★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。  人は誰しも、ファザコン、マザコンによる願望があり、それを達成する行動をとります。その生まれ、育ちで、パーソナリティが形成されて、その体験が、深層心理やトラウマとなります。  そんな男と女が出逢って、その心の奥底から求め合う≪願い≫、そんな愛の物語を、フィクションで・・。
 
2018/05/17|その他
 ◇ 似 た 者 同 志 ◇ [男と女の風景・129]  
 
 
                        2018年5月17日(木)・更新
 
− 我が家のベランダ・ガ−デン −

   ○ 五月の花たち ○
 
  ≪写真・左・・ユキノシタ≫
 この株は、大きく育って見事な花を咲かせました。
 でも、この種は、同じ鉢の中で、突然枯れて姿を消す株もあって、その違いがなぜなのか判りません。
 
  ≪写真・中・・ニワフジ≫
 これは日本、中国などが原産で、マメ科の小低木で、藤のミニではありません。
 あまり大きくならないので、演芸用には適しています。
 
  ≪写真、右・・セッコク≫
 これはラン科の植物で、岩の上や大木に着生し、昔は≪長生草≫の名前で栽培されていたそうです。
 ミズゴケで補正したのですが、まだ着生していないため、花数も少ないのです。
 

                    [男と女の風景・129]
                     ― つづき・2―

    ◇ 似 た 者 同 志  
 
 あの日から二週間たった金曜日の夜、柳田慶子からメールがあった。
  ≪明日の土曜日、空いてますか。
   宜しかったら鎌倉散策、どうですか。
   13時に鎌倉駅西口で待ってます。慶子≫
 祐介は、明日は暇だから、漫画のブログを更新しようかと思っていた。
 だが、直ぐに折り返して、≪有難うございます。指示通りに行きます。祐介≫と返事をした。
 
 祐介は、この10日間余りの時間、職場では慶子を常に意識していた。
 庶務担当の慶子は、課長のすぐ目の前のデスクにいたし、最も若い祐介は末席に座っていから、目を合わせることもなかった。
 だが、慶子の存在が気になって仕方がなかったから、ふと何気に何度も目をやっては、様子を窺っていたのだ。
 そんな気もそぞろの状況だったから、祐介は仕事もままならなかった。
 しかも、土曜、日曜の休みの日も、常に慶子への思いを募らせていた。

 そして、時には、あの時のキスの触感を思い出しては、自分の指先で唇をなぞったりもしていた
 祐介は、中学も高校も、大学生になっても、地味な漫画オタクだったし、自分はモテないと思い込んでいた。
 しかし、慶子と言う女性と初めてキスをして、その思わぬラッキーチャンスで舞い上がってしまい、初恋の甘美な妄想に酔っていた。
 だから、自分が夢の中を彷徨っているのも気付かなかったし、気持は、もう慶子に占領されていたのである。
 
 そして鎌倉散策の当日、祐介は気が急いていて早目に家を出たが、鎌倉に着いたのは予定より30分も早かった。
 晴れた春の陽気は快適だったから、駅前広場には多くの観光客が群れていて、賑やかだった。
 そんな人たちを眺めながら、祐介はウキウキした気分で、ひたすら待っていた。
 ほぼ定時に来た慶子は、会社の制服姿からは想像もつかない衣装で現れた。
 本人が改札口から手を振って来ないと、見失ってしまういそうな、そんな予想外の姿だった。
 驚いたことに、慶子は薄い茶色のサングラスをかけていた。
 しかも、首筋には銀ラメで薄手のマフラーを巻いていたし、髪もアップして、後ろで無造作に結んでいた。
 そして、なんとピンクの花柄のシャツにジーンズを履いて、カッコいい女になっていた。
 慶子の容姿は腰がくびれて、スリムな体をしていたが、それにぴったりとしたデニムを履いていた。
 祐介は、その体型を改めて眺めなから、思わず慶子の裸体を想像してしまった。
「いやぁ、今日のファッション最高ですね」
「アラ、私、いつもこんなスタイルですよ」
 慶子は、何気にサラッと言った。
 
