★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2019/05/16|その他
○それからの五十路○ [男と女の風景・140]
 
               2019516(木) 00:00時 更新  
 
  我が家のベランダ・ガーデン
 
 今回の写真報告は、≪平塚山野草の会≫の≪春の展示会≫で、私が展示した鉢の続きを紹介します。
 
  ≪写真・左・・アマドコロ≫
 この名前の漢字は≪甘野老≫で、チョッと読めないですね。
 由来は、根茎が太くて、トコロ(ヤマノイモ)に似ていて、甘みがあるから、とのことです。
 新芽は山菜として食用されますが、果実には毒があるそうです。
 これは散り斑が入っていますが、茎が30―50センチも伸びて、しかも葉の下に1センチほどの白い可憐な花が咲いています。
 そのため、こんな角度からの写真になりました。
 
  ≪写真・中・・ウンナンカズラ≫
 この雲南蔓は、産地が中国の雲南かと思われますが、実はヨーロッパが原産だそうです。
 日本に持ち込まれた時、そんなイメージだったから、こんな名前になったんでしょう。
 写真の上側に、点々とある白っぽいのが花です。
 これより一回り小柄なものに≪姫ウンナンカズラ≫がありますが、花はもっと青の強い紫色です。

 また、この展示品は30センチもある高い鉢に植えて、ツルを垂らして作ってあります。
 
  ≪写真、右・・ヨモギ≫
 ヨモギは、漢字では≪蓬≫で、初めて知りました。
 これは斑入りで、弱々しいので育てるのに気を使います。

 
 
                   [男と女の風景・140]
                     ― 続編・7―

 
○ それからの五十路 ○
 
 柳田は、新しい職場には慣れてきたが、ほとんどの実務は疋田課長が采配を振るっていた。
 そのため、やることがなくて暇を持て余していたから、デスクで椅子の背にもたれながら、新聞を眺めていた。
 ふと、先日、美由紀と山下公園で二度目のキスをして、さり気なく別れたのを思い出した。
 あの時、美由紀は気分が乗ってきて、ディープ・キスを求めてくると、熱い唇から舌先を押し出してきたのだ。
 そのヌルッとした触感を久しぶりに感じて、柳田は驚いた。
 しかも、自分の舌にも絡んできたのだ。
 そして、さらに美由紀は、両手で抱き締めて体を密着させると、豊満なバストを押しつけてきた。
 柳田は、思わず手を出して、その乳首を指先で摘まもうとした。
 だが、柳田は一瞬、手を止めた。
――アッ、いけない。これは禁断の木の実だ。
  危ないぞ。雰囲気に流されてはいけない。
 柳田は、コリコリになっている乳首を感じていたが、思わず手を引いてしまった。

 頭の中でこの状況はヤバイと閃くと、美由紀をゆっくりと引き剥がした。
 そして、「三鷹まで帰るには、君は遅くなるから」と、さり気なくベンチを立って、歩き出した。
 美由紀が恨めしそうな目で、柳田を睨みつけていたが、本人はそれを無視をした。
 そして、大通りでタクシーを捕まえると、桜木町駅まで行った。
 そこで、柳田は大船駅回りで帰るからと、上りと下りのホームへと別れてしまったのだ。
――だって、エッチには自信がなかったんだよな。
  しかも、不倫でしょ。
  男としては、気持が熱く燃えたけどさ。
  しかし、オレは、いい歳のオジサンだよ。
  なんで、こんなに女性からアプローチされるのかな 。
  まぁ、相手も四十路だから、釣り合ってるのかも知れないけど・・。
  やっぱり、女難の相が出ているのかな。
  もしかして、デンジェラス・ゾーンに嵌ってるかも・・。
 ふと、職場を見回すと、部下たちはデスクに噛り付いて、黙々と仕事をしていた。
――四十にして惑わず、五十にして天命を知る、って、言うけど・・。
  そう、転勤と言う天命は、その通りだよ。
  だけど、女性に惑うのが今なら、チョッと遅れてるよな。
 
