★ ≪トキメ気≫の[iBOX] ★ [男と女の風景] (短編小説集)

これは、大人のラブストーリーです。  人は誰しも、ファザコン、マザコンによる願望があり、それを達成する行動をとります。その生まれ、育ちで、パーソナリティが形成されて、その体験が、深層心理やトラウマとなります。  そんな男と女が出逢って、その心の奥底から求め合う≪願い≫、そんな愛の物語を、フィクションで・・。
 
2018/04/12|その他
◇ 愛の紙風船 ◇ [男と女の風景・127]
                   2018年4月12日(木)
 
− 我が家のベランダ・ガ−デン −

  ○ 4月の新芽と花 ○

 今回は、四月に入った途端に花が咲き出した草花たちを、三品、紹介します。
 
≪写真・左・・ヘビイチゴ≫
 これはバラ科の多年草で、新芽の茎が地を這って伸びて、新しい株になるようです。
 夏になると赤い実を点けますが、味が薄くて美味しくないようで、毒はないためジャムに出来るとのことです。
 
  ≪写真・中・・ツタバウンランカズラ≫
 地中海沿岸が原産で、大正時代に日本に持ち込まれて、今や全国に帰化して生えているようです。
 北海道にも自生しているようで、暑さ寒さには適応するとのこと。
 

  ≪写真、右・・サギゴケ≫
 これは、田んぼの周辺や河川敷など、肥沃な土が溜まった明るい草地に生えているようです。
 白い花が一般的で、在来種の宿根草です。
 

 
                                [男と女の風景・127]
                       ― つづき・3―

    ◇ 愛の紙風船  
 
 次の週の水曜日、神山は夕食後に、ぶらっと藤沢に出ると、ブーケに立ち寄った。
 店に入ると、ママと美沙が揃って「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。
 美沙は目を輝かせて神山を見ると、恥ずかしそうにはにかんで下を向いてしまった。
 だが、ママは、なぜか能面のように、むっつりとした顔で神山を睨みつけている。
 既に客が二人いたので、神山はカウンターの奥に離れて座った。
 ところが、ママが水割りを作る前に、なにかを思い出したのか「あっ、そうだ。美沙ちゃん」と声をかけた。
「コンビニで、買い物を忘れたのよ。行ってくれる・・」
 そう言いながら、厨房の奥に連れこむと、なにやら買う品物を言っているようだった。
 すると美沙が、澄まし顔で「失礼します」と言って、店を出ていった。
 
 美沙の後姿を見送ったママが、キリットした目で神山を見据えると、声を潜めて言った。
「神山さん・・、誠に申し訳ありませんが、今日は、このままお帰り戴けませんか」

「エッ、なに・・」
「もう、美沙とは会わないで、ほしいんです」
「なに・・、なにかあったの」
「それは、神山さんがご存知ですよね」
 神山は、いきなりママに帰るように宣告されて、その申し出の意図が判らずに、戸惑ってしまった。
――なにを言ってるんだ。
  会いたがってるのは、美沙だろぅ。
「美沙は、あなたに惚れてしまって、もう夢うつつなんです」
「えっ、そうなの・・」
 神山は顔を歪めると、あえてとぼけて見せた。
「そりゃあ、親子ですもの、判りますよ。あの子の眼は、かつて見たことがないほど、あなたに夢中なんです」
 神山は、親が子を思う気持は、同じ親として判っていたから、あまり反論はしなかった。

「あなたには奥さまがいて、しかもお年を召してる。どうか、若い娘を、迷わせないでください
「ウン、そうだな」
 神山は、美沙のアプローチに危険な匂いを感じていたから、ママの言い分に賛同した。
「まぁ、言ってることは判ったよ。でも、美沙はもう大人だし、主体性を認めてやっても・・」
「いいえ、精神年齢は、まだ子供です。私があなたに、『私の愛する人』って、キスを二度までもしたのに、あの子の気持を変えられなかった」
――そうか。ママの嫉妬と言うより、娘がオレを諦めるよう誘ったのか。
  でも、実は逆効果だったんだよ。
  そう、美沙は、大胆にキスを求めてもいいことを、知ったんだ。
  挙句の果ては、キスの味を覚えてしまった。
 
「先週、あの子が、いつにもない時間に、家を出ました。きっと、神山さんとデートしたんでしょう。それから、金曜日にお帰りの時、送って行った美沙は、しばらく戻ってこなかった。私には、様々に想像がつきます」
――ああ、全部チェックされてるよ。
「ああ、判ったよ。少なくとも、オレからは仕掛けないよ」
「とにかく、二度と会わないで下さい」
 神山は、憮然としたまま、複雑な気持でママの話を聞いていた。
――だってさぁ、これって降って湧いた災難だろぅ。
  会いたがっているのは、美沙でしょう。
 すると、そこに美沙がコンビニから帰ってきた。
 それを見たママが、あわてて「どうか、お帰り下さい」と低い声で唸るように言った。
 神山はまだ酒を一杯も飲んでないのに、後ろ髪を引かれる思いで、仕方なく立ち上がった。
 するとママは、足早にカウンターから出てくると、美沙に「その品物は、厨房に持っていって」と命じておいて、自らが見送りに来た。
 エレベーターホールまで来ると、深々と頭を下げたまま、扉が閉まるまでズット上げることはなかった。
 だが、店に残された美沙には、なにがあったのか判らなかった。
 
