、今でも理由が判らないよ。
  そして、また夏が来て、消沈したままの僕がいる。
  あと何年、僕は繰り返して凜子を思い出すのだろう。
 
「茂木さん、カッコよかったです。私、ジーンと来てます」
 独り寂しく飲んでいた美優が、何気にボソッとこぼした。
 茂木は、もういなくなった凜子のことを思い出していたから、優実の一言にドキッと来た。
「でもね、僕はカーッと来て、激情を抑えきれなかった。まだ未熟なダメ人間なんだ」
「でも、見ている限り、あれは当然だと思います」
「そうですよね。悪いのは、私なんです」
 いきなり、真凛が2人の会話に割り込んできた。
 すると、その様子を見ていたママが、一歩前に踏み出した。
「もう、その議論、止めたら。お互いに反省するのはいいけど、もう終わったことだから・・」
 その一言で、皆が口をつぐむと、店にはまた静寂が、どっかりと腰を据えていた。
 マスターはまた、カウンターから陰になる隅で、独りタバコを吸いながら、皆の様子を窺っていた。あくまでも、黒子に徹していたのだ。
 
「人は、過去の体験から現在がある。では、未来は現在の延長線の上にあるのか、それとも方向を変えた線の上か。はたまた、現在と断絶して飛躍した、全く新しい線なのか・・」
 茂木は、独り言のようにつぶやいていたが、皆はその言っている意味を重く受け止めていた。
「そうですか。私、納得です」
 茂木の話に応えたのは、真凛だった。
「ええ私、亭主と離婚する決心がつきました」
「エッ、どうして、ですか」
 まだ若い独身の美優が驚いて、茂木の向こうにいる真凛を覗き込んだ。
「そうね。一緒にいても、お互いに成長していないし、お互いに制約し合っている。そう、束縛感が強くって、自由度がないの・・」
「そうなのか・・」
 まだ未婚の美優には実感がなかったから、首を捻っている。
「そうかな・・。結婚したら、自分を犠牲にしてでも、相手に愛を尽くす。それが伴侶でしょ。だから、半分は我慢することですよね。ママ・・」
「ウーン、そうかも・・。そう、我慢してでも、一緒になにかを作っていくことかな・・。アッ・・」
  そこでママは言い澱むと、考え込んだ。
「結婚する時に、こんな家庭を作るとか、って、共通の目的を定めるのよ。その目標に向かって、お互いが協力して働く。そうすれば、犠牲だとか、束縛だとか、そんな感覚はなくなるでしょ」
 茂木は、そうかもしれないと、ママの意見に賛同した。
「でも私は、離婚したら、全く新しい未来の線を引いていくの・・」
 真凛は、顔を挙げて遠くを見ていた。
 
――しかし、この自信満々のキャラは、もう変えられないよ。
  宇宙に飛び出すロケットではあっても、自分で制御できないんだ。
  だって、過信する自分の姿が、見えていないから・・。
  きっと、カオスで足掻くはぐれ者になるよ。
  僕だって、人間社会の混沌で、目標を亡くしてる。
  目標がないから、制御できても、ただ浮遊しているだけ・・。
  そう、僕は彷徨えるバカ者だよ。
 茂木は内心、自虐的になって自問自答を繰り返していた。
 
                      ― つづく ―

 





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