 それから、柳田は席を立つと、通路にある自販機でホット・コーヒーを買ってきた。
 そして、何気に飲もうとして、庶務担当の宮田敦子と、ふと目が合った。
 宮田は、慌ててチョコンと会釈をすると、また仕事に入って行った。
――うちの娘もOLをしてるけど、あんな感じなんだろうな。
  若い子は、可愛いもんだよ。
  まぁ、それぞれに生きているんだろうけど・・。
 柳田は、子供たちの子育ては、ほとんど妻に任せっきりだった。
 平日は子供達と顔を合わせることはなかったし、土曜・日曜でも、各自バラバラだし、中学生になるともう会話もなかった。
 だから、今、娘が普通の会社員として働いていれば、後は自分の人生を自由に歩けばいいと、放任して干渉しなかった。
 ところが妻によれば、最近、息子に縁談話があるらしかった。
――まぁ、それも成行きに任せるか。
  オレは、母親に、散々口うるさく小言を言われて育ったよ。
  だから、子供にはあまり言いたくないんだ。
 
 だが柳田は、部長になってから、なぜか庶務担当や他の事務員との距離感を感じていた。
――なぜかな。声を掛けずらいんだよな。
  ウーン・・、アッ、そうか。
  皆との間に課長も、主任もいるから、直接は話せないんだ。
  オレは今、課長時代より、もっと窓際に押し出されてるんだよ。
  まぁ、ある意味で寂しいけどな。
  そう、孤独な管理職だよ。
 柳田は、部長に昇進してから、その違いをそんな風に感じていた。
――でも、こんな感傷に浸るは、初めてだな。
  課長時代は、次から次へと仕事が舞い込んできたから、
  そんなことを感じる暇が、なかったんだ。
 
 さらに柳田は、新しい職場に移ってから、なんとなく部下の態度に違和感を覚えていた。
 それは、部下達が、自分にも、親会社に対しても、必要以上にへりくだっていることだった。
 先日、商品単価の交渉をしていても、親会社の高圧的な態度に遠慮して、素直に妥協してしまったのだ。
 だから、その後、担当課長の疋田を連れて、親会社に出向いた。そこで、論理的に、この金額で単価の設定をして欲しいと折衝したのだ。
 親会社では元の部下だった服部は、「では、現状維持にしましょう」と引いてくれた。
 それを目の当たりにした疋田は、「ああ、柳田さんは正道を行ってるな。すごい味方だよ」と内心で絶賛していた。
 柳田にとっては、当然の主張であり、親会社のゴリ押しは、到底許せなかったのだ。
 
 そんなことがあって、柳田は、もしかして疋田課長も、自分に対して遠慮をしているのではないかと、思った。
 そこで、「どう、今宵は、軽く飲まない」と声をかけた。
 疋田は、「アッ、はい、喜んで」と即答してくれた。
 柳田は、「行くお店は、君にお任せだから・・」と言ったが、本当に喜んでいるのか、どうか、と疑問が残った。
――まぁ、人の良さそうな笑顔だけど、あれが素顔だろうな。
  そのうち、実態が判るだろうけど・・。
  そう、主任連中のコメントも聞きたいしな。
  とにかく、仕事は相互信頼だから・・。
  でも、女房に賃上げ交渉をしておいて、よかったよ。
 柳田は先日、ここはいいチャンスだとばかりに、妻に言ったのだ。
「今度、部長に昇進して付き合いも増えるから、お小遣いを3万円アップしてくれないか」と。
 もう子供たちは、大学を出て社会人になっていたし、生活費には余裕もあったから、妻はすんなりと増額してくれた。
 
 その日、終業のチャイムが鳴ると、二人は示し合わせて会社を出た。
 案内されたのは、横浜駅西口に近い焼き鳥屋だった。
 入口には大きな赤提燈がぶら下がっていて、木造の古くからある店のようだった。
 店内には、二人用のテーブルが5席に、カウンターが6席で狭かったが、ほぼ満席だった。
 疋田が「いつもはチューハイですが」と言うので、それに合わせた。それから、おつまみの焼き鳥は、とりあえずセットを頼んだ。
「まぁ、今後とも宜しく」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
 二人は乾杯をしながら、改まって挨拶を交わした。
「ところで、どうなの。主任とか担当者は、困った事とか、悩んでることとかは、ないの」
「ええ、まぁ、家庭の事情は多少ありますけど、仕事上では、みんな普通に元気ですから、特に問題はありません」
 柳田は、さり気なくその返事を聞いていた。
 だが疋田の目には、ウソや隠し事はなさそうだったから、安心した。
「君は、家はどこなの」
「ええ、相鉄線の二俣川です」
「ああ、近くていいね。僕は藤沢だから、転勤してから近くなってね」
「それで、時には飲んで帰るんですか」
「いやぁ、いつもだよ。会社帰りに、駅回りの飲み屋に立ち寄ってね。ストレスが溜まってるから、独り酒で発散してるんだ」
「そんなに、仕事は厳しかったんですか」
「ウーン、上司はきついし、相手をする部課長は多かったからね。ただし、そういう理由に便乗して、飲んでる面もあるけど」
 疋田は、ニヤリと独り笑いをしている。
 それから、庶務担当の若い女の子の事とか、色々な質問をしては、職場の見えない部分を聞いていった。
――まぁ、概ね問題はないな。
  みんなが、仕事をエンジョイしてくれれば、いいんだよ。
「あのね、社長からは、『部下の言うことをよく聞いて、やってくれ』って言われたよ。だから、僕は、仕事は君に任せる方針にしたし、70点が取れればいいかな、って、思ってる」
「はぁ、そうですか。ええ、頑張りますので」
「ただし、遠慮なく相談してくれよ」
 柳田は、新しい職場だけに、風通しのいい雰囲気を作りたかったのだ。
 
