★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。  人は誰しも、ファザコン、マザコンによる願望があり、それを達成する行動をとります。その生まれ、育ちで、パーソナリティが形成されて、その体験が、深層心理やトラウマとなります。  そんな男と女が出逢って、その心の奥底から求め合う≪願い≫、そんな愛の物語を、フィクションで・・。
 
2018/05/10|その他
 ◇ 似 た 者 同 志 ◇ [男と女の風景・129]
                                   2018年5月3日(木)・更新
 
− 我が家のベランダ・ガ−デン −


  
○ 山野草展に出品 ○

 このゴールデンウイークに、≪湘南山野草友の会≫では≪春の山野草展≫を平塚市民プラザで開催しました。
 会員の全出品数は200品を越えて、来場者も500人以上でした。また、余剰苗の安価な販売も200鉢以上、売れたとのこと。
 私は7品出品しましたが、今回はそのうち3品を紹介します。
 
  ≪写真・左・・石付の残雪草≫
 写真では見ずらいのですが、右手前の銀色が残雪草です。
 この4月に購入した時は、背丈が3ミリ程度でしたが、もう5ミリを超えています。
 秦野の水無川で拾ってきた石を添えて、コケで固めて、風景を作ったつもりですが、どうでしょう。
 
 ≪写真・中・・アリドオシ≫
 これは、以前にも紹介しましたが、会員の皆さんはあまり見かけないようで、珍重がられました。
 この時期に小さな白い花が咲いて、10月頃に緑の実をつけ始めて、約6か月経ってもこんなに多くの赤い実をつけています。
 それが、驚きのポイントで、最後の日には、皆さん実を取って、実生に挑戦するとのこと。
 
  ≪写真、右・・イノデ≫
 これは、漢字では≪猪の手≫と書きますが、4月に芽生えた新芽で、こんな出品も珍しいようでした。
 
 
                    [男と女の風景・129]

    ◇ 似 た 者 同 志  
 
 棚橋祐介は、皆と別れて、独り新橋の駅に向かってとぼとぼと歩いていた。
 まだ夜の8時で、繁華街は行き交う人たちでにぎわっていた。
 見かける男たちは、スーツ姿が多かったから、サラリーマンなのだろう。

 後ろから、酔った勢いで陽気に話す声が聞こえると、その男達に、直ぐに追い越された。
 4月に入って間もない今日は、恒例になっている新入社員の歓迎会が一席設けられた。職場の同僚たちは皆、若かったから、課長を含め大いに盛り上がっていた。
 だが、祐介は、二次会のカラオケには行かなかった。
 皆で酒を飲むのも、ノリノリでバカ騒ぎするのも苦手だった。
 だから、今日も仕方なしの付き合いで、気乗りがしなかったが参加したのだ。
 
 新橋駅を目の前にして、信号待ちをしていると、「アラ、棚橋君」と声がかかった。
 振り向くと、先輩の柳田女史だった。
「あっ、先輩、二次会は・・」
 祐介は、柳田慶子が二次会に行くわけがないのを知っていたが、あえてそう聞いた。
「私は、苦手なの・・」
 同じ職場で見かける慶子は、はいつも物静かで、引っ込み思案の女性だった。
 話かけても黙って聞くだけの人で、たまに返事をしても、小さな声で聞き取りずらい程だった。
 仕事は、庶務課の庶務担当で、地味にコツコツと事務処理をこなしていた。
 もう三十路に入ったはずで、入社四年目の祐介よりは5―6年も上の先輩だった。
 
「アッ、先輩、とこかカフェでも行きませんか」
 たとえ偶然とはいえ、ここは男が一声かけるのが礼儀だと思って誘ってみた。
 いつもの祐介は、女性と接するのが苦手だったが、なぜか思い切って切り出した。
 慶子は一瞬戸惑ったが、優しく微笑むと「そうね。たまには・・」とうなずいた。
――えっ、まさか・・。
  いつもの先輩なら、きっと断るだろうに・・。
 その返事は、祐介にとって予想外のハプニングだったから、改めて慶子の顔を見直してしまった。
 慶子は、仕事でも言葉が少なげで、物静かに語る女性だった。しかも、微笑みを浮かべながら、いつも慎ましやかに振舞っているのだ。
 
