★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。 我が人生に、夢よ! もう一度・・!  いつまでも、恋も愛も、いっぱい欲しい。 そんなバーチャル・ラブを、どうぞ・・。 
 
2018/06/28|その他
✾ あの日に戻って ✾ [男と女の風景・131]
                       2018年6月28日(木)・更新

− 我が家のベランダ・ガ−デン −

  ○ 斑入りの草 ○

 今回も、斑入りの草花を紹介します。
 ただ、斑入りは、葉に緑が少なくて光の合成が出来ないためか、どうしても育ちが弱い感じがします。
 
≪写真・左・・ミズヒキ≫
 水引草は、花も実も、上から見ると赤で、下から見ると白であり、それを紅白の水引に例えた名前だそうです。(ご祝儀袋の紅白の紐)
 
 ≪写真・中・・リンドウ≫
 これは、つい最近入手した珍品ですが、姫性の霧島系の竜胆(リンドウ)ではないかとのことです。
 秋に青紫の花が咲くのを、楽しみにしています。
 
  ≪写真、右・・ヨモギ≫
 漢字では≪蓬≫と書くそうですが、草餅で有名ですね。
 おひたちや汁物の具材もいいし、てんぶらもいしいそうです。
 
 

                      [男と女の風景・131]
                         ― その2 −

 ✾ あの日に戻って ✾  
 
 蔵原は、あの日、スナック≪アリス≫で朝方まで飲んでから、2週間も、ずっと藤沢の飲み屋には立ち寄らなかった。
 大阪支店への出張もあったが、なんとなく、しばらくは距離を置こうと考えて、会社帰りには新橋で飲むようにした。
 今宵は、サラリーマン達が飲む活気を感じながら、蔵原は焼き鳥屋のカウンターで酒を飲んでいた。
――そう言えば、朋美は、酔ったとは言え明言をしたよな。
  
 『私、蔵原さんと一緒になれるなら、死んでもいい』と。
  
しかも『私はバージンだから』、って・・。
  そしたら、真理奈が食ってかかったんだ。
  『私だって負けないわよ』って・・。
  相当酔っ払ってたから、多分、本音なんだろうな。
  この歳になって嬉しいけど、危ないな。
  危険な匂いがするよ。
 朋美からは、≪火曜か木曜日に、あやめでお待ちしてます≫と、何度かメールが来たが、返事もせずに放っておいた。
 
 すると、アリスの真理奈から、メールが入った。
 ≪今週の金曜日の夜に、当時ルフランの響子ママが、当店に来ます。
  是非とも、お会いしたいとのことですが、ご都合はどうですか。
  懐かしい方々にも、声をかけますが、宜しく。 真理奈 ≫
 蔵原は、響子が来ると聞いて、昔、懐かしい顔が浮かんだ。
 あの頃は何かと世話になったから、こんな機会を逃してはいけないと思って、≪当日は、8時頃にお邪魔します≫と返事をした。
 当時、響子は、バツイチで四十代の若い社長に見初められて、結婚するためクラブを止めたはずだった。
――しかし、なぜ今、そんな同期会をするのかな。
  なにか、急ぐ理由とか、特別の事情でもあるのかな。
 だが、考えてみれば、常連客で仲が良くて冗談を言い合えたのは、同年輩の森山しかいなかった。
 しかし、森山はヘッドハンティングされて、別の会社に移り、勤務地も変わったはずだった。だから、それ以降、彼とはコンタクトをしたことはなく、そんな男がいたのも忘れていた。
 
 蔵原は、今夜も、新橋の居酒屋で独り酒を飲んでいた。
 給仕係の若い女の子を見ていて、ふと、当時のルフランにいた女の子たちの顔が浮かんだ。
 あの時期は、20代前半の女の子が多くて、30歳を過ぎた蔵原には、ギャルであり女学生に見えた。
 だが、女の子の話を聞いているうちに、精神的に虐げられた娘達であることを、初めて知った。
 蔵原が、安心できる話し相手だと信頼したのか、彼女たちは問わず語りで、ぼそぼそと自分の身の上を語った。
 『父は、母と私を置いて出て行きました』
 『遊び人の父は、愛人を我が家に住まわせたんです』
 『家庭内暴力がひどくて、母と私は、いつも台所の隅で泣いてました』
 そんな話は、他人には言えない胸の内の本音であり、彼女達は、なんと父親を軽蔑したり、恨んだりしていたのだ。
 それから蔵原は、女の子を精神的にも、心理的にも自分なりに分析して、知ろうとしてきた。飲み屋は、そんな社会勉強の場だった。
 その人の根源的な部分を理解しないと、その人物を知ったことにはならないと悟ったのだ。
 
 蔵原が当日、予定通り8時に≪アリス≫に行くと、ママの響子がボックス席で壁を背にして座っていた。
 そこには、当時の常連で、話をしたことはなかったが、よくカウターで見た顔の客が何人かいた。
 そして、そこには昔懐かしい女の子が三人、客の接待役としてついていた。
「アラ、蔵原、さん、お久しぶり、で」
「オー、ママも元気そうで」
 感動した蔵原は、懐かしい響子と固い握手を交わした。
――親しい友達は、何年経っても友達だな。
  バカな冗談を言い、バカなこともやったよ。
  でも、いつだって、直ぐ昔に戻れるんだ。
 