 それから、柳田は疋田課長と別れて、藤沢駅に着いたのは9時半だった。
 どこかに立ち寄って飲もうかと思った時、しばらく行っていない和食の≪我楽多≫を、ふと思い出した。
――そうか。この時間だと、母の香澄が帰って、福美だけになるな。
  いいタイミングかも・・。
  そう、前回は若い福美にキスをしてもらったから・・。
 柳田には、そんな下心もあって、行くことにした。
 だが、この時間だと香澄と出っくわすと思って、彼女が右に曲がる反対側の薄暗がりで様子を見ていた。
 すると案の定、小柄な香澄が足早にくると、右側に曲がって、駅の方に帰っていった。
 それを見届けてから、店に向かい、白木の引き戸を開けると、福美が「あら、いらっしゃいませ」と声を掛けてくれた。
「母が、首を長くしてメールを待ってますよ」
「いやあ、新しい職場は色々あってね」
 だが福美は、直ぐに渋い顔になると、「すみません。今日はチョッと用事がありまして、申し訳ありませんが・・」と、断ってきた。
 柳田は一瞬、ムッと来たが、「そう、じゃあ、また・・」と踵を返した。
 福美は、通路まで出てきて、深々とお辞儀をしたが、キスはしてくれなかった。
――水商売は、時間を延長してでも、お客様第一だろ。
  それがなんだ。時間前に看板だなんて・・。
  許せないな。もう二度とは来ないよ。
  ああ、香澄を見送ったのが、まずかったのかも・・。
  そう、神様が見ていて、ラッキーチャンスを逃したのかもな。
 柳田は、ムシャクシャした気分で、スナック≪ピエロ≫に向かった。
 
 店に入ると、大先輩の後藤が、いつもの通りカウンターの隅で飲んでいた。
「後藤さん、お元気そうで・・」
 柳田は、そんな挨拶をして隣に座った。
 すると、浩美が「いらっしゃいませ。いつもの水割りで」と確認してから、作り始めた。
 だが、浩美は目を伏せたままで、柳田の顔を一度も見なかった。
 柳田は、そんな態度にチョッと違和感を覚えたが、隣に後藤がいたから、黙って何も言わなかった。
――ああ、もしかして、女性運を亡くしたのかも・・。
  そう、チャンスを失ったんだ。
  女難が消えて、半分、気が楽になったけど・・。
  今、福美に追い出されて、この浩美にも無視されて、
  アッ、もしかして美由紀にも、愛想を尽かされたかも・・。
  しかし、こんなことに一喜一憂して、気持が揺れるなんて・・、
  我ながら、可笑しいな。
「君、新しい仕事は順調かね」
「ええ、お蔭さまで」
 独り静かに飲んでいた後藤が、ふいに話しかけてきた。
「でも、上司に、功を焦るなって言われましたよ」
「そうなんだよな。君みたいに一所懸命にやる人間はね、時として暴走するから・・」
――ああ、大先輩には、もう読まれていたのか。
  そうなんだよな。仕事には猪突猛進なんだ。
  でも、女性には弱いからな。
  しかし、あの美由紀には、暴走したいよ。
  だって、もう離婚してるし、職場も違うんだから、
  女房にバレなければ、事件にはならないよ。
 柳田は、自分にそう言ってけしかけたが、その気にならなかった。