 その後、最後の客を送り出して、二人っきりになった深夜、ずっと我慢していた美沙は、ママに詰め寄った。
「神山さんは、なぜ帰ったの」
「あなたとはコンタクトをしないよう、お願いしたの」
「私が、あの人と接するのが、なぜいけないの・・」
「あなたは、まだ子供よ」
 美沙は、両手を前に広げると、またそれかと、絶望的な態度で嫌悪感を露わにした。
「しかもあの人には、奥さんがいるでしょ。だから、付き合ってはいけない人なの」
「またそれか・・。では、宣言します」
 美沙は、改めて面と向かうと構えた。
「先ず、私はもう大人です。次に、これから私は、私の考えで行動します。もしこれ以上、私を束縛するのであれば、あなたを拒絶して、自由に飛び立つしかありません」
「そうなの・・。どうぞ」
 母の奈緒美は、これまで親の庇護に守られて温室育ちだったから、美沙が自由に飛び立つなんて、絶対に出来ないと高をくくっていた。
 
 それから翌日、美沙から会いたいとのメールが、神山に何度も届いた。
 だが、神山は返事をしなかったし、あれ以来、あのお店にも行かなかった。
 そして一週間たった時、驚くべきメールが来た。

『私は近々、家を出ます。もう、あの家に戻ることはないでしょう。バイトを探して、独りで生きていきます。お会いしたいですが、その思いを断ち切って頑張ります。遠くで見ていてください。M 』
 神山は読み終わってから、母と対立したとはいえ、家を出ると宣言した美沙が、気が気ではなかった。
――美沙は、やっと自立の実力行使に出たか。
  でも、世間の荒波に大丈夫かな。
  まあ、大人に脱皮するためには、実践あるのみだよ。
  なにか手助けしたいけど、本人には目算があるんだろう。
  ここは、ただ見守るしかないか・・。
『美沙ちゃん、大人に脱皮する決意、立派だと称賛するよ。どんなことがあっても、頑張れ。ただし、どうにもできずに困った時は、協力するから、連絡をくれ。 神山 』
 神山は、初めて応援のメッセージを送った。
 
 美沙は、あの母との口論があった翌日、母が出かけた間に、祖母に相談を持ちかけて、自分の心情を語っていた。
 祖母は、母の奈緒美が口うるさい程に過保護であり、それが束縛になっているのを日々、見ていた。
 だから、自由に飛び回りたい美沙の気持に同情したし、理解もしてくれた。
「そうね。あなたはもう立派な大人よ。自分の意思で歩きなさい。もし、この家を出て、アパートで独り暮らしをするんなら、資金援助をするわ。ただし、奈緒美には内緒よ」
「ウン、私、トライしたい。絶対に頑張るから」
 祖母とは、そんな話をしていたから、美沙にはそれが心の支えだった。
 そして、そんな日々の出来事を、美沙は≪近況報告≫として、神山にメールをしていた。
 神山は自分の心情を判ってくれる人であり、返事はもらえなかったが、気持は通じ合ってると信じていた。
 
 美沙は、それから藤沢の求人サイトをチェックして、ハローワークにも出かけた。
 すると、運よく市内のある病院から求人があって、そのまま病院に出向くと、病院長と事務長が面談をするという。
 美沙は、女子大を出て、大手企業の経理事務をしていたから、医療事務も難なくこなせると判断された。
 しかも、知的な美貌が好感されて、まだ履歴書を書いてないのに、いつから勤務できるかなど、ほぼ内定をうかがわせた。
 だが、親とも相談する必要があるからと保留にして、改めて履歴書を提出することにした。
 その帰り道で、美沙は駅に近い不動産屋にも立ち寄って、アパートの物件情報をチェックした。特に、病院へのアクセスや賃料が問題だった。
 こうして美沙は、母に内緒で、自立への準備を着々と進めていたのだ。
 
 そして、ある日の昼食の時、美沙は家族の前で独立宣言をした。
 母は目を剥いて驚くと、すごい剣幕で怒鳴り散らして、それには絶対反対だと強く主張した。
 だが、祖母が冷静に母をなだめてくれて、OLになることを応援してくれたのだ。
「では、病院で働くのは認めるわ。でも、アパートは家賃代をムダに出費するだけでしょ。もうなにも口出しはしないから、この家にいなさい。それが私の条件よ」
 考えてみれば、以前のOL時代に戻れるわけだからと、美沙はその条件で妥協した。
「でも、お店は手伝えないかも・・」
「それはいいわよ。ずっと一人でやってきたんだから」
 だが、美沙は、「神山とは交際しないこと」との条件がなかったことを、内心では、ものすごく喜んでいた。
――そうよ。あの人と、デートが出来る。
  夜は自由だから・・。
 その夜、神山には家族会議の結果をかいつまんで報告して、『これからは、自分の意思で歩きます。ご指導の程、宜しくお願いします』と、結んだ。
 