 響子は、蔵原と同じ50代半ばで、口紅の化粧しかしていなかったから、顔の肌は渇いた土色だった。
 ぱっちりとした二重の瞳は可愛らしかったけど、どこか生気がなかった。あの、一世を風靡した美貌はどこかに消えていた。
「今どこにいるの・・」
「茅ヶ崎に、住んでる。駅の近くで、パートをしてる」
「あ、そうなの・・。でも、元気そうだね」
 だが、響子の喋り方は、舌先が回っていなくて、蔵原は違和感を覚えて心配になった。しかし蔵原は、あえてそのことには触れなかった。
 後で、真理奈がささやいて判ったことだが、脳梗塞で危なかったと聞かされた。よくぞ、ここまで回復した、とも・・。
 ママの真理奈は、大忙しで立ち回っていたが、蔵原を響子の正面に座らせた。
 
 席を見回せば、もう中年になった懐かしい女の子達がいて、一人づつ握手を交わした。
 あれから25年の歳月を越えて、美しさを保っている子もいたが、もうオバサンになってる子もいて、その変化の違いに驚いた。
 ふと考えてみれば、飲み屋で、昔の女の子を交えた同期会をやるなんて、蔵原には初めての経験だった。
 メンバー同士は、ズットなんらかのコンタクトを取って、励まし合ってきたのだろう。
――彼女たちは、どんな人生を送ってきたのかな。
  ずっと独身の朋美もいれば、
  結婚して、子育てをして、また働いて・・。
  ああ、真理奈のように離婚した人も、いるか・・。
 
 すると、スーツで決めた森山が入ってきて、その懐かしさに、思わず蔵原は立ち上がった。
「おお、懐かしいな。元気か」
 お互いに、同じ言葉で挨拶を交わして、共に笑顔で握手を求めると、肩を叩き合った。
 そして、森山は、笑顔で見守る響子を見ると、感動の堅い握手をした。
 二人は懐かしそうに見つめ合うと、お互いが元気であることを祝福し合った。
 それから、テーブルを眺め回して、他の女の子たちと一人づつ、嬉しそうな笑顔で握手をしていった。
「あれから25年とは、長いようで短いですね。ああ、懐かしいです。皆さん、お年を召して、いい女になりましたね」
 技術系の森山は、相変わらず真面目そうな風貌だったが、少し白髪交じりになっていた。
 二人は同年代であり、カウンターの隅でバカな冗談を言い合い、冷やかしたり褒めたりと、お互いに言いたい放題で楽しかった。
 二人は、遠慮がなくて気心の知れた仲であり、同級生の感覚だった。
 
すると、白髪のお年寄りが、杖を突いて入ってきた。
「ああ、白川さん・・、ご無沙汰、してます」
 かつてのママ・響子が、ゆっくりと立ち上がって出迎えると、自分の隣りの席を空けさせた。
白川は、見るからに痩せていたが、大御所のようで、グレーのスーツを着た上品なご老人だった。
「その節は、大変お世話になりまして」
 響子は、涙目で白川を見ると、深々と頭を下げた。
「いやいや、君の人柄を見込んでいたからね」
 二人の間には、二人だけが知る歴史があった。
 響子が二十歳でクラブに入った時、よく通ってくれたのが白川であり、25歳でスナック≪ルフラン≫を開店した時に、色々とお世話になったのだ。
 その頃は、白川は商工会の幹事をしていたから、同僚や若い者を連れて店に来てくれた。お蔭で、客が客を呼ぶいい店として、繁盛したのだ。
 
 だが、その後ろにもう一人いた男が、響子を見て「エッ、ヤバイ」と声を上げると、いきなり背中を向けた。
 それを見た真理奈が、「まあまあ、高志さん、どうぞ」と前を向かせると、座っている女の子の席を空けさせた。
「アラ、あなたどうして、ここに・・」
 響子に言われて、高志は頭を掻いている。
「実はさ、白川さんは、商工会の大先輩でしょ。この人に『今日は、オレについて来い』って言われたからさ」
「アラ、あなた、少しはマトモになったのね」
 女の子達は皆、高志が響子の元の亭主であることを知っていた。
「なんだ、君たち、知り合いだったのか」
 ご老人は、二人を見比べながら、不思議そうな顔をしている。
 ルフランを開店して、しばらくすると白川は肝臓を壊して入院してしまい、それに代わって、元亭の高志が店に来るようになったのだ。
 