 それから、祐介は心を躍らせて信号を渡ると、「あそこに行けば、カフェがあるかも」とニュー新橋ビルに向かった。
 正面から入ると、通路の両側には店が立ち並び、飲み客も行き交っていて賑やかだった。
 通路にはみ出した看板を当たったが、それらしい店は見つからなかった。
 だが、通路の奥まで行くと、機関車広場に面したカフェを見つけた。
 店に入って、祐介はコーヒーを飲むつもりだったが、隣の席にいる高齢のカップルが、グラスのビールを飲んでいた。
 そんな様子を見て、なぜか「どうです、先輩、軽くビールでも」と言ってしまった。
 慶子は、祐介を見詰めたまま一瞬考えたが、「飲み直しをしますか」と、また予想外のことを言った。
「でも、さっきの一次会では、確かジュースを」
「そうね、私、お酒に弱いし、騒がしいのもあまり・・」
「ええ、僕もですよ。お酒は全然ダメです。ああ、でも先輩を見たら、何故か飲みたいんです」
「私も、そう。棚橋君に誘われるなんてないから、一緒に飲みたいな、って。でも、こんな気分、初めてかも・・」
「いやぁ、僕は嬉しいです」
「もしかして、似た者同士で、波長が合うのかも・・」
 
 ビールが届くと、祐介は「いつもお世話になってます」と、慶子に敬意を表してグラスを掲げた。
 祐介は、人はいいが気が弱くて、仕事も人付き合いも引っ込み思案だった。だから、いつも寡黙でおとなしかった。
 そんな二人には、職場でもお互いにほとんど会話がなかった。
 だが、祐介は今、気分が上々で、職場では見せないテンションで、心を躍らせていた。
「ああ、なんか、すがすがしく美味しいですね」
 祐介はそう言ってから、素直に喋れている自分に、内心、驚いていた。
――この人だと、なんで意識過剰にならないのかな。
  いつも、この優しい微笑みに出会ってるから、かな。
  母にはない優しさだよな。
  女性は苦手だけど、この人なら・・。
「先輩、気分はどうですか」
「ええ、とってもいい気分です。こういう感じで、穏やかに、ゆったりと飲むのって、いいですね」
 慶子は年上なのに、相変わらず丁寧な言い回しをしていた。
――そうだよ。このおっとりとした人柄、それがいいんだ。
  そこが、魅力的だな。
  なにか、好きになってしまいそう・・。
 
 祐介は、ビールをグイッと飲んで勢いをつけると、ずっと聞きたかったことを口にした。
「先輩、失礼ですけど・・、なぜ結婚しないんですか」
「えっ、ええ・・」
 慶子は祐介を見詰めたまま、言い澱んでしまった。
「アッ、失礼しました」
「いえ、いいんです。あのぅ、母が病弱でして、家事は私がやらないと・・」
「ああ、そうなんですか」
「だから、男性からは、いつも遠ざかって・・。でもこれは、内緒ですよ」
――そうか。男を避けていたんだ。
  僕は年下だから、対象外だし、
  だから付き合ってくれたのかも・・。
  その分、こっちも気楽でいられるんだ。
  それにしても、服装まで地味にして・・。
  そう、化粧も薄くて・・。
  でも、顔には艶があるし、肌はきめが細やかで、
  若々しい透明感があるよ。
 
「棚橋君は、休みの日には、なにをしてるの」
「はい、僕はパソコンのゲーム、アッ、ブログにマンガを掲載してます」
「アラー、以外ですね。なにか面白そう。それで、検索するには・・」
「いやぁ、恥ずかしいですよ」
「でも、是非とも見たいな」
「エエッ・・、困ったな」
 だが、慶子は酔いが回った赤ら顔で、覗き込んできた。
「ああ、もう言っちゃったから、仕方がないですか・・。では先輩、会社では内緒ですよ」
 慶子がうなずくのを見ると、「では、スマホでネットを出して下さい」と言うしかなかった。
 そして、慶子はバッグから取り出すと、ネットをセットをした。
すると、祐介は「検索は≪まんが君≫です。平仮名で≪まんが≫、その後に≪君≫、それで検索すると、トップに来ます」と教えた。
 慶子は指示通りに操作をすると、「アッ、来た。エッ、このアップ・・。ワァーッ、あなたの似顔絵よね」と、はしゃいでいる。
――ああ、喜んでくれてるよ。
  こんなに受けるとはね。嬉しいな。
 それから、画面はまんが君のシリーズが始まって、@青春譜、A放浪記、B失敗談へと続いていた。
 祐介は「家へ帰って、パソコンの大画面で見て下さい」と勧めた。
「ああ、今晩が楽しみですね」
「でも先輩、お互いに内緒事が出来ましたね」
「エッ・・、アア、そうですよね。いつの間にか、お互いの秘密が・・」
 二人は見つめ合うと、朗らかに笑い合った。
――職場では、物静かで、取っつきにくかったけど、
  でも、案外と気さくなんだな。
  親近感が湧いてきたよ。
  そう、このおっとり、ふんわかした雰囲気、いいな。
  この育ち方は、きっと良家なんだろうな。
  オレなんて、イジケてるし、ヒネてるけど・・。
  なんか、興味が湧いてきたよ。
  そう、この人をもっと知りたいな。
 