「さぁて、今日は銭洗弁天なんて、どうです」と、慶子が聞いてきた。
「ああ、話には聞いたことあるけど、行ったことはないです」
「では、そこへ行きましょう」
 そう言うと、慶子は軽快な足取りで、颯爽と歩き出した。
 佐助の信号を右折して、しばらく行くと、やがて急勾配の坂道になって、その道を登って行った。
 すると、宇賀福神社と彫られた大きな石碑があり、その横にある石の鳥居をくぐって団体客が出てきた。
 覗き込むと、岩をくり抜いた長いトンネルがあって、奥へと続いていた。
 そこを抜けると、鳥居の列が並んでいて、さらにその先が広場になっていた。
 銭洗弁天は人気のスポットだったし、土曜日でもあって、境内には参拝客がかなり多くて群がっていた。
 祐介は、慶子から銭洗弁天の由来を聞いてから、さっそく100円を払ってローソクと篭を貰うと、洗い場に向かった。
 清水が流れるそこは混雑していたが、大人も子供も、順番待ちをしながら、並んでお金を洗っていた。
 祐介は、他愛のないことだとは思ったが、あえて一万円札を出すと、篭に入れて、ご利益があると言う霊水で洗った。
――これで、金持ちになるわけではないけど、
  まぁ、これも、折角お参りした記念の儀式だから・・。
 
 祐介が、水で濡れた万札を指先で摘まんで、建物を出てくると、慶子が、小さな声で「棚橋さん」と呼び止めた。
 すると、祐介はいきなり腕を掴まれて、広場の隅にある売店の方に連れて行かれた。
「あなた、サングラスある」
「ええ、バッグに」
「直ぐにかけて・・。それから帽子は深くかぶって」
 祐介は、訳が判らなかったが、言われた通りにサングラスを取り出すと、ヤンキースの野球帽を目深にかぶり直した。
「どうしたんですか」
「あそこの二人、うちの課長と常務秘書なのよ」
「エッ、まさか・・」
 祐介がゆっくりと体を回して、目で探すと、直ぐ近くで人混みに交じってその二人が見えた。
 腕を組んで仲睦まじく談笑する二人の顔には、確かに見覚えがあった。
「あの秘書の敦子は、私と同期生でね、結婚して、子供がいるのよ。そう、あの子、鎌倉に住んでるの・・」
 二人は、ずっと見つめ合ったまま笑顔を交わしていて、いかにも親しげだったから、恋人同士に見えた。
「ああ、あの子、不倫してるのかぁ。知らなかったな。でも、あの男と女、ヤバイよね」
 慶子は腹が立っていたのか、いつになく荒っぽく言い放った。
−−ああ、先輩は、カチンときたのかも・・。
  そう、自分の上司が、友達に寝取られたって・・。
  フーン、でも、職場の不倫て、見えない所で普通にあるんだね。
  あんな美人のインテリが、やることは大胆だとは、驚きだな。
 慶子と祐介は、あのペアの立ち位置を気にしながら、境内の庭や建物を見て回った。 
 そして、二人は出入り口のトンネルに消えて行った。
 
 その後の予定で、慶子は、新緑の山道を散策したかったから、とにかく源氏山公園に行きたかった。
 そこから先、山頂から北鎌倉の駅に降りるか、長谷の大仏まで足を延ばすかは、様子を見て決めることにした。
 鎌倉はどこに行っても人がいっぱいで、急な坂道を登る源氏山なのに、人でにぎわっていた。
 桜の花が終わって、もう新緑が芽生えたのに、山頂の広場にも人の姿が多かった。家族連れなのか、シートを敷いてのんびりと日光浴をするグループもいた。
 二人は、一休みしようと日陰の草むらに座って、遠くまで展望できるに緑の山並みを眺めていた。
 海から渡ってくる心地いい風が頬をかすめて、汗ばんだ疲れを癒してくれた。
「柳田さん、僕はこの10日間、毎日、職場でも、家に帰っても、あなたのことを思っています。ええ、もう虜になって・・」
「アラー、チョッと嬉しいかな。でも私、結婚はダメよ」
「エッ、どうしてですか」
「もうずっと、母と二人暮らしだし、私の家庭は、他の人に掻き回されたくないの」
「ずっと二人、って・・」
「そうね。実は・・、両親は共に学校の先生で、15年前に離婚したのよ。だから、男性と暮らすなんて、もう嫌なの・・」
――フーン、そういうことか。
  なにが原因かは知らないけど、男に不信感があるのかも・・。
  それが、嫌悪感になって、男性拒絶症かもな。
 祐介は、結婚はしないと言われたが、それでも一緒にいたいという願望は、ますます熱烈に燃えていった。
 