 だが蔵原は、この高志に見覚えがあった。
 痩せて青白い顔は、昔ながらで変わっていなかったが、話をしたことがなかったから、名前なんて知らなかった。
 ある時、「男は、女を口説かないと・・」と、蔵原に自慢げに言ったことがあった。その時はもう、響子と結婚の約束をしていたのだろう。
 蔵原は、この男を見て、そんな出来事を思い出した。
 だが蔵原には、家庭があったし、サラリーマンは飲み代を捻出するのが精一杯で、余分な小遣いはなかったのだ。
 だから、響子とは楽しく飲める仲間だったけれど、口説く気なんて毛頭なかった。
 彼は自営業の社長だったから、いくらでも金が注ぎこめたのだろうと、軽く聞き流していた。だから、ライバル意識も嫉妬もなかった。
 水商売の世界には、見えない所で、様々な人間模様が展開されているのだ。
 
 来客が増えて、ソファー席が狭くなったので、蔵原は気を利かせて、そっとカウンターに移った。
 すると、どこにいたのか、朋美が蔵原の前にスッと立っていた。ママの手伝いで、厨房の中にいたようだった。
「メール、したんですけど」
「オー、見た。見た。でも、大阪に出張したりして、忙しかったから、予定が立たなかったんだ」
「今日は、この後・・」
 朋美が、なにか言いたげに、色っぽい目で覗き込んできた。
「ウーン、森山が来てるからさ、どうなるかな。アイツのことだから、もう一軒、なんて言うかも・・」
 朋美は、残念そうに厨房に戻って行った。
 
 蔵原は、ふと、ルフランを紹介したのが真理奈だったのを思い出した。
 横浜・関内のクラブで飲んでいた時に、藤沢の店を教えてくれて、それから何度か行っていたら、ある日突然、真理奈がいたのだ。
 蔵原は、エッと驚いて、再会に握手をしたのを覚えていた。
――もしかして、あの時、僕を追いかけて来たのか。
  まさか、一目惚れではないよな。
  いい女過ぎて、僕には勿体ないけど。
 
 やがて、森山もソファー席にいずらくなったのか、蔵原がいるカウンターにやってきた。
「クラさんは、会社は、前のままなの」
「そう、モリさんみたいに、専門技術がないからさ。それで今は、どこにいるの」
「家は武蔵小杉で、研究所は、南武線で北へ行った溝の口」
 すると真理奈が来て、「お二人とも、今日は有難うございます」と、改めてお礼を言った。
「でも、いいですね。旧交を温めるって・・。懐かしくって、涙が出るほど嬉しいですよ」 
 そう言う森山に、真理奈は両手を広げると、軽くハグをした。
 そして席を立つと、蔵原の背中をそっと両手で包んで、「今日は、ありがとぅ」と耳元でささやいた。
 
「ママ、ルフランの同期会は、なんで今日なの・・」
「蔵原さん、先日、25年ぶりにお会いしたでしょ。そしたら、響子ママを思い出したんです。アア、今どうしてるかな、って。それで、感謝祭をしようと決めたんです」
「ああ、義理堅いんですね」
 森山も、真理奈の意気込みに賛同して、拍手を送っている。
 それからも、客のご老人たちが帰り、代わって何人かが店に入ってきた。
 ご祝儀を出す客もいたが、真理奈は受け取らなかったし、今夜の料金もいらないと断っていた。
――ああ、いい仕事、いいPRになってるよ。
  店を知ってもらって、仲間と来てもらう。
  それで、いい客が増えれば、いつかは元が取れるんだ。
  水商売って、そういう善意の気持なんだな。
 この店・アリスは、そんな懐かしさと温かさで満たされていた。
 それから、昔は可愛らしかった裕香がカウンターに来て、三人で昔話に花を咲かせた。
 もうずっと専業主婦で、二人の娘がいて、平凡だけど幸せだと言う。
 裕香は、生まれながらの可愛らしさに加えて、笑顔に優しさが感じられて、いい中年主婦になっていた。
 蔵原も森山も、そんな今の姿を見て、あの頃の懐かしさがさらに募ってきていた。
――人、それそれに生きてきたんだろうけど、
  父親を軽蔑し、恨んでいた子たちは、どうなったのかな。
  幸せになってるのかな。
  普通の社会人なっていれば、いいけど・・。
 ルフランというあの場所は、いい雰囲気でいい時間を漂っていられたから、そんな自分を思い出して、感謝の気持ちが湧いていた。
 
 店に来る客が増えて、ソファー席の客がカウンターにも流れてきた。
蔵原は、朋美がいない隙を突いて、森山にささやいた。
「混んできたから、別の店に移るか」
「そうだな。クラさんとは、久しぶりたから」
 蔵原が真奈美に合図を送ると、飛んできて「もう、お帰りですか。もう少しいらして下さい」と懇願している。
「うん、ありがとう。また来るよ」
「ええ、是非とも」
「でも、響子の元気な顔を見たし、他の女の子も立派な中年だし、今日の同期会、すごく良かったよ」
 ドアの外まで送ってきた真理奈は、蔵原の手を握ると、「絶対に来てくださいね」とささやいた。
 蔵原は、店を出て歩きながら、ふと思った。
――そうだ。次に来た時、聞いてみよう。
  なぜ横浜から、藤沢に来たのかを。
  僕を追いかけてきた、って、告白されたら・・。
  ああ、あの頃が懐かしいな。
                      ― おしまい ―
 

 





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