 その次の週の月曜日から、美沙は病院へ出勤した。
 そして、その晩に神山は、就職祝いとして美沙を食事に招待した。
 神山は、その店を、かつてから美食の隠れ家としてきた≪遊心≫にした。
 そこは取って置きのフランス料理店であり、作り込むシェフの気持が伝わってくる料理があった。
 藤沢駅で落ち合うと、美沙は駆け寄ってきて、また身を投げ出すように神山の胸に飛び込んできた。
「ああ、会いたかったです」
 美沙は余程嬉しかったのか、両手でギュッと抱きしめたまま、男の匂いに埋もれていた。
 
 それから神山は、あらかじめ予約をしておいた≪遊心≫に、勇躍して乗り込んだ。
 ビルの2階のドアを開けて入ると、美沙は「ワァーッ、こんなレトロでお洒落な店、素敵・・」と、物珍しそうに見回している。
 そこは小さな店だったが、デートにはぴったりで、落ち着いた雰囲気で食事が出来るのだ。
 白ワインで乾杯すると、神山は「美沙ちゃん、頑張ってるね。そのチャレンジ精神、素晴らしいよ」と、褒めてやった。
 美沙は嬉しそうにはにかむと、「はい、頑張ります」と応えた。
 それから二人は、笑顔で向き合ったままだった。お互いに通じ合った間には、言葉はいらなかったのだ。
――ああ、この今が、幸せなんです。
  その笑顔で見守ってくれてる、その父親のような眼差し・・。
  そう、父を知らない私は、嬉しくって涙が出そう・・。
  ああ、神山さん、その優しさが、私を虜にしたのです。
 注文したタンシチューが来て、肉が舌先で裂けていく食感に、美沙は驚いた。
 赤ワインで充分に煮込んだものであり、その味付けのまろやかさに、シェフのこだわりを感じていた。
 
「私、アパートで暮らそうと思ったんですが、母はそれはムダだし、もう口出しはしないから、家から出勤するように、って・・」
「そうか、確かに家賃はムダかもね」
「お蔭さまで、自分の意思で歩けます」
「そう、独立自尊、そんなポリシーで生きるのも、人生修行だよ。まぁ、自分に負けない。自分にウソはつかない。そう、自分と向き合って、自分と対話をしながら生きることだな」
「ええ、そうですね」
 美沙は、言ってることは明快だったし、当然のことだと、改めて思った。
 だが、母からは、そんな生き方を聞かされていなかったから、すごく新鮮だったし、≪自分との対話≫を肝に銘じた。
――そう、私、神山さんを尊敬してるし、愛してる。
  だから、父から教わるように、いっぱい学んで、吸収したい。
  そうよ。社会勉強よ。
  でも、家庭やプライベートには踏み込まない。
  もし別れることになっても、絶対に後悔はしない。
 美沙は、独りそんなことを考えていた。
 
 食事を終って、店のドアを閉めた所で、美沙は神山の手を取った。
 なにげに寄り添ってくると、上向きの顔でうっとりとして目を閉じている。
 神山は、そんな美沙をそっと抱き寄せると、艶っぽい唇に触れていった。
 そして、さらに唇を押し付けていくと、背中に回した美沙の手に力が入ってきた。
 やがて美沙は、吐息を漏らしながら、もっと熱く燃えて、神山を求めていった。
 男の息吹を肌で感じて、その性感に包まれた美沙は、もう夢の中を舞い上がって、気持が高揚していった。
 初めて恋をして、皮膚感覚で性を感じてしまった女は、もうそれだけで身も心もエクスタシーに昇り詰めてしまった。
 
 二人はいったん離れると、笑顔で見つめ合った。美沙は、愛くるしくも、悪戯っぽい目で見詰めている。
「神山さん、あなたのハートと時間を、少しだけ分けて下さい」
 そんな遠慮っぽく言われて、嬉しくなった神山は、笑顔で黙ってうなずいた。
「それから、この先どんなことがあっても、私は、絶対に後悔しません。ですから、宜しくご指導の程・・」
「こちらこそ、宜しく」
 
――ああ、私は紙風船よ。
  母に、息を吹き込まれて、丸々と膨らんだ紙風船・・。
  手で叩かれて上空に飛ばされて、
  突風や、向かい風に流されて、
  そう、危なく地面に落ちそうになってたの・・。
  でも、また叩いてくれた人がいたのよ。
  私は今、夢の世界に、舞い上がっている。
  それは、反発した母とは違った愛なの・・。
  私、見えなかった自分を発見して、自分らしく生きるよ。
  そう、26歳で、やっと今日が成人式なの・・。
 
                           ― おしまい ―
 
 
 





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