 祐介は残ったビールを飲み干すと、「僕は追加しますけど、先輩は・・」と覗き込んだ。
 もう、酔いが回って赤い顔をしていたが、「ええ、私も・・」と、悠然と応えた。
「ワァオ、こんなの初めてでしょ」
「ええ、そうかも・・」
 祐介は、女性とこんなにもフランクに話せるなんて、自分でも信じられなかった。
「先輩、僕は女性が苦手なんです。ええ、意識過剰になって、普通には話せないんです」
――ああ、自分のことを、普通に話してるよ。
  しかも、自分の弱みを暴露してる。
「だから、彼女がいない歴、25年・・。ええ、未だに童貞君なんです」
 慶子は、祐介のどこが可笑しかったのか、クスッと笑った。
「ええ、私も未経験ですよ」
「エッ・・、そうなんですか」
 二人は見つめ合うと、吐息を漏らすように、ウフッと笑いを同時に吹き出した。
 それがまた、さらに笑いを誘って、朗らかな気分にさせた。
――ああ、子供じみて、他愛がないけど・・、
  でも、こんなことで笑い合えるんだなぁ。
  心の交流って、実は簡単なんだよ。
  そう、イジケて、引き籠ってるオマエが悪いんだ。
  一歩でも、半歩でも、前に出ないと・・。
「先輩、僕は、表向きには、独身主義者だって名乗ってますけど、実は、女性恐怖症なんです」
「まさか、でしょ。そんな風には・・」
「でも、今は、普通に話せてます。これは、優しい先輩のお蔭なんです。はい。感謝します」
 祐介は、テーブルで向かい合った慶子に、最敬礼で頭を下げた。
――そう、気の強い母に、イヤなくらいに小言を言われて、さ。
  その度に、どうしようもなく嫌気がさして、
  母の顔を見るのも、嫌になるんだ。
  そうか。母への拒絶症かも・・。
 
 すると、追加のビールが来て、二人はにこやかに二度目の乾杯をした。
「先輩、休みの日も、ずっと家ですか」
「いえ、時々は暇を見つけて、鎌倉の神社やお寺巡りを・・」
「ホゥ・・、それっていいですね。僕も行きたいな。今度、連れて行って下さいよ」
「そうですね。いいですよ。でも、気まぐれの散策ですから・・」
「それでいいんです。邪魔しないように、お供をしますよ」
 祐介は、予定は未定だったが、デートの約束を取り付けて、ご満悦だった。
「先輩は、確か戸塚だとか」
「ええ、駅に近い団地で、母と二人で・・。だから、鎌倉へは横須賀線で一直線です」
「僕は、藤沢の鵠沼でして、鎌倉へ行くにはは江ノ電です」
「そうなんですか。海に近くて、いいですね」
 二人は、表向きは、そんな普通の日常的な話をしていた。
 だが、今の会話の中で、祐介にはひとつ気になることがあった。
――母と二人で、とは、どういうことだ。
  病弱の母と、団地で、か。
  そうなら、生活費は先輩が・・。
  フーン、なにかあったんだろうな。
 祐介は、慶子がおっとりとした性格であり、裕福な家庭に育ったのではと、思っていたから、ますます大きな疑問符が湧いてきた。
 だが、流石にそれだけはタブーだと思って、その話題には触れないことにした。
 
 二杯目のビールがなくなると、「先輩、あの機関車広場、行ってみませんか」と誘った。
 お酒に酔ってフワァッとした気分で、現場に行ってみると、照明が弱いのか意外と薄暗かった。
 広場を横切って歩く人もいたが、黒い影の人たちが、何人か所在無くたむろしていた。
 見る程に黒々とした機関車の実物が、デーンと構えて、待ち受けていた。見上げれば、鉄のゴツイ塊は時代の郷愁を感じさせて、どこか懐かしかった。
 タイルレンガの囲いに座ると、暗く広がる広場には人々が行き交い、その上に新橋駅のホームが見えた。
「アッ、電車が入ってきた」
 電車の窓から発する明かりは、眩しい程に煌々として、広場を相対的に暗く見せていた。
「いつもは、ホームから広場を見てるけど、逆だと、こう見えるのか。しかも、夜だと、初めて見る違った風景だね」
「そう、都会の顔は、見る角度でガラッと違うの・・」
 