ーーああ、オレは勇気のない男として、もう負け組かもな。
「君は、あれからあの店に入ったかね」
「ええ、あの我楽多ですね。今、行きましたら、今日はもう看板だって・・」
「ウン、今日は家族会議があるらしい」
「ああ、例の問題ですか」
「うん。知り合いの弁護士には、頼んでおいたけど・・」
――それで、あの店から追い返されたのか。
  まぁ、それなら仕方がないか。
「君、あの女たちは、どうしたかね」
「エッ、誰ですか・・」
「まぁ、いいよ」
 柳田は、あの芸者だった母と娘かと直感した。それ以外は、後藤は知らないはずだったからだ。
 だが、そんなフェイントを入れられても、とぼけるしかなかった。
――この人、どこまで知っているんだ。
  恐ろしいな。
  もしかして、母の香澄が喋ったのかも・・。
 そんな不意に迫ってくる疑心暗鬼の時間を過ぎると、後藤はサラッとして、ママに見送られて帰って行った。
 柳田も席を立って、見送ると、後藤が座っていた隅の席に移った。
 
 すると、水割りを作っていた浩美が、「あの人の前では、あまりお話が出来ないんですす」と呟いた。
「エッ、どうして・・」
「ええ、あの人は勘が鋭いんです」
「ああ、そうだね。僕なんて、腹の底まで見透かされてるよ」
「あのぅ、私も戴いていいですか」
「ああ、どうぞ」
 それから、浩美が自分の水割りを作ると、二人はグラスを合わせた。
「柳田さん、私はあの時、久々に体の芯から燃えたんです」
「そうか。悪かったな。実はね、僕はもう、エッチをやれる自信がなかったんだ」
「あら、気持ですよ。ええ、その気持さえあれば・・」
――ああ、そうかもな。
  しかし、この女は、まだ未練があるのかも・・。
  でも、やっぱりオレには自信がないんだ。
  だから、恥をかきたくないんだよ。
 二人は、際どい話を本音で話し合っていたが、柳田はそれ以上は危ないと直感して、黙り込んでしまった。
 
――そう、美由紀からは、必死な思いが伝わって来たよ。
  あの芸者だった香澄からは、いまだにメールが来るし・・。
  でも、この浩美は、どうも遊び感覚だな。
  そう、単なるストレスの発散だよ。
  でもな、みんな、それぞれに背負ってるものがあるんだな。
  それが十人十色の人生かも・・。
 柳田は、フッと気になって浩美に目をやると、両手でグラスを包むようにして、水割りを飲んでいた。
 それは、なんとなく寂しげで、哀れな女に見えた。
――オレは、仕事に没頭できて、幸せだったかもしれないな。
  実はオレだって、マザコンを引きずってるんだ。
  でも、そんなことを忘れさせてくれた仕事があった。
  サラリーマンとしては、仕事に感謝すべきかもな。
  でもさ、残りの人生、どうしたらいいんだ。
  そうだよ。仕事は頑張ったけど、
  女性に対しては、どうしても優柔不断なんだ。
  そう、オレには、度胸も、根性もないのが判ったよ。。
 柳田には、男の欲望として、性欲の気持はまだ残っていた。だが、生身の女性に対して、もう一歩を踏み出す気力がなかった。
 
 柳田は、現在の職場も家庭も、身の回りは何処も、平穏無事だったから心が安らかだった。
 ただ、女性たちが積極的に攻めてくる刺激に対しては、惑わされていた。
 だから、もう不能なのに揺れ動く自分の気持を、なんとか抑えようとしていたのだ。
――アッ、そうだ。
  ズットやりたかったギターでも、やるか・・。
  そうだ。ギター教室を探してみよう。
そして今、学生時代にのめり込んでいたギターの趣味に気づいて、これからの活路を求めるしかないと悟った。
――ああ、サラリーマンの末路に乾杯だな。
  オレは、ずっと働き蟻だった。
  だから、もういつ死んでも悔いはないよ。
  そう、53才になったオレは、もうやり尽くしたからな。
 柳田は、独り酒を飲みながら、自分にしっとりと言い聞かせて、自分を納得させていた。
――いいよ。こんなオレを、女房が判ってくれなくてもさ。
  そう、オレなりに、精一杯やって来たから・・。
  まぁ、それがオレ流の美学だったからな。
  そうだよ。そうとしか出来なかったオレがいたんだ。
 柳田は、実直に仕事をこなして、何事にも堅実に取り組んできた。
 だから、そんなスタイルで貫いてきた、まさに典型的に真面目なサラリーマンだったのだ。
――オイ、疋田課長よ。頑張ってくれ。
  自分を貫いて欲しい。
  そうだよ。そうとしか出来ない自分がいるのだから・・。
 
                             ― 完結 ―
 
 





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