 それから、折角だから公園を一回りしようと、道なりに歩いていった。
 だが、大きく生い茂る大木の下で、ふと慶子が立ち止った。じっと覗き込んでいる先に、あの二人の姿を見てしまったのだ。
 ベンチに座っていた二人は、人気がなかったとは言え、大胆にも抱き合って熱烈なキスを交わしていた。
「あなた、この木の陰に隠れていて」
 そう言い残すと、慶子はつかつかと歩いて、二人の前に仁王立ちになった。
「敦子、なにしてるの」
 突然、声がかかって、キスをしていた二人は仰け反ると、声の主を見た。
「エッ、あなた、誰」
 慶子はサングラスをかけていたし、髪をアップにして、花柄のピンクのシャツを着ていたから、直ぐには誰か判らなかった。
「あなたには、ご亭主も子供もいるでしょ」
「エッ、もしかして慶子・・」
 慶子は、おもむろにサングラスを外すと、軽蔑の視線を投げつけて、「あなた、不倫は、ヤバイでしょ」と詰め寄った。
 本来なら、年長の男性である課長に言うべきだったが、自分の上司であるだけに、流石に言えなかった。
「そんなの、私の勝手でしょ。あなたに言われる筋合いではないの」
「そうよね、でもあなた、罪作りなのよ」
「いいのよ。そんなことは、どうでも」
「そう・・、では、どうぞご勝手に・・」
 慶子は、皮肉を込めて捨て台詞を投げつけると、それ以上は追及しないで、二人に背を向けて通路に戻ってきた。
 慶子が、二人の前にあえて顔を出したのは、同期生への忠告だったが、内心では課長に対する牽制だった。
 祐介は、一部始終を大きな木の陰で見ていたが、同期生同士の陰湿な争いが、裏に隠れているように感じた。
――ああ、これは、先輩の嫉妬だよ。
  私だって、ここにいるのよ、って、課長にアッピールしたんだ。
  同期生へのライバル意識を剥き出しにしてね。
  女の争い、って、どこか陰湿なんだよな。
 
 「ああ、敦子って、頭に来るわね。だってそうでしょ」
――そんなこと、僕に言われても・・。
  お互いに大人なんだから、干渉しない方が・・。
 祐介は、慶子が内心、怒り狂っているような気がした。
 そんな苛立った女の危険を避けようと、少し離れて後をついて行った。
「あなた、不倫よ。しかも公衆の場で、キスをするなんて、許せない」
――ああ、やっぱりすごい剣幕で怒ってるんだ。
  こういう争い事って、嫌だな。
「敦子はね、自分が才色兼備だから秘書に抜擢されたの、って、いつも自慢してるのよ。上司にはお世辞を言って、笑顔でご機嫌を取るのにさ。裏では、鬼のように若い子を苛めてるの・・」
 小心な祐介は背中を丸めて、トラブルに巻き込まれないように、聞こえないフリをしてついて行った。
「ああ、許せない」
 慶子は、余程カチンと頭に来たのだろう、顔も眼つきも引きつって、ムシャクシャした気分を露骨に見せていた。
――あの優しくて、おっとりした先輩は、どこへ行ったの・・。
  この癇癪持ちって、僕の母と同じだよ。
  そう、大っ嫌いな母とね。
  先輩、もしかしてこれが本性、裏の顔なの・・。
  ああ、選んだ人を間違えたかも・・。
  そう、燃え上がった初恋も、しぼんでしまったよ。
 今の慶子を見ていると、職場で見る優しくて、おしとやかな微笑を亡くして、まるで別人のようだった。
 慶子は、葛原岡神社の境内に入り、鳥居をくぐっても、無言のまま参拝もせずに北鎌倉の方に降りて行った。
 