 ふと、目の前にいる背の高い男が、人を待っているのか、改札の出口を見詰めたまま立ち尽くしていた。
 暗い中で腕時計を何度もチェックすると、広場をあてどもなくトボトボと歩き出した。
 スーツ姿の紳士はビジネスマンらしくて、革製の書類バッグを持ち、キャスター付きの大きなトランクを引いていた。
 やがて、一回りして機関車の前に戻ってくると、また腕時計を見ている。
 それから、ふと広場を見回した男が、いきなり大声を上げると、飛び上がって手を振った。
「おーい、昌江、ここだ」
 すると、ロングスカートの女性が駆け寄ってきて、そのまま男に抱きついた。
 そして、二人は深々と両手で抱き合って、お互いを感じ合うと、いきなり大胆にもキスを始めた。
「エエッ、なに・・」
 思わず、祐介は驚いて声を上げた。
 だが、慶子は、その様子を微笑ましそうにじっと見ていた。
 しかし、目の前の男と女は、熱い思いで燃え上がって、お互いを夢中で求め合う熱烈なキスをしていた。
 祐介は、突然、目の前で展開されたキスシーンに、もう度肝を抜かれてしまい、呆気にとられていた。
 タイルレンガに並んで座っていた慶子も、その必至な熱烈さに、もう唖然として、ただ見ているしかなかった。
 目を凝らして見ていた祐介は、強烈な現実を目の当たりにして、羨望の思いが沸々と湧いてきた。
――ああ、この二人、いいな。
  もしかして、遠距離恋愛かな・・。
  いやぁ、単身赴任のご夫婦かも・・。
  そう、この二人は、久々に再会したんだな。
  そんな必死で、切実な思いが、今、爆発してるんだ。
  これって、孤独な人間同志の、心からの求愛だよ。
  ああ、こんな切羽詰まった恋愛、たまんないな。 
 やがて、男と女は離れると、改めてお互いの顔を、いかにも懐かしそうに見つめ合っている。
 そして、男が肩に手を回すと、優しく抱くようにして歩き出した。
 そんな二人のシルエットに、祐介は感動していた。
 
 祐介は、二人の後ろ姿がビルの陰に消えるまで、ぼんやりと見ていた。
 すると、「羨ましいな。先輩、僕もしたいな」と、ぽつりと言った。
 映画とは違う生々しい現実に圧倒されて、慶子も呆然としていたが、祐介の一言で我に返ると、優しく微笑んだ。
「さぁ、坊や、いらっしゃい」
――エッ、母親みたい・・。
 慶子は、酒に酔った勢いなのか、今の二人に触発されたのか、優しく声をかけた。
「あなたの頬に、チューしてあげる」
 祐介は驚いたが、慶子に手を差し出されて、引かれるように抱きついた。
 慶子は、祐介の背中に手を回すと、頬に二度も、三度も熱い唇を、押し付けていった。
「可愛い子ね」
 慶子はそっと耳元でささやくと、祐介の首筋に、唇をそぅっと滑らせていった。
 祐介は「エッ」として、一瞬ゾクゾクッと震えがきたが、優しい吐息を感じて、されるままに任せた。
「ああ・・、先輩」
 慶子の温かな唇が、首筋に何度も繰り返して触れていた。
 祐介は、その初めて味わう唇の触感を、もう夢心地で舞い上がって感じていた。
 
「ああ、嬉しいです・・」
 祐介はたまらずに、突然、慶子の頭を両手で押さえると、無我夢中で唇を押し付けて行った。
 慶子は一瞬首を振って、唇を固く閉じたが、祐介はひたすら慶子を求めていた。
 いきなり理性がブチ切れて、獣(けだもの)と化した祐介は、荒々しく慶子の唇を求めていった。
 そして、何度も繰り返して触れていると、やがてその熱意に応えて、慶子も求めてきた。
 
「ああ、先輩、僕は嬉しいです。初めてのキスです」
 祐介は、胸が高鳴った高揚感に満たされて、慶子にべこっと頭を下げた。
「ええ、私も、初めて・・」
 慶子はそう言うと、「ウフッ」と含み笑いをした。
「私達、また秘密が増えましたね」
「はい、これは秘密です」
 慶子がさり気なく牽制すると、祐介は自分に『これは秘密だ』と言い聞かせていた。
「でも、先輩、お蔭さまで、女性恐怖症の黒い雲が、消えていきそうです」
「そう、よかったですね」
「オマエは、もっとフランクにやれ、って、自信がつきました」
  
                                 ― つづく ―

 
 





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