 ところが、山ノ内の細い道を歩いていると、慶子はさらに狭い路地に曲がって、奥へ入って行った。
 そして、角を曲がって、死角になる窪地に来ると、慶子は黙って手を差し出してきた。
 祐介は一瞬、戸惑って、慶子の顔を窺ったが、その能面のような無表情の魔力に引き寄せられた。
 そして、慶子は両手で祐介の頭を押さえると、祐介の眼を見たままキスをしてきた。
 しかも、強く押し付けてきて、思わず祐介はもがいた。
 それからも、舌先で貪欲に祐介の唇を舐め回し続けて、ついには舌を口の中に差し込んできた。
 その滑った感触に、思わずハッとして頭を引いたが、慶子が頭を押さえていて、どうにも身動きが取れなかった。
 慶子は、さっきの鬱憤を晴らすかのように、祐介をセックスで強引に捻じ伏せようとしていた。
 そして、祐介の右手を掴むと、自分の胸に誘導して、揉むように押しつけてきた。
――エッ、なに・・。これってバストだよな。
  こんなに大きかったの・・。
 祐介は、初めて指に感じる乳房の柔らかさと、弾き返す弾力に驚いた。
――ああ、この触感、いいなぁ。
 すると慶子は、いきなり祐介の股間に手を押し当ててきて、摩り始めた。
――オイ、待ってくれよ。
  なんで突然、そこなんだ。
 慶子の大胆で強引なやり方に驚いているうちに、それはもう勃起し始めていた。
「先輩、止めてください」
 悲痛な思いで、祐介は身をよじったが、固くなったそれは、もう握られていた。
「僕はヤだ」
 祐介は我慢できずに、そう叫ぶと、いきなり腰が抜けたように、地面にストンと全身を落とした。
 そして、両手で体を起こすと、四つん這いのまま、急いで窪地から小道に逃げ出していった。
 立ち上がって振り返ると、窪地の奥で、慶子が恨めしそうな顔をして睨みつけていた。
 その表情が、無言なだけに、怖い女に見えた。思わず、身の毛がよだって、見たくもない嫌悪感が湧いてきた。
 祐介は居たたまれずに、その場を小走りで逃げて来てしまった。
 
 それから、祐介は自分が今、どこを歩いているのかなど考えもしなかった。
 ただ、いきなりキスをされて、胸を揉まされて、挙句の果てには、股間を探られて勃起した悪夢が、忌まわしく頭に浮かんでいた。
 30歳を越えた女が攻めてきた、あの大胆な性行為に、今は恐怖感さえ覚えていた。
――なんだ。あの鬼ババアは・・。
  まるっきりセック好きの変態女じゃない。
  でも、魔女の素顔を見れて、良かったよな。
  僕は初恋に狂って、結婚を決意して、
  そう、今日は、プロポーズするつもりだったけど・・。
  寸前で止めてくれたんだ。
 祐介は、クルマが行き交う鎌倉街道に出たが、もう北鎌倉の駅は通り過ぎていた。だから、ひたすら大船に向かって歩いていた。
 だが、祐介は、答えのない自問自答を繰り返しながら、まるで夢遊病者のようにトボトボと歩いていた。
 そして祐介には、なぜか、いたたまれないもの悲しさが胸を突き上げてきた。
 先輩の慶子が愛おしくも見えたが、哀れな女にも思えてきたのだ。
――なんでそんなに、自分を落とし入れるんだ。
  あの優しい笑顔のおっとり感は、誰にも負けない美点なのに・・。
  なぜ、あんなにも豹変したんだ。
  もしかして、心の奥底に積もりに積もったストレス、
  その重症さに気づかずに、もがいているのかも・・。
  手助けしてあげたいけど、でも、僕には重たすぎる荷物だよ。


 祐介は自販機を見つけると、微糖の缶コーヒーを買った。
 そして、その前に座り込むと、行き交うクルマをぼんやりと眺めながら、コーヒーを味わっていた。
 すると、なんとも言い難い悲しみが湧いてきて、絶望してしまった虚脱感にじんわりと染み込んできた。
――僕は、先輩とは似た者同士だと思ったよ。
  本当は引っ込み思案で、ネクラな人間て、さ。
  でも、ハートの中身は全く違ってたんだ。
  ああ、女の本性が判らないよ。
  あんなにトップ・レディなのに、裏心はセックス好きで・・。
  嫉妬深くて、攻撃的で、しかも自分本位だった。
  ああ、人間不信になりそうだな。
  でも、いい試練だったし、人生の勉強にもなったよ。
  しかし、職場で、あのドロ沼状態は、やりずらいな。
  でもまぁ、知らぬ存ぜぬを貫くしかないか。
  そう、根性据えて、図太くね。
  それも、ひと皮剥ける試練かも・・。
                       ― おしまい ―
 


 
 
